ゴジラvsモゲラ   作:サイレント・レイ

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第12話 大阪の惨劇(前編)

――― 大阪 ―――

 

 

 ゴジラ復活を世界に知らしめた伊浜の一件から半年が過ぎた大阪では伊浜の出来事自体が対岸の火で感じていた事もあってクリスマスイブのお祭り騒ぎであったが、その日の夜にP3-Cが和歌山県潮ヶ岬の沖合いを浮上航行しているゴジラが大阪湾に入ろうとしているとの一報でパニックが起こっていた。

 

「……ふぅ…」

 

 当然ながらただちゴジラ迎撃作戦が展開され、その司令部に一夏と桜から彼を預けられた神宮司新次郎がいた。

 

「…準備はどうだった?」

 

「ああ、取り敢えずはな」

 

 一夏の報告に頷いた新次郎であったが、一夏から見ると新次郎は早くもゲッソリとしていた。

 

「…なぁ新兄、大丈夫だと思う?」

 

「お前、自分の目で見て何とも思わなかったのか?」

 

 一夏を伴って司令部のテントから出た新次郎は水際防衛線が展開されている埠頭の一帯を見詰めたが、問題なのは並んでいるのは61式戦車や10cm自走榴弾砲を筆頭に何れも劣らぬ旧式兵器(ポンコツ)ばかりであったのだ。

 しかもそれ等の兵器をマニュアル片手に動作確認をしていたのは自衛官ではなく警察官達で、驚くべき事に自衛官は下士官の一夏と二佐の新次郎しか居ない現状下では新次郎が頭を抱えているのも仕方がなかった。

 

「伊浜の時だって此処までは酷くなかったのに…」

 

「姉さんの時は違うんだよ…何もかもな…」

 

 何故こんな悲惨な光景なのか、それは伊浜の一件後に成立したIS信者のみの新政権は何を思ったのか自衛隊の解散法案を可決させたのだ。

 勿論、ゴジラ以下の怪獣達に対して彼女達の「玄人が操る最新式ISならば鎧袖一触」「怪獣駆除などISを集中運用する機動隊で十分出来る、だから違憲組織(自衛隊)など要らない」と主張に反対や危惧する者達は多数有ったのだが、酷い事に彼女達はISの後光の下にそんな者達を次々に潰していき…遂に警視庁か警察庁のどちらかを省に昇格させる代わりに自衛隊解散法案が強硬成立する事となったのだ。

 只、此れには自衛隊の権限が以降されるだろう当の警視庁と警察庁が逆に驚き戸惑う程の大混乱が日本中で起こったのだが、日米安保条約さえも解消しようとしていた当の新政権は此の法案を世界に誇り高く発信して各国もそれに続くように主張していた。

 そして今年をもって解散させられる自衛隊から遂に数ヵ月前から海自の海上保安庁へ、IS乗り自衛官達の警察への編入が開始され、そこから溢れた主に陸と空の自衛官達の再雇用問題が国会で審議されていた此の時にゴジラの大阪襲撃が起こったのだった。

 此の法案で失望から大多数が退職した自衛隊はせめて此のゴジラの迎撃作戦で有終の美を飾ろうとしていたのだが、新政権だけでなくその息が架かった府知事と市長は出動命令処か逆に待機命令を監視者までをも派遣して徹底し、警察に出動命令を出したのであった。

 当然、警察は放棄される予定であった旧式兵器を何とかかき集めたが怪獣迎撃など門外漢である事を自覚していたし、何より大阪府警の署長が良く分かっていた為に彼の息子の親友である新次郎が偶々近くを航行していた護衛艦『こんごう』ごと呼び出してアドバイザーとして現場指揮を任したのだった。

 

「……本当にどうすれば良いんだよ…」

 

 だが当の新次郎は貧乏クジを引いた様な気分であったし、先述だけでなく元々クリスマス休暇で只でさえ人員不足であった状態に府民の避難誘導で大半が引き抜かれた事も問題であった。

 だが政府は人員不足に関しては和歌山、兵庫、滋賀、京都、奈良の隣接する五県から増援を送ろうとしていたがそれ等は間に合う訳がなさそうだった。

 

「……新兄…」

 

「…あ~あ、此れで防衛大の首席卒業から始まった僕の出世街道も終わりだな!

最も来年なんて無いけどな」

 

 一夏が何とか励まそうとしたが、その前にぼやきはしたが新次郎は自分でやる気を入れていた。

 

「…神宮司二佐、『こんごう』がゴジラらしきモノをソナーで捉えたとの一報が入りました!

至急司令部にお越しを!」

 

「……行くか」

 

「おう!」

 

 

 一夏の胸を右拳で軽く叩いた新次郎は彼を連れて直ぐに府警の高官達が待っている司令部に舞い戻り…

 

「…何で部外者が此所にいるのですか?」

 

…来て早々にIS隊の隊長と思われる女性に冷たい言葉を言われた。

 当然此れに新次郎と一夏がムッとするだけでなく、他の警察の高官達も「お前達の所為で呼ばざるをえなかったんだよ」と目線で抗議した。

 

「…自分だって部外者だとの自覚はあるよ。

だけど君達の上層部に言われて来たんだから文句があるなら警視総監に言ってくれ」

 

 警視総監の単語です使って黙らせたはしたが、女性隊長は「人殺し軍団め」とわざと聞こえるように言った為に一夏が反応した処を新次郎が彼の左手首を掴んで止めた。

 

「…灯火管制の準備はどうですか?」

 

「署長や警視庁の要請で何とか企業や経済連が納得してくれました。

只、府知事と市長は此の事で我々に猛抗議してきましたよ」

 

 迷惑が掛かった為に新次郎は警察の高官達に頭を下げたが彼等は笑って許してくれた。

 

「間も無く電力会社が近隣を含めて電力を一斉にカットしますので間違って明かりが着く事はありません。

また車両を使わない様呼び掛けていますので心配はありません」

 

「だとしたら府民の避難状況は?」

 

「……かなり遅れてます。

一部は徒歩で避難していますが、殆どは唯一の方法である地下鉄に殺到していまして混乱が生じています。

勿論、地下鉄各社も増量していますけど…」

 

 作戦が何とかなりそうなのだが、避難の遅れに新次郎は思わず顔を抑えた。

 

「……すみません、休暇でなければ此れ位は抑えれたんですが…」

 

 だがそんな新次郎に警察の高官は謝ってくれた。

 

「…では最後に……失礼ですが、警察の皆さんが不手際を起こすと言う事は?」

 

「心配いりません。

全員の煙草とライダース類を一切合切取り上げましたんで」

 

 最後の確認で申し訳なさそうにしていた新次郎に警察の高官は笑って報せてくれた。

 

「…『こんごう』からゴジラをレーダーで捉えたとの報告が入りました!

間も無くゴジラが上陸すると考えられます!」

 

「…では皆さん、お願いします!!」

 

 新次郎の号令に警察の高官達は一斉に敬礼し、それを確認した新次郎は一夏と一緒に星すらない暗黒の外に飛び出した。

 

「…何でこんな面倒な事をしないといけないんですか?」

 

 だがそんな新次郎にIS隊員の何人かが抗議してきた。

 

「どう言う事です?」

 

「だってこんな事をしなくても、あんなウドなんか私達が倒してみせますよ」

 

「君達は伊浜の事を知って言っているのか?」

 

 新次郎と一夏が思わず目線を合わせたが、当の隊員達は鼻で笑っていた。

 

「アレは素人(おこぼ)達だったから駄目だったんですよ。

より完璧にISを使いこなす私達なら負ける筈がありませんわ」

 

「そ…」

 

「よせ!!」

 

 “それじゃ俺のクラスメイト達が死んだんはナンだったんだ!”と言おうとした一夏を新次郎は止めた。

 

「買って貰った玩具を子供が友達に見せびらかす様なやり方ではなく、現実的かつ安上がりな作戦を僕はやりたいだけだよ」

 

 此れに隊員達がムッとした。

 

「それに孫子曰く“百戦百勝は善の善なる者に非なり、戦わずして人の兵を屈するは善の善なり”ってあるしね」

 

 百戦百勝は善の善なる者に非なり…商売で例えれば値引き合戦で勝っても利益が得なければ意味がないと本来は説いた事だが、新次郎は自分で言っていて百戦百勝したら普通の人間は慢心してしまうし、何より神と同類の無敵の存在だと錯覚して戦いを自分から求めて軈て手痛い敗戦をして崩壊するだろう、現にナポレオン帝国や大日本帝国等を例にその様な事が古今東西で多発していた。

 だから向かう所敵無し状態のISが暴走している人間達を戒める為にゴジラ以下の怪獣達が現れ始めているのではとの悪しき思考が出て、それを自分自身で否定していた。

 

「……腰抜け」

 

 だが残念ながら新次郎の言葉は彼女達には伝わらず、逆に新次郎が屁理屈な臆病者だと思っていた様だった。

 

「…っ! ゴジラだ!!!」

 

「ゴジラが現れたぞ!!」

 

「悪いが此所の現場司令官は僕だ。

だから従って貰うよ」

 

 ゴジラが現れた事もあって新次郎は職務に戻ろうとしていたが、一夏共々彼女は従わないと判断していた。

 

「……姉さんなら、上手く従わせられたんだろうな…」

 

 弱気になった新次郎は思わず桜を求めようとしたが、残念だが彼女は伊浜の一件後に形だけの一佐昇進を果たすととあるIS部隊の教官として聞いた事も無い北海道のド田舎基地へ左遷…と言うより島流しを受けていた。

 だがそうこう思っている間に浮上したゴジラが埠頭に上陸しようとしていた。

 

「…一夏」

 

「分かってるって!」

 

 新次郎に言われる迄もなく一夏は白式を展開した。

 

「あら、そのガラクタは千冬様の面汚しの愚弟でも動かせれるんですね?」

 

 だがその一夏に隊員達が馬鹿にした為、一夏が何かをしようとしたのを新次郎が左手を掴んで止めた。

 

「頼む、今回僕達は攻撃したら負けるんだ!」

 

 配備された兵器は古く、人員は少ない上に不忠者が多々いる現状を新次郎が誰よりも悩み悔やんでいるのを察した一夏は自分達を馬鹿する様に笑っている隊員達を一瞬睨んだ。

 

「…新兄、心配無いさ!

何せ雪片が新調出来てないから白式は非武装だからな!」

 

「……強いな、一夏…流石は千冬さんの弟だよ…」

 

 自分に無理して微笑む新次郎の顔が一夏にはとても辛かった。

 

「何を言われようと俺は新兄の作戦を信じてるからな。

じゃあ行ってくる!!」

 

 多数の発煙筒を携えた一夏は埠頭に登ったゴジラの顔の脇を顔面蒼白になりながら過ぎて後方に回ると、発煙筒の一つを点けるとゴジラに見せつける様にかざした。

 ゴジラもそれに唸り声を上げながら反応して近くの灯台を尻尾で薙ぎ払いながら振り向いたのを確認すると発煙筒を沖合い目掛けて投げた。

 更に沖合いの『こんごう』が探照灯を点滅させ、一夏が新しい発煙筒を点けるとゴジラは彼を目指して歩き出し、一夏(と『こんごう』)も発煙筒を交換しながらゴジラが見失い様にゆっくり沖合いへ後退を始めた。

 因みに今回の事で後々国会で問題にならない様に『こんごう』は新次郎の説得の下に武器弾薬処か白兵戦用の銃火器を全て大阪に陸揚げしていて体当たり(ラム戦)以外の攻撃手段が失われていた。

 

「…流石、新兄だ。

作戦通りに誘導出来てるぞ」

 

 伊浜でのトラウマだけでなく『放射熱線』を撃つかもとの恐怖とも戦って既に汗だくの一夏の言う通り、桜や山根博士の話通りに光に過敏の神経を持っているゴジラの性質を利用した誘導作戦は上手く進んでいて、時折立ち止まりはしたが早くも腰が浸かる程に進んでいるゴジラに新次郎や警察達は歓声を上げていた。

 

「……何か詰まんない…」

 

 だがその事はIS隊の面々は面白くなさそうにしていた。

 

「…ねぇ、アイツをチョット驚かしてみない?」

 

「……何をするの?」

 

 そして悪魔の行動を起こそうとしていたが、不味い事にゴジラを凝視している新次郎達は全くキヅイテいなかった。

 

「……良いぞ…良いぞ!

そのまま沖に行っちまえ!」

 

 そして暫くすると顔だけ突き出した状態で何時潜ってもおかしくない所迄ゴジラは来ていた。

 

「『そうりゅう』と『うんりゅう』に準備するように通信!」

 

 後は沖で待機している潜水艦二隻が一夏と『こんごう』から引き継いで限界まで太平洋沖に誘導すれば終わりであり、誰もが大阪が救われるだろうと確信して喜び合い…何人かが新次郎に「ありがとう!」と礼を言いながらじゃれていた。

 此のまま行けば一発も発砲する事なく怪獣王ゴジラを追い払ったとの語り継がれるべき伝説となる……筈だった…

 

「…っ!?」

 

…だがそれは前触れも無く新次郎達の背後でガソリンタンクの一つが爆発すると同時に幻と化した。

 

「……何で…何で爆発が起こったの?」

 

 此の爆発に新次郎達だけでなく一夏までが茫然と見つめていた。

 

「…あらあら、こんな所で爆弾テロがあるなんてね?」

 

 只一人女性隊長が笑っていた事から新次郎が全てを悟って愕然とし、更に悪い事に折角潜ったゴジラが此れに気付いて直ぐ浮上して振り向くと一夏と『こんごう』を無視して再び大阪へと向かった。

 

 斯くして伝説的偉業は起こらずに運命レベルで起こるべきして起こったIS至上主義の膿と呼ばれる惨劇が起ころうとしていた…




 感想・御意見御待ちしています。

一夏
「…此れって“ゴジラの逆襲”?」

 はい、一部から渋いと言われましたが一作目を覗いた昭和作品で一番好きな作品ですので。
 対戦時に昭和シリーズではよくある人間臭いゴジラの動きがあまり感じられないので、大抵の怪獣対戦シーンは此の作品を見て考えています。

一夏
「でも確かあの作品では此の後にアンギラスも現れるだったよな?
アンギラスは横浜で戦ったとしているんだからどうするんだよ?」

 当然、そこは別の怪獣を投入します。
 但しそこそこ強い怪獣がいなかったので他作の怪獣を投入予定です。

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