【完結】進撃の美少年クラブ   作:器物転生

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【あらすじ】
男性の月経に大変な勘違いをして、
学園の外で育った事は特殊と知り、
ベッドを見て身の危険を覚えました。


美少年クラブ(下)

 オレが女性である事を「少年たちに悟られぬな」とリヴァイさんは言った。それは当然、知られたら大変な事になるからだろう。正体を知られればオレは、学校に居られなくなるかも知れない。それは嫌だと思った。せっかく仲間と再会できたのに、別れるのは悲しい。学校を追い出されれば今度こそ、オレに行く場所はないのかも知れない。

 同級生に女として見られるのも嫌だ。あいつらに女と思われるのが嫌だった。女と知られて態度を変えられるのが怖い。女である事を知られたくない。エレンである事を知られたくない。オレを男と思って欲しかった。オレをエレン・イェーガーと思って欲しかった。

 入学から半日経って、オレの正体を女と気付いた者はいなかった。一目で見破られる事はなく、それまでは上手く行っていた。なのに、それを台無しにされる。壊したのは他の誰でもない、リヴァイさんだった。「少年たちに正体を悟られぬな」と警告したリヴァイさんだった。どうしてなのか分からない。頭が混乱する。

 

「詳しい事は、この学園の執事長ガーデン・ランタナから……では、始めろ」

「了解した、ガーデン・ローズ」

 

 兵団の制服を着たリヴァイさんが、執事服を着たグンタさんに命じた。「執事服が似合ってるなー」なんて場違いな事を考える。グンタさんは後頭部の髪が尖っている人だ。女型巨人の捕獲に失敗して撤退する途中、うなじを削がれて殺された。口数が少なく、命令に違和感を覚えても忠実に従う人だった。

 そのグンタさんが執事服を脱ぎ始める。黒いスーツを脱ぎ、白いワイシャツを脱ぐと、目に映る肌色が増える。続けて黒いズボンを脱ぐと、上下の下着も脱いでしまった。最後に靴と靴下を脱ぐと当然、グンタさんは全裸だ。あんまりな光景にオレは、顔を引きつらせて身を引いた。

 なにかの間違いかと思うものの、リヴァイさんは平然としている。いくらリヴァイさんの命令だからって……なんという仕打ちだろう。同僚のエルドさんやオルオさんだけではなく、生徒のトーマスたちだって部屋にいるのに……同僚や生徒の前で全裸にさせられている。そんなグンタさんへ贈る言葉は一つしかない。

 

 へ、変態だー!?

 

 そのグンタさんがオレの方に近寄ってくる……全裸で。身の危険を感じたオレは、グンタさんと真逆の方向へ逃げようと試みた。しかしベッドに乗ったオレの腕を、グンタさんが捕まえる。オレは自分の腕を引っ張ったけれど、グンタさんに引き寄せられる力の方が強かった。

 そして唇を奪われる。息を止められて苦しくなった。唇を奪われるという行為に対して、ギュッと目を閉じてオレは耐える。手首を掴まれたままベッドに押し倒され、息継ぎをする度に何度も唇を奪われた。オレが手足をバタバタさせると、グンタさんが体に伸しかかる。

 オレは涙目になって、トーマスたちに助けを求めた。だけどリヴァイさんが、にらみを利かせている。グンタさんに押し倒されているオレの横で、ベッドに腰かけた皆の体は固まっていた。この場を支配しているのはリヴァイさんだ。その権力の前で、オレたちは無力だった。

 

「そろそろか……お前ら、心の準備はいいか?」

 

 グンタさんが唇を離し、みんなに語りかける。まさか、これから皆もグンタさんの餌食になるのか……! と思ったけれど、そんな事はなかった。やはり対象となったのはオレで、パンツごとズボンを引きずり下ろされる。下半身が露わになって、オレの秘密が周囲に晒された。

 

「ガーデン・アイリスは"女の子"だ」

 

「ウソだろ!? そんな事あるわけ……」

「ああ、だって女は……」

 

「本物を見るのはオレも初めてだ……だが、質問は後にしろ。ある程度の知識はあると思うが、まずは女性器の実習から始めるぞ」

 

 ナックとミリウスの言葉を遮って、グンタさんの手がオレの体を擦り始める。オレでは制御できないペースで体をいじられ、変な声が口から漏れた。こんな姿を皆に見られるなんて信じられない。男という化けの皮を剝がされて、女という内面を暴かれたようにオレは感じていた。

 

「……オレは、もう行く。しっかり見ておけよ、ネリネ」

「了解しました、ガーデン・ローズ」

 

「お前にもその内、あれをやってもらうんだからな」

「りっ、了解……」

 

 オルオさんに声をかけて、リヴァイさんが部屋を出て行く。リヴァイさんがオレを置いて去って行く。「正体を悟られるな」と言ったリヴァイさんが、オレを女性と暴露させて、グンタさんに襲わせて、オレを見捨てて行こうとしていた。他人に命令して、リヴァイさん自身は手を出さない。

 扉の閉まる音が聞こえる。リヴァイさんは出て行ってしまった。リヴァイさんが遠くなって行く。助けを求めて伸ばした手は届かない。オレの手は宙を掻いて、グンタさんの刺激に反応して震えていた。これは罰なのか。屋敷でリヴァイさんに、睡眠薬を飲ませた罰なのだろうか。

 リヴァイさんはオレを助けてくれない……当たり前だ。リヴァイさんは「旦那様」の命令でオレの世話を勤めていた。オレに優しかったのは「旦那様」に命じられたからなのだろう。オレが勝手に想っていたに過ぎず、リヴァイさんはオレの事を何とも思っていなかった。

 

「女性器を傷付けないために、刺激して粘液の分泌を促す」

「待ってください、グンタさん! こんな、みんなの前で……!」

 

「それでは、そろそろ本番……SEXの実習に入る」

「待って……!」

 

「ここからが一番大切だ。よく見ておけ」

「やめ……!」

 

「こうやって男性器を女性器に」

「ひっ……」

 

 いつかのように入ってくる。前と違うのはオレの意思ではなく、相手の意思という事だ。歯を食い縛って、それに耐える。ベッドのシーツでも何でもいいから、手の近くにある物を掴んで握りしめる。オレがリヴァイさんにしていたのは、こういう事だったんだ。こんなに気持ち悪かったんだ。リヴァイさんに嫌われて当然だった。

 

「見えるか? 後は、こうして腰を……」

「ぎぃ……!」

 

 打ち付けられる。それは全身に強く響き、オレは悲鳴を上げる。衝撃で肌が波打ったように思えた。顔を見られたくなくて、オレは両手で隠す。気持ち悪い……そうしているとグンタさんが動きを早める。それが何なのか、オレは知っていた。ゾッとして、寒気がして、身を震わせる。

 

「いいか、お前ら。全部受け止めるんだ……それがSEX」

 

 終わった? 終わったのか……それなら帰ろう。早く帰ろう。どこへ? あの屋敷には帰れない。あの小さくても幸せだった世界には戻れない。この学園でオレは暮らすんだ。エレンではなくガーデン・アイリスとして。名前を奪われた小さな花として、ここで愛でられる。

 

「では、おまえらも実習を」

 

 

——え?

 

 

 ハッとして振り向くと、トーマスがナックがミリウスが、オレに迫ってくる。まだ終わっていなかった。でも、どうして? 仲間なのに、どうしてなんだ? オレが女と分かったとたん、みんなは目の色を変えた。服を脱いで、オレに覆い被さってくる。ああ、そうか。オレが女だから……。

 溶ける、溶ける、溶ける。景色が混ざる。意識が溶けて曖昧になる。体がグルグルと回されていた。リヴァイさんではない肉の塊に対して、オレは拒否反応を起こす。こんな事は感じたくなかった。痛いことは嫌だ、苦しいことは嫌だ。早く終わらせて欲しい。オレは心の中に閉じこもった。

 だけど男を求めているオレもいる。失った肉体を求め、男性を欲している。それが穴の開いたバケツに水を注ぐ行為に似ているとしても、止まる事はない。拒絶しているオレの意思と、欲しているオレの意思が、擦り合って傷付いた。体の外も、心の中も、ボロボロだ。

 

「おまえは参加しないのか、ガーデン・イキシア」

「……興味がありません」

 

 アルミンは加わっていないのか。目を閉じた暗闇の中で、オレは思った。もしかすると、この行為には重要な意味があるんじゃないかと思ってしまう。リヴァイさんは何か理由があって、こんな事をさせているんじゃないかと思ってしまう。そんな風に期待していた。

 男たちの性欲は衰える事を知らない。何度も入れては抜かれた。今オレに入れているのは誰なのか、そんな事も分からない。体から心が剥離して、諦めの感情がオレを支配する。どうでもいいから勝手にやって欲しかった。そんな風に考えれば痛くない。苦しくなかった。

 心が無ければ何も感じない。オレが壊れて崩れて行く。そんなオレを支えたのはエレン・イェーガーだった。オレの壊れた心を、再び組み上げて行く。エレン・イェーガーの心の強さが、オレに壊れる事を許さない。快楽に溺れる事を許さない。まだオレに戦えと言うのか、この化け物め。

 

 

 スイッチが入ったようにオレは目が覚める。妙に意識がハッキリとしていた。やわらかいベッドの上に、オレは寝転んでいる。兵団の制服を着せられて、元通りになっていた。さっきの出来事は夢だったと思いたい。だけど下腹部がヒリヒリと痛む。違和感が残っていた。

 ベッドの周りには短い金髪の男、黒髪オールバックの男、金髪ナチュラルの男がいる。順にトーマス、ナック、ミリウスだ。白いリングが、その手首にハマっていた。リヴァイさんが付けていた物と似ている。どうして、そのリングをトーマスたちがハメているのか分からなかった。

 3人は心配そうにオレを見ている。その顔を見ていると苛ついた。そんな情けない顔をしても許さない。あんな事をしたくせに、その程度の態度でいるのが気に食わない。仲間だと、友達だと、そう思っていたのに裏切られた。今も友達ではなく、女として見られている気がする。ドロドロとした感情が、熱を帯びた。

 

 

……ぶっころしてやる

 

 

「アイリス!?」

「落ち着け!」

「おい、血が出てるぞ!」

 

 オレは親指の付け根を噛んだ。けっこう深く傷付いたようだ。唇と手の両方が赤く染まる。それを見てトーマスたちは慌てた。とりあえずベッドに血が落ちると不味いので、ちゅーちゅーと血を吸う。オレは望んでいた結果が現れない事にガッカリした。これは嫌になって自分を傷付けた訳じゃない。こうすればオレは巨人化できるはずだった。

 巨人のいる世界で、オレは巨人になる力を宿していた、しかし、シガンシナ区が陥落した後、開拓地で過ごし、調査兵団を卒業するまでの5年間、その力が発動する事はなかった。その後に判明した巨人化の条件は「自傷行為」と「強い目的意識」だ。もっとも、ミカサに腕を切られて巨人化した奴もいたけど。

 いいや、それは巨人のいる世界の話だ。こっちのオレが巨人化できるとは限らない。それに人を殺すために使ったら、本当に巨人だ。この力は巨人を殺すためにある。今のオレの行為は、巨人の力に頼る他人任せなものだった。もしかすると、そんなオレを、オレが止めてくれたのかも知れない。

 

「すまない。本当に悪かった、ガーデン・アイリス」

「悪い……」

「ごめん……」

 

 トーマスたちが謝っている。オレはジト目でにらんだ。オレがトーマスたちを殺すために付けた傷を、なにか勘違いしているらしい。殺そうとしたオレは正しくないけど、悪くもないので謝らない。それにオレが殴るよりも先に謝るなんて卑怯だ。これじゃ殴りにくい。

 

「ガーデン・アイリス……プリシラたちのハメてるリングは"美少年クラブ"の証だよ」

 

 オレ達から離れた場所に、アルミンが立っていた。そのアルミンも白いリングをハメている。さきほどアルミンは参加しなかったけれど、オレを助ける事もしなかった。だからと言ってアルミンを中立と思う訳がない。その場に居ただけでアルミンは、トーマスたちと同罪だ。

 

「……美少年クラブ?」

「白いリングをハメたメンバーは、女の子であるアイリスと何時でも何処でもSEXできるってルールなんだ。ただし、他の誰かに見られたら"拷問部屋"へ」

 

「何時でも何処でも!?」

「まあボクが"美少年クラブ"に参加したのは、調べたい事があったからなんだけど……」

 

「おまえら、ぜんぜん反省してねーだろ!?」

 

 トーマスたちの手首に、白いリングがハマっていたのは記憶に新しい。アルミンの言い方だと、断ることも出来たように聞こえる。本当に反省しているのならば、クラブに参加しないはずだ。危うく騙される所だった。ヌケヌケと謝っておいて、こいつらヤル気満々じゃねーか……!

 

「聞いてくれ、アイリス。君は自分の価値を分かっていない」

「反省はどうした!?」

 

「レッドデータブックCategoryEX"絶滅種"、人間の女。君は、この世で、たった一人の女性なんだ!」

「だったら、もっと大事にしろよ!?」

 

「現在の人類は普通の恋愛をできない。女の子に触れるどころか、会う事すら叶わない……!」

「ここが男子校って訳じゃなかったのか」

 

「だからオレ達は両性同士や、自分自身で慰めるしか如何しようもないんだ! 死ぬまで一生……!」

「うげぇ……」

 

 トーマスはマジ泣きしていた。その迫力に引いたオレは、ベッドから飛び降りて遠ざかる。両性同士って事は、オレの知っている奴らも、そうなっている可能性があるのか。教室で会った同級生も……まさかリヴァイさんもホモなのか!? だから女であるオレに見向きもせず!?

 

「そこへ君が現れた。アイリス、君は人類の希望なんだ!」

「嫌な希望だ……!」

 

 オレが屋敷に囚われていたのは、オレが唯一の女性だからか。そして、この学園へ連れて来られたのはオレを孕ませるためなのだろう。学園へ連れて来られたのは、そういう年齢になったと判断されたからか。オレにも覚えはある。なにしろ睡眠薬を飲ませてリヴァイさんの寝込みを襲ったからな……。

 

「昼に生産施設って言ってたよな? そこで女性は作れないのか?」

「"新生生産施設"から生まれるのは男性だけなんだ」

 

 生産施設によって人類は存続できる。だけど生まれるのは男ばかりになる訳だ。オレが期待されているのは女の子を産む事だろう。女性が増えれば生産施設に頼らず、自然交配によって人類は繁殖できる。もしもオレが死ねば人類は男ばかりになって、永遠に男同士で慰め合うことになるんだ。

 オレに相手を選ぶ権利なんて無いのだろう。それでも少なくとも、相手は"美少年クラブ"のメンバーに限られる。監禁されて子供を産む機械にされるよりは、まだ良い状況かも知れない。リヴァイさんが「もしも女と知られれば取り返しのつかない事になる」と警告する訳だ。

 知らなきゃ良かった。だけど知ってしまった。オレが子供を産まなければ、この世はホモで染まる。いいや、トーマスから話を聞く限り、すでに大半が染まっているように思えた。男たちは抑え切れない性欲の対象を、同性で妥協するだろう。その世界のホモを変えられるのはオレだけだった。このオレに、おまえらの子供を産めと言うのか。

 

「……責任は取ってくれるんだろうな」

 

 

——第一話「美少年クラブ(下)」

 

 

「もちろんだ、アイリス」

「一生、大切にする」

「ずっと守るよ」

 

 ジトーとした目でにらむエレンの問いに、3人の男たちは力強く頷いた。それはエレンを偽る気などない心からの言葉だ。しかし、エレンと男たちの認識は一致していない。大きな隔たりがあった。エレンと男たちの様子を見守る金髪碧眼の少年も、その差に気付いていない。

 前世の記憶から"妊娠"を知っているエレンは「生まれる子供について責任を取る」と思っている。しかし男たちは"妊娠"を知らず「一生エレンを愛すこと」に責任を取ると言っていた。"妊娠"を教えられていないために、まさかSEXが「人類の繁殖」に繋がるとも思っていない。男たちの言う人類の希望とは「異性」もしくは「性欲の対象」としての意味だった。

 それにエレンも前世の常識から、自分の性別について勘違いをしている。まさか男性が"妊娠"すると思っていないエレンは、自分が孕ませる側だと気付いていなかった。前世は男性であり、女性の体について詳しく知る機会もなかった。そのため"月経"を知らず、「こっちの男性は一定周期で出血するなんて大変だな」と呑気に考えている。つまり分かりやすく言うと、

 

「……(生まれた子供の)責任は取ってくれるんだろうな」

 

「もちろんだ、アイリス(の責任は取る)」

「一生、(アイリスを)大切にする」

「(アイリスを)ずっと守るよ」


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