ソードアート・オラトリオ   作:スバルック

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大変お待たせしました。
なんとか8月中に投稿できてよかったですε-(´∀`; )


第22話

あの小人(パルゥム)の話を聞いた瞬間、身体が勝手に反応していた。

レベル1でミノタウロスとの対峙なんて普通に考えたらまず無謀とも言える行為だ。

だが、彼女が彼の元に急いだのは心配もあったが、それが全てではない。

アイズは期待しているのだ。

彼ならレベル1でミノタウロスを倒してしまうのではないか。

そんな期待がアイズをあの場から動かせた。

ならば、それを見届けたい。

そして、アイズは遂にキリトとミノタウロスを見つけた。

果たして彼はどのように戦うのだろうか。

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

「ん?」

 

 

ミノタウロスが何かに怯え始めた。

一体何に?

不思議に思ったキリトが横を向くと、そこにはアイズがいた。

なるほど、レベル6の彼女の力に怯えていたってわけだな。

すると、後方から次々とロキ・ファミリアの冒険者がやってきた。

中にはあの口の悪い狼男もいた。

 

 

「キリトさん!」

 

 

そこにはリリの姿もいた。

どうやら、キリトが言った助けを呼んできてくれたらしい。

だが、

 

 

「リリ、助けを呼んできてくれてありがとう。これで君を危険にさらすことがなく、安心して戦えるよ。」

 

 

「キリトさん、何を言って…」

 

 

「手を出すなよ、アイズ。」

 

 

「…わかってる。」

 

 

「なっ…!」

 

 

リリはキリトが何を言っているのかまるで理解できない。

これだけの冒険者が揃っているのに、助けを求めずに一人でミノタウロスに挑むなんて正気の沙汰とは思えない。

こうなれば引きずってでも彼を移動させようと彼の元に駆けようとするリリをアイズが手を出して止める。

 

 

「なぜですか?!今キリトさんを助けないと、ミノタウロスに殺されてしまいます!」

 

 

「大丈夫。」

 

 

彼女は大丈夫と言ってそれ以外は何も言わない。

そんな言葉だけで安心できるほどリリはアイズに信頼を得ているわけではない。

だが、そんな心配など微塵も気にも留めずに彼は戦いを再開し始める。

しかも、驚くことにあのミノタウロスに引けをとっていない。

 

 

「な、なんで…?」

 

 

驚きを隠せない。

なぜなら、彼はレベル1のはずだ。普通なら相手にもならないはず。

それは他のロキ・ファミリアの者も思ったらしい。

 

 

「おいおい、どういうことだよこりゃあ?」

 

 

「君には半月前まで彼が駆け出しの冒険者に見えたんだよね、ベート?」

 

 

ベートと呼ばれた狼男は、小人(パルゥム)の青年に以前自分が言った言葉に指摘をされて舌打ちをする。

そしてまた、アマゾネスの双子の姉妹も各々感想を述べていく。

 

 

「それにしても彼、凄いわね。あの黒い剣が業物であることもさることながら、腕も中々のものよ。」

 

 

「うん。なんだが、昔読んだ英雄譚の英雄みたい。」

 

 

「それって『黒の剣士』のことかな、ティオネ?」

 

 

ティオネと呼ばれた胸部が少々心もとない双子の片割れの言葉にエルフの女性が問う。

それに対してティオネが答える。

 

 

「うん。『黒の剣士』のお話はいくつかあるけど、その中で『青眼の悪魔』って話があったんだ。その話は青い目をした二本角の悪魔に立った一人で立ち向かうって話だったなー…。確か、あの時その『黒の剣士』は…」

 

 

「二本の剣を携えて、超絶剣技でその悪魔を打ち倒す、でしょ?」

 

 

「シノン!それにユウキまで、一体どうして?」

 

 

『黒の剣士』の英雄譚を語るティオネの言葉をつないで話したのはシノン。

そこには一緒についてきたであろうユウキがそこにいた。

 

 

「細かい話は後よ。それよりも戦況はどうなの、フィン?」

 

 

「キリト勝ってる?」

 

 

シノンとユウキの問いに先ほどから戦闘をしっかりと観察していた小人の青年、フィンが答える。

 

 

「攻撃は少しづつ入れている。だが、決定打に欠けている。おそらく、ミノタウロスのパワーに身体のバランスを崩されるのが原因だろうね。」

 

 

 

フィンの言葉を聞いたシノンとユウキは辺りを見渡し始める。

すると、そこで小人の女の子を見つける。

その彼女のバックパックには片手剣が入っているのを確認すると、それを取り出して彼女に問う。

 

 

「この剣はあいつのもの?」

 

 

「え?あ、はい。それはキリトさんの為の予備武器としていつもリリが持ち歩いているものです。」

 

 

「御膳だてはどうやら整えられそうだね。」

 

 

「ええ、みたいね。」

 

 

ユウキがまるでいたずらを成功させた子供のような笑い顔をすると、それを見たシノンも少しだけ笑みをこぼす。

 

 

「これを借りてもいいかしら?」

 

 

「ええ。ですが、それをどうするんですか?」

 

 

「こうするのよ!」

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

先ほどから奴に決定的なダメージを与えられていない。

このままじゃ、ジリ貧は目に見えている。

それでも、キリトが諦めずに戦うのは作戦があるからだ。

その隙はおそらく一瞬が限界だ。

だが、今のキリトにその一瞬を決められるのかそこが一番の問題だ。

無謀と冒険は違う。

今、キリトは無謀をしているんじゃないかと不安になってくる気持ちがある。

それを拭い去る為に必死に喰らいつくが、その一瞬をどのように活かすかが思いつかない。

一体どうしたらいいのか?

そんな刹那のなか、ある声が聞こえる。

 

 

「「キリト!!」」

 

 

幼い頃に聞きなれた二つの声が同時にキリトの名を呼ぶ。

自分の名を呼ばれて何度目かわからない鍔迫り合いを無理やり弾き飛ばすと、そこには両手を口につけて応援しているユウキと弓を構えているシノンの姿があった。

だが、シノンの弓には弓矢ではなく剣が構えられていた。

その剣はリリがいつもキリトの為に預かっている予備武器だ。

 

 

「受け取りなさい!」

 

 

放たれるその剣に気をとられていると、弾かれて体勢を崩していたミノタウロスがすでに攻撃を繰り出していた。

先に剣をとれるか、攻撃を喰らうか。

かなり微妙なタイミングだ。

だが、ここでこれを受け取れなければこの状況を変えることはできない。

賭けるならここしかない。

 

 

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

 

「っ!!!」

 

 

キリトはミノタウロスの身体の右側に回りこめるように右手の剣でうまく受けつつ、左手で肩から剣を抜き取るような構えをとるとそこに飛んできた剣を掴みそのままミノタウロスがもつ大剣の側面を左手の剣で弾き飛ばす。

大きくのけぞったミノタウロスを追撃するためにキリトは前進するが、ミノタウロスもなんとかかわそうとからだをよじる。

そこで、キリトは無理をせずある狙いを完璧にするために今まで狙い続けたあるところへ攻撃をする。

 

 

「ちっ!バカが!あの野郎今ので決めれなきゃ勝機なんざ一生来ないぜ!」

 

 

「気づいていないのかい、ベート?」

 

 

「あん?」

 

 

フィンに言われるもなんのことだと言わんばかりの顔をするベート。

 

 

「なら、これからの展開をよく見てたほうがいいね。」

 

 

ベートは怪訝そうな顔をしながら戦闘をみると、先ほどとは戦況が大きく変化していた。

キリトが両手に剣を持つことで、今までのパワー不足を補うことに成功していた。

ミノタウロスの上段から繰り出される攻撃をキリトが二本の剣をクロスさせて受け止める。

今まで押されていたが、その二本の剣でしっかりと受け止めることができている。

その受け止めた大剣を二本の剣で弾きとばす。

そして、ミノタウロスは追撃を恐れてか後方に飛び退き距離を取る。

 

 

ーここだ!

 

 

この距離なら、次の攻撃をする時必ず突進攻撃をするしかない。

この時を待っていた。

両手の剣を構える。

それに呼応するように両手の剣が光り出す。

以前反応しなかった二刀流の剣芸(ソードアート)のスキルが発動する。

今回なぜ発動したのかなんて今はどうでもいい。

この場面で狙う剣技はひとつしかない。

キリトとミノタウロスが睨み合う。

緊迫した時が流れる。

おそらくミノタウロスもここで決着がつくのをなんとなく察しているのだろう。

ダンジョン内が一瞬の静けさで包まれる。

そして、両者一斉に突っ込んでいく。

この時点でキリトは既に剣技を発動させている。

その証拠に突進のスピード先ほどより遥かに早い。

それを見てミノタウロスも驚いているようで早いタミングで大剣をキリトに向けて振り下ろす。

だが、突然ミノタウロスが体勢を崩し始める。

それはキリトにとって狙い通りでもあった。

決定的な一撃を与えられないと悟ったキリトはその大きな一撃を入れるための布石として奴の左ヒザを執拗に狙い続けたのだ。

そして距離をとることで奴を走らせ、膝に負担を掛ける状況を作り出すことでその決定的な隙を生み出したのだ。

既に体勢を崩した状態での奴の攻撃などキリトには効かない。

左の剣を前に突き出し、ミノタウロスの大剣の軌道をずらす。

そして、ミノタウロスの右脇にキリトがその左の剣を突き出した勢いで身体を時計回りに捻りながら潜り込む。

この時点でキリトの剣技はまだ終わっていない。

 

 

「ー終わりだ!!!」

 

 

身体を捻じることで勢いをつけたまま右手の剣をミノタウロスの右腹に食い込ませ、そのまま真横に剣を切り込ませる。

しかし、ミノタウロスの肉は断ちにくいらしく徐々に剣の入りが悪くなるのをキリトは感じた。

ここで今持てる全ての力と魔力を右手の剣に込める。

込める魔力が風という形で変化する。

それは、足りない切れ味を補うように剣に纏っていく。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

キリトの剣がミノタウロスの右腹から左腹に抜けていく。

二刀流剣技突進二連撃技《ダブル・サーキュラー》

ここで、完全に勝ちを確信していたキリトは驚きを隠せなかった。

なぜなら、ミノタウロスはそ右手にある大剣を持ち上げて振り被っていたからだ。

 

 

「なっ?!」

 

 

スキル直後と魔力を大量に使用したせいか身体が上手く動かない。

この構図、まるでミノタウロスの初めて対峙した時に似ていてデジャブを感じた。

あの時の絶望と一緒に。

 

 

ーここまでか…

 

 

キリトがゆっくりと目を閉じてその一撃を待つ。

だが、その一撃は待てどもやってこなかった。

恐る恐る目を開くとそこには斬ったところからゆっくりと上半身と下半身がずれていき、そしてついには上半身だけが地面に落ちていった。

それに合わせてミノタウロスの身体は灰に変貌して消えていき、奴の象徴であるツノが一つ落ちていた。

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

「キリトさーん!」

 

 

戦闘が終わり、キリトに向かっていくリリ。

だが、他のものは信じられないといったようにその場から動けなかった。

 

 

「まじかよ…」

 

 

「レベル1であのミノタウロスを倒すなんてね。」

 

 

この言葉が全てを表していた。

レベル1でミノタウロスを撃破。

これは瞬く間にオラリオ中に知れ渡るだろう。

それぐらい、驚くべき事実なのだ。

 

 

「おい、お前らあいつのこと知ってるんだろう?あいつは一体なんなんだよ?」

 

 

「なにって…言われてもね〜…」

 

 

シノンがどうにも言い淀むと、ユウキが自信を持って答える。

 

 

「なにって、僕らの師匠みたいなものだよ!」

 

 

「師匠だぁ〜?」

 

 

ベートがユウキの言葉を聞いてありえないといったように声音を発する。

 

 

「あんな奴を師匠だなんて思いたくないけどね。」

 

 

シノンが不機嫌になってユウキは苦笑いをしか出ない。

 

 

「君たちの師匠とは、今後が楽しみだ。それで、彼の名前はなんていうのかな?」

 

 

エルフの女性が尋ねると、これまで無言だった彼女が普段中々見せない笑みを浮かべて答える。

 

 

「キリト…。キリト・クラネルよ、リヴェリア。」

 

 

そんな笑みを浮かべるアイズに少々驚きながらもリヴェリアと呼ばれたエルフの女性もつられて笑みを浮かべる。

 

 

「キリトか、覚えておこう。」

 

 

涙を浮かべるリリに文句を言われて困ってる彼の姿を一度見たあと、ロキ・ファミリアの面々はその場をあとにするのだった。

 

 


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