【完結】進撃の美少年クラブ   作:器物転生

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【あらすじ】
リヴァイとアルミンの問答で
妊娠の知識が欠落している事に気付き、
子作り計画であるとアルミンも気付きました。


夜這い(下)

 トーマスが連れ去られた可能性が高い場所は、地下3階の拷問部屋だ。美少年クラブの活動で他人に見られた場合も、そこへ連れて行かれるらしい。だけど最初の活動を除いて、トーマスたちに犯された憶えはない。いったい何故トーマスが消されたのか、理由が分からなかった。

 そういえば屋敷の出入口も地下にあった。この学園の地下にある拷問部屋も外に通じている可能性は高い。もっとも、外に死体を捨てるためと考えれば不思議な事じゃなかった。あそこから外へ出るのは、壁を登るよりも難易度が高い。しかし、おそらく他に出入口はないだろう。

 きっとトーマスはオレたちの助けを待っている。まだ生きていると信じたい。だけど、あの鉄の扉を越える手段をオレたちは持っていなかった。拷問部屋という不吉な名前の場所でトーマスは、どんな目にあっているのか。オレとアルミンには戦う力が不足している。

 

「そういう訳でイキシア、地下に外へ繋がる道があると思うんだ」

「……うん、そうだね」

 

 アルミンの反応が冷たい。やる気のなさが伝わってくる。アルミンはトーマスを助ける気がないのか。リヴァイさんにトーマスの事を聞いたのも、アルミンにとってはリヴァイさんを問い詰めるための手段に過ぎないのだろう。いつかオレも「手段の一つ」に数えられるのではないかと不安になる。いや、あるいは、もう、すでに……。

 

「ねえ、エレンは如何して、そんなにガーデン・プリシラを助けたいと思うんだい?」

「どうしてって……仲間だからだ」

 

「不思議なんだ。美少年クラブの前は確かにプリシラたちと親しかったと思う、だけど美少年クラブの後、君はプリシラたちを嫌っていた。その後はガーデン・リリィを守るために、プリシラたちの側にいて監視していたのは分かる……そんな君が、どうしてプリシラたちを仲間だなんて思う?」

 

「友達だからだ」

「違うよ。そんな事、エレンは思っていない。普通だったら居なくなったプリシラを助けようなんて思わない。プリシラを助けたいという動機が、エレンにあると思えないんだ」

 

 アルミンが何を言っているのか分からなかった。仲間なんだから助けるのは当たり前だろ……いいや、そうか。オレは混同しているのか。巨人のいる世界のトーマスと、こっちのトーマスを混同している。だから、こっちのアルミンは、トーマスを助けたいと思うオレの行動を理解できない。

 オレも切り離して考えるべきか。だけど、それは記憶を2つに裂く行為に等しい。そんな事をすれば、さらにオレは混乱するだろう。だからオレはアルミンの問いに沈黙するしかなかった。オレはプリシラを仲間だなんて思っていないけれど、オレはトーマスを仲間だと思っている。

 アルミンに疑われている気はしていた。距離を置かれている気はしていた。その原因が、これか。こんなオレを理解してもらうためには、巨人のいる世界についてアルミンに教えれば良いのだろう。だけど、それは出来ない……いいや戦うべきだ。戦う事を恐れるな。

 

「イキシア、オレは……」

 

 その瞬間、呼吸が止まった。肉体がオレに逆らう。続きを話す事を許さない。アルミンの背後に男が見える。亡霊のような男が立っていた。オレと似たような格好をして、アルミンの向こうからオレの顔を見つめている。他の誰でもない、それが誰なのかオレは知っていた。

 

「どうしたの、エレン」

「……え?」

 

「どうしてエレンはプリシラを助けたいと思うのか、ってことだよ」

「……さぁな、どうしてだろうか」

 

 恐怖に震える口で、オレは知らない振りをする。再びアルミンの背後を見ると、亡霊は存在しなかった。あれは死人だ。すでに死んでいるくせに、生きている振りをしている化け物だ。それはオレにとっての禁忌だった。開けてはいけない宝箱だ。他の何者でもない、あれはオレだった。

 

 

 リヴァイさんを問い詰めた結果、最も消される可能性が高いのはアルミンだ。異変を察知するためにオレは起きていなければならない。だけど今日も眠かった。とても起きていられない。なんとか目を覚まそうとオレは、手洗い場で顔を洗った。しかし、まったく効果がない。

 アルミンの側で寝た方が良いんじゃないかと思う。だけど執事の見回りがあるから、それは出来ない。ちょっとの間なら良いけれど、一晩中は無理だ。この眠気のまま行くと、アルミンの所で熟睡する恐れがある。なんで、こんなに眠いんだ。やっぱり疲れてるのか。

 薄暗い廊下を歩く。すでに就寝時間だ。ベッドまで辿り着ける自信がなかった。両足で立っていられず、壁に手を突いてオレは歩く。視界がグラグラと揺れていた。耳から聞こえる音に、無音の時間が混じる。おそらく断続して気を失っている。どうしようも無くなったオレは床で寝る事にした。あぁ、床が冷たいのに気持ちいいー。

 

 

——第三話「夜這い(下)」

 

 

 床に落ちている異物を発見したのはガーデン・ガーベラ、エレンでいう白髪刈り上げのジャンだった。まさか"廊下で寝るアホ"が居ると思わなかったジャンは、怪奇現象と思ってギクリとする。しかし直ぐに、その正体が"廊下で寝ているアホ"である事に気付いた。それはガーデン・アイリスだった。

 驚かせやがって……と安心したジャンは、そのアホの背中をペシペシと足で踏む。しかし、それでもエレンは起きなかった。早々に諦めたジャンは、その横を通り過ぎてお手洗いへ向かう。廊下で寝ている変人を起こすよりも、優先するべき事があった。お手洗いだ。

 お手洗いには先客が居るらしく、灯りが点いていた。おまけに息を荒げる声が聞こえる。こんな真夜中に発情した色ボケがいるらしい。ジャンは180度回転して、ベッドに戻りたくなった。しかし、他のお手洗いへ行くのは面倒で、じつを言うと余裕もない。仕方なくジャンは、中の人に声をかける。

 

「エレン……! エレン……!」

「おい、色ボケ。ちょっと静かにしてろ」

 

 ピタリと声が止んだ。痛々しい空気を感じる。それを無視してジャンは用を済ます。しかし、いったいエレンとは誰なのか。その名前にジャンは聞き覚えがなかった。色ボケは聞き覚えのある声だったような気がするものの、名前が思い浮かばない。どうでも良い事なので、「まぁいいか」とジャンは思考を放棄した。

 そうして戻ってくると、まだエレンは床で寝ていた。さっきと何も変わらず、起きた跡が全く見られない。普通ならば廊下で寝ている変人なんてジャンは無視するだろう。しかし実を言うとエレンは同じ大部屋で、しかもジャンの隣のベッドだ。その義理で少しだけ関わろうという気になった。

 二度目となると大胆になる。ジャンは足を使って、エレンの体を引っくり返した。手を使わなかったのは面倒臭かったからだ。それでもエレンは起きない。「ううん……」と悩ましげな声を漏らすだけだ。どんだけ熟睡してんだよ……と思ったジャンは体を屈み、手を使ってペシペシとエレンの頬を叩く。

 

「おい、起きろ」

 

 起きなかった。頬をつまんで引っ張っても、エレンは起きなかった。大浴場の件からエレンをホモ野郎と思っているジャンは、このまま放っておこうと考える。しかし。廊下の先に灯りが見えた。カンテラを手に持つ、見回りの執事だ。このままエレンを見捨てると執事の心証が悪くなると思ったジャンは、執事の到着を待つ。するとジャンと同じ白髪刈り上げの執事、エレンでいうオルオも、ジャンに気付いた。

 

「ガーデン・ガーベラじゃねぇか。こんな所で何やってやがる……なんでガーデン・アイリスは、こんな所で寝てんだ?」

「自分が来た時には、この有り様でした。アイリスをベッドまで運ぶ前に、ガーデン・ネリネの許可をいただきたく、お待ちしていた次第です」

 

「おぉ、気が利くじゃねぇか。じゃあ任せたぜ、ガーデン・ガーベラ」

 

 さきほどまで足で踏んだり、足を使って引っくり返したり、頬を引っ張ったりしていたなんて思わせない様子で、ジャンは言う。そして言葉通り、エレンを持ち上げようとした。しかし自分よりチビであっても、意識のない同級生の体を持ち上げるのは、なかなかに難しい。エレンの力の抜けた体を、ジャンは何度か抱え直した。そうしていると、おかしな事に気付く。

 

( ……こいつ付いてねぇ )

 

 男性に在るべき物がなかった。そして、やけに体が柔らかい。触ってみると体の丸さが分かった。「まさか男性器が欠落しているのか」なんてジャンは思うものの、そんな"不良品"が生産施設から生み出される訳がない。正確に言うと、殺処分されない訳がなかった。

 

「おい、どうした」

「いえ、大丈夫です」

 

 とりあえずジャンはエレンを抱え上げる。そしてエレンをベッドまで運ぶと、隣にある自分のベッドに潜った。しかしエレンを手放した後も、エレンを抱いた感触が頭から離れない。そうしてモンモンしていると眠れない。「オレはホモ野郎じゃねぇ」と心の中で呟き、ジャンは自分と戦っていた。

 すると、さらなる異変がやってくる。ジャンの耳に床の軋む音が聞こえた。見回りの執事は、さっき通り過ぎたばかりだ。おまけに1人ではなく、複数人の足音だった。大部屋の扉を開けて入ってくる。何事かと思って薄目を開けて様子を探ると、3つの人影があった。

 暗くて顔は見えない。その人影が隣のベッド、つまりエレンのベッドを取り囲む。なにかの儀式かと見間違うほどだった。夢でも見ているんじゃないか。とりあえずジャンは寝た振りをする。自分に関係ないのならば、当然に関係ないからだ。下手に関わると、碌な事にならないに違いなかった。

 

「スモモ、ガーデン・アイリスが女って本当かよ?」

「本当だって……リリィは大浴場で気付かなかったのか?」

 

「ぜんぜん?」

「あー、リリィだもんな。仕方ない」

 

「おい、下手に触ったらアイリスが起きるだろ」

「大丈夫だって、マユミ。じつは保健室で手に入れた睡眠薬を、こっそりとな……」

 

 エレンで言う、コニーとフランツとトムだった。ちなみにフランツとトムは、コニーに誘われた大浴場でエレンが会った2人組だ。3人の会話からエレンが廊下で寝ていた理由をジャンは察する。トムがエレンの飲み物あたりに睡眠薬を入れたらしい。「犯罪じゃねーか」と心の中でジャンは突っ込んだ。

 

「本当にやるのか?」

「ドキドキしてきた」

「じゃあ、さっそく……」

 

 エレンの布団が捲られ、ズズッという音が鳴る。その小さな音は、ジャンの耳に大きく聞こえた。さらにパジャマを下ろすズルズルという音が聞こえて、ジャンはゴクリと喉を鳴らす。これから眠れる気が全くしない。エレンに付けたホモ野郎の汚名は、ジャンの中で取り下げられた。エレンは女だからホモじゃなかった。

 

「リリィ、入れてみろよ」

「お、おう……オレ様にかかれば楽勝よ」

 

 ベッドがギシリと軋む。エレンのベッドに2人分の重さが掛かった。睡眠薬を飲まされたエレンは起きる気配がない。少しの間だけ、ベッドの軋む音が小さくなった。その合間にエレンの吐息が、呻くような声と共に漏れる。するとギシギシと、ベッドが大きく揺れ動き始めた。ペチペチと肌を打ち鳴らす音が響く。

 

「バカ、もっと静かにやれよ……!」

「悪ぃ……でもよ、オレ。ただでさえガーデン・アイリスのこと、かわいいって思ってて……ただでさえ抱きしめたくて……それがしかも女で……寝てて……なんでもし放題で……!」

 

 大浴場でエレンを誘ったコニーは有罪(ギルティ)だった。ジャンは心の中で、コニーもといリリィをホモ野郎と書き留める。ハッハッと息を荒げるコニーが、エレンに伸し掛かっている。自然とジャンも息が苦しくなり、耐え切れない衝動に流されそうになっていた。

 しかし、ガラリと扉の開く音が聞こえる。暗闇に灯りが差した。執事の持っているカンテラの明かりだ。見回りの執事がやってきた。ジャンが薄目で様子を探ると、ベッドの下に動く影が2つ見える。それはフランツとトムだった。フランツは大柄だから苦しそうだ。しかし1人足りない、

 まだコニーはベッドの上にいた。エレンに覆い被さって、布団を被っている。当然、布団はコニーの体一つ分膨らんでいた。横から見たジャンだからこそ、あれでは一目で気付かれると分かる。黒い影としか分からない執事は、大部屋の中心を歩いていた。すると。まだ執事が居るにも拘らず、エレンの布団が揺れ動く。

 

( なにィィィ!? )

 

 見るとバカが、小刻みに体を動かしている。エレンの中に入れたままだったコニーは、我慢できなくなっていた。「あいつバカじゃねーの」と言いたくなる光景だった。しかし執事は気付かない。いいや、見て見ぬ振りをしているに違いなかった。ジャンは混乱している。

 大部屋の扉が閉まる。見回りの執事は出て行った。するとコニーは布団と共に激しく動き、エレンの中で体を震わせる。無防備なエレンの顔に、コニーは影を重ねた。そこからクチュクチュと耳障りな音が聞こえる。ベッドの下ではフランツとトムもイチャイチャしていた。しかしジャンは知っている。大部屋の外へ出て行った灯りは、その場に留まっていた。

 扉のガラスから2人の執事が覗き込んでいる。その顔が明らかになり、ジャンは息を飲んだ。その顔は、同じ顔だった。眼鏡とポニーテールだった。少し考えてみれば分かる事だが、双子のルビナスとロベリアだ。その2人の口が動いている、なにかを話し合っていた。その聞こえるはずのない声を、ジャンは読めてしまった。

 

「……まずいね」

「まずいね……」

 

「見られた?」

「見られたね」

 

「大浴場かな?」

「大浴場だね」

 

「見た少年たちは?」

「"リセット"してクラブのメンバーへ」

 

「見られた少年たちは?」

「ちょっと早いけど仕方ないね」

 

「「——拷問部屋(トーチャールーム)へ」」

 

 「トイレで自慰する色ボケ」と「ガーデン・アイリスの秘密」と「バカたちの悪事」そして「密談する監視者」。この学園は変人と変態ばかりで、まともな奴がいなかった。学園の深淵(しんえん)を一晩の内に覗き見てしまったジャンは……目を閉じて、眠る。そうして何も見なかった事にした。これが最も利口な選択肢と信じて疑わない。その選択は正しかった。エレンの寝ている間に、ガーデンは再び中身を入れ替える。その夜が明ける前にナックとミリウスの2名は、少年たちの記憶から取り除かれた。


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