【完結】進撃の美少年クラブ   作:器物転生

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【あらすじ】
エレンは睡眠薬を飲まされ、
コニーが夜這いした結果、
ナックとミリウスも消失しました。


Replace and Disappearance(上)

 枕の下から折り畳んだ紙を、オレは取り出す。その紙にオレは同級生の名を記していた。この紙を書く前に消えたトーマスの名も、念のために記してある。ただしトーマスの名は横線を引いていた。その下にあるナックとミリウスの名も、オレは横線を引いて消す。

 トーマスに続いて、今日はナックとミリウスが消えた。トーマスの時と同じようにオレとアルミンは、消えた2人の事を憶えていた。再確認のため同級生に聞いて回ったものの、やはりオレたちの他に憶えている奴はいない。誰に聞いても昨日の夜、異変を感じた生徒はいなかった。

 どうして寝てしまったのかとオレは後悔している。起きていれば何か分かったのかも知れない。アルミンは真夜中まで起きていたものの、いつの間にか眠ってしまったらしい……そういえばオレは廊下で寝てしまったはずなのに、いつの間にかベッドへ戻っていた。見回りの執事がオレを発見して、ベッドに戻してくれたのか。

 

「「ガーデン・アイリス、ガーデン・イキシア、ガーデン・リリィ、ガーデン・マユミ、ガーデン・スモモ」」

 

「以上の5名は全員放課後、3階にあるお兄様の部屋へ集まるように」

「お兄様が、お話があるんだってさ!」

 

 眼鏡をかけたポニーテールの双子が、ポーズを決めて言う。その姿を見てもオレは驚きも、喜びも、面白さも感じなかった。もはや不吉な物としか思えない。新たな生け贄の名を宣告しているかのようだった。これは最初の時と同じだ。美少年クラブのメンバーの召集に違いない。

 また同じ事が繰り返されるのか。オレが女と知ったら、コニーたちも態度を変えるのだろうか。また犯されるのだろうか……いいや、そうは行かない。トーマスが消失した件についてアルミンがリヴァイさんを問い詰めた際、「オレの同意の上で行われる」という条件を引き出してくれた。

 それとは別に不安だった。トーマスたちのように、コニーたちも変わってしまうのか。オレが女と知られたら、これまでのようには居られない。それだけでコニーたちと築いた関係は壊れてしまう。召集なんて無視しようかとオレは考えた……いいや、それは逃げだ。きっとアルミンは行くだろう。ならばオレも行こう。

 

 

 放課後になると3階「薔薇の園」へ、オレたちは集まる。そのメンバーは消されなかったオレとアルミン、追加メンバーはコニーとフランツとトムだ。フランツとトムは大浴場で会った2人だった。この組み合わせを見て、オレは気付いた事がある。こいつらとオレは親しいと言えなくもない。

 初めにトーマスたちが選ばれたのは、偶然じゃなかったのかも知れない。トーマスは委員長として、転入生だったオレの面倒を見てくれようとしていた。美少年クラブのメンバーは、オレと親しいと思われている同級生なのか。無作為に選んでいる訳ではなかったのだろう。

 「親しい少年たちの方が良いだろう」という好意的な理由とは限らない。オレに対する脅しと言う可能性もあった。親しい人間を組み入れて、オレがSEXを拒むようであれば消して行く。美少年クラブの活動を見られたら拷問部屋へ送られるルールがあるものの、初回以来トーマスたちとSEXした覚えはない。トーマスたちが消えた理由は分からないままだ。

 

「おまえらに集まってもらったのは他でもねぇ。ガーデン・アイリスの秘密と実習とクラブの話だ」

 

 解説役はグンタさんから替わって、白髪刈り上げのオルオさんだった。巨人のいる世界でリヴァイ班だった女の人によると、オルオさんは尊敬しているリヴァイ兵長の髪型や口調をマネしているらしい。巨人の討伐を補佐した回数は少ない。だけど、うなじを削ぎ取って討伐した回数は、リヴァイ班の中でも飛び抜けていた。

 そんなオルオさんも女型の巨人に蹴り飛ばされ、巨大樹に激突して死んだ。女型の巨人のうなじを捉えたものの、肌を硬化されて超硬化スチールのブレードが折れた。あの時、初めて硬化能力を女型の巨人が見せたんだ。なぜ刃が通らなかったのか、オルオさんは分からなかっただろう。

 前回と違って、この場にリヴァイさんは居ない。グンタさんの時のように、強引に襲われる事はないようだ。オレが女性である事を、オルオさんが明かす。すると、オレが女性であると知ったコニーたちは驚いていた。やっぱりコニーたちは、オレが女と気付いていなかったのか。

 

「おまえらは白いリングを手にはめて、女の子であるガーデン・アイリスを共有する事ができる。メンバーは何時でも何処でも、アイリスとSEXして構わねぇ。その代わり絶対に、他の誰にも見られるな……美少年クラブの存在は他言無用だ。ガーデン・アイリスが女だという事も漏らしちゃならねぇ……理解したか、ガキども。破った奴は地下3階の"拷問部屋(トーチャールーム)"だ」

 

 重大な事に気付いた。この説明を聞くのは初めてだ。おそらく前回は、オレが気を失っている間に説明されていたのだろう。「うっかり忘れてた」じゃ済まされない。もしもオレが他人に喋っていたら如何していたのか。アルミンからは「他人にSEXを見られたら拷問部屋へ送られる」という事しか聞いていなかった。

 

1、美少年クラブのメンバー以外にSEXを見られてはならない

2、美少年クラブの存在を他人に言ってはならない

3、ガーデン・アイリスが女という事を他人に漏らしてはならない

 

 まさかアルミンは、わざと「美少年クラブの存在を他人に言ってはならない」と「ガーデン・アイリスが女という事を他人に漏らしてはならない」をオレに教えなかったのか。それをオレが他人に言った場合は如何なるのか。消されるのかオレか、それとも他人なのか。それをアルミンが知りたかったとすれば……なんて考えすぎか。

 

「それとガーデン・アイリスとSEXする際は、ガーデン・アイリスの許可を取れ。もしもガーデン・アイリスの意思に反してSEXした事が"判明したら"鳥カゴ行きだ」

 

 ついでのようにオルオさんは言う。明らかに後付けだった。鳥カゴと言うと、学園の林の中にある鳥カゴのような牢屋の事だろう。罰を与えるために用いられる。だけど使われたという話を聞いた事がなかった。よほどの事がなければ使われないのだろうけれど……オレを犯した罪に対する罰が、軽いような気がするな。だからと言って拷問部屋へ送られても、オレの気分が悪いか。

 

「さて実習だが……ガーデン・アイリス」

「おことわりします」

 

「そういう訳だ。ガーデン・アイリスとやりたきゃ口説け。まぁ女の口説き方を知りたいってんなら、オレ様が教えてやらんでもないが……」

 

「アイリスー、食堂行こうぜー」

「おい、リリィ。リングを忘れてるぞ!」

「このリング、どっかに落としそうだな」

「イキシアも一緒に行こうよ」

「別にいいけど……」

 

「……ふっ、まだガキどもには早かったな」

 

 オレを女と知っても、コニーたちの態度は変わらなかった。その姿に安心する。「SEXにオレの同意を取る」という条件が効いているのか。それともコニーたちにとって、そんな事は関係ないのか。オレは体を許す気がないし、子供を産む気もない。それは子作り計画が止まる事を意味する。

 こんな日々が続けば良いのに……そんな思いを振り払う。すでに戦いは始まっている。リヴァイさんは何かを仕掛けてくるはずだ。リヴァイさんが強引な手段を使って、オレを「子供を産む機械」へ変える前に、壁の外へ脱出しなければならない。だけど消し去られたトーマスやナックやミリウスも、オレは助けたかった。

 「この学園で暮らしている連中も連れ出そう」なんて思ってはいない。学園の生徒たちは「安全な学園に居た方が良い」と思っているはずだ。殺人ウイルスが在ると知っても「壁の外に出たい」と思っているアルミンが異常なんだ。それは壁の外に巨人のいる世界と同じだな。あっちでもアルミンも、オレと一緒に変わり者扱いされていた

 

 

 その日の夜もオレは眠かった。とても起きていられない。ベッドに入ると、すぐに意識を失った。そして、また夢を見る。キャンプファイヤーのような炎が、夜の闇に燃え上がっていた。だけど、それは楽しい物じゃない。木材と共に燃やされているのは、人の死体だった。

 トロスト区の防衛に成功した後に行われた、兵士の火葬だ。訓練兵団で見知った連中も、山のように死んだ。巨人に殺されたんだ。オレたちは「巨人の食い残し」を積み上げて燃やす。上半身しか残っていない仲間の死体や、顔の半分を食い千切られた仲間の死体を、オレたちは運んだ。

 だけど、これは夢だ。実際は、そこにオレは居なかった。巨人化してトロスト区の門を塞いだオレは、審議所の地下牢で拘束されていたからだ。あの戦いでコニーは生き残った。でも、フランツは腰から下を食われ、トムもガス欠で巨人に食われている。トーマスやナックやミリウスのように、みんな死んだ。

 

 

 翌日の朝、フランツとトムが消えた。昨日まで一緒だった2人の事を、コニーは忘れていた。美少年クラブの召集が行われた翌日だ。オレの認識が甘かった事を思い知らされる。夕方から朝まで、わずか12時間だ。起きていた時間は6時間もないだろう。その間にフランツとトムが、美少年クラブのルールを破ったとは考え難かった。

 これはオレに対する脅しなのか。美少年クラブを受け入れなければ、メンバーが消されて行くのかも知れない。だけど、それならば協力者であるアルミンが無事なのは変だ。リヴァイさんの執務室へ一緒に突入した事で、アルミンは警戒されているだろう。それはアルミンの記憶が失われていない事と、なにか関係があるのか?

 「オレのせいで」なんで事は言わない。そんな事を言っても、なにも解決しない。無意味に無力を嘆く時間なんてない。これから、どうするべきか。地下3階の拷問部屋に、2人は連れ込まれたのだろうか。立ち入り禁止の場所が、この学園には幾つかある。人を造る生産施設も、その一つだ。

 

 居なくなった5人を探して、学園内を歩き回る。立ち入り禁止の建物に近寄って、窓の外から覗こうと試みた。だけど、どこからか監視していたらしい執事によって、オレは建物から引き剥がされる。その前に少しだけ見えたのは下着姿の、見知らぬ少年たちの姿だった。

 地下3階は冷たく、息苦しい。重い空気が溜まっているのか。そこにある拷問部屋は当然、鍵が掛かっていた。扉の前までならば何の障害もなく辿り着ける。だけど金属製の扉は、強引に人の力で開けられるような物ではない。外から中を覗けるような窓も付いていなかった。

 あとは何所だろう。何の成果もなく、無駄に時間を潰している気がする……いいや、気のせいじゃなかった。拷問部屋の奥へ進めなければ意味がない。あそこが一番、居なくなった5人のいる可能性が高いんだ。「頑張った気になっている下らない自己満足」とオレは感情を吐き捨てる。それでも数日間、オレは広い学園内を歩き回った。

 

「どこ行ってたんだよ、アイリス!」

 

 門限の前に寮へ戻ると、コニーが駆け寄ってくる。疲れた姿を見られたくない。だって何の収穫もなかったんだ。そのくせにオレは「がんばったな」なんて言われたいと思っていた。疲れた姿を見せて、大事にしてほしかった。そんな気持ちを押し殺して、オレは体に力を込める。いつもと変わらない様子を装った。

 

「マユミとスモモを探してたんだ」

「アイリスが朝に言ってた名前の事か? そんな奴等いないから、アイリスの気のせいだって!」

 

 その言葉にオレの体は崩れ落ちる。床に膝を着き、手を着いた。溜まっていた疲れが決壊し、押し寄せて来たかのようだった……だけど分かっている。2人の事を忘れたのはコニーのせいじゃない。記憶を奪った奴等の責任だ。オレ自身が忘れていない事を得意に思って、コニーを見下してはならない。それでも俺は怒りと悲しみを覚えて、思わずにはいられなかった。歯がギシリと鳴る。

 

 

 このバカ野郎ォ……!

 

 

 そんなオレの頭が抱き寄せられた。突然コニーがオレの頭を抱き寄せる。力を失っていたオレの体は浮き上がり、コニーに引き寄せられた。そしてコニーの胸元に着地する。オレは冷たくなっていた体で、コニーの温かさを感じ取った、それは心臓の鼓動を聞き取れるほどの距離だった。

 

「よく分かんねーけどよ。アイリスは頑張ったんだな」

「バッカ……頑張ってねーよ……!」

 

 その一言にオレは、もろくなっていた心を突き崩される。押し込めていた感情が溢れ出して、止まらなくなった。歯を食い縛って我慢していた泣き声も、震える歯の隙間から漏れていく。この目から零れる涙を止められない。コニーの胸の中に顔を埋めて、オレは悲しみを吐き出した。

 

「リリィ、もしも身の危険を感じる事があったらオレを呼んでくれ。必ず助けに行くから……!」

「安心しろよ、アイリス。オレは不死身の男だぜっ」

 

 オレの涙が止まるまで、コニーは一緒に居てくれた。そうしている間に夕食の時間は過ぎてしまったようだ。オレたちだけ夕食を、特別に用意してもらう事はできない。仕方なく、購買部で購入してあった御菓子を食べる。夕食の代わりにする予定は無かったので、御菓子の量は多くなかった。

 お腹が減っているせいか。今日は抗えないほど眠くなる事はない。いつも眠っていたので、今日こそは起きていよう。考えを纏める時間として丁度いい。だけど大部屋は暗くなっているため、字を読む事すらできなかった。なのでオレは布団の上でゴロゴロしながら時間を潰す。

 夜は長い。見回りの執事が何回も来た。見回りは不意打ちで、決まった時間に来る訳ではないらしい。暗くて壁に掛かっている時計も、よく見えない。今は何時頃だろうか。長時間経つと、やっぱり眠くなってきた。うんうんと唸りながら、オレは意識を繋ぎ止める。

 

 

 ヴーッヴヴ、ピンポンパンポーン!

 

『スタート、エンター3、スリープコード01!』

 

 突然の放送にオレは飛び起きた。こんな真夜中に何事だ。そう思ったけれど他の連中は、何事も無かったかのように眠っている。まるで放送が聞こえていないかのようだった。その光景をオレは不気味に思う。放送を行うスピーカーが異質に思えた。いつでも耳を塞げるようにした上で、オレは放送を聞く。

 

『デリートキー02、デリート「ガーデン・リリィ」!』

 

 それを聞いた瞬間、オレはベッドから飛び出した。大部屋の扉を勢いよく開けて、コニーの居る大部屋へ向かう。背後から扉が、壁に激しく打つかる音が鳴り響いた。その間も途切れる事なく、不気味な放送は続いている。この声の主はリヴァイさんだ。とても嫌な予感がする。すでに手遅れのような気はしていた。

 

『スリープコード01、コンプリート、エンド!』

 

 大部屋の扉を開けて、コニーのベッドへ向かう。だけど、そこに在ったのは空の布団だった。布団に触れてみると熱は残っておらず、すでに冷めている。コニーが連れて行かれたのは、ずいぶん前の事のようだ。さっきまで特に異変は感じなかった。いったい何時の間に連れて行かれたのか。

 あの放送は今日に始まった物ではないのだろう。少なくとも、トーマスたちが消えた時も行われていたはずだ。だけど今日まで、オレは眠くて仕方なかった。とても起きていられなかった。それが今日に限って起きていられたのは偶然じゃないはずだ。今日に限ってオレは、夕食を抜いていた。

 夕食に睡眠薬を混ぜられていたに違いない。その手口にオレは覚えがあった。他でもないオレが、リヴァイさんにやった事だ。そういえば執務室でオレが謝った際、リヴァイさんは「睡眠薬の事なら知っていた」と言っていたじゃないか。あれは、こういう意味だったのか……!

 

 

——第四話「Replace and Disappearance(上)」

 

 

 夜の遅い時間、イキシアはエレンの居る大部屋の前を通りかかった。そこで物音に気付き、窓から中の様子を探る。するとガーデン・スモモとガーデン・マユミが、エレンに伸し掛かっていた。眠っているエレンは、2人の好きなように扱われている。しかしガーデン・リリィは居ないようだ。

 あんな事をしたら鳥カゴの刑なのでは……と思ったイキシアは、ふと気付く。「ガーデン・アイリスの意思に反してSEXした事が"判明したら"鳥カゴ行き」と執事は言っていた。まさかエレンに気付かれなければ良いのか。見回りの執事も、見て見ぬ振りをする恐れがある。

 まさか寝ている間に犯されているなんて、エレンに告げるのは酷だ。その場に居なかったガーデン・リリィを利用しようと思ったイキシアは翌日、その事をリリィに話す。2人と親しくないイキシアが説得するよりも、2人と親しいリリィに説得させた方が有効だ。しかしスモモとマユミの存在は、すでに人々の記憶から消し去られていた。

 

「スモモとマユミ? 誰の事だ?」

「……人違いだったよ」

 

「そういえばアイリスも同じこと言ってたなー」

「そうなんだ」

 

 これまでに消えた生徒はプリシラとサルビアとエンゼルランプ、そしてスモモとマユミ。合わせて5つの席が空いている。その1つに、見知らぬ生徒が座っていた。その生徒が白いリングを、手首にはめている事にイキシアは気付く。白いリングは美少年クラブのメンバーである証だ。

 

「君は……?」

「新しいクラブのメンバーのサイネリアだ、よろしく!」

 

 美少年クラブのメンバーが消失して、新しい生徒と入れ替わる。朝になると記憶を失っているため、記憶の改変は深夜に行われているに違いなかった。その日からイキシアは昼の間に仮眠をとって、徹夜を始める。そんなイキシアに、ガーデン・クルミが話しかけた。

 

「イキシア、今日も徹夜かい?」

「そうだよ」

 

「もう一週間も経つけど……」

「うるさくて眠れない?」

 

「そうじゃないよ。体の調子が悪そうじゃないか」

「ちゃんと昼の間に寝てるから大丈夫だよ」

 

 クルミは黒髪で、顔にソバカスのある生徒だ。性格は温厚で、口調に刺のあるガーデン・ガーベラと親しい。ちなみに、そのガーベラのベッドは、エレンの隣だった。イキシアやクルミと同じ大部屋にいる他の生徒は寝ている。明かりは消され、互いの顔も良く見えない状態だった。

 イキシアはエレンの事を思い浮かべる。プリシラとサルビアとエンゼルランプによって次々に抜き差しされ、目から光を失っていたエレン。スモモたちによって夜這いされ、意識のない体に腰を押し付けられていたエレン。自然に浮かび上がってきたのは、そんな光景だった。

 イキシアの胸がズキリと痛む。気持ちは高まり、エレンに欲情していた。イキシアもエレンと一つになりたかった。その気持ちをイキシアは必死に抑える。そのためにイキシアは、エレンから距離を取っていた。しかし、それでも気持ちは抑え切れない。エレンの事を考えただけで、イキシアの理性は飛びかけていた。同性でもいいと思ってしまうほどに。

 

「……ねえ、クルミ。キスとかしてみる?」

「イキシア……?」

 

 わずかに身を引いたクルミの肩に、イキシアは手を掛ける。金髪の少年は身を乗り出して、ソバカスの少年に顔を寄せた。突然の事に、ソバカスの少年は戸惑っている。金髪の少年は構わず、ソバカスの少年をベッドに押し倒した。周囲で同級生が寝ているにも拘らず。暗いベッドの上で2人の影が重なる。

 

 

 ヴーッヴヴ、ピンポンパンポーン!

 

『スタート、エンター3、スリープコード01!』

 

 突然スピーカーから流れ出した音と声が、静かな夜を引き裂いた。無音に近い環境で、その音声は爆音に等しい。イキシアとクルミも、その音声に身を震わせた。しかし意識が覚める事はなく、逆に意識が遠くなる。スピーカーから聞こえる音声は、イキシアの意識を奪おうとしていた。

 

「クルミ!?」

 

 ガーデン・クルミがベッドの上に倒れる。気を抜けばイキシアも倒れそうだった。しかし放送の続きを知るために、イキシアは意識を引き留める。この放送に秘密が隠されているのは明らかだ。聞き逃せば後悔するに違いない。このまま眠れば死ぬと思って、イキシアは声の力に抗った。

 

『デリートキー02、デリート「ガーデン・リリィ」!』

 

 どこかで激しく扉を開ける音が鳴った。イキシアが見ると扉の窓から、廊下を走って行く人影が見える。あれはエレンだろうと、イキシアは思った。気を抜けば意識を奪われる声の中、エレンは平気で走り回っている。どういう訳かエレンに、この声は通じていなかった。

 

『スリープコード01、コンプリート、エンド!』

 

 放送が終わる。また激しく扉を開ける音が聞こえた。イキシアも立ち上がって様子を見に行く。声が止むと、さきほどの異常がウソのように何ともない。エレンの後を追ってイキシアは、開けっ放しになっている扉を通る。すると誰も居ないベッドの前で、エレンが座り込んでいた。エレンはイキシアを見ると呟く。

 

「夕食だ……」

「夕食?」

 

「オレの夕食に睡眠薬が混ぜられていた……」

「だからエレンは、夜になると眠くなっていたんだね」

 

 エレンの言葉を聞いて、イキシアは納得する。エレンはSEXを拒否する。それでは子作りという目的を達成できない。だから"学園側"は、エレンの食事に睡眠薬を混ぜた。そうして夜の間に美少年クラブのメンバーが、エレンとSEXをするように仕向けた。ずいぶん前から仕組まれていたのだろう。

 ……なんて事は、もちろん無い。エレンの食事に睡眠薬を混ぜていたのは、ガーデン・リリィたちだ。今日は夕食を逃したために、エレンは御菓子で空腹を満たした。そのためリリィは、エレンの飲み物に睡眠薬を混ぜる事ができなかった。ちなみに自分で飲み物を用意するという知恵は、リリィだけでは思い付かなかったようだ。

 しかし、その事にエレンとイキシアは気付かない。真犯人が居なくなったために、真実へ辿り着くことは無くなった。明日から夕食を食べて眠くなる事が無くなっても、「エレンが気付いた事に学園側が気付いたから」と思い込む。その罪は全て、ガーデン・ローズに被せられた。




よく見ると原作では、美少女クラブの2回目にイキシアは召集されていません。
でも、こっちではルール追加の告知があるので召集しました(後付け)。

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