今回は原作第一話となっていますが、すこし、違いますかね…。
楽しんで読んでもらえたら嬉しいです。
それではどうぞ!
あれから一週間、和人と唯は無事にプロモーターと正式なイニシエーターとして、民警になった。
座学の方は問題無かったのだが、実技の方で少し手間取ってしまった。別に出来なかったとか、そういう手間を取るという意味ではなくて、逆に『力を抑える』のに手間を取ったのだ。
和人がここ一週間で感じたのは、やたら自分の『身体能力』が上がっていることについてだった。
最初はそんなに違和感を感じなかったのだが、黒髪のポニーテール、琴塚刹那と実技の訓練を行っていた時に気づく。
――自分はここまで身体能力が高かっただろうか?
明らかに前の世界に居たときよりも、身体能力が上がっている。まぁこれも、あの燕尾服の男性が仕掛けたガストレアの左目が原因だろうと結論付けた。
和人の左目。ガストレアと同じ赤い眼。まだ、この事は唯と天理しか知らないが、いずれ話さないといけないなと思っている。
まぁ、この一週間はどっと疲れた一週間だったかもしれない。民警やガストレアの事とか、実技の事とか、取り敢えずこの世界に必要な知識は手にいれた。
そして、桐ヶ谷和人と黒衣唯は――――。
現在ガストレアを追っている真っ最中だった。
◇◇◇◇◇
「…うん?どうした天理?」
和人はつい先日民警になった。その証拠に胸ポケットには、プロモーターとしての免許証の手帳が入れられている。IP序列は十万番台。新人の序列としては適切な序列だそうだ。大手の民警会社のプロモーターとなれば、千番台ぐらいなら簡単になれる。紅民間警備会社は……、まぁお世辞にも名の知れた会社ではない。だが、それでもアリス、華鈴ペアは千番台に属すし、刹那と雪音のペアは三桁台に入る。
実際和人はそれが、凄いのか凄くないのかはよく分からないのだが、自分が十万番台ともなれば、千番や三桁の序列は凄い方なのだな、と理解する。
だが、そんな強いペアが二組もいるのになんで、儲かってないんだろうかと、不思議に思ってしまう。
「喜びなさい和人君。依頼が来たわよ依頼!ガストレアを討伐する依頼」
「…この会社にか?」
和人はここ紅民間警備会社が、あまりにも名が知られていない事を知っているので、直接ここに依頼が来ていることに驚いている。
「……違うわよ。この辺一体の民警会社によ…。直接依頼が来るなんてほとんどあるわけ無いじゃない」
その言葉にやっぱりかと、お茶を飲む和人と、苦笑いをしている唯がいた。
そして、
「……そうよね。ここに直接依頼なんて来ないわよね…。はぁ……」
自分で言って自分で自滅している天理が机に突っ伏したまま動かない。しかし、すぐにいつもの調子に戻ると、バッと和人に指を指す。
「まぁ、そんなことはどうでもいいわ。…よくないけど。…うっうん。それよりも、今ガストレアのステージⅠが、市街地を逃走中のことよ、幸い怪我人は出てないようだけど、このまま放置してたらヤバいわ。今すぐ、現場へ急行してちょうだい。そして報酬金をガッポリ貰ってくるのよ!」
「わかったよ…。てか、俺達だけでいいのか?アリスや刹那達は?」
「今日は皆学校に行ってるわ。だから今は貴方達が頼りよ。それに今回が民警になってからの初陣じゃないの、期待してるわよ?」
天理の目には期待二割、金八割。
「…はぁ…わかったよ。というか天理は学校行かなくていいのか?」
「依頼が入ってきたから今日は行かなかったのよ。別に行こうが行くまいが関係なしね」
天理はTVのリモコンを取りだしてTVをつけると、丁度今、天理と話していた事がTVでも報道されていた。
「じゃあ行ってくるよ。…っても、あまり期待しないでくれよ。多分他の民警が狩ってると思うから」
「バイク使えばいいじゃないの?ここからはそう遠くないし、すぐ着くわよ」
「…ああ…なるほど」
和人はポンと手を叩くとバイクがあったなと思い出す。
「なんのために修理したの?」
「…すっかり忘れてた。まぁ、取り敢えず行ってくるよ。唯、行こうか」
「はい」
和人はバイクのヘルメットを二つ取ると、扉を開け、階段を下りていく。
◇◇◇◇◇
そして現在。
和人は後ろに唯を乗せバイクでガストレアを追跡していた。まだ、良いこと(?)にガストレアの討伐報告は報告は上がっていない。
「…大体この辺り…だよな…?」
バイク走らせること数十分。未だにガストレアの影も形も見当たらない。バイクを止め、辺りを確認していると、後ろから何やら大きな声が聞こえてくる。
「…延珠ぅぅぅぅっ!!先に行ってるぞぉぉぉぉぉお!!」
「ま、待つのだ!連太郎ぉぉぉぉぉぉお!!」
ビュン!!
と自転車の風を切る音が和人の目の前を横切った。黒い制服を着ていたから学生かな?と思ったが、その後ろから朱色のツインテールの子がトテトテと走っていく。
「…何なんだ?」
「…さぁ?」
唯と二人で顔を見合わせ、首を傾げると、目の前を通っていた女の子は何処にもいなくなっていた。
「…えっ?」
「…あれ?」
二人はガストレアに出会う前に、珍獣にでも会ったような気がしていた。
「俺達も急ごうか」
「…は、はい」
エンジンをかけ直し、バイクを走らせる。
すると、
「…和人さん……左横の方……。来ますっ!」
和人はバイクを瞬時に止め、ホルスターから拳銃を取りだす。
そして、
「ウガァァァアアアアアッ!!」
左上から黒い影が落ちてきた。
「…ガストレア…。ステージⅠか」
和人は即座に拳銃をガストレアに向けると二、三発ガストレアに向けて発砲する。ガストレアはそれを避けると、唯に眼をつけたのか、唯に向かって突進してくる。
「……っ」
唯はそれを難なく避けると、持っていた小型の日本刀を取りだし、背中の部分を斬りつける。
グシャっという肉が斬れる音が和人の耳を不快にさせるが構わず発砲を続け、弾丸がガストレアに命中する。
普通の弾丸ならガストレアの体に傷をつけることは出来ないが、和人や唯、民警が持っている武器のほとんどはバラニウムで出来ている。バラニウムはガストレアが嫌う金属で、ステージⅠなら数発も喰らえば只じゃすまないのだが、このガストレアはしぶとい方なのか、ヨロヨロとよろめきながらも力を振り絞り、逃走を試みる。
ガストレアは蜘蛛のような形をしており、糸を吐き出しながら、民家の屋根を飛び越えていく。
「…逃がすかっ」
和人はバイクにまたがり、エンジンをかけ、ガストレアを追跡する。唯はガストレアと同じように、屋根に上がりイニシエーター特有の脚力で追う。
やはり手負いが効いたのか、唯の脚力には勝てず、途中で追い付かれ、右側の脚二本を切断され、道路の方に蹴落とされる。
そして、和人は待ってましたと言わんばかりに右拳をガストレアの中心に叩きつける。
ドンっと、鈍い音がガストレアから聞こえ、そのまま破裂する。
緑色の体液をばらまきながら、絶命するガストレア。和人は右拳の感覚を確かめながら、
「…やっぱり、とんでもないな…」
自分の左目が赤くなっているのを感じる。最初よりはコントロールが出来るようになったものも、やはり、まだ、危ないところがあるので、常に眼帯は着用している。
「ふぅ…。このガストレアですよね?対象のガストレアは」
屋根から下りてきた唯がヒュンヒュンと、日本刀に付いている血を払い落とすと、ガストレアに近づき、対象のガストレアと照らし合わせる。
「多分な。蜘蛛型だし、こいつであってるだろ」
和人はポケットから携帯を取りだし、天理の携帯に繋げる。
プルプルと着信音が鳴った後、天理が出たのだが、
『和人くんっ!大丈夫っ!?怪我なんかしてない!?』
なんだか慌てた様子で声を上げていた。そんなに心配だったのだろうか?とも思ったのだが、どうにも様子が違ったので、どういうことか聞いてみた。
「…燕尾服の男?」
『そうよ。さっきニュースでやってたんだけど、警官二人を近くの民家で殺害したそうよ。…偶々他の民警ペアが居合わせて、追い払ったらしいけど…。そっちは大丈夫?』
燕尾服の男。和人は少し前の記憶を思い出す。あの森に居合わせた、シルクハットと燕尾服、仮面を被った男、間違いない。
「……あいつ…っ!」
和人はその男の居場所を天理に聞いたのだが、もう何処へ行ってしまったのか不明だそうだ。
天理もあの事は知っているので、和人の事を心配しているのだが、
「大丈夫。こっちには来てない」
和人は怒りを抑えつつも、拳をグッと握りしめる。
天理との電話を切った後、警官を呼び、ガストレアの後始末を任せる。報酬は後日、紅民間警備会社に届くそうだ。
「…そういえば、今日は野菜が安かったな…」
和人は思い出したかのように財布を開き、中身を確認する。
中身が充分に暖まっているので、そのままスーパーへ向かおうとする和人。
そこで和人と唯は先程の黒い制服の少年と朱色のツインテールの女の子とすれ違ったのだが、気づくことなく、野菜の値段に感心しつつ、自分達の家へと帰るのであった。
どうだったでしょうか?
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