「それで?どうして私の言いつけを破って5層なんかに足を運んでるの?」
「いや、だってステータスでは適正値でしたよ。そもそも、上層でLv.2のミノタウロスが出るなんてイレギュラーはそう起きるもんじゃないですし…」
「ほう…反省してないみたいね。これはもう一度ダンジョンの恐ろしさを一から教育しなきゃダメかしらね、キリト・クラネル君?」
「それは…すいません俺が間違っていました、エイナさん。」
彼女はダンジョンを運営管理をする『ギルド』の窓口受付を行っている、エイナ・チュール。
ほっそりと尖った耳にエメラルドの瞳。セミロングのブラウンの髪はとてもキレイだ。
彼女の種族はハーフエルフ。ヒューマンとエルフのハーフでエルフの美しい特徴を残しながらも、角がとれた親しみやすい雰囲気で周りからは人気が高い。
彼女はキリトのアドバイザーとして任を受けてから半月経っている。
彼女の中でキリトは男の子だが、どこか中性的な雰囲気で線が細く冒険者には明らかに向いてなさそうというのが第一印象だった。
髪や瞳も真っ黒で東洋の男性の特徴に似ている。
そんないかにも冒険者に向いてないように見える彼は半月で急激な成長をしている。
正直彼女はこの仕事に就いて長くはないが、短くもない。
したがって、稀にこんな急成長する冒険者がいるのか調べたが彼を除いてそんな急な成長曲線を描く冒険者はいなかった。
「はぁ…君のその急成長はホントにスキルとかのせいではないのね?」
「そうですね。神様はそう言ってるのですが、エイナさんから聞いた冒険者のステータス上昇のしかたから考えると、俺は多分スキルの影響だと思います。」
「それじゃあ、スキル申請してもらわないと…いえ、ステータスの強制的な開示はマナー違反よね。それにあなたの神様の考えもわからなくはないわ。」
「と、いいますと?」
「神様というのは珍しいものに目がないからよ。天界の生活に飽きた神様たちは娯楽を求めて下界に降りてきた。そこで、新たに新スキルなんてものが現れたら、キリト君はしばらくは彼らのおもちゃにされるわね。」
神様。彼らは昔は天界に住んでいて、下界で死んだ人の魂を転生させていた。
彼らは不老であり、誰もが美男美女である。
そして彼らには
しかし、彼らはそんな天界の生活に飽きてしまったらしい。ある日神様は下界に降りてきた。
下界の文化という娯楽を求めてだ。
そこで、子である俺達下界のものに
「あぁ…わかります。」
俺はおもちゃにされる光景を想像して背筋を震わせた。
「それで、何か私に用があったんじゃない?」
「えっと、そうでした!実はアイズ・ヴァレンシュタインさんについて教えてもらえないですか?」
「え?あの剣姫の?」
「ええ、彼女の強さについて興味があるんです。」
「ちょっと待ってね。そういうことなら、多分資料があるから。」
そう言って、エイナは様々な資料を持ってくる。
そして、なんどかめくっていくうちにようやく見つけた。
「これよ!なになに…幼いころから冒険者をしていたみたいね。そして、レベルアップの最速記録者でもあるみたいね。」
「レベルアップか…」
「む。キ・リ・ト・君?彼女みたいに早くレベルアップしようなんて考えちゃだめよ。そうやって無茶してまた下の階層なんかに行ったりしたら、どうなるかわかるよね?」
その言葉をいうエイナの眼はまったくといっていいほど笑っていなかった。
「ははは…いやだなエイナさん。俺がそんなことするはずが…」
「わかった?」
「はい…。」
以前の鬼のようなダンジョン知識の講習を受けたあとで、彼女に逆らおうと思わなかった。
ここは素直に頷いておくことが大事である。
「とりあえず、アイズ・ヴァレンシュタイン氏のことは置いておいて君は君自身のペースで強くなっていけばいいんだからね。」
その言葉に先ほどの怒気はなかった。
むしろ、子供成長を見守るおねえさんのように優しい表情をしていた。
「わかっています。俺は俺自身のペースで強くなります。そして、必ず…」
「最後、何か言った?小さくて聞き取れなかったけど…」
「いえ、なんでもないですよ。それじゃあ、今日はこの辺で失礼します。」
「ここにはダンジョン潜るたびに顔を出していってね。」
「そうですね。美人のエイナさんの顔をみるためですから、それくらい当たり前ですよ。」
キリトのお世辞だとわかってはいるが美人と呼ばれて悪い気はしないエイナは緩ませる。
そして、それを悟られないように誤魔化していく。
「美人って…!もう年上をからかわないの!ほら、行った行った!」
「はは!それじゃあ、また」
キリトは今日集めた魔石を換金所でお金にしたあと、夕暮れ街に足を運んで行った。