【完結】進撃の美少年クラブ   作:器物転生

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【あらすじ】
学園に入学したエレンは、
ガーデン・アイリスの名を与えられ、
104期生と再会しました。


美少年クラブ(中)

 巨人のいる世界と、こっちの世界は異なる。似ているようで違う。オレが女だったり、リヴァイ兵長がオレの執事をやっていたり、住んでいる場所も違うし、生活の仕方も異なる。そんな中でオレが繋がりを感じるのは、顔や名前が同じ事と、自由を阻む壁の存在だった。

 人体の構造も違うらしい。ジャンプすると1メートル跳べるとか、肉体の一部を失っても再生するとか……そういう大きな違いじゃない。人の見た目も巨人のいる世界と変わらない。骨でも筋肉でもなく、内蔵に違いがあるようだ。それについて教官が授業を行っている。科目は保健体育だった。

 こっちの男性は、オレの知っている男と違う点がある。授業の内容によると、定期的に血が出るらしい。そういう病気があるのは、巨人のいる世界でも聞いた事があった。ただし、これは病気じゃない。教官によると、こっちの男性は正常な生理現象として血を排出するようだ。

 

「男性器より一定周期で血が排出される。これは体内に溜まった老廃物を排出するためだ。出血は数日間続き、その前後に体調を崩すことがある」

 

 健康に異常が出るほど辛いものらしい。それが発症から40年間、定期的に繰り返されるんだ。巨人のいる世界では男だった。だけど、その話を聞くと、こっちで女性に生まれて良かったと思う。出血中に小さい方へ行ったら、お手洗いが血塗れになるんだ。こっちの男性は大変だな。

 それにしても気まずい。周りを男に囲まれて、女一人なのは辛かった。おまけに授業が男性の体に関する話で恥ずかしい。平静を装っているものの、他の奴に見られていないか気になった。ならば男の体に興味があるのかと言うと、それは無い。かつて男性だったオレにとって、男の体も自分の体だ。

 腕を切り落とされても、その感覚が残るように……オレは男性としての肉体と感覚を覚えている。それに問題があるとすれば、今の体と食い違うことだ。在るはずの感覚がなく、代わりに未知の感覚がある。いまだにエレンの肉体と、エレン・イェーガーの精神は一致していなかった。

 

「——これを月経という」

 

 男性の肉体よりもオレが知りたいのは、女性の肉体についての事だ。今の所オレが、男性のように出血したという事はない。しかし、この世界では女性も出血するのではないか、この場に男性しかいないから、女性の説明は省かれているのかも知れない。だけどオレは男性ではなく、女性だ。

 ここに来る前に見た親父の記憶から察するに「人間の生殖能力は低下していた」「宇宙空間で発現する遺伝子を利用して人間を生み出していた」「人間を生み出していた塔が破壊され、女性を死滅させるウイルスが散布された」と分かる。「人類の生殖能力が低下したから、セフィロトの塔で人間を生み出していた」のか?

 もしかすると、今の女性に子供を産む能力は無いのかも知れない。実際にリヴァイさんと何度も繋がったオレですら、妊娠の気配を感じ取れなかった。気配っていうか……妊娠すると、お腹が膨れるんだったか。だからと言って教官に聞くのは恥ずかしいよなぁ……女の先生はいないのか?

 

 

 訓練兵団時代と違って、授業の内容は優しかった。勉強が易しいという意味ではなく、教官が優しいという意味だ。巨人と戦うために勉強するのではなく、たんに知識を得るために勉強するからだろう。死の恐怖と戦う必要はなく、生きるために必死でもない。昔と比べれば教官もマイルドで、自己紹介の時に泣いてしまったオレにハンカチを差し出してくれた。そんな雰囲気にオレは違和感を覚える。

 同じようで、違う。ここにいる連中は兵士ではない。リヴァイさんも「兵士を育てる施設ではない」と言っていた。兵士では無いというオレの言葉が、オレに突き刺さる。異なる世界なのだから違うのは当然だ。ならば、そこにいる人々も巨人のいる世界と同じ物ではありえない……そんな考えが浮かんだけれど、オレの頭から弾けて消えた。

 午前の授業が終わって昼休みになる。するとオレは、委員長のトーマスに食事へ誘われた。なのでトーマスや、他の皆と一緒に食堂へ向かおうとする。だけどオレは、廊下に異様な物を見つける。いや、異様な人と言うべきか。巨人のいる世界で見知った顔が、2つに分裂していた。

 

「「ガーデン・アイリス、ガーデン・イキシア、ガーデン・プリシラ、ガーデン・サルビア、ガーデン・エンゼルランプ」」

 

「以上の5名は全員放課後、3階にあるお兄様の部屋へ集まるように」

「お兄様が、お話があるんだってさ!」

 

 それは言葉にしがたい光景だった。眼鏡をかけたハンジさんが、もう一人のハンジさんと"手を組み合わせて体を寄せる"という無駄にキュートなポーズで、それぞれのガーデンネームを読み上げている。なぜハンジさんが2人に増えているのか、今のオレには理解できない。

 さらに執事服を着ている点が、理解の難易度を引き上げていた。兵団の制服ならば、まだ理解できる。制服を着ているのならば、ここの生徒なのだろう。しかし執事服で出て来られると、なぜ執事服を着ているのか分からなかった。いったい誰の執事……リヴァイさんか?

 だけど如何やれば、ハンジさんが2人に増えるのか……いいや、逆に考えるんだ。最初からハンジさんは2人いたのだと。巨人のいる世界と違って、こっちのハンジさんは最初から2人だったに違いない。おそらく初めて見るけれど、あれが双子という物なのだろう。双子だとすれば、本当にそっくりだ。ハンジさんが2人に増えたと思っても不思議じゃない。

 

「お兄様に呼ばれるとはな……どうしたアイリス? なにか心当たりでもあるのか?」

「ちょっとな、同じ顔が2つあってビックリしたんだ」

 

「ああ、なるほど。さっきの執事は、ルビナスさんとロベリアさんだ。どっちがどっちなのかオレにも分からん」

 

 ルビナスとロベリア……また違う名前だ。これもガーデンネームで、本当の名前は別にあるのだろう。誰もが偽りの名を名乗り、偽りの名で呼び合っている。その事にオレは、嫌な気がした。まるで本当の名前を奪われてしまったような……ガーデンネームは番号や記号で呼び合っているような気がする。

 圧倒的なインパクトをオレに与えたハンジさん(双子)は、仲良く手を繋いで去って行った。本来のハンジ分隊長は優秀な指揮官であり、並ならぬ高い戦闘能力を持っている人だった。ただし巨人が絡むと奇行に走る。そのせいでリヴァイ兵長に「奇行種」なんて言われていた。

 とりあえず予定が入ったのは放課後だ。今は皆と一緒に食堂へ向かうとしよう。メンバーは委員長のトーマスと、黒髪オールバックのナックと、金髪ナチュラルのミリウスだった。ここにアルミンを加えれば、お兄様に呼ばれた5名となる……そうだ、アルミンも誘って行こう。トーマス……じゃなくてプリシラか、アルミンは……イキシアだったな。

 

「プリシラ、イキシアも誘っていいか?」

「ああ、アイリスの好きにするといい」

 

「イキシア、一緒に御飯を食べに行こうぜ」

「……そうだね。せっかく声をかけてくれたんだから、ボクも一緒に行くよ」

 

 アルミンは少し思案した後に、オレの提案を受け入れてくれた。だけど、なにか企んでいると言うか、警戒されている気がする。そんなアルミンの態度が、オレの胸にチクチクと刺さった。意図せず巨人になってしまった時だって、オレを信じてくれたアルミンが、オレを知らないのか……とは言っても、こっちのアルミンがオレを知らないのは当然だ。

 ところで金髪碧眼の可愛らしいアルミンを見て、オレは思う。アルミンも女性なんじゃないか? オレの他に男装している生徒がいても不思議じゃない。そもそも女子は男装する必要があるという点から察するに、ここは男子校なんじゃないか。いったいリヴァイさんは何を考えて、ここにオレを放り込んだのか。

 みんなと一緒に食堂で、昼食を食べる。その間に色々と話を聞かせてもらった。お菓子を食べたければ、文房具なども売っている購買部へ行くと良いらしい。授業料を支払う必要はなく、限度はあるけれど自由に物を買える。その金銭管理は机上で行われ、通貨は生徒に支給されていなかった。

 

「じゃあ銅貨とか、目に見える形の金は無いのか?」

「銅貨? なんだ、それは?」

 

 オレもリヴァイさんと一緒に暮らしていたから、硬貨を見た事はない。だけど巨人のいる世界では、硬貨である"銅貨"が通貨だった。その銅貨を皆は知らないと言う……そんな状態で、もしも学校を追い出されたら如何するのか。一文無しで放り出される事になる。オレの場合は、あの屋敷へ戻る事になるのだろうか。

 

「そういえば皆は何処から来たんだ?」

「どこから?」

 

「ここに来るまで、ずっとオレは屋敷に居たんだ。でも、そこが何処なのかは分からなかった」

 

 そう言うと、みんなが顔を見合わせる。話だけ聞いていたアルミンも、食べるのを止めて何事か考えていた……なんかオレ、不味い事でも言ったか? みんなが何処で育ったのか、オレは聞きたいだけだ。巨人のいる世界じゃ、シガンシナ区やトロスト区のように分かれている。オレの住んでいたシガンシナ区は突出区と言って、トロスト区のように壁から突出していた。

 

「アイリス、その事は誰にも言わない方がいい」

「なんでだ?」

 

「新入生は通常、"蕾組"からやってくる」

「つぼみ組?」

 

「この学園にある施設だ。そこで"新生生産施設"で生まれた奴らを養育する」

「生産施設って事は……おまえらは、そこで生まれたのか?」

 

「そうだ。外側からやってくる人間なんて、相当に訳ありだぞ」

「……しかも君は中央ゲートから、ガーデン・ローズの運転する車に乗ってやってきた」

 

 アルミンが口を挟んだ。そういえばアルミンは、オレが学園へ来る時に擦れ違ってたっけ。心当たりがあるとすれば、オレが女だからか。だけど生産施設で女性を生み出せない訳じゃないだろう……いや、待てよ。そういえば親父の記憶にあった"セフィロトの塔"は「無重力空間でしか発現しない遺伝子を利用して、人間を生み出していた」。人間の生産に、なにか制限があるのか?

 生産施設で生まれた男たちと、屋敷で育てられたオレ。単純に考えれば、その差は性別だ。生産施設で女性を作り出せなかったのか? そう考えるのは早計だ。わざと女性を作り出さなかったのかも知れない。そもそもオレは生産施設から生まれたのか。それとも母親から産まれたのか。

 オレが屋敷で育てられたのは女性だからか、それとも人間から産まれたからか。しかし生産施設から生まれる人間を、オレの性別に合わせて男性に限定する必要なんてあるのか……そう考えて、嫌な想像が頭をよぎる。生産施設で女性を作れず、オレは子作りする事を期待されているのではないか。

 

 

 そして放課後になった。3階にあるお兄様の部屋へ、オレ達は集まる。その入口には「薔薇ノ園」と刻まれたプレートが掛かっていた。たしか教室のプレートは「花ノ一」で、トーマスたちから聞いた養育所は「蕾組」だったか。そしてガーデンネームも花の名前が用いられている。

 部屋の中はカーテンが引かれ、その中央に大きな2つのベッドが置かれていた。その怪しげなベッドの存在は、オレの不安を掻き立てる。オレや皆はベッドに座っていた。アルミンは一人、柱に背を預けて立っている。オレが誘っても、アルミンは座ろうとしなかった。オレ以上にアルミンは警戒しているように見える。 

 部屋の中に数人の執事がいる。その姿にオレは意識を取られていた。執事服を着て立っていたのは、女型の巨人に殺されたリヴァイ班のメンバーだ。うなじを削がれたグンタさん、噛み千切られたエルドさん、蹴り飛ばされたオルオさん……ああ、みんな生きているんだ。生きて動いている。その光景に感動していると、マントを羽織ったリヴァイ班長が現れた。

 

「おまえらに集まってもらったのは他でもない……このガーデン・アイリスの秘密と、とある実習。そして、それに関する"あるクラブ"の提案についてだ」

 

 

——第一話「美少年クラブ(中)」

 

 

 美少年クラブ。それはお兄様から少年たちへのプレゼント。皆さんの性欲を満たすため、選ばれたメンバーは"白いリング"を手にはめ、女の子であるガーデン・アイリスを共有する事ができます。メンバーは何時でも何処でも、アイリスとSEXして構いません、その代わり絶対に、他の誰にも見られぬように……美少年クラブの存在は他言無用。ガーデン・アイリスが女だという事も漏らしてはなりません。

 

——破った者は地下3階の"拷問部屋(トーチャールーム)"へ




「購買部」と「仮想通貨の管理」は、捏造設定です。
原作のイキシアは外来人の金貨を見て、それが何なのか分からない様子でした。
紙幣の可能性があるとしても、生徒同士の金銭取引は封じてたんじゃないかな。

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