【完結】進撃の美少年クラブ   作:器物転生

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【あらすじ】
超大型巨人が壁に穴を開け、
死にかけたエレンは巨人化し、
リヴァイに鎮圧されました。


ガーデン・イキシア(下)

 2日前にエレンとイキシアが暴力事件を起こした。昨日はイキシアを探して、執事が学園内を走り回っていた。しかし、それでも学園の日常は変わらない。いつもと変わらない日常だ。誰が居なくなっても、子供たちは気付かない。いつまでも変わらない日々が続く。記憶を奪われた生徒たちは、そう思っていた。

 それは偽りの平穏だ。他人に人生を支配され、知らぬ間に存在を消される。他人だからと言って見過ごせば、次に消えるのは自分かも知れない。理不尽に自分が消されると知れば、人は学園から逃げ出そうとするだろう。しかし、消されると言う事実に気付く事すら許されなかった。

 超大型巨人が壁に穴を開ける。それによって発生した爆音は、校舎の中にも届いた。窓ガラスが揺れ、床が揺れ、校舎が揺れる。巨人の一撃は、壁の中の平穏を揺さぶった。聞いた事もない大きな音に、生徒たちは不安を覚える。しかし、そこへスピーカーから放送が流された。

 

『ヴーッヴーッ、ピンポンパンポーン! エマージェンシー!

 オートシークエンス、スタート!

 エンター1、オペラント・コード01、デリートキー00、

 デリート! "30ミニッツビフォアー"

 オートシークエンス、オペラント・コード01、コンプリートエンド!』

 

 放送が終わる。すると何事もなかったかのように生徒たちは日常へ戻った。2体目の巨人が現れても、同じことが繰り返される。世界の異常を生徒たちは記憶できなかった。そうして生徒たちは、いつもと変わらない生活を送る。そんな生徒たちから笑顔が失われる事はなく、幸せそうに見えた。

 

 

——第五話「ガーデン・イキシア(下)」

 

 

 ガーデン・ローズに捕まったイキシアは、罰として大きな鳥カゴに閉じ込められていた。決死の覚悟で頑張って壁を登った結果、あっさりと捕まってしまったものの、イキシアは挫けない。収穫はあった。脱走の罪であっても、拷問部屋へ送られる事はない。それはガーデン・ローズにとって、イキシアの価値が失われていない事を意味していた。

 

 ドォン!

 

 爆音を聞いて驚き、イキシアは耳を塞ぐ。しかし、すぐに立ち上がった。イキシアが囚われている場所は、校舎と壁の間にある林の中だ。木々に阻まれて、何が起こったのかは分からない。それでも、これほど大きな爆発音が鳴り響くことは異常だった。問題は何所で何が爆発したのか。

 イキシアは耳を澄ます。そこへ聞こえて来たのは、学園の放送だった。放送が邪魔で他の音が聞こず、イキシアは苛立つ。放送が止んだ後、また大きな音が聞こえた。学園の方からだ。その音は地面を揺らしながら大きくなる。大きくなると言うか近くなっていた。しかしイキシアの下へ来る事はなく、離れた場所で大きな音を鳴らし始める。やはり木々に阻まれて見えなかった。

 その時、木々の奥から人が現れる。イキシアは葉の擦れる音と、地面を走る音に意識を引かれて振り向いた。すると、イキシアと同じ金髪の人間がいた。髪は長く、胸まで伸びている。イキシアと同じ学園の制服を着ていた。しかし一目で学園の生徒ではないと分かる。その人間は女性だった。

 

「待って! 閂(かんぬき)を外して! ボクを檻から出してほしい!」

「えっと、わかった。ちょっと待ってね」

 

 イキシアは檻を掴んで、少女に頼み込む。条件としてイキシアは「少女を匿うこと」や「食べ物を提供すること」を思い浮かべていた。しかし、その必要はなかった。あっさりと少女は、イキシアの望みを受け入れる。少女は逃走中のはずだ。学園の事を知っているであろうイキシアの存在を重視したのか。もしくは単純に素直なだけなのか。

 そうしてイキシアと少女は、共に逃走を始めた。イキシアの案内で、少女は林を抜ける。生徒が授業中で居らず、人気のない寮へ導かれた。本来ならば執事による清掃が行われているものの、その姿はない。壁が突破されたため執事は、その対応に人員を奪われていた。

 割り当てられているベッドへ戻ると、イキシアの荷物は残っていた。消えた生徒のように、荷物を取り除かれている事もない。それはイキシアの存在が、まだ消されていない事を意味していた。罰を受け終われば、元に戻される予定だったのだろう。荷物の中から御菓子を取り出すと、イキシアは少女に渡す。イキシアも朝食代わりに御菓子を食べ始めた。

 

「もしかして、君は女性なのかい?」

「そうだけど……」

 

 そう言われた少女は不思議に思って、自分の体を見回す。もちろん、その肉体は女性の物だ。イキシアは会話の切っ掛けとして聞いただけで、男である事を疑っている訳ではなかった。学園へ忍び込むために女装しているという可能性もあるものの、ここにいる生徒はエレンを除いて全員が男性だ。忍び込むために、わざわざ男性が女装する必要はない。

 

「君は外から壁を爆破して来たの?」

「あれは私じゃないよ」

 

「そうなの?」

「あんな事、私には出来ないから……私は開いた穴を使わせてもらっただけ」

 

「君は、どうしてここへ?」

「逃げてきたの」

 

「なにから?」

「外の世界から」

 

 わざわざ少女は壁の中へ囚われに来たらしい。イキシアたちを助け出そうとしている訳ではなかった。それほど外の世界は厳しいという事なのか。勝手に期待していたイキシアは、勝手に少女に失望する。それでもイキシアは情報を引き出すために、少女と会話を続けた。

 

「ねえ、ボクを外へ連れ出してくれない?」

「あなたは、ここから出たいの?」

 

「ボクは、ここから自由になりたいんだ」

「でも、自由になるって大変だよ?」

 

「このまま一生、他人に人生を決められて、閉じ込められているのは嫌なんだ」

「あなたが思っている以上に、自由って大変だと思うの」

 

「そうかな?」

「今まで人に決めてもらっていた事を、ぜんぶ自分で決めて行かなくちゃならないんだよ?」

 

 少女の言葉に力がこもる。少女の思い入れを、イキシアは感じ取った。この少女にとって自由は辛い物だったらしい。自由の中で死ぬよりも、管理されて生きる事を少女は選んでいた。壁の外から逃げ込んだ少女と、壁の外へ逃げ出そうとしているイキシア。少女とイキシアは、そんな正反対の人間だった。

 

「それでもボクは、自由が欲しいんだ」

「ご飯を食べるためには、金貨がいる。眠るためには、宿がいる、ここに居れば、そんな心配はしなくて済むんだよ?」

 

「金貨?」

「知らないの?」

 

 少女は金色のコインを、イキシアに見せる。そのコインは表と裏に、細かい文様が刻まれていた。学園から「自由に処分できる金額」は与えられているものの、それはデータ上の物だ。学園内では紙幣も硬貨も流通していない。イキシアにとって、生まれて初めて見る現金だった。そのコインがあれば壁の外で物を買える。その輝きにイキシアは魅せられた。

 

「えっと……どうしたの?」

 

 少女が疑問の声を上げる。イキシアは少女の手首を握っていた。すると少女の手からコインが零れ落ちる。イキシアの変化に驚き、少女は怯えた表情を見せた。イキシアに掴まれて手を引き、少女は身を引く。しかし、イキシアに近付かれ、体を壁に押し付けられた。

 

「どうしたのって……分かるよね?」

 

 イキシアは少女の唇を奪う。少女は目を閉じて嫌がり、首を横へ向けた。そんな少女に構わず、イキシアは首筋に口を付ける。すると少女は肩をビクリと震わせた。助けを呼ぼうと思っても呼べない。大声を出せば執事に見つかる恐れがあるからだ。少女は悲鳴を上げる事もできなかった。

 

「やだ……やめてよ」

 

 少女は自由な片手で、少年を押し返そうと試みる。そんな少女の抵抗に構わずイキシアは、少女の着ているワイシャツのボタンを外した。少女の下着が剥き出しになって、胸の形が明確になる。さらに少女のズボンを引きずり下ろし、イキシアも自身のズボンも引き下ろした。そのまま少女の股を割って、押し付けようとする。

 

「えいっ!」

 

 しかし、気合いの入った少女の声と共に、イキシアは引っくり返される。少女を拘束していたはずの手は、あっさりと外された。床に倒されたアルミンの上に、少女が股を広げて座っている。ボタンを外された半脱ぎワイシャツを垂らし、ズボンを下ろされた下腹部を剥き出しにしていた。

 

「どうやって私が、外で生きていたのか分かる?」

「え?」

 

「私ね、貴方みたいな人には慣れてるの」

 

 少女の長い髪が、イキシアの顔にかかった。その金色の髪は、イキシアの視界を遮る。イキシアの上に座った少女は、イキシアに身を寄せた。伸しかかる小さな体を、イキシアは受け止める。すると目を閉じた少女の顔が、イキシアの目の前にあった。イキシアの呼吸が止まる。少女の柔らかい唇が、イキシアの唇に重なっていた。

 

「なん……」

 

 疑問を発しようとしたイキシアの口が、少女によって再び塞がれる。その両手はイキシアの首筋に添えられ、目を閉じた少女はイキシアの唇を吸い続けていた。口付けによって呼吸を止められ、解放された際に呼吸をすると、そこへ再び口付けされる。その激しさにイキシアの体から力が抜けた。

 

「こういうキス、したことないんだ?」

 

 華やかな笑みを浮かべて、少女は言う。エレンと唇を交わした事もなく、イキシアにとって初めての経験だった。息を荒げるイキシアは、頭がボーとして上手く動けない。力の抜けたイキシアの体を、少女はもてあそんだ。イキシアの下半身に手を伸ばし、ギュウギュウと締めつける。

 

「貴方はちゃんと感じるんだね。"正統な人類"なんだ」

「正統な……人類……って、うぅ……!」

 

「普通の男の子は感じないんだよ? だから相手を捜すのも大変なの」

 

 少女はイキシアの服を剥いて、ベッドに乗せる。すると少女も服を脱いで、イキシアの上に乗った。イキシアの薄くて硬い肌と、自分の肌を重ね合わせる。下腹部を締めつけ、上下に動き始めた。少女の勢いは激しく、イキシアは抵抗もできない。イキシアは息を荒げ、快楽を堪えて、体を折り曲げていた。さらに少女は加速する。

 

「出すよ! 私の、ぜんぶ吸い込んで!」

 

 イキシアの上で、少女が動きを止める。すると少女の中で、大量の液体が放出された。イキシアの体がビクンビクンと震えて、少女の液体を"吸い上げる"。体の中をドクンドクンと液体が通る度に、イキシアは快感でもだえた。精を解き放った少女は脱力して、イキシアに覆い被さる。

 

「まだ貴方の名前を聞いてなかったよね。名前は何て言うの?」

「ボクはイキシア……ガーデン・イキシア。君は……?」

 

 少女は少し困った顔をした後、なぜか寂しそうに答えた。

 

「クリスタ——」

 

 イキシアの耳に、グシャリと嫌な音が聞こえた。イキシアの上から突然、少女の体が消える。空気を裂いて現れた凶器が、少女の体を吹き飛ばしていた。それは巨大な刃だ。長い柄の先に取り付けられた鉄だった。その振り下ろされた斧が骨を砕き、少女の命を奪った。

 

「まったく……小鳥を追って来てみれば、その小鳥に"しらみ"がたかっていたとはな……」

 

 それはガーデン・ローズだった。赤い液体の付いた斧を振り回し、片手で肩に担ぐ。斧から飛び散った液体がマントに付き、赤い染みを作った。その染みをガーデン・ローズは嫌そうな顔で見ている。ベッドの上のイキシアを、あるいは少女の死体を、汚物を見るような目で見下ろしていた。その冷たい眼光にイキシアは怯え、顔色を青くする。

 

「汚ねぇな……イロナ、このクソ女を片付けておけ」

「了解しました。イキシアは……」

 

「残念だが、もうオレたちには必要ない。汚れてしまったからな」

「では拷問部屋ルート03へ……」

 

「待て……何をする……止めてくれ!」

 

 ガーデン・ローズの命令を受け、後頭部で髪を結んでいる執事が近付く。イキシアは怯え、ベッドから転がり落ちた。目の前で人を殺され、イキシアは恐怖に震える。その腕を執事が掴んだ。執事の力は強く、とても逆らえない。裸のイキシアは、ベッドのシーツを掴み取るだけで精一杯に見えた。

 イキシアは廊下を引きずられる。途中でイキシアが暴れたものの、大した効果はなかった。イキシアの体を捕まえる執事の、指の一本すら引き剥がせない。少しずつ目的地へ近付き、やがて長い階段を下り始めた。地下へ降りるほど空気の冷たさが増し、裸のイキシアは身を震わせる。空気が淀んで、湿気ていた。

 執事に消火器を投げても、イキシアは消されなかった。脱走するために壁を登っても、イキシアは消されなかった。しかし、エレンではない女性と体を重ねた事で、地下3階の拷問部屋へ送られる事となる。イキシアは価値を失ってしまった。重い扉の向こうへ、その姿は消える。

 

 

——第五話「ガーデン・イキシア(下)」

 

 

 学園を囲む壁、その一部に扉が付いている。しかし、それは一見しても扉と分からない。壁を形作っている石材に似せて、その扉は偽装されていた。取っ手がなく、外から開ける事は出来ない。その扉が開き、裸の少年が放り出された。服は着ていないものの、赤い染みの付いたベッドシーツを体に巻いている、

 

「命があるだけ、ありがたいと思うことだ」

 

 そう言って執事は扉を閉めた。扉の見た目は壁に戻る。放り出された少年は呻き声を上げた。辺りを見回すと森の中らしい。背後には当然、出て来たばかりの壁がある。赤い染みの付いたシーツを体に巻いて、少年は立ち上がった。壁の中と似ている。しかし、わざわざ拷問部屋を通って同じ場所に戻ってくるのは、おかしな話だ。

 

「ここは……外か?」

 

 イキシアは、エレンからガーデン・ローズの目的を聞いている。それは子作りだ。男と女が交われば子供ができる。エレンと交わらせて、男の子たちを妊娠させようとしていた。生産施設で男性は増やせるものの、女性を作る事ができないからだとか。少なくともエレンはガーデン・ローズの目的を、そうだと思っていた。少年は口の端を吊り上げる。

 

「ごめんね、クリスタ。君と会った瞬間、思い付いてしまったんだ……彼らにとってのボクの価値をなくすには、これしか無いって」

 

 そのために少年は、少女を利用した。「壁の外から逃げてきた」と聞いた時点で、「壁の外に連れ出してくれない」と分かった時点で、少年にとって少女は"用済み"だった。しかし本来、そこまで少年は非情な人間ではない。我慢を続けた末に、エレンを襲って泣いた少年だ。簡単に欲望に流されて、少女を襲うはずがなかった。

 すべては壁の外に出るためだ。少女と共に殺される可能性もあったものの、そんな事を言っていたらナイフで壁を登るなんて事はできない。不利な賭けだったけれど、イキシアは勝った。拷問部屋に入ったら隙を見て逃げるつもりだったけれど、ガーデン・ローズの良心に救われた。

 イキシアは壁の中に戻るつもりはない。壁の中に全てを置いて、イキシアは外に放り出された。服も着ておらず、靴も履いていない。それでも全てを失った代わりに、望んだ物を手に入れた。赤い染みの付いたシーツで身を包み、生まれたままの姿で少年は歩き始める。"ベッドから転がり落ちた際に掴み取ったコイン"を、イキシアは指で弾く。ピンッと音が鳴って、金色の輝きがクルクルと回った。

 

 

「 自由だ 」




アニやユミルでも良かったけれど、クリスタの出番を望まれたので外来人へ。
ご覧のゲスミンの提供で、お送りしました。

「第一部、完!」
これで1巻分が終了です。ちなみに全2巻。
お気に入り24件、記念パピコ。
1桁しかなかった頃とは見違えるようじゃないか!

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