――― 日本近海 ―――
でモゲラの割り当てはと言うと、グリフォン号には一夏と桜に花怜、ワイバーン号には鈴音と六花(+α)、そしてガルーダ号には箒と神那(+α)となり、美希以下の面々がISを纏って追い掛けている状態であった。
因みに花怜と神那がモゲラに今回特別に乗り込んでいるのは、一夏達3人のメインパイラー達やモゲラ自身の為への一種の保険としてであった。
「花怜、3人の様子はどうだ?」
「…大丈夫。
鈴音と箒が興奮しているみたいだけど、まだ許容範囲内」
「……あの馬鹿共」
鈴音と箒の状態に桜が毒を吐いていたが、その二人の原因である一夏はと言うと、何処か他人事みたいに苦笑していて、背後の桜に睨まれていた。
『大神司令、前方に遊軍艦を確認しました』
「此方でも捉えている。
『
レーダー機器を弄りながら確認した桜に美希が「そうです」と返した。
で、少しして東進している戦後日本初の正規空母『しもつけ』と、その護衛をしている改まや級イージス艦『あづま』と改あさひ級護衛艦『かげろう』が直接目で確認出来る所まで来た、その『あいづ』からモゲラ完成を祝う簡単な発光信号が放たれた。
『お~い、桜、確認は出来たぞ!
此れで何時でも合体がやれるからな』
「ちゃんと出来るのか?」
『そこまでは責任持てん。
やるしかないぞ』
「そりゃそうだな」
神那からGoサインが出て、桜が確認を取りたがっていたが、その神那がなんか無責任っぽい返事をした。
普通なら神那に“不注意”とか何とかで注意されるかもしれないが、桜も困難さを理解していたので当たり障りの無い返事をした。
まぁ、その為に『しもつけ』『あづま』『かげろう』の3隻が此の海域にいて、『あづま』には艦載ヘリを下ろして緊急用の深海作業艇さつまが今回だけ搭載されていた。
だが、『しもつけ』は兎も角として、今回の『あづま』の役割は『しもつけ』の護衛だけではなく、モゲラの訓練支援であり、現に『あづま』は面舵を取って『しもつけ』から離れると、乗組員達が艦尾格納庫から標的を後方に投げ飛ばして展開した。
「先ずはグリフォンからだ。
一夏、『光粒子砲』、用意!
外したら……分かってるな」
「は、はい!!」
一番手を命じられるも、最後に脅迫紛いな事を言われて少し萎縮した一夏は直ぐ標的目掛けてグリフォン号を急降下させ、『あづま』もグリフォン号に合わせて左への急旋回を始めた。
で、結果は1射目は2発共外した為に桜に睨まれたが、引き起こしをする直前になんとか放てた5射目は1発は標的に命中はしたが、当たったのが外縁部のやや外側だった為に微妙な空気を残した。
「……続けてガルーダ。
箒、『プラズマキャノン』で撃て」
『あづま』が標的を入れ換えたので、額に右手を当てていた桜は直ぐ箒のガルーダ号に命じて、その箒が「了解!」と返事してガルーダ号が標的目掛けて急降下を開始した。
因みに一夏は此の間に罰が確定したのを察して溜め息を吐いていた。
で、結果はと言うと、4射目は中縁に命中、引き起こしながらの2射目は見事に真ん中を射ぬいた。
「…では最後にワイバーン。
鈴音、『レーザーキャノン』で撃て!」
箒の成績に頷いた桜は、『あづま』の作業が終えるのを確認して鈴音に命じた。
只、今回のみは桜にしてみれば鈴音は未知数な存在なので、敢えて鈴音にプレッシャーを与える様な強い口調で命じたが、当の鈴音は「了解!」と普通に返事した。
で、結果はと言うと、4射目で真ん中を射ぬき、引き起こしをしながらの2射目は、なんと既に撃ち抜かれた真ん中を寸分の狂い無く通した。
此れには『あづま』の乗組員達が身を乗り出して標的を見詰めていた上、箒の歯軋りと鬼神隊の面々から「おお!!」との声が聞こえてきていた。
「…“ロビン・フッド”………いえ、射撃だから“ワンホールショット”ですね」
「ああ、コイツはかなりの掘り出し物かもな」
花怜の興奮しながらの指摘に桜は頷いて、高等射撃をやった鈴音が乗るワイバーン号をモニターでニヤつきながら見詰めた。
『桜~、今の射撃は3機共、機械的には問題無かったぞ。
後、『あづま』からビーム出力も予定出力が出ていたとの報告も入った』
一夏への棘が合った神那の報告に桜は満足そうに頷いた。
「…それでは合体実験を始める!
先ずはグリフォンとワイバーンからだ。
一夏、鈴音、用意はいいか!?」
「はい!!」
『はい!!』
グリフォン号、ワイバーン号、ガルーダ号の順にエラく距離を取って直列に並び、桜の号令に一夏と鈴音がやや揃って答えた。
そしてワイバーン号の機首から誘導用の赤いレーザーポインタがグリフォン号の機尾目掛けて放たれ……グリフォン号が安定したのを見計らった鈴音が、ワイバーン号をグリフォン号目掛けて突進させ、見事に2機は合体してモゲラの上半身を構成した。
「鈴音、お見事」
「桜さん、俺は?」
合体直後に一夏(と鈴音)がドリフトで軽く呻き声を上げたが、合体が上手くいった事が確認されて全員が一斉に安堵の溜め息を吐いた。
更に桜が鈴音を誉めて、一夏が自分にもと求めたが、此方は桜に睨まれるだけだった。
「神那、どうだ?」
『こっからだと、問題は無さそうだぞ』
「…美希、みなみ、そっちはどうだ?」
『問題なさそうです』
『実際に降りて確認しましたが、皺や損傷らしきモノは確認出来ません』
5人の返事……特に機体上部に降りたみなみの報告は安心感を大いに与えた。
此の点で言えばISは非常に便利であった。
「…問題はアッチだな。
六花、神那、どうだ!?」
『少し揺れますが、なんとかなりそうです。
ですけど、プログラムの改善が必要だと思います』
『此方も何時でも行けるぞ』
「箒、頼んだぞ!」
桜に箒が「はい!!」と返事をした後、今度はガルーダ号の機首からワイバーン号の機尾目掛けて誘導用レーザーポインタが放たれた。
少しした後に箒がワイバーン号目掛けて突進したが…
「…っ!?」
「え!? ちょ!!!」
…何かを察した桜が急に機体を持ち上げての宙返りでガルーダ号をやり過ごして、グリフォン号とワイバーン号を分離させた。
此の行為に当人達だけではなく、外の美希達も驚いていた。
『桜さん、何故なんですか!?』
『馬鹿!! 速すぎたんだよ!
あのままだったらワイバーンを
直ぐに箒が抗議してきたが、当の桜が答える前に神那が怒鳴って答えた。
「それと鈴音は速度を落とし過ぎだ!」
更に桜が鈴音に注意し、鈴音が六花と共に謝罪していた。
「…一夏、鈴音、もう1度最初っからやるぞ」
桜の号令で一夏と鈴音が「はい!!」と答え、再びグリフォン号とワイバーン号が合体用意をし……先程よりスムーズに合体した。
で、またガルーダ号が合体用意を始めた。
『箒ちゃ~ん、今度失敗したら罰として奢りだからね』
『…そうね……和菓子屋小町の白玉餡蜜なんかでどう?』
早速、失敗した箒にエリカが弄り、ヒメルダが高級品の白玉餡蜜をダシにしようとしていたが、そんな双子を桜と美希が怒鳴っていた。
だが、失敗を気にしていた箒が、双子の茶化しもあって焦っていて、その為にガルーダ号が無駄に揺れていた。
「落ち着け、箒!
剣道と同じで、失敗を挽回しようと思うから焦るんだ。
失敗を忘れて、落ち着いてやれ」
箒の心情を察した桜が何度も助言して箒を落ち着かせようとした。
『…行きます!!』
そして箒が深呼吸を数回して自分を落ち着かせて、ガルーダ号をワイバーン号の機尾に合体させたのだから、流石箒の保護者である。
「神那、最終チェック!!」
『…うおっしゃぁぁー!!
問題無ぁーし!!』
神那の雄叫びに近い報告に頷くか、拳を1度上げてから強く握る等、夫々のやり方で喜んでいた。
その間に一夏、鈴音、箒の3人はモゲラに移行してのドリフトに戸惑いながら両手を開いて順に少し上げる行為が、モゲラだけでなく3人揃って動いたのを確認したら、今度は身構えて左右1度づつ拳打を出し、それも揃って動いたのを確認した。
「花怜、どうだ?」
『…大丈夫。
3人ともバイタルは正常、神経同調も問題なし!』
最後に桜が花怜に確認を求めて、その花怜が問題なしと報告した事で、モゲラの合体そのモノが完全に成功したのが判明した。
「それじゃ、エリカ、ヒメルダ、準備しろ」
『えぇ~…』
『ホントにするのぉ~…』
「箒、モゲラを直立体勢にしろ」
エリカとヒメルダが嫌がりながら標的の準備をしているのを無視して、桜の指示に箒が「了解!」と返事をして一夏と鈴音が同時に頷いた後、その箒が一夏と鈴音の無意識のサポートを受けながら、俯せで飛行していたモゲラを垂直に起こして空中に停止させた。
「鈴音、エリカの的を『プラズマレーザーキャノン』で射て!」
「はい!!」
『頼むから当てないでよ!』
桜の命令下、性格を表しているだろう変則的(「どう言う意味!?」byエリカ)に飛んでいるエリカが牽引する風船型の的に狙いを定めようとし、その鈴音(達)に合わせてモゲラの頭も動いていたが、少し間を置いた後に『プラズマレーザーキャノン』の光弾が見事1発でエリカの的を射ぬいた。
「一夏、モゲラ腕部を変型、右腕は『プラズマキャノン』を展開、左腕は『スパイラルグレネードミサイル』を装填!
箒、お前は『プラズマキャノン』で『あいづ』の的を射て!
それが終わったら、一夏、お前はヒメルダの的を『スパイラルグレネードミサイル』射て!」
桜が命令し、モゲラの三角錐型のマニピュレータが上下に開き、指示通りに右腕には『プラズマキャノン』が展開して放電しながら充電を開始し、左腕には大型ミサイル『スパイラルグレネードミサイル』が装填されて弾頭が少し出ていた。
此の間に『あいづ』の艦首部分から大型風船の的が、風に僅かに流されながら上昇して……箒(達)が放った『プラズマキャノン』の大型光弾で消滅した。
続いて姉と同様に変則的に飛んでいるヒメルダの的を目掛けて一夏(達)が『スパイラルグレネード』を発射……ロックオンしている的に自動修正しながら飛翔して的を射ぬき、そのまま暫く蛇行しながら飛んだ後に燃料が切れて、今回のみに炸薬の代わりに装填されていたパラシュートが展開してゆっくりと落下し、そんな『スパイラルグレネードミサイル』を回収しに『かげろう』が落下予想地点に向かっていた。
更に『あいづ』が艦尾部分のもう1つの的が上昇を開始した。
「一夏、合図をしたら、アレを切れ」
一夏が「分かった!!」と返事をして、桜が渋い顔をしたのを無視してモゲラの右腕を全開に広げて剣に近いビームクローを展開し……的がモゲラの胸の高さぐらいまで昇ってきた直後、桜が手を叩いたのを聞いた一夏(達)は右腕を振り上げると的目掛けて全速で飛んで、袈裟斬りに的を一刀両断した。
「よし、基本武装は問題なさそうだな」
『だが、次のが厄介だぞ』
確認作業をしながらの神那の指摘に桜が溜め息を吐いた。
「美希、みなみ、此れから『プラズマ・グレネード』を使うぞ」
桜のは美希とみなみへの指示だったが、此れには他の全員が顔を引き釣らせ、そんな中で一夏達は『プラズマグレネード』……元々機龍号用の武装たったが、韓国とアメリカのいざこざでモゲラに転用された為に不安がある代物の発射準備に入った。
更に『あいづ』では前後2基のエレベーターから今回特別に乗せていたメーサータンク2台が競り上がってきて、メーサーをモゲラ目掛けて射った。
『モゲラ、メーサーを攻撃エネルギーに再変換中。
現時点に問題無し』
『砲身展開します。
大丈夫ですよね、神那さん?』
『ああ、いいぞ!』
『此方、みなみ、モゲラ腹部の砲口が開きました。
外見上、問題無さそうです』
『間も無く、薬室内臨界点に達します。
何時でも射てます!』
六花、鈴音、神那、みなみ、最後に箒の報告を聞いた桜は背後を振り向いていた一夏に頷いた。
此の間に『あづま』がエラく遠くに的を浮かべた後、全速力で『あいづ』の所に退避していた。
「一夏、射て!!」
桜の号令下にモゲラが白く点滅した直後に『プラズマ・グレネード』を発射、その図太い光線は的に直撃して、周囲の海面諸共特大の水柱が上がった。
『機体に異常無し!!』
『データ収集完了。
只今の試射の結果、実戦レベルても耐えられると出ました!』
神那と六花の報告で、モゲラの武装全てが問題無く稼働する事が判明して、全員が夫々のやり方で喜んでいた。
「では、このまま訓練を続行する。
一夏、私は黙っているから、主席パイラーのお前が指揮を執れ」
「まだやるんですか!?」
「当たり前だ。
怪獣は何時来るのか分からない以上、さっさと慣れる必要があるだろ」
満足そうに頷いた後の桜の指示に、一夏がギョッとした後に肩を落とした為に全員が笑い、箒がムッとした。
感想・ご意見お待ちしています。
次回は『しもつけ』に行きまぁ~す。