【完結】進撃の美少年クラブ   作:器物転生

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【あらすじ】
絶対命令権を教わり、
エレンは暴走し、
蕾組に忍び込みました。


ガーデン・神美自由夢

 オレは「蕾」と書かれた施設に忍び込んだ。この施設の事はトーマスから聞いた事がある。この学園に転入した日、「どこからオレが来たのか」を話した時に聞いた。この学園の新入生は全員、「蕾組」からやってくる。「蕾組」は「新生生産施設」で生まれた人間を育てる場所らしい。

 長い廊下が見える。右に窓があって、左に数字の書かれた扉が並んでいた。当然、そこに人気はない。だけど先ほど、リヴァイさんが蕾組から少年たちを連れて行った。隠れる場所のない廊下に居るのは良くない。とりあえずオレは、一番近い部屋から調べる事にした。

 この建物は一度、外から覗いた事がある。トーマスに続いて消えたフランツとトムを探していた時の事だ。執事によって建物から引き剥がされる前に見えたのは、下着姿の少年たちだった。「1」と記された扉に鍵穴はない。だけど取っ手に触れると、音声が流れた。

 

『ピピッ、指紋確認、許可します』

 

 扉の鍵が自動で外れた。屋敷の地下でリヴァイさんが、巨大なネジの扉を開いた時と似ている。この「蕾組」の扉にも、地下と同じデジタルな技術が用いられていた。学園の表側では用いられていない技術だ。学園の表と裏で、意図して用いる技術を変えているのだろう。

 いや、待て。それよりも不思議な事がある。どうしてオレの指紋が登録されている。リヴァイさんとしては、ここの扉をオレが開ける事態は好ましくない物だろう。許可されているはずがない。まさかリヴァイさんが登録したのか……そうでないとすれば、いったい誰が?

 とにかく扉は開いた。中を覗いてみると、やはり下着姿の少年たちがいる。下着姿と言うか、彼らは男なのでブラジャーを着けているはずもなく、トランクスしか履いていない。壁際にヌイグルミやオモチャ箱が並んでいた。さらにオモチャが床に散乱している。まるで幼児の遊び場だ。

 

「オレの名前はガーデン・アイリス。おまえの名前は何て言うんだ?」

「んー?」

 

 長いポニーテールの少年に話しかけるものの、返事は良くない。オレの言葉に不思議そうな顔をしていた。まさか言葉が通じていないのか。その肉体は見る限り、10歳を超えている。この歳で言葉が通じないのならば、学園で生活する事は難しいだろう。いったい、どうなっているのか。

 

「オペラント・コード000、コードキー"ガーデン・アイリス"!」

 

「?」

「?」

「?」

 

 オレの言葉に、少年たちはハテナマークを浮かべる。オペラント・コードが効いていなかった。リヴァイさんは「少年たちを扱う上で、"オペラント・コード"という物が仕込んである」と言っていた。もしかして、この少年たちは、オペラント・コードを仕込む前なのか。

 オレは少年の頬に触ってみる。だけど嫌がる様子はない。むしろ甘える子供のように、オレの手に頬を擦り付けていた。「きゃっ、きゃっ」と笑顔を浮かべて、口から犬歯を覗かせる。その愛らしさに我慢できず、少年のトランクスにオレは手をかけた。少年の抵抗もなく、トランクスを剥ぎ取る。

 オレは少年の体をもてあそぶ。すると少年もオレを求めてきた。少年の求めに応えていると、他の少年たちも興味を引かれて集まってくる。見た目はオレと同じくらいなのに、その少年たちは無垢だった。性に対して純粋な少年たちに、オレは快楽を教える。その少年たちは、まるで子供のようだった。

 

 

 そうか、この子たちは——ガーデン・ドールズの"未完成品"なんだ。

 

 

 目を覚ます。少年たちの相手に疲れ、オレは眠っていた。誰かに膝枕をされている。辺りを見回すと、少年たちの姿はなかった。部屋は明かりが消え、暗くなっている。オレが頭を預けているのは誰なのか。窓から差し込む光を頼りに目を凝らすと、金髪で、強面の、ライナーだった。

 

「おまえが膝枕とか似合わねぇ……」

「……オレの膝枕で悪かったな」

 

 そういえば兵士としてのライナーは、面倒見の良い兄貴分だったな。昔の事を思い出しつつ、オレは上半身を起こす。暗い部屋の中を見回したものの、ベルトルトの姿はなかった。ライナーも「蕾組」まで忍び込んで来たのか。そしてオレは何気なく、ライナーの唇を奪った。

 

「……あぇ?」

 

 それだけで絶頂する。オレは体が痺れて、ライナーの胸に倒れ込んだ。快楽に口が緩み、目の端に涙が滲む。反射的にライナーに胸を擦り付け、太ももを擦り合わせた。ライナーから良い匂いがする。その匂いを嗅いでいるだけで、意識が飛びそうだった。なんだ、これ?

 

「悪いな、オレは特別製でな。女を射精させるためだけに作られたんだ」

 

 オレはライナーの唇を求める。それだけで頭に電気が走った。体から漏れる体液で、オレの下着が濡れて行く。こんなに口で気持ちいいのなら、どれほど下は気持ちいいのか。オレはライナーのズボンに手をかける。だけどライナーに引っくり返されて、床に押し倒された。体が痺れて、逆らえない。

 

「アイリス……いいや、エレンと呼ぶべきか。今のおまえは、どっちだ?」

「へぁ? わたしはぁエレンだよ?」

 

「もう一人のおまえは、誰だ?」

「もーひとり? オレはぁ、オレだ」

 

 おかしな事をライナーは聞く。オレが2人も居る訳がないだろう。そもそも、この体は1つしかないのだから。そんな事よりもライナーが欲しかった。ライナーの指が、オレの下腹部を擦る。それだけで絶頂して、体がビクンビクンと跳ねた。ドキドキして、熱くて、とろける。

 

「エレン、よく聞け。おそらく、おまえの中には"女のおまえ"と"男のおまえ"がいる」

「頭がクラクラする〜」

 

「体は1つでも、想いが2つあるという事は、体が2つある事と同じだ」

「気持ちいいよぅ」

 

「そいつを自分の想いと思って押し込めるな。対等な他人と認めた上で受け入れるんだ」

「ライナー、ちょうだい」

 

「聞けよ」

「きいてる、きいてる」

 

 昔のライナーも「壁を守る兵士」と「壁を壊す戦士」の間で意味不明な事になってたもんなー。「経験者は語る」ってやつか。ライナーが言っているのは、エレン・イェーガーとエレンの事なのだろう。エレン・イェーガーにとってリヴァイ兵長は"尊敬する上官"で、エレンにとってリヴァイさんは"歳上のお兄さん"だった。エレン・イェーガーにとってアルミンは"幼馴染"で、エレンにとってイキシアは"異性"だった。エレン・イェーガーにとってジャンとマルコは"嫌な奴"と"仲間"で、エレンにとっては"気になる相手"と"恋敵"だった。

 エレンとエレン・イェーガーの認識は重ならない。だってエレンとエレン・イェーガーは別の人間なのだから……それを対等な人間として認めろって事なのか。だけどエレンは、エレン・イェーガーを受け止めきれない。エレン・イェーガーを受け止める、私の器がもろかった。

 ならば逆は如何かな。エレン・イェーガーの器ならばエレンを受け止めきれるだろう。それは「男性として、男性を愛することを受け入れる」と言う事だ。オレがトーマスの「男同士で慰め合う」という話や、「ジャンを好きなマルコ」に対して気落ち悪いと思ったのは、それを受け入れる事ができなかったからなのだろう。

 

 心を引き裂かない唯一の答えは、"男性の肉体"を求める事だ。本当は知っていた。初めから分かっていた。リヴァイさんに睡眠薬を飲ませて、その寝込みを襲った時から、オレは罪悪感に悩まされていた、罪悪感は覚えても、嫌悪感は覚えていなかった。後悔はしても、反省はしていなかった。

 トーマスたちに回された時も、アルミンに襲われた時も、ジャンと事故った時も、オレは"男性の肉体"を拒絶していた。「自分はそうじゃない」と思って、自分は女じゃないと思って、自分の想いを切り捨てていた。それが「エレンと言う名の少女」の暴走を招いたのだろう。ああ、そうだ。オレは私の異常を認めた。

 だけどオレから"男性の肉体"を求めた時もある。罪悪感に悩まされても、オレはリヴァイさんを求めた。男としてもオレは、リヴァイさんが好きなんだ。そこでオレはバカバカしい事に気付く。そうか……ジャンが気になっていたのは、その髪型がリヴァイさんに似ていたからだ。ジャンの髪型はリヴァイさんと同じ「刈り上げ」だった。

 

 

 絶頂の中で気を失っていた。体力を使い果たした、心地よい眠りに包まれている。だけど幸福感を覚えているのは、エレン・イェーガーの器にエレンが収まったからだ。灼熱の太陽の中に、黒い泥は包まれている。この世に生まれた時から、エレン・イェーガーという日に照らされて出来た私は影、貴方の影。太陽は影を作り出せるけれど、影は太陽の代わりにはなれない。影は太陽が消えれば共に闇へ消えてしまう、はかない物なんだ。

 

「ガーデン・アイリスの精液は採れたのか?」

「ああ、この通りな」

 

 また暗闇の中で目を覚ます。背の高い男が2人いた。ベルトルトとライナーだ。ライナーは何か持っている。あれは試験管だろうか。窓から差し込む光で、中の液体はキラキラと輝く。それが何なのか、オレは分からなかった。寝起きで頭が惚けている。オレの精液?

 

「目が覚めたかい、ガーデン・アイリス——君に自由を持ってきたよ」

 

 

——第七話「ガーデン・神美自由夢」

 

 

 学園内からエレンの姿が消え、ガーデン・ローズは探していた。まさか巨人化して壁の外へ出たのかと思う。しかし、外壁のセキュリティに反応はなかった。学園内を監視しているセキュリティの映像からエレンの足取りを探る。すると「蕾組」に忍び込むエレンの姿と、エレンに接触する侵入者の姿が確認された。

 

「ルビナスとロベリアを、ガーデン・アイリスの確保に向かわせました。しかし、侵入者2人は追わなくても良いのですか……?」

「……アイリスは全て知ってしまったんだろうな」

 

 ガーデン・ローズは気の抜けた様子で言う。それは安心ではなく、呆然としているようだった。壁の修復に、地下の復旧に、エレンの暴走の後始末に、生徒の転入手続きに、そうして一日が終わったと思ったらエレンが行方不明になって、外部の人間と接触していた。主にエレンのせいでガーデン・ローズは疲れ切っている。

 ふと、ガーデン・ローズは手首に違和感を覚えた。制服の袖を捲ってみると、色鮮やかな紐が見える。刺繍糸を編んで作られた手作りの品だ。エレンから贈られたプロミスリングだった。あの日から、ずっと着けていた、それが千切れている。エレンとの繋がりも切れたように、ガーデン・ローズは感じていた。

 エレンは「願いを込めて、自然と千切れた時に願いが叶う」と言って結び付けた。「どんな願いを込めてエレンは編んだのか」とガーデン・ローズは思う。願いはエレンが込めたものと思って、ガーデン・ローズはリングに願いを込めていなかった。互いの想いを知らぬまま、ガーデン・ローズとエレンは擦れ違う。それも終わりの時が近付いていた。


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