【完結】進撃の美少年クラブ   作:器物転生

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【あらすじ】
クラブにコニーが加わり、
夜這いしていたコニーは消え、
真夜中の放送をエレンは聞きました。


Replace and Disappearance(下)

 コニーの不在を知ったオレは、寮の廊下を駆けていた。コニーも地下3階の拷問部屋へ連れて行かれたのか。いつ連れて行かれたのかは分からない。すでにコニーのベッドは冷たかった。その冷たさが死を連想させて怖くなる。だけど、まだ間に合うのかも知れなかった。

 居なくなった連中を探して、オレの心は擦り切れた。そんなオレをコニーは「頑張ったんだな」と言って抱き締めてくれた。オレが泣き止むまで、ずっと側に居てくれた。その温かさをオレは忘れない。絶対にコニーを助け出してみせる。もしも身の危険を感じたら助けを呼べと……オレを呼べと言っただろう!

 パジャマ姿のまま階段を飛び降りる。ちょっと着地に失敗して、体を打ったけれど大した事はない。床から立ち上がって、暗闇の中を走る。背後からアルミンの呼ぶ声が追いかけて来ていた。寮の靴箱のある昇降口へ、オレは辿り着く、すると黒い影が、そこで待ち構えていた。

 

「ガーデン・アイリス——就寝時間中の徘徊(はいかい)は禁止されている」

 

 執事服を着たエルドさんが立ち塞がった。だけどオレがエルドさんを恐れる事はない。オレが怖いのはコニーを失う事だ。オレは怒りを覚えている。この身に宿った灼熱は、たとえリヴァイさんが相手であっても消し去れない。おまえらが、オレのエレン・イェーガーに火を点けた。

 

「そこをォ……どきやがれえ!」

 

 エルドさんに殴りかかる。前のオレならば、そんな事は出来なかった。傷付く事を恐れ、傷付けられる事を恐れていた。だけど、それから色々あったんだ。リヴァイさんの事、トーマスたちの事、コニーたちの事。いろんな痛みを知って、抗うためにオレは強くなった。

 だけど、それは簡単に受け止められる。エルドさんの手の大きさから、オレの手の小ささを思い知らされた。その場からエルドさんは、少しも動いていない。片腕だけを動かして、向かってきたオレを止めた。エルドさんに握られた拳を、オレは引き抜くことが出来ない。エルドさんに足を払われて、そのままオレは床に押し付けられた。

 くそっ、こんな所で止まってられるか。そう思ってジタバタと暴れるものの、うつぶせになっているため大した効果はない。両腕はエルドさんに固定され。両足は床を叩く事しかできなかった。その状態のまま顔を上げると、月明かりの差し込む昇降口が見える。だけどオレの体は前へ進めない。

 

「アイリス!」

 

 後ろからアルミンの声が聞こえた。そして視界にモヤがかかる。オレとエルドさんは白い煙に包まれた。それでもエルドさんはオレを捕らえて放さない。だけどゴンッという鈍い音が聞こえた瞬間、オレは脱出に成功していた。そのまま床をゴロゴロと転がって離れる。重くて硬い消火器が、床に転がっていた。消火器を投げたのか。

 

「わざわざ敵に突っ込む必要はないんだ。君の目的はリリィだろう!」

 

 そう言うアルミンは、オレの代わりに捕まっていた。アルミンは言外に、先に行けと言っている。アルミンを見捨てて、コニーを助けに行くのか。いいや、そうじゃない。コニーの救出をオレは任されたんだ。アルミンを視界から外して、オレは昇降口へ走る。だけど靴箱の陰から、グンタさんが姿を見せた。

 

「ガーデン・アイリス、ここまでだ。大人しくしろ」

 

 前方のグンタさん、後方のエルドさん。アルミンを捕まえているエルドさんならば、グンタさんよりも動きは鈍いかも知れない。その横を擦り抜けるか。だけど、このまま寮の中を逃げ回っても、すぐに捕まるだろう。目指すべき寮の外に繋がっている出入口は、グンタさんの後ろだった。

 説得は無理、戦闘も無理。辺りに利用できる物は見当たらない。暗くて、よく見えなかった。靴箱の中にある靴は軽すぎて、床に転がっている消火器は重すぎる。それに靴箱はグンタさんに近すぎる。消火器も持ち上げようとすれば、その間に捕まってしまうだろう。

 オレは窓に向かって走る。窓の錠を開けている時間はない。窓ガラスを打ち破るんだ。出来るか分からないけれど、やるしかない。挫けそうになる心を励まして、窓に向かって全力で走る。そして上半身の高さにある窓へ、両腕で頭を守って突っ込んだ。だけど白い亀裂の入った窓ガラスはバキッと鳴ったものの、その強度でオレを跳ね返す。割れなかった時の事を考えていなかったオレは、そのままビタァァァンと床に落ちて、意識を失った。

 

 

 目覚めると白色のカーテンに囲まれていた。オレの体はベッドに寝かされている。首に違和感を覚えて触ると、腕に包帯が巻かれている事に気付いた。他にもプラスチックのような硬い感触が首にある。首に巻かれているのはコルセットか。アゴまで引っ掛ける形で、頭周りも包帯が巻かれていた。そんな感じで頭部は包帯塗れだけれど、首元から下は何ともない。

 ここは保健室のようだ。前に一度、訪れた事がある。この学園に入って初日の事だった。あの時は手を噛んで、保健室まで包帯を取りに来た。その怪我を理由に集団沐浴を休もうと思ったら、コニーに連れて行かれたんだよな。その時の事を思い出すと、胸に穴が空いたような感覚を覚える。今はコニーは……、

 カーテン越しに感じる光は強く、人工の物ではない。すでに夜は明けているようだ。上半身を起こすと頭が痛む。だけど、大人しく寝ている事はできなかった。夜の間に消失したコニーは如何なったのか。地下3階の拷問部屋へ連れて行かれたのか。まだ生きているのか。知りたい。

 

「無駄に体力を使うな」

 

 カーテンが捲れて、緑色のマントを着けたリヴァイさんが姿を見せる。そっちから出向いてくれるとは助かった。目の前にいるリヴァイさんを、オレは敵として見る。ベッドから立ち上がろうとしたものの、体が揺れて安定しなかった。なんだか気分が悪い。仕方なくオレはベッドに座った。

 

「ガーデン・リリィは、どうした?」

「安心しろ。死んではいない」

 

「プリシラたちも生きているのか?」

「あぁ、その通りだ」

 

「オレの食事に睡眠薬を混ぜたな?」

「いいや、そんな指示は出しちゃいない」

 

——あぁ、鬼だ

 

 リヴァイさんの言葉が"偽り"であるとオレは知った。リヴァイさんの指示でなければ、いったい誰がオレの食事に睡眠薬を混ぜようなんて思うのか。執事が無作為に睡眠薬を入れたとしたら、夜になると熟睡する奴がオレの他にもいたはずだ。そうではなくオレを狙って、しかも毎日のように入れたとしか考えられない。

 

「そこで寝ていろ」

 

 リヴァイさんは保健室から出て行った。だからと言って大人しく寝ている訳もない。オレはベッドから降りた。だけど体に力が入らず、床を這うようにしか動けない。体が重かった。まさか頭を打って、体が変になったのか。そう思って頭に手を当てると熱かった。なんだ、熱があるのか。

 

「残念!」

「はーい、ベッドに戻りましょうねー」

 

 保健室にオレだけ……なんて事はなかった。双子のハンジさんに左右から挟まれ、体を持ち上げられる。そのままオレは運ばれて、ベッドへ戻された。おまけに紐をグルグルと体に巻かれる。片手ずつベッドに縛り付けられて、起き上がる事すら出来なくなった。ここまでやるか……1?

 よく考えると就寝時間に走り回ったり、執事に殴りかかったり、消火器を吹きかけたり、消火器を投げつけたり、窓ガラスにヒビを入れたりしていた。それらの大半が暴力行為だ。コニーが消えたと知らない同級生は、なぜオレが真夜中に暴れたのか分からないだろう。

 そう言えばアルミンは無事だろうか。最後に見た時は、エルドさんに捕まっていた。今度こそ拷問部屋へ送られているのかも知れない。だけどベッドに拘束されているオレは動けない……ああ、そう言えば巨人のいる世界で、審議所の地下牢で拘束されていた時も、こんな感じだったな。ベッドに寝かされている分、こっちの方がマシか。

 

 

「エレン」

 

 曖昧な意識の中、名前を呼ばれて目を覚ます。見るとベッドの横に、アルミンが立っていた。だけど学園の制服である茶色の短いジャケットを着ていない。内側の白いシャツだけだ。それに金色の綺麗な髪に、灰色のホコリが付いていた。明らかに、いつもと様子が違う。

 

「ぶっ……」

「静かに」

 

 「無事だったのか!」と言おうとしたら口を塞がれた。なぜだ……アルミンの手がオレの口を押さえている。その手付きは荒々しかった。両手をベッドに縛り付けられているオレは、アルミンの力に逆らえない。アルミンはベッドに身を乗り上げると、オレの顔に口を寄せて……

 

「執事は居ないけど、大声は出さないで」

 

 ささやくと、オレの体を縛っている紐を解き始めた。そうしてオレの片手を解放すると、アルミンは反対側の拘束も解こうとする。だけどオレは待ち切れず、片腕でアルミンを抱きしめた。アルミンが生きている事を、この身で確かめたかった。生きていてくれて本当に良かった……!

 トーマスもナックもミリウスも、コニーもフランツもトムも居なくなった。リヴァイさんの手によって、オレの周りから仲間が奪われて行く。リヴァイさんはウソを吐いた。オレを騙しても何とも思っていない。屋敷に居た頃から優しい振りをして、ずっとオレを騙していたに違いない。

 居なくなった奴等を探して疲れ切っていたオレを、コニーは抱きしめてくれた。優しい温かさで包んでくれた。その時のように、オレもアルミンを抱きしめる。布団から離れた背中に寒気を感じ、頭の痛みに目を閉じた。それでもオレは必死に、アルミンを繋ぎ止めようと試みる。

 

「もう残っているのはアルミンだけなんだ。居なくならないでくれ……!」

 

 熱があるオレは苦しくて、息を荒げる。体の冷たさに反して、顔は熱く感じた。ベッドの上でオレは、アルミンを抱きしめる。カーテンに囲まれたベッドは、外界から遮断されているかのようだ。遅れて「アルミン」と呼んでしまった事に気付き、オレは名前を呼び直した。

 

「イキシア……」

「……エレンが悪いんだからね」

 

 そう言ったアルミンは体重をかけて、オレの体をベッドに押し倒す。アルミンの顔が迫り、オレの呼吸を止めた。何が起こったのか、何をされたのか、分からなかった。だけど理解すると、ゾワリと体に寒気が走る。トーマスたちの時と同じだ。アルミンまでおかしくなった。

 

「待て、イキシア。なんで……!?」

「大人しくして、ちょっと挿れるだけだから……!」

 

 自由になっている片手でアルミンを退けようとするものの、全く効果がない。残った片手を引っ張るものの、ベッドに結び付けられている紐は外れなかった。自由に動くのは足だけか。その両脚の間にアルミンは体を入れている。オレは曲げた足で、アルミンの背中を叩いた。

 

「もう我慢できないんだ……!」

 

 オレの両脚を持ち上げて、アルミンが片腕で抱える。そしてオレの履いているパジャマのズボンを脱がし始めた。これでは片手しか動かせない上に、オレの拳がアルミンまで届かない。オレは下着を太ももまで脱がされ、おしりが丸出しになった。そこへ何かを押し付けられて、オレはビクンと体を震わせる。

 

「おい、ちょっと待てアルミン……!」

「すぐ終わるから、ちょっとだけ我慢して!」

 

 オレの体が異物を包み込む。キュッと内蔵が締まった。アルミンの侵入に、オレは全身を固くして震わせる。そんなオレに構わず、アルミンは腰を打ち付けた。オレの両脚を抱き、振り子のように腰を振る。それに引っ張られて、オレの体は揺れていた。ガンガンと頭に響いて痛い。

 

「気持ちいい! 気持ちいいよ、エレン!」

 

 狂ったようにアルミンは、オレの中を動き回る。いつもの冷静さを投げ捨て、嬉しそうに声を上げていた。今のアルミンは、まるで別人だ。コニーは抱き合っても大丈夫だった。それなのにアルミンは、どうしてこうなったのか。これじゃトーマスたちと同じだ。肉欲に狂ってオレを犯している。

 オレがアルミンを狂わせてしまったのか。ずっとアルミンは我慢していたんだ。それなのにオレが不用意に抱きついて、アルミンの理性を突き崩してしまった。アルミンを壊してしまった。いつも冷静だったアルミンが、悦びに顔を歪ませて、快楽に溺(おぼ)れている。

 巨人のいる世界を含めても、こんなアルミンの姿を見た事はなかった。まさかオレがアルミンに犯されるなんて、アルミンがオレを犯すなんて考えた事もなかった。オレの幼馴染のアルミン……そのアルミンに犯されている。その動きが止まって、オレは呼吸を整えた。アルミンが体を離すと、オレの足もベッドに降ろされる。終わったのか。

 

「うぐっ……うえええぇああああああ……!!」

 

 なぜかアルミンが泣き始めた。泣きたいのはオレの方だ……だけど、その姿をオレは"かわいい"と思えた。泣いているアルミンを見て、オレが笑っている事に気付いた。どうしてオレは笑っているのか。分からない。だけどドロドロとした感情が、モゾモゾと胸の中で動いていた。エレン・イェーガーと真逆の闇が、アルミンを壊し尽くしたい。

 その感情に逆らって、再びアルミンを抱きしめる。女ではなく、男として。愛情ではなく、友情として。きっとオレがリヴァイさんを犯した時のように、罪悪感に苦しんでいるのだろう。今のアルミンに必要な物は、太陽の輝きだ。弱さではなく、強さだ。「力強さ」だ。だからオレは「やさしく」ではなく、アルミンを「つよく」抱きしめる。妻ではなく、夫のように。

 やがてアルミンは泣き止むと、服を整える。小さく「ごめん」と謝った。それで十分だ。オレはアルミンを許そう。むしろ、よく我慢したものだ。これまで辛かった事だろう。ただしトーマスとナックとミリウス、てめーらはダメだ。そう考えているとアルミンは、ベッドから立ち上がった。

 

「ボクは今日、壁を越える。エレン、ボクと一緒に来てほしい」

 

 オレの前に片膝を下ろして、アルミンは手を差し伸べる。その目に宿っているのは決死の覚悟だ。失敗すれば死ぬような方法を取るという事なのだろう。昨日の騒ぎでアルミンの立場も、危うくなっているのかも知れない。ジャケットを失って汚れているのも、どこかに隠れていたからなのか。オレはアルミンと2人で逃げるべきなのだろうか。

 

「いいや、オレは行かない。あいつらを探してやりたいんだ」

 

 曖昧に濁さず、オレは断った。そうしないとオレは後悔するだろう。たとえ手遅れであっても、なにが有ったのか知りたい。コニーたちは「放っておけ」なんて言うのかも知れないけれど、あいつらを探してやりたかった。だから壁の中に全てを置いて、外へ逃げ出す事はできない。アルミンと一緒に行く事はできなかった。

 

「そっか、分かった……じゃあ、さよならだ。エレン」

「ああ、さよならだ。イキシア」

 

 アルミンはカーテンの向こうへ消える。そのカーテンを捲ろうと思ったものの、片手を引き留められた。なにかと思うと片手が、紐でベッドに繋がれたままだった。アルミン、こっちも外して行ってくれないか……その影をオレは、いつまでも見つめる。そうしてオレとアルミンは永遠に別れ、二度と会う事はなかった。

 

 

——第四話「Replace and Disappearance(下)」

 

 

 その学園はガーデンと呼ばれていた。レンガで形作られた花壇のように、分厚い壁で囲まれている。その壁は分厚い上に、とても高かった。どのくらい高いのかと言うと、3階建ての校舎よりも遥かに高い。おまけに地下深くまで埋まっているため、壁を越える事は困難だ。

 しかし、その壁に挑む者がいた。真夜中で星の光しかない時間に、ガリガリという金属を擦る音が鳴る。ナイフを横に並べて、自分の手ごと布で巻き付けていた。靴も改造してナイフを差し込み、横に並べている。壁の表面を形作っている石材の隙間に、それらのナイフを突き立てるという、正気を疑う方法で登っていた。

 命綱なんて物はない、一度でもナイフの差し込みが甘ければ、地面に落下して肉体は潰されるだろう。おまけにナイフは食堂から盗んだ料理用の物だ。壁の隙間ではなく石に突き立てれば、その刃は簡単に折れる。それでも意地と根性の力技で登り切り、その少年は壁の頂上へ手をかけた。

 

「——どこへ行くつもりだ、ガーデン・イキシア」

 

 壁の上に溝があった。人が通れるほど大きな溝だ。そこは凹っとなっている。その縁にガーデン・ローズが座っていた。命を賭けて壁を登ったイキシアを、王者のように待ち構えていた。ガーデン・ローズの着ているマントが、ハタハタと風で揺れる。緑色のマントが夜によって、闇色に染まっていた。イキシアにとって、その姿は死神に見える。後戻りは、もうできない。




エレンが窓に打つかってビタァァァンした時の反応
 アルミン「( ゚д゚)!?」
 エルド「( ゚д゚)ポカーン」
 グンタ「( ゚д゚)ポカーン」

タイトル「Replace and Disappearance」→「入れ替えと消失」

問、ナイフで壁を登れるんですか?
答、書き手にだって……分からない事はある……!

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