【完結】進撃の美少年クラブ   作:器物転生

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【あらすじ】
トーマスが消え、
エレンは戦う覚悟を決め、
リヴァイは部下の性欲を解消していました。


夜這い(中)

 トーマスが消えた件について聞くため、リヴァイさんに会ってみる事になった。壁の外へ出るための協力者となったオレとアルミンは、ガーデン・ローズの執務室へ突入する。しかし、そこで行われていたのは、リヴァイさんとエルドさんの情事だった。アルミンによって扉を閉められた後も、その光景は目に焼き付いている。

 リヴァイさんは屋敷にいる間、オレに手を出さなかった。その事からオレはリヴァイさんがホモの疑惑を抱いていた。女に興味がないから、オレの世話を任されたのではないか。「まさか」とは思っていたけれど、リヴァイさんのホモ疑惑を証明する決定的な瞬間を見てしまった。オレは男に負けたのか……!

 ちょっとオレは挫けそうになる。だけどアルミンに「戦う事を恐れない!」と誓ったばかりだ。アルミンも退くつもりはない。ちゃんと今度は扉を叩き、オレたちは入室する。するとリヴァイさんと執事は何事もなかったかのように、動揺するオレたちを待ち構えていた。アルミンは気持ちを切り替えて、リヴァイさんを問い詰める。

 

「ガーデン・プリシラを何所へやった?」

「ガーデン・プリシラ? それは、この学園の生徒か?」

 

「とぼけるな! 昨日まで、この学園にいた生徒だ!」

「ガーデン・アイリスと……イキシア。おまえにも、その記憶が在るのか?」

 

 その言葉に引っかかる。アルミンと一緒に来た以上、オレも同じ用件で来たと思っても不思議じゃない。だけど、まるでアルミンが「おまけ」のようにリヴァイさんは言った。オレに記憶がある事は当然で、アルミンに記憶がある事は当然じゃないようだ。リヴァイさんにとって、アルミンは予想外の存在なのか。

 

「ガーデン・ローズ、あなたは何を企んでいる」

「……いいだろう。全て話してやる」

 

 アルミンはリヴァイさんに敬語を使わない。だけどオレはリヴァイさんに敬語を使わないなんて事はできなかった。アルミンを見ていると心臓に悪い。死に急ぎすぎだ。アルミンにオレが入ってるんじゃないかと思う。だけどアルミンの攻撃的な態度を、リヴァイさんが気にしている様子はなかった。それどころか全て話すという。

 この学園へ来る直前に見た親父の記憶から、過去に「人間を生み出す塔が破壊された」という事と、「主に女性を死滅させる強力なウイルスが散布された」という事を知った。そういえば、あの場所から折れた塔が見えたという事は、この学園は塔の近くにあるんだな。

 転入初日の昼食時にトーマスたちから「この学園の生徒は生産施設で生まれる」という事と、「人間の女は絶滅種とされている」という事と、「人間の女は生産施設で生み出せない」という事を知った。それらを考えるとオレは「子供を産む事を期待されている」。特に女の子は必要だろう。

 

 

「人類の女が絶滅したという事は知っているな。

 その理由は2つだ。科学技術の進歩によって人類自体が退化し、女の人口が激減した。

 もう1つは、女のみが死滅する強力なウイルスの世界的蔓延だ。

 

 その2つの脅威を全く受けずに生き残った唯一の女、それがガーデン・アイリスだ。

 そしてガーデン・イキシア、お前たち男も"ある部分"の退化を免れている。

 

 お前たちは人類にとって、とてつもなく重要で貴重な存在だ。

 特にガーデン・アイリスは世界で唯一の女……その存在が外に知れたらどうなる?

 

 それを守る手段が外界と一切の接触を断つ、あの壁だ。

 外からの侵入、内からの漏洩を防ぐ事で、おまえ達を保護している。

 だから外界と接触する事は許されない。

 それは学園で生活する生徒全員を危険にさらす行為だからだ。

 

 オレたちは、お前たちを守っている。これで分かったか?」

 

 

 リヴァイさんの言葉が引っかかる。「主に女性」じゃなくて「女性のみ」が死滅する強力なウイルス? 小さな言葉の差だけれど、その結果は大きく異なる。リヴァイさんの言葉が本当ならば「男性はウイルスで数を減らしていない」けれど、親父の記憶が本当ならば「女性と同じように男性もウイルスで数を減らしている」。

 

「じゃあ、居なくなったプリシラは!? 美少年クラブとは何だ!? 何のためにアイリスにSEXを強要させている!?」

「何のために? SEXという行為が何なのかは、座学で習っているだろう」

 

「男女が互いの愛を確かめるための、ただの快楽のための行為……?」

「オレたちは、それをお前たちにも味わって欲しいだけだ……SEXという行為の意味が、それに以外にあるのか?」

 

「その重要で貴重な存在の、アイリスの気持ちを無視してやる事か!」

「……それは、こちらの不手際だったな。これからはガーデン・アイリスの同意の上で行われるように通達しておこう」

 

「今さらだ……!」

「それと、プリシラという生徒の存在は把握していない。お前たちの思い違いだろう」

 

「……ガーデン・ローズ、そろそろお時間です」

 

 執事のエルドさんによって、オレとアルミンは退出を促される。だけどオレはリヴァイさんに言う事があった。今言わなければ、いつ言えるか分からない。明日になったら手遅れになってしまうかも知れない、明日になったら全て変わってしまうかも知れない。屋敷から、ここへ来た時と同じだ。リヴァイさんと過ごした日々は、もう取り戻せない物になった。

 

「ガーデン・ローズ、オレを育ててくれて、ありがとうございました。ガーデン・ローズと過ごした時間は穏やかで、心安らぐ日々でした。それなのにオレは、ガーデン・ローズに悪い事をして、それを壊してしまいました……ごめんなさい」

「……ガキが下らない事を心配するな。睡眠薬の事なら知っていた。おまえは何も悪くはない」

 

 オレは耳を疑った。リヴァイさんが睡眠薬の事を知っていた。というかリヴァイさんに「ガキ」なんて言われたのは巨人のいる世界ならば兎も角、こっちで言われたのは初めてだ。オレが夜這いしたのは「リヴァイさんにとって予定通りの事だった」とでも言うのか。それを最後に、オレとアルミンは執務室から閉め出される。

 リヴァイさんはオレに対して怒っていないようだ。睡眠薬と知った上で飲んだのは……オレが「紅茶を飲んでください」と命令したからか。だからオレに睡眠薬を渡して、その睡眠薬入りの紅茶を飲んでくれた。「旦那様」の命令に背かない限り、リヴァイさんはオレの命令に従ってくれていた。たとえ意識のない間に、オレに犯されたとしても……。

 アルミンと並んで廊下を歩く。執務室から十分に離れるまで、なにも話さなかった。さっきの話で、リヴァイさんの隠している事が分かった。エレン・イェーガーにとって当然な事でも、エレンにとっては当然な事じゃなかった。屋敷の本に「出産とは、生産施設で生まれる事」なんて斜め上な答えが載っている訳だ。

 

「イキシア、"妊娠"って何の事か分かるか?」

「生産施設で命が宿る事だよ」

 

「違うんだ。女と男が交わると、妊娠するんだ」

「それが本当だとすると……トーマスたちは子作りしていたのか!?」

 

「リヴァイさんの目的は、きっと、そうなんだ」

 

——女であるオレに子供を産ませようとしている

 

 やっぱりアルミンは子作りと気付いていなかった。信じられない事を聞いたように驚いている。一度"出産"についてリヴァイさんに聞いた事があるけれど、あれは"生産施設"についての事だった。オレに子作りの知識があると、リヴァイさんも気付いていないはずだ。

 

「子作りが目的とすると、エレンがSEXを拒否する事は、彼らにとって都合が悪いはずだ。別の方法でエレンとSEXするように仕向けるかも知れない」

「ウイルスの話が本当だとしても……オレの子供たちを"子供を産む道具"として使われるくらいなら、外に出られるか自分の身で試してみるさ」

 

 リヴァイさんの話を聞いても、壁の外を目指す事に変わりはない。だけど、そのウイルスについて調べてみるべきか。無知のままウイルスに感染するよりは良い。そう思ってガーデンの公文書館(アーカイブ)でオレたちは、女性を絶滅へ追い込んだというウイルスについて調べた。

 そのウイルスは約5000塩基対の長さの環状2本鎖DNAを持つ。人の免疫機能を回避し、宿主が男性であれば持続感染し、宿主が女性であれば活性化する。発症すると吐血の症状が見られ、その後わずか数分で死に至る。2本鎖DNAであるため安定し、変異は起こしにくい。まるで女性を殺すために、人為的に造られたようなウイルスのようだ。

 つまり外で生き残っている男性は、女性を殺すウイルスを保菌している恐れがあった。だけど親父の記憶によると「女性のみ」ではなく「主に女性」だ。それは「主に女性」から「女性のみ」へウイルスが変異したという事になる。だけど変異は起こし難い。このウイルスが人為的に造られたとすると、単純な感染拡大によって女性の人口が激減したのでは無いのかも知れない。発症の条件は元から「女性」ではなく、男性と女性に共通する「何か」が指定されていたとか。

 

 授業が終わるとオレは、トーマスの居た大部屋を訪れる。トーマスが消失したと気付いて、朝も訪れた場所だ。ナックとミリウスも、トーマスと同じ部屋だった。だけど2人ともトーマスの事を忘れている。これまでにトーマスと培った思い出を奪われていた。その非情な行為に怒りを覚える。

 マットレスの取り除かれた空のベッドが、表面の板を剥き出している。ベッドの側にある棚の中は空っぽだった。掃除は生徒ではなく、授業を受けている間に執事が行っている。だからトーマスの金色で短い髪の一本すら残っていなかった。床を這っても、ワックスで保護された綺麗な板が見えるに過ぎない。

 そんな風に床を這うオレを、ナックとミリウスは困惑した表情で見ていた。すでにトーマスが消えたという事情は教えてある。だけど信じられないようだ。あんなに一緒だったのに、そういう物なのか。記憶を失っていないオレには分からない。ナックとミリウスに対しては怒りよりも、かわいそうに思う。ナックとミリウスはトーマスを失ったと言うのに、その事実に気付いていなかった。

 

「美少年クラブの一員だったプリシラが消えたんだ。その中で記憶を保持しているのはオレとイキシアだった」

 

「アイリスとイキシア、もしくはオレとミリウスも危ない訳だ」

「この話を聞いてしまった時点でな。聞かなきゃよかった……」

 

「聞かなくても同じだろ。プリシラが消された理由が分からないからな」

「でも、アイリスとイキシアの記憶が改変されている可能性もあるじゃないか」

 

「その時のために名前を紙に書いておいた。おまえらも持っておけよ」

 

 アルミンの考えた対策だ。「トーマスなんて最初から居なかった」という可能性もある。だから美少年クラブのメンバーや、同級生の名前を紙に書いておいた。次は誰が消えるのか……なぜトーマスは消されたのか。オレたちの足下に、見えないルールが敷かれている。その理由を知らなければならない。

 

 

——第三話「夜這い(中)」

 

 

「彼らは思ってもみないでしょうね、お兄様」

「ああ、見た事も聞いた事もなければ、考えもしないだろう……自分たちが子作りしているだなんてな」

 

 本来ならば気付くのは、もっと後になるはずだった。しかしエレンに与えられた未知の知識によって、謎は解き明かされる。それは推理ではなく、「答えを見る前から知っていた」という反則技だった。まさか"お兄様"も執事も、そんな方法で真実に辿り着かれるとは思っていない。そのため呑気に執務室で、黒幕的な会話を繰り広げていた。

 

「イキシア、"妊娠"って何の事か分かるか?」

「生産施設で命が宿る事だよ」

 

「違うんだ。女と男が交わると、妊娠するんだ」

「それが本当だとすると……トーマスたちは子作りしていたのか!?」

 

「リヴァイさんの目的は、きっと、そうなんだ」

 

——男であるイキシアたちに子供を産ませようとしている。 

 

 当然、妊娠するのは男性であろう。そうであるとイキシアは思っていた。もちろんイキシアは間違っていない。間違っているのは、女性が子供を産むと思っているエレンだった。巨人のいる世界での知識が、エレンに利益をもたらす事もあれば、不利益をもたらす事ある。

 

「子作りが目的とすると、エレンがSEXを拒否する事は、彼らにとって都合が悪いはずだ。(ボクたちが妊娠しないから)別の方法でエレンとSEXするように仕向けるかも知れない」

「ウイルスの話が本当だとしても……オレの(産んだ)子供たち(女の子)を"子供を産む道具"として使われるくらいなら、外に出られるか自分の身で試してみるさ」

 

 会話が不自然なく成立しているためエレンは気付かない。もしも気付けばイキシアならば当然のように気付いた事実を、エレンも知る事になるだろう。しかし、エレンもイキシアも気付けなかった。そのため「なぜ男性であるトーマスが消し去られたのか」エレンは分からないままだった。




ウイルスの詳細は捏造設定です。
ちなみにウイルスの参考にしたのは「JCウイルス」。
女子中学生(JC)じゃなくて、患者だった人のイニシャルらしい。
RNAじゃなくて、二重鎖DNAなので変異しにくい。
これも持続感染して、免疫不全の状態になると発症し、9ヶ月以内に死に至るそうです。
ただし、ほとんどの成人が感染してるけど、普通は発症しないまま人生を終えるとか。
引用元【メルクマニュアル医学百科】ttp://merckmanuals.jp/home/脳、脊髄、神経の病気/脳の感染症/進行性多巣性白質脳症.html

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