少女がイーオスを倒し、ヴェルデがアリナに肩を貸しながら、何とかベースキャンプにたどり着いたヴェルデ達。
ひとまずヴェルデはアリナをベッドに寝かせ、自らも回復薬を飲む。
落ち着いたところで、ここまでヴェルデ達を護衛しながらキャンプまでついてきた少女に礼を言う。
「君のおかげで助かった。ありがとう。」
「いえいえ!気にしないでください!」
夕日は落ちはじめ、松明の光が辺りを照らし出す。
すると、今までは見えていなかった、少女の顔立ちがはっきりしてきた。
ヴェルデが一番目を引かれたのが、その黒い髪。短めのその髪は、動きを阻害する事のないようになっている。
少女の瞳も、髪の色と同じく、黒い色をしていた。
そこまで顔を見て、ヴェルデはあることに気付く。
「君は...東方大陸の...」
そこまで言うと、少女が思い出したように言った。
「あ、申し遅れました!ボク、白海 加奈(シラウミ カナ)と申します!お察しの通り、東方大陸の出身です!」
「あ、ああ。俺も名乗ってなかったな。ヴェルデ・ヘルトデイズだ。よろしく。」
「...はい!よろしくお願いします!」
ヴェルデの名を聞いた途端、カナが首を傾げた様に見えたが、気のせいだったのだろうか、とヴェルデは思ったが、特に気にしないことにした。
「あと、そっちがアリナ・ローゼヴィントだ。ヴェルデ、アリナでいい。」
「あ、ボクのこともカナで大丈夫ですよ!」
「わかった。」
容姿もやはり年端もいかない少女。少なくとも自分よりは年下なのだろう、だが、そこでまた、一つの疑問が湧いてくる。
「ところでカナ、何で君はこんな所にいる?この大陸出身なのか?」
その言葉に対して、カナは少し恥ずかしそうにして、言う。
「あはは...実はボク、迷子なんですよ...」
「は?迷子?」
その言葉を信じられない、いや、理解できないといった様子で、ヴェルデが問い返す。
そんな様子のヴェルデに、頭を掻き、少し俯きながら、カナが語る。
「えっと...元々は東方大陸の、ユクモ村という村のハンターだったんですけど...」
その言葉の中の、ユクモ村という単語に反応したヴェルデが、問う。
「ユクモ村...あの温泉で有名な?」
「はい、その村で活動していたんですけど、ある時、近場の狩場にあるモンスターが出現しまして...」
よほど苦々しい記憶なのか、顔を顰めながらも、カナはヴェルデに問いかける。
「ジンオウガ、というモンスターはご存じですか?」
雷狼竜、ジンオウガ。ユクモ村近辺の人間なら、聞いただけで震えあがるだろう、モンスターの名は、ヴェルデの住むこの大陸まで届いていた。
ハンター養成学校でも、今後このモンスターがこの大陸に来た時、優先して警戒しなければならない、という事を思い出したヴェルデは、返答する。
「ああ、一応な。雷狼の名に恥じぬ、強力な雷属性の攻撃を使ってくることくらいしか、だが。」
「それで大丈夫です。ボクは、その時は3人でパーティーを組んで、渓流でドスファンゴと戦っていたんですが、」
ドスファンゴ。リオレイアが乱入する前に、アリナと二人で倒したモンスターを思い浮かべた。
「それで、そのドスファンゴを狩猟した、その直後でした。先程のエリアと同じように、大きく開けたエリアの隣、森林のエリアから、狼の鳴き声のような声が聞こえたんです。」
雷狼竜、狼。その言葉、この話の流れからして、この先の流れを容易に想像してしまったヴェルデは、その先を問う。
「まさ、か――」
「はい。それまでほぼ目撃情報の無かったジンオウガが、現れたんです。」
思わず息を呑むヴェルデ。それもその筈、ジンオウガは、ヴェルデがハンター養成学校で習った限りでは、少なくともリオレイアよりも強く、リオレウスと拮抗、あるいは優勢、と習ったのだ。
だが、リオレイアとも単独で拮抗できる割に、カナの顔には、希望などの感情は無かった。
ヴェルデのそんな心中を察したのだろうか、カナが当時の情報を付け足していく。
「今こそ、リオレイアなら戦えないこともありませんが、当時はまだそんな力は無く、3人でドスファンゴがやっとでした。」
リオレイアと互角に渡り合ってたわりに、随分謙遜するものだ、とヴェルデは思考したが、それを言う間もなく、カナが再び語る。
「うかつにジンオウガのいるエリアに踏み込んだ私たちは、ユクモ村の事を考えた少女もいたことで、そのまま戦闘開始、でも、あっけなく返り討ちにされ、撤退を余儀なくされました。」
そこで一呼吸置き、カナは続ける。
「幸いジンオウガは山奥に帰り、しばらくは来ないだろう、という事になりました。そこで、ボク達は一旦、修行の旅に出よう、という結論を出しました。」
「で、でも、じゃあ何で一人なん...」
言いかけて、先程のカナの言葉を思い出したヴェルデは、即座に言葉を飲み込んだ。
『あはは...実はボク、迷子なんですよ...』
目の前に座っているカナも、流石に恥ずかしいのか、顔に乾いた笑みを浮かべ、俯く。
「本来は、東方大陸の、ロックラックという街などを拠点にしつつ、転々と旅をしようと三人で決めていたんですけど、気が付いたら一人でこの大陸にいたんですよ...」
改めて、ヴェルデはカナの装備を見てみる。
その防具はほぼ全身白で覆われ、間接部分などが赤く彩色されている。
主な部分がブヨブヨした皮で出来ているその防具は、間違いなくフルフル装備だ。
加えて、カナが背負っている武器。ブヨブヨした皮で覆われた峰。防具と同じように赤黒く彩色されたその剣の刃は、電撃袋の効果で、雷の属性を帯びている。フルミナントソード。大剣だ。
記憶を掘り起こせば、東方大陸にはフルフルは出現していないらしい。なら、東方大陸では別の装備を使用していたのだろう。
加えて、気が付いたら一人でこの大陸にいた、という事は、フルフルは一人で狩った、という事になる。
やはり本人は謙遜しそうだが、それだけでも立派な狩人である。
ちなみに年齢だが、女性に年齢を聞くのはどうかと考えた結果、あとでアリナとその話をする事にした。
話に区切りがつき、ふとヴェルデが空を見上げ、呟いた。
「もうすっかり夜か...」
「そう、ですね...今晩はここかなぁ...」
同調するようにカナも呟く。だが、ここ、という単語に反応したヴェルデが、カナに問いかける。
「もしかして、今までずっと野宿だったのか?」
それに対して、カナは頷き、言う。
「はい。正確には、ずっと、ではないですけど。一時期ポッケ村という所でお世話になってからは、大体野宿です。」
なるほど、フルフルは寒冷地を好むと言われているなら、ポッケ村でその装備を揃えたのだろう。
そして、ヴェルデは迷いつつも、一つの提案をした。
「なら、俺の家に来いよ。もしこれから行くあてが無いのなら、部屋くらい貸してやるぞ?アリナと共用になるが...」
対して、カナの反応は芳しくなかった。
「それは有り難いんですけど、家の都合とか、大丈夫なんですか...?」
両親の事などを聞いているのだろうか、そう考えたヴェルデは、
「...ああ、別に問題は無い。両親は家にいないからな。妹が一人だけだ。」
途中でヴェルデが言いよどみかけた事から、何かを感じ取ったのだろうか、カナもまた少し思考しながら、
「...分かりました!せっかくなので、お世話になります!」
という返答を貰ったのだが、一つ気になることがあり、ヴェルデは、たった今回復し、ベッドから起き上がった人影に質問した。
「――っていう訳だけど、いいよな?アリナ...」
もともとアリナもヴェルデの家に居候している身。拒否権は無いと分かったうえで、了承した。
ただ、あまりにも渋々という感じだったので、ヴェルデはそれが少し気になったが、まあ気にしないことにした。
「ところで、ヴェルデさんの家ってここからどれくらい...」
「ああ、すぐ近くに――」
「ゴアァァァァァァァァァ...」
言い終わる直前、ここから少し離れたところにある、エリア1から、リオレイアの咆哮が響いた。
「――ッッ!!!」
思わず立ち上がり、背に背負ったランポスクロウズに手を掛けるヴェルデ。だが、寸前で冷静になり、手を下ろす。
そんな彼に、後ろに回ったアリナが手刀を加える。
「ったぁ!?...なんだよアリナ...」
「いい加減にその熱くなる癖を止めたらどう?それじゃあ、リオレイアには勝てないって、思い知らされたでしょう?」
その言葉に、反論の余地も無く、ただ黙ったヴェルデ。「悪かったよ...」と呟いて、カナに向き直る。
「――それじゃ、カナタ村に帰るとするか...」
そう言って、カナタ村へと向かって歩き出す。
その背中に、二人の少女は黙ってついていった。
今思ったんだけど、カナとカナタ村って、物凄く被ってるよね...