ゴジラvsモゲラ   作:サイレント・レイ

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第7話 更識姉妹

――― 伊浜原発・原子炉 ―――

 

 

「水はまだ増えないか!?」

 

「駄目だ!! 水漏れがまだあるみたいだぞ!」

 

「急げ!! また圧力が上がり始めたぞ!」

 

 ゴジラとガイラの戦いで、時折埃が舞い落ちて処か不気味な状態の原子炉に楯無が辿り着いた時、生き残った職員達が自衛官達と共に必死に炉心融解を食い止めようと悲鳴を上げながら、動き回っていた。

 しかも全く外の様子が分からない為、ゴジラとガイラの咆哮が聞こえる度に全員が驚き怯えて硬直していた。

 もっとも楯無も此の光源ほぼ皆無の現状ではそれも仕方がないと顔を引き吊らせながら理解した。

 だが今の原子炉はそんな事など許されない状態である事も分かっていたので、楯無は見渡して懐中電灯で設計図を見ながら怒鳴り合っている一団を見つけ、一旦ISを解除して直ぐ駆け寄った。

 

「IS学園の楯無です!

救援に来ました!」

 

 楯無に自衛官達は露骨に嫌な目線を向けたが、幸い職員達は楯無の顔見知りだったので自衛官達を説き伏せながら快く迎え入れた。

 

「原子炉の現状はどうなのですか!?」

 

「現在、原子炉その物は直接はやられてはいません!

ですが肝心の冷却水が注入量と実際に入った量と一致しないのです!」

 

「やっぱり水が途中で漏れているんですね。

それで場所は分かったのですか?」

 

 楯無の質問に彼等は一瞬目線を合わせた。

 

「…それが分からないんです!」

 

「分からない!? 既にトン単位で水が入っているのに、分からないですか!?」

 

「普通なら下手な場合水没箇所があってもおかしくないんですが、最後の水漏れ箇所が特定出来ない上、残りの水が何所に行ったのかが全く分からないです!」

 

「……片っ端から調べられないんですか?」

 

「無茶言うな!! コンピューターが死んでいる上、此所にどれだけ配管があると思っているんですか!?」

 

 此の現状から水漏れに何か違和感を感じさせた。

 しかもこんな時に何かの倒壊音に続いてゴジラの咆哮が響き、否応無く時間が無い事を思い知らされた。

 

「…さっさと注水専用の配管を配備すればこんな事にならなかったんだ!!」

 

 職員の一人が壁を殴りながら毒づいていたが、実際問題現場の危機感を事故が無かった起こる訳が無いと上層部が慢心して無視された上、現場も現場で原子炉への注水訓練を全く行わなかったが故に起こった此の現状に、ある意味日本の平和ボケが垣間見えていた。

 

「…私に任せて下さい。 私のISで水の流れを調べてみます。

そうすれば水漏れ箇所が分かる筈です」

 

 楯無の専用ISである霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)が装備する特殊ナノマシンによって液体状を勿論気体状でもあらゆる水を操作出来る単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)アクアナノマシンを使うとの意見に、自衛官達が疑って目線を合わせていた。

 

「御願いします!!」

 

 だがそんな自衛官達を無視して職員達は頭を下げ、彼等も止むを得なしと判断した。

 

「で注水に使われている配管は何所です?」

 

「コッチです!!」

 

 楯無に配管に案内しようと走った職員達に彼女に続いて、出遅れたが自衛官達も取り敢えず続いた。

 

「……此れです! 此の配管です!」

 

「…よし!!」

 

 目的の物に着いた楯無は職員達が点検用の蓋を開けている間にISの右腕を部分展開してアクアナノマシン入りの水玉を作り出し、それを配管に入れた。

 

「…さあ、私に全てを見せなさい」

 

 アクアナノマシンを配管の中で移動させた楯無は目を閉じて全神経を集中した。

 

「頼みますよ…」

 

「チョット黙っていろ!」

 

 硬直した楯無に変に励まそうとする者がいたが、直ぐ周囲の者に注意された。

 

「…何所……何所なの?」

 

 だが思っていた以上に進んでも見つからないのか、楯無から冷や汗が流れ始めた。

 

「…違う……此所も違う……こ、こっ!」

 

 不意に目を開けた楯無は何故か少しの間硬直していたが、突然顔色を変えながらISを解除すると、職員から設計図を奪って凝視した。

 

「…楯無さん、どうしたのですか?」

 

「水漏れが分かったのですか?」

 

 楯無の様子に戸惑った者達が質問していたが、当の彼女は黙っていた。

 

「…水は漏れていません……いえ、ある意味水漏れより質が悪いです」

 

 楯無の言葉の意味を誰もが理解出来ないでいた。

 

「…水の大半は……モーター室に流れ込んでいます!」

 

 少しの間沈黙があったが、全員が一斉に驚きの声を上げて設計図を覗き込んだ。

 だが設計図では注水に使われている配管は、確かに途中でモーター室と枝分かれしていた。

 

「…なる程、通りで水漏れが無かった訳だ」

 

「しかし何故だ!? 何故モーター室に行っているんだ!?

あそこには逆流防止の弁が有った筈だ!」

 

 現状の原因は分かったが、水が全く必要無いモーター室に水が行っている事への疑問が出た。

 

「多分あそこのは基本的に弁よりモーターの出力で逆流を防いでいます」

 

「…それがモーターが止まった所為か、怪獣達の振動でのどちらかか……最悪、両方で弁が壊れたんだ!」

 

「糞!! こう言うのは電源が生きていれば直ぐ分かったのに!!」

 

「推測はいいです!!

問題はどうすればモーター室のを止めれるんですか!?」

 

 職員達がモーター室に水が行っている事への推測が始まろうとしていたが、楯無の意見で全員が我に返った。

 

「…此れだ!! 此のモーター室内のバルブを閉じれば良い!」

 

「じゃあ、直ぐにモーター室へ!」

 

 設計図から対処法を見つけて直ぐ行動に入ろうとしたが…

 

「…無茶だ!! 今モーター室のある建屋の近くでゴジラとガイラが争っているんだぞ!」

 

…司令部に原因と対処法を報告していた自衛官の言葉に全員が硬直した。

 

「しかも建屋にゴジラの尻尾が時折接触する程の超近距離でだ。

その所為で建屋が半壊して内部の者達と連絡が取れないそうだ」

 

「……詰まりモーター室に誰かが入ってバルブを閉めないといけないけど、そのモーター室に入る事が非常に難しい上、何時ゴジラとガイラに破壊されてもおかしくないと言う事ですね…」

 

 職員や自衛官だけでなく楯無でさえ嫌な汗が流れていた。

 

「…モーター室が半壊しているって言っていましたが、モーター室の天井は崩れているのですか?」

 

「え、ええ……そうですが…」

 

「だったら私が行きます!

ISなら真上から入れますから!」

 

 設計図を素早く巻いてISを再展開した楯無は職員達が呼び止めるのを無視して文字通り翔び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― モーター室 ―――

 

 

「…う…うぅ~…」

 

 楯無がモーター室に向かった少し前、当のモーター室は退避するか落下した瓦礫に殺られて死亡するかで無人となっている筈だったが、ゴジラとガニメの争いから逃げ延びるも、本音とはぐれた簪が大破した打鉄を脱ぎ捨てて此所の角でゴジラとガイラの咆哮と地響きに怯えながら座り込んでいた。

 しかも時折、天井や壁のモーターの部品が落下して簪の恐怖を更に煽っていたが、落下した瓦礫に破壊された配管の一つから水が派手に吹き出したのを目撃した。

 

「……水?」

 

 モーター室に基本的に水が必要ない事も知っていた簪は否応なく違和感に気づき、急いで打鉄に取り付いて無線機を点けた。

 

『…原s………子炉、じょ…ど……っている?』

 

『…駄目………水…上がりま…………すが原い…』

 

 元々酷いノイズだった上に直ぐ壊れてしまったが、今原子炉に何が起こっているかを知るには簪にとっては十分だった。

 

「…まさか、此の水は原子炉に行く筈の水!?

しかも炉心融解を起こしかけているの!?」

 

 伊浜原発の現状を理解した簪は水を噴き出している配管の先を辿って、バルブを見付けた。

 

「有った!! 此れを閉じれば……っ!?」

 

 簪は直ぐ閉じようとしたが、肝心のバルブが硬過ぎて全く動かなかった。

 

「…嘘!! 錆びてる!」

 

 しかもバルブが配管との接触部分と半ば接着する形で錆び付いていた。

 勿論、普通に点検整備が行われていればこんな事など起こる訳がなく、しかも見た処何年も整備がされていない処か触られてもいない様でどうやら伊浜原発は起こるして起こった様だった。

 だがそのツケが今になって最悪の形で現れていたが、炉心融解を起こさせないに簪は必死に回そうとしていたが、バルブはびくともしなかった。

 

「……やっはり駄目…」

 

 此の為、簪はバルブから離れて座り込んでしまい、生徒会長にして自分自身の手でISを作り上げた万能で有能な姉・楯無と自分を比べて自己嫌悪していた。

 だがその直後に天井から何か物音が聞こえたと思ったら、その楯無がISを解除しながら背後に舞い降りた。

 

「……簪ちゃん…」

 

「…っ! お姉ちゃん!?」

 

 楯無の登場に簪は驚き、楯無も簪の存在に驚いていた。

 ゴジラとガイラの咆哮と地鳴りに何かの倒壊音が響く中、二人揃って暫く硬直していたが…

 

「…良かった……無事でいてくれて本当に良かった!」

 

「ちょっ、お姉ちゃん!?」

 

…妹が無事でいてくれた事から楯無は簪に抱き付き、当の簪が戸惑う位に泣きながら喜んだ。

 だがその楯無もゴジラの特大の咆哮が聞こえると我に帰り、直ぐバルブに取り付いた。

 

「…っ! 硬!!!」

 

「駄目なのお姉ちゃん、それ錆びている」

 

 バルブの現状に加えて簪からの警告に楯無もギョッとしたが、直ぐ頭を切り替えてISの両腕を部分展開して再びバルブに取り付いた。

 

「~~…っ!? 不味い!!」

 

 だが錆で完全に接着している上、力が強過ぎてバルブから嫌な金属音が響いてバルブその物が折れる危険性を感じて解除しながら離れた。

 

「もう!! 此所の人達は一体今まで何をしていたのよ!」

 

 楯無も此れが人災である事を察して、パイプを蹴飛ばしていた。

 ならばと楯無はISの右腕を部分展開しようとしたが、エネルギー切れ直前であった事に今になって気づいてギョッとしたが、楯無はアクアナノマシンを使用してバルブの錆を何とか落とした。

 だが中途半端な処でISが消えてしまい、直ぐ辺りを見渡して近くに落ちていた手頃な鉄パイプを見つけると、それを回収して梃子の原理でまだ固いバルブを回そうとした。

 

「…ぁぁああーー!!!」

 

「……お姉ちゃん…」

 

 ISの状態に気づいていなかった事から既にそうだったが、“完璧”と“無敵”を合わせた“鉄の少女”と言えた楯無が、今汗だくになって焦りを見せながら雄叫びを上げている姿に簪は戸惑っていた。

 だがそんな楯無を小馬鹿にしているかの様にゴジラの咆哮が聞こえ、更に鉄パイプが折れ曲がってしまった。

 

「…お姉ちゃん、もう無理だよ!

もうなにをやっても無駄だよ!」

 

 何時ゴジラかガイラに破壊されてもおかしくない現状もあって、簪が諦め状態になっていたが、楯無はより頑丈な鉄骨を見つけて再びバルブを回そうとしていた。

 

「……簪ちゃんは早く逃げなさい。

私は此れをしてから行くから」

 

「お姉ちゃん!!」

 

「…例え炉心融解が防げても怪獣達に破壊されてしまうかもしれないなんて私も分かってるから。

だからと言って危険性を少しでも無くさない行為を破棄する理由にはならないわ」

 

「それが生徒会長としての役目だから?」

 

「…それよりも更識楯無……いえ、刀奈(楯無の本名)として貴女達みんなを守りたいのよ!

だから私は生徒会長の職務を棄てて此所に来たのよ!」

 

 悪戦苦闘している姿から既にそうだったが、直には言っていないが自分を守ろうとしているの姿に簪は驚いていたが、今見せている姉の本当の姿から何かを感じていた。

 

「……っ! 不味いわね…」

 

 天井の穴からゴジラの尻尾に続いてガイラの右足が見えた楯無は既に危険域に入った状況を察してもっと力を込めたが、そんな彼女の思いに反してバルブは余り反応していなかった。

 だからこそ焦って意識を集中し過ぎている楯無の目の前でバルブに鉄骨が挿し込まれる光景など驚き以外何ものでもなかった。

 

「…簪ちゃん!?」

 

「勘違いしないで。

貴女の思うがままにしたくないのよ」

 

 らしくない行為を始めた簪に楯無はフッと笑った。

 

「「……せー…の!!」」

 

 仲違いをしていたとは言え、姉妹ならでは息の合った動きで何度もやっていると遂にバルブが回り始めた。

 一度回り始めたら、相変わらず硬かったが、後は一気にいけた。

 

「……お姉ちゃん…」

 

「…やったわ」

 

 バルブを閉める事に成功して息を乱しながらバルブを暫く見詰めていた楯無と簪はお互いの目線を合わせると微笑みあった。

 そして簪が楯無に近付こうとした直前、楯無が簪を突き飛ばした。

 

「お姉ちゃ……っ!?」

 

 楯無の行為に驚いた簪が姉の悲しそうな笑顔を見た直後、ゴジラの頭部が悲鳴を上げながら天井を突き破って倒れ落ち……瓦礫の一つが楯無の背中に直撃し、そのまま崩れ落ちた楯無が次々に落ちてきた瓦礫に埋もれてしまった。

 

「…お…お姉……っ!」

 

 目の前で起こった出来事を受け入れずに楯無に近付こうとした簪だったが、楯無の背後上部のゴジラが唸り声を上げながら開いた左目を見て硬直してしまい……ゴジラが咆哮すると同時に簪も悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― 某病院 ―――

 

 

 伊浜原発の出来事が終わって数刻が過ぎた後、自衛官とIS学園の生徒達が担ぎこまれて悲鳴と怒号が響く国立病院にて奇跡的にほぼ無傷で脱出出来た簪は姉が入った処置室の前のベンチで一人臥せっていた。

 

「…っ! お姉ちゃん!!!」

 

 そして処置中を示す明かりが消えて暫くした後、看護師達に押されるストレッチャーの上で寝ている姉を見送り、続けて出てきた医師に駆け寄った。

 

「先生! お姉ちゃんは、お姉ちゃんは大丈夫なのですか!?」

 

「……頭部に異常は見られませんでした。

ですけど刀奈さんは…」

 

「…刀奈?」

 

 医師の表情に加えて姉が“楯無”ではなく“刀奈”と呼ばれた事に何か嫌な予感を察した簪は自分を呼び止める医師を無視して姉の所に走った。

 

(…お姉ちゃんが……お姉ちゃんが………あのお姉ちゃんの身に何かが起こる訳じゃない!)

 

 自己暗示に近い形で自分に言い聞かせる簪は姉が運ばれた病室に駆け込んだ。

 

「……お姉ちゃん!!!」

 

「…病院では静かに」

 

 そんな簪を刀奈はいつもの様に注意した。

 

「何とも無いんだね?」

 

「……残念だけどそれは少し違うの」

 

「……え?」

 

 此の為、安堵した簪だったが、刀奈はそれを否定した。

 

「…ちょっと打ち所が悪くてね……背骨を骨折しちゃったの。

しかも悪く折れた所為で脊髄が傷ついちゃったの……だからね…」

 

「お姉ちゃん!! 何が言いたいの!!?」

 

 簪が思わず叫んだ後、少し間を置いて刀奈は口を開いた。

 

「……私ね……下半身が麻痺しちゃったの…………に、二度と歩けなくなっちゃったのよ…」

 

 冷酷な現実に簪は愕然としていたが、刀奈も見るからにそれを否定したがっていた。

 

「……御免、少し一人にさせて…」

 

 どうする事も出来ない簪が静かに退室して閉めた扉に凭れて少しした後、病室から刀奈が泣き叫びながら暴れている音が響き続けていた。

 余りに遅過ぎた姉の敗北感を初めて感じた簪も声にならない悲鳴を上げた…

 

 

 

 

 後日、IS学園二年生にして生徒会長である更識刀奈に対し“専用機の返還”、“IS学園からの自主退学”、“楯無の名と更識家当主の剥奪”の三点が通達され当人もそれを受理。

 尚、最後の項目は刀奈の指名で後継者を更識簪とせり…




 感想・御意見お待ちしています。

……勢いでやっちまった…


「…此れは幾らなんでも駄目だろ!!!」

 大丈夫だって!!!
 此の後、刀奈は政界に進出して“日本のフランクリン・ルーズベルト”になりますから!!………多分…


「…そう言えばお前、二次創作のは良いが、原作の楯無はなんか気に食わないって言っていなかったか?」

…ち、因みに今回の原発の出来事は福島原発で本当に起こったのを元にしています。
 それでは此の後、楯無を襲名するだろう簪の名前表記{例:簪のままとか、楯無(簪)とか}をどうすれば良いのかのも御願いします。
 では此れにてドロン!


「……さて刀根の為に大原部長は何人来るかな?」

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