ゴジラvsモゲラ   作:サイレント・レイ

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第9話 幻想の終わり…

――― 伊浜原発 ―――

 

 

 ガイラの壮絶な最後を目撃して誰もが時間を止まったかの様に硬直していたが、勝利の雄叫びを上げたゴジラが自分達に振り向いて唸り声を上げるのを見て、現実に否応なく戻された。

 

「……ゴジラめ、勝利の美酒を欲しがっているな…」

 

「贅沢な奴だな。 さっさと海に帰れば良いのにな」

 

 ゴジラの目的が原子炉である事から桜と千冬が毒づいていたが、そのゴジラが歩き出したのを見て直ぐ攻撃の準備を次々命じていた。

 

「山根博士、ゴジラが苦手な物や核物質以外で興味を引く物が分かりませんか?」

 

「光です。 ゴジラは水爆実験の影響で光に強烈な憎悪を感じるのです」

 

 山根の答えを聞いた桜は少し思案し、色々指示を出しながら無線機を取った。

 

「…一夏、此方に来い!!!」

 

「…っ!? 桜!!!」

 

 最後のに千冬が反応しているのを桜は無視して攻撃命令以外の指示を次々出していたが、その矢先にゴジラにミサイルが多数直撃した。

 

「誰だ!? 私はまだ攻撃命令を出してないぞ!!」

 

「我々ではありません!

アメリカ艦隊によるものです!」

 

 当然ながら桜が怒鳴っていたが、攻撃の主がアメリカ艦隊である事を知らされてギョッとした。

 

「まだ早い! 直ぐ止めさせろ!!」

 

 此の攻撃に桜が直ぐに止めようとしていたが、更に不味い事に自衛官や生徒達も続いてゴジラへの攻撃を始めていた。

 

「撃て撃て!!!」

 

「撃ちまくれ!!!」

 

「撃てば当たる!!!」

 

 厄介な事にゴジラがガイラと比べて鈍重な動きをしている事から巨体が煙に覆われてしまう程に次々に被弾している為に妙な期待が出てきていた。

 此の事から一部を除いた者達が、このままいけばガイラ同様にゴジラも倒せると思い込んでいた。

 

「……アレ?」

 

「どうしましたシャルロットさん?」

 

 その事にシャルロットが最初に気づいてギョッとした事に、セシリアが首を傾げた。

 だがシャルロットを手始めに次々と唸り声を上げながらゆっくり前進しているゴジラに何かを感じる者達が現れ始めた。

 そしてセシリアも何かを察してスターライトMkⅢのスコープを除いて確認してみると…

 

「……全然効いていない!」

 

…レーザー、ミサイル、銃弾、砲弾の悉くがゴジラの表皮に弾かれていて、傷処か痣すら出来ておらず、何よりゴジラは防ごうとも回避しようとせず、ゆっくり堂々と歩んでいて王者の風格だけでなく、なんとも言えない恐怖を醸し出していた。

 だが鬱陶しい事には変わりないのか、歩みを止めて…

 

「…っ! 『放射熱線』を撃つ気だ!!!」

 

「…不味い! アメリカ艦隊を狙っています!!!」

 

…背鰭を青白く輝かせて『放射熱線』の充填を始めた事に誰もが驚き慌てていたが、セシリアはゴジラの視線から標的が自分達ではなく、ミサイル攻撃を続けるアメリカ艦隊の旗艦として、輪形陣を構成する艦隊の中央にいるミニッツ級原子力空母『ジョージ・ワシントン』だと気づいた。

 だがセシリアが何かをしようとする前に、ゴジラは『放射熱線』を放ち……回避行動を起こせなかった『ジョージ・ワシントン』は艦首真っ正面から被弾し、飛行甲板を抉られながら見事に艦尾まで貫かれてしまった!

 

「『ジョージ・ワシントン』が…」

 

「でも何も起きないみたいだから案外無事なんじゃない?」

 

 『ジョージ・ワシントン』が見た目に反して何も起きてない事から鈴音みたいに“無事なのか?”と一瞬思われたが、赤く光っている被弾箇所から不快な金属音を立てて左右に割れて海面下に沈むと盛大な水柱を上げて爆発した。

 此の『ジョージ・ワシントン』の轟沈した光景にタイコンデロガ級巡洋艦やアーレイ・バーク級駆逐艦が慌てふためく様に動き回り、ゴジラが咆哮した事もあって誰もがゴジラの強大さと自分達狙われる恐怖からパニックが至る所で起きていた。

 勿論、攻撃処の話ではない為、『ジョージ・ワシントン』の原子炉や核兵器を気にする者等いる訳が無かったが…

 

「そら見たことか!!!

水爆でも死なんアイツをこんなんで倒せたら、とっくの昔に保安隊が殺しているわ!」

 

 只一人、こうなる事を予測していた桜はアメリカ艦隊目掛けて怒鳴っていた。

 

「でも桜さん、どうするんですか!?」

 

 それでもまだ諦めていなさそうな桜に摩耶が悲鳴に近い形で質問した直後、一夏が到着して白式を解除して彼女の所にやって来た。

 

「やっと来たか」

 

「来たけど俺にどうしろと言うんですか?」

 

 一夏の疑問は最もだったが、当の桜は矢継ぎ早にIS用の補給車を回させて白式に補給をさせながら色々と確認をしていた。

 

「…よし! 司令部要員は速やかに退避しろ!!」

 

「なにを言っているのです!!」

 

「復唱はどうした!!!

早く山根博士を安全な場所に避難させろ!」

 

 準備が万端である事を確認した桜は思わず戸惑った部下達を一喝し、抵抗している者達を次々にジープに乗せてった。

 

「何をやっている?

お前も早く行け」

 

「桜!!!」

 

「ISの無いお前も不要だ。

早く生徒達を避難させに行け!

アイツ等、お前の言う事しか聴かないからな」

 

 此れには流石に千冬も抵抗していたが、桜に言い返せそうになかった。

 

「だったら私は残ります」

 

 代わりに教師用ラファール・リバイブを纏った摩耶が嫌々ではあったが名乗り出て、苦渋であったが千冬は目線です桜に押した。

 

「…分かった。 弟は借りるぞ」

 

 モタモタしている間にゴジラが原子炉の間近までに迫っていた事もあって千冬達はジープに乗って避難していった。

 

「…さ、桜さん、補給が終わったよ」

 

「来たな」

 

 迫りくるゴジラを見つめていた桜に、ギョッとしている一夏がやって来ると、桜は一夏の肩に手を回した。

 

「……いいな一夏、命令は単純明細。

私が間合いとタイミングを計ってやるからお前はゴジラの左右どちらかの眼に白式の雪片弐型を全力全開そして全速力でぶっ刺せ!」

 

「それで大丈夫なんですか?」

 

「私が隙を作ってやるから安心しろ」

 

 桜の策に一夏が乗り気じゃなかったが、その間にもゴジラは近付いて来ていた。

 

「……桜さん…俺、帰りたい…」

 

「……私もだ…」

 

 地響きに近い足音を立てて近付いてくるゴジラに、一夏が青ざめていた逃げ出しそうになっていたが、一夏の肩を掴む力を強めた桜も正直な処、自分の策を少し後悔して尋常じゃない冷や汗を流していた。

 

「…桜さん!!!」

 

「…千冬の弟だろ!!

男なら黙って我慢しろ!」

 

「無理無理!!!

千冬姉だってこんなの無理だぁぁぁー!!!」

 

 やっぱり逃げようとする一夏を、桜は自分へも含めて必死に抑えていた。

 

「桜さん、まだなのですか!!?」

 

「……もう少しだ…後…もう少し!!!」

 

 遂に首の稼働粋限界までにゴジラが近付き、摩耶が泣き叫び始めたが、桜は静かに無線機を取り…

 

「…探照灯、投射!!!」

 

…桜の号令下、集めるだけ集めた探照灯が一斉にゴジラの顔…と言うより両目を照らした!

 此れには元々火災以外光源無しであった処に確実に失明しかねない光を見てしまっては、流石のゴジラも苦手云々を差し引いて怯んでしまい、後ろに仰け反りながら悲鳴を上げた。

 

「今だ!!!」

 

「うおぉぉぉー!!!」

 

 宣言通りに見事なまでにゴジラに隙を作った桜に尻を叩かれ、馬になった錯覚を持った一夏は素早く白式を展開するや採算度外視の瞬間加速(イグニッション・ブースト)でゴジラが顔を左に反らした為、左目に目掛けて雪片弐型を突き立てて突進した。

 

「行っけぇぇぇー!!!」

 

 このまま一夏に左目を潰されたゴジラが、その後の形はどうであれ、上手く海に誘引して全てが終わる、そう誰もが未来絵図を思い描いた。

 だが突然ゴジラの左目がギョロリと一夏を見つめ…

 

「一夏m…」

 

…桜が何かを指示しようとした直前、伊浜の全てが時を止め……少し経過した後、ゴジラの唸り声が静かに響いた。

 

「…桜さん、どうしたんですか!?」

 

「箒、何があったの!?」

 

 只、ISを大破した生徒達を逃がしていた箒はゴジラの真後ろにいた為、桜達に何が起こったかを理解出来ず、何故か着いてきた鈴音と共にそちらに向かいながら無線機に叫んでいた。

 

「ねえ、上手くいったんだよね!?

一夏は無事なんだよね!?」

 

「それを今から確かめるんだ!!!」

 

 鈴音に思わず怒鳴った箒だったが、ゴジラの前方に出ると…

 

「「嘘!!?」」

 

…全てを理解するも、自分の目を疑った。

 何故なら一夏の一撃は、ゴジラの左目に届いておらず…

 

「……や、やべぇ…」

 

…それ処か、雪片弐型をゴジラは噛えて受け止めていたからだ!

 

「…真剣…白刃取り……否、白刃噛み…」

 

「アイツはあのスピードが見えていて、対応する事も出来るのか!?」

 

 此れには一夏や箒達が茫然とするだけでなく、桜が驚き叫んでいた。

 だが嘲笑っているかの様な表情のゴジラが、口の力を強め、歯が青白く輝かくと……雪片弐型が白式の右上半身諸共、爆散した!

 

「…雪片が……千冬姉の雪片が!!!」

 

 嘗て千冬を世界最強に登らせた愛剣の後継者である雪片弐型が、何かと共に砕け散った。

 

「一夏、逃げろぉぉー!!!」

 

「…っ!」

 

 そんな一夏にゴジラは「失せろ!」と言わんばかりに特大の咆哮を上げ、ゴジラの唾が身体全体に直撃して落下した一夏が、ゴジラの右の張り手を食らって吹き飛ばされると、水切り石の如く何度も海面を叩き付けられていった…

 

「…一夏ぁぁー!!!」

 

「ちょ、待って!!!」

 

 此の衝撃的な光景に箒が一夏を追い掛けに行き、鈴音も遅れて続いた直後、ゴジラは原子炉への最後の前進を始めた。

 

「桜さん、何か指示を!!!」

 

「もうなにをやっても無駄だ!!!」

 

 摩耶が懇願に近い形で桜に叫んだが、万策尽きた桜にはどうする事も出来なかった。

 

「総員退避!!!

全員、原子炉と風下から離れろぉぉー!!!」

 

 只、無線機に退避令を叫ぶしか出来なかった…

 

 

 

 

 

「…箒、一夏は!?」

 

「見た処大丈夫だ!」

 

 出遅れた鈴音が海没した一夏を追って、赤椿を解除した箒が海に飛び込んで暫くした後、失神している一夏を抱えて浮き出てきた箒を抱き上げながら尋ねた一声が此れであった。

 

「…白式は?」

 

「今頃は海の底だ。

白式が身代わりになってくたと思えば…」

 

 箒の口振りだと、白式が大破する代わりに一夏が無事ですんだ様だが、やむを得ないと言え白式を放棄した様だった。

 

「それよりゴジラと原発はどうなった!?」

 

「……ああなっちゃったよ…」

 

「…ああ!!!」

 

 鈴が指し示した方向を箒が見ると、建屋を破壊したゴジラが原子炉を無理矢理持ち上げると、そのまま放射性物質を含んだ水蒸気を至る所から噴き出している原子炉を胸に抱えて核物質を吸収していた。

 後日分かる事だが、此のお蔭で危険域の放射性物質が分散する事が無かったのが不幸中の幸いであったが、箒と鈴音にしてみれば、背鰭を不規則に青白く点滅させながら高揚した表情を浮かべるゴジラの姿が異様に悔しかった。

 そして吸収し終えて原子炉を露骨に捨てたゴジラが自分達の方に偶然振り向いたが…

 

「…笑ってる……ゴジラが嘲笑ってるよ」

 

「ああ、世界最強を自称したISが玩具であった事がそんなに面白いか、ゴジラ」

 

…鈴と箒には満腹で満足な表情をしているゴジラの表情が嘲笑っているかの様に見えていた。

 そんな二人を知ってか知らずか、背鰭を放電させる程、青白く光らせたゴジラはISを認めて惨めに構築された世界中に宣言するかの様に天上に特大の咆哮を上げた。

 

“地球の全てよ。

俺が王者だ! 俺だけが世界最強だ!”

 

 箒と鈴にはゴジラがそう言ってかの様に見えていた…




 感想・御意見お待ちしています。

 さあ皆さん、やっと長い長い序章は終わりを告げました。
 次回からは本編たる三年後の世界へと……自分にしか描けない楽しさ半分不安半分の真っ白な世界へと行きます。
 と言っても暫くは二年間に何が起こったかを回想していきますがね…

 後、感想で書きましたがモゲラの核となるパイロットを一夏・箒・簪としていましたが、簪改め楯無は米韓共同製作の機龍“号(此所重要、テストに出るよ)”のパイロットとして、代打候補のセシリアはULTRAMAN方面に抜擢したので没にして鈴音を最後のパイロットにしました。

 後、すみませんがα号とβ号(x2)を、元々はモゲラの武装及び動力試験機として翔鯨丸やしらさぎの様な立ち位置で出す予定でしたが、現在骨組みを制作中の“ストライクウィッチーズ対ミステリアン”へ転向させる為に出ない可能性が出てきました…


「…慈悲は無い!
大人しく腹を斬れ!!!」

 アイエェェー!!!
 桜サン、桜サン、何デェェー!!!

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