ゴジラvsモゲラ   作:サイレント・レイ

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第10話 箒の帰還(前編)

――― 横浜 ―――

 

 

 かつて江戸時代末期に日米和親条約締結の地となって以降、神奈川県最大にして世界に名だたる国際的都市とまでに発展し続けた横浜であったが、とある自衛隊のヘリの窓から見て取れる横浜の街並みは終戦後からの数年間にタイムスリップしたかと錯覚してしまいそうな程に大半が荒野と化していた。

 更に横浜の至る所に奇妙な大きな溝とその溝に水が溜まって出来た池が多数存在し、湾内では多数の艦船が沈没していてそれ等をクレーン船が複数がかりで引き上げていた。

 

「……まさか此処までとは…」

 

 そんな横浜の街並みを……特に支柱間の橋桁がごっそり崩落して無残な姿の横浜ベイブリッジを、ロンドンに移転したIS学園を半年前にめでたく卒業して純白の学生服から濃緑の自衛隊の制服を纏った箒は見つめていた。

 

「思っていたより酷い?」

 

「はい」

 

「そりゃそうよ。

だって此所でゴジラがバラン、バラゴン、アンギラスの三体と戦ったんだからね」

 

 その箒に妙に千冬と似た声をする黒木エレンが苦笑しながら答えていたが、実際ゴジラがバランに吹き飛ばされた時に出来た都市中央から港湾に伸びている溝……と言うよりそこに海水が入り込んでいて文字通り地形が変わる程の跡が残されていた。

 それに実際箒が映像で見たものでもバラゴンの地中移動で出来た地下空洞に落下するゴジラ、ゴジラの『放射熱線』を体を丸めて跳び跳ねて避けまくるアンギラス、バラゴンの『マグマ熱線』とアンギラス体当たり(暴龍怪球烈弾(アンギラスボール))の協力下にゴジラの右腕に噛みつくとそのまま押し倒すバラン等々…怪獣達の争いをそこそこ知っていれば此の街に起こった出来事を納得出来た。

 

「…確かアレはバランが『放射熱線』で焼死したバラゴンと喉笛を喰い千切られたアンギラスを取り込んで放ったもので出来たんですよね?

バランは此処までの事をしでかしたにも関わらずゴジラに負けたのですか?」

 

「ええ、当時此の現場にいた自衛官達も浮上したゴジラが派手に出血していたから負けるかもと思ったらしいんだけどね。

だけどバランはゴジラの『放射熱線』で横浜ベイブリッジに叩き付けられて爆死しちゃったのよ」

 

 三年前の伊浜での出来事の当事者である箒も半年前に怪獣達の諸行に驚くだけでなく、それでもハットトリックを成し遂げたゴジラの強大さを改めて思い知らされていた。

 その為か箒には死に場所である事を示すバランを構成していた黒い何かが未だに残っている横浜ベイブリッジの支柱目掛けて海上から勝利の雄叫びを上げるゴジラの幻が見えていた。

 

「…でもね、私達はそんな怪獣達に勝つか負けるかの仕事をしないといけないのよ」

 

「……伯父の受け入れですね?」

 

 妙に図太さを感じさせるエレンの伯父…此の横浜のも含めた数多の対怪獣作戦の指揮を取り、現在は統合幕僚長として自衛隊全“軍(?)”の指揮する黒木翔陸将の言葉通りに今の箒達IS乗り達や自衛隊はゴジラ復活以降芋づる式に世界規模で大量出現した怪獣達との戦いが主体と化していていた。

 だが今でこそ怪獣対IS(➕α)と言う構図が出来上がっていたが、伊浜後暫くは変化は無かった……否、変化をさせない様にしていたと言うべきであった。

 勿論、伊浜の出来事はIS反対勢力の格好の的……特にISの戦艦『ドレッドノート』(竣工と同時に自国のも含めた世界中の戦艦を旧式化させた“()級”の単語の始まり、某バスケ漫画で有名な“ど阿呆”は最もな使用例?)である当時最新最強の束お手製の紅椿を持ってしても怪獣の駆逐処か原発を守れなかった事を指摘していたが、IS信者たる運用者や関連企業達は「アレは一年生だから駄目だった」や「箒は紅椿を使いこなせず宝の持ち腐れにした」等と主張して物の見事に消し去ってしまった。

 だが此の副作用でその一年生達のみを投入したIS学園と日本政府に非難が集中、大勢死亡した自衛官(信者達が丸め込もうと擁護した事もあって彼等は英雄視された)や生徒達の親族への賠償だけでなく日本政府はアメリカから『ジョージ・ワシントン』の理解不能な賠償要請に加えて半世紀前のゴジラの出来事をアメリカの協力下に意図的に風化させた事を、IS学園は楯無改め刀奈を初めとした日常生活すら困難になった生徒達(伊浜の一件後にも心体いずれかに異常を起こして最終的に半数近くが退学)への補償問題に悩まされる事となった。

 最も日本政府が潔く内閣総辞職と此れに伴った政権交代が行われたのに反してIS学園は現場に全てを押し付けて一学年の担任達を懲戒免職処分(此れとマスコミが変に煽った事からの世界中からの罵詈雑言もあって麻耶の伊浜の海への投身自殺事件発生)との人柱にし、学年主任の千冬のみは世界的人気から表向きはお咎め無しだが実際は“生かさず殺さず”状態となり人が変わった様に酒漬けの生活三昧を送り続けて箒達が卒業する数ヶ月前に姿を眩ましてしまった。

 更に汚い事に表舞台に立ったモナークからの日本を中心にゴジラ以外の怪獣達が出現するとの発表に恐れをなしたIS学園は逃げる様にさっさとロンドンへの移転を短期間で決めたのだ。

 当然ながら此のIS学園の行為に世界中から非難が飛んだが、後の出来事を考えれば正解であった。

 だがIS関連の人間側の事情など知る訳が無い怪獣達の大量出現には全く変化が有る訳が無く、此の事で日本政府は直ちにISの本格導入等の自衛隊の戦力強化を当然案を国会に提出した。

 

「……日本人ってどうして頑固なのか…」

 

「どうしたの?」

 

 災害多発国とは言え、此の横浜の溝に土砂を落とすと瓦礫を積んで何所かに向かうダンプカー群や建物の再建を必至に行う重機群を操って街並みや日常を取り戻そうとしている人々から見て取れる通りに怪獣達の襲撃から立ち上がろうとする日本人の不屈の反面、世界的に見ても保守的な思想を持ち合わせている日本人への箒のぼやきにエレンが反応した。

 

「…あ、いえ!

伊浜以降の動脈硬化を思い出していて…」

 

「ああ、あの時のね。

あの時は確かに殆どの人達が変な幻想に信じていたからね」

 

 実に先の自衛隊戦力強化案は軍隊の所有を禁じた憲法九条問題とISの軍事転用を禁止したアラスカ条約に違反するのではと一度否決されていたからだ。

 更にゴジラを免罪符に“軍国主義とアジア支配欲の復活”と主張する韓国と中国(案の定、中韓で反日運動と日系企業の襲撃が政府黙認の下に多発)だけでなく、ISの実戦データを得ようとする日本の抜け駆け行為を危惧した欧米各国も連動した事もあった。

 勿論、自衛隊は此れ等に対して「対怪獣作戦は軍事行動ではない(“ガメラ2”に見られる様によく勘違いされるが対怪獣作戦はあくまでも害獣駆除の一つ、つまりゴジラと言えど書類上は人喰い熊と同等の扱い)」と主張し続けたが、妙なポジティブ感を持った女性議員達(誤解が無いように言うが女性議員の中にもちゃんと現実を理解する者達もいた事はいた)の影響力…よりにもよって男卑女尊の膿と言うべき女性至上主義者ばかりの新政権が自衛隊解体を目論む女性議員を防衛大臣にすると言う完全な人選ミスがあった以上は無理な話であった。

 そして何より嘗てと同様にゴジラはもう現れない、例え現れたとしても今度は駆逐出来るとの根拠の無い期待感が日本処か世界中に蔓延って未だに甘い幻想の中にいた事から来ていたのだが、それ等は伊浜の一件から半年も経たないクリスマスの大阪でゴジラが起こした惨劇で都市諸共木端微塵と化すのだが…

 

「……き、箒!」

 

「え!?」

 

「どうしたの?

もうすぐなんだけど…」

 

「あ、そうでしたか」

 

「大丈夫? 疲れてるんじゃない?」

 

 エレンに指摘されて箒が目頭を押さえて頭を左右に振っていたが、そうしている間に目的地が視界に入ろうとしていた。

 

「……此所も久し振りだな…」

 

 最もそこは旧IS学園であった為に箒にしてみれば二年振りの場所であった。

 だが基本的な学園時代の建物の配置は余り変わってはいないが、その建物や通路が余計な物を廃除及び簡易化されて質実剛健を具現化していたし、何より新たに大型飛行場を備えた人工島が増設されていた。

 そしてその飛行場では二年前に経営危機に陥りかけていたデュノア社起死回生の新型ISマルモンを纏った女性自衛官達が訓練をしているし、学園時代より規模が拡大された近隣の埠頭に護衛艦と補給艦が接舷している事から現在此所は自衛隊の基地として機能していると判断出来た上…

 

「…ん?」

 

「……ああ、ガルーダが訓練飛行から帰ってきたんだ。

ワイバーンも試験飛行を終えたみたいね」

 

…爆音に気づいた箒に釣られてエレンも箒の視線の先を確認すると……ほぼ直方体の機体に翼と機首をくっ付けた何処か古い特撮作品に出てきそうな玩具みたいな外見のガルーダ、そのガルーダのほぼ半分くらいの大きさの機体に大型半円翼を備えたワイバーンが飛行船と見間違えそうなロケット型の補助戦闘機インヴィンシブルを従えて空の彼方から飛んできた。

 B-52爆撃機に匹敵する巨体故に鈍重そうに見えるガルーダとワイバーンは力強さを……例え相手が怪獣であったとしても決して引けを取らない力強さを感じさせる自衛隊が威信を賭けて製造した対怪獣戦の切り札である大型戦闘機であった。

 

「…確かガルーダとワイバーンには後もう一機有りましたよね?」

 

「ええ、最後のはグリフォンって言うのだけど、それはまだ製作中なの」

 

 人工島の飛行場に降りたインヴィンシブルとは別に製作中のグリフォンがあると思われる地下を掘り下げる等の大改装を受けたアリーナ近くの飛行場にほぼ垂直で着陸したガルーダとワイバーンから搭乗員達が降りるとそのまま二機はクレーン群で順番に吊り上れてそのままアリーナの直上から内部に収納されていった。

 

「…いよいよ三機の最終試験が行われるみたいですね」

 

「ええ」

 

 まだ詳細は分からないが収納されたガルーダとワイバーンがグリフォンと何かを行う様であった。

 そしてエレンと箒が乗るヘリもガルーダとワイバーンが降りた飛行場に降りた。

 

「…さて、降りますか」

 

 姿こそ変わっていたが、久し振りの地には変わりない場所にヘリから降りた軍帽を無理矢理くくり着けた鞄を下ろした箒は声を上げながら背伸びをした。

 

「…帰ってきたな」

 

「ええ、そして此所が此れからの仕事場よ」

 

 箒に続いて降りたエレンが箒が頷くのを確認すると、伯父黒木陸将の血統に軍人らしい……美しい自衛官歌手と呼ばれるだけでなく世界的にも屈しの戦略家とも呼ばれるに相応しい気を引き締めた表情に変わり箒も姿勢を正した。

 

「…篠ノ乃箒、副司令官として貴女を歓迎いたします」

 

「…は!!!」

 

 エレンに箒は軍靴を鳴らしながら敬礼した。

 

「……篠ノ乃箒…ようこそ鬼ヶ島へ!!」

 

 鬼ヶ島…基地司令官の渾名から因んで改名したIS学園に…対怪獣戦線の最前線たる此の地の住人に改めて箒がなった瞬間であった。




 感想・御意見お待ちしています。

 昨日“インディペンデンス・デイ”の映画を見に行ったけど、その本編前の作品予告で映画館限定の“シン・ゴジラ”の予告を見れましたけど、アレは実に良かった!!!
 そしてそれによるとどうも“xメガギラス”や“ファイナルウォーズ”みたいに一作目が完全にリセットされている様でした。

 それはそうと置いといて、やっと来ました、真の本編!!

 因みに分かる人は分かってくれる筈ですが、横浜でゴジラが戦った三大怪獣ですが、どうも本来のリーダー格はアンギラスみたいですけど、本作でのリーダー格はバランにしています。
 一様アイツは神様でしたからね。


「因みに私は三尉の士官となっていて、IS学園を中退した一夏は下士官(階級はまだ決めてない)となっています。
鈴音は現時点では客人将校だけど私と同じ階級にする予定です……が、自衛隊に客人将校の制度ってあるのか?」

一夏
「ええ!!!
俺だけ下士官!!?」


「…最後に色々出たけど、特にガルーダ、ワイバーン、グリフォンがなんか強調されていたけど、アレ等ってやっぱりアレのか?」

 はい、まぁガルーダは微妙に嘘はついていませんけど、三つの名前の元ネタは分かる人いるのかな?
 それとインヴィンシブルは保険に近い存在で、もしかしたらあんまり出ない可能性大ですけど、元ネタは“プロジェクトブルー 地球SOS”と言うアニメを知っていれば正体は大体分かる筈です。

 さてさて次回アイツが一様の完成としますが、暫く二年間に何が有ったのかを回想していき、先ずは大阪で何が有ったかを書いていきます。


「まぁ、ゴジラで大阪で起こった出来事と言えば事実上三つしか該当しないけどね。
もう一つあるが、アレは通り過ぎただけだから数には入らないと思うがな」

 因みに本作での対G部隊の名称は出来れば漢字表記でいきたいんですけど、まだ決まってません。
 設定では陸海空三軍から選ばれた精鋭部隊(近いと言えばガンダムのロンド・ベル?)としていますが、要望とかなければ機龍二部のでいきます。

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