モンスターハンター ~英雄への旅路~   作:楼河

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イャンクック戦、中盤です。


第12話 轟く雷鳴、迸る電撃

「さあ、第二幕だ、いくぞイャンクック!!」

 その言葉と共に、泥の地面を蹴り、走り出すヴェルデ。この悪天候、初見のモンスターとの戦闘、アリナのサポート無しという、どう考えても、彼に絶対的不利なこの状況で、しかし、彼は走る。

 そこには、背後で2つ目の作戦の準備をしているアリナへの信頼と、何としてもイャンクックを狩るという、揺るがぬ目的があったからだ。

 そして、イャンクックに接近したヴェルデは、イャンクックの懐で抜刀し、足を斬りつける。

 相変わらず硬いその甲殻に、弾かれかけつつも、ヴェルデはイャンクックを斬る。

 しかし、イャンクックも、ただ黙って見ている訳にもいかない。その場で突然、その尾を180度回転させる。

「うぉっ!?」

 たまらず身を屈め、その尾を回避するヴェルデ。しかし、イャンクックは、もう一度尾を回転させる。

「またかよ!?」

 起き上がりかけていた体を無理やり動かし、後方へと転がるヴェルデ。泥の音がするが、そんな事を気にする余裕は、彼には無かった。

 それは、起き上がったヴェルデに、イャンクックが突進してきたからだ。

「っ!?」

 起き上がったばかりのヴェルデに、それを回避する余裕は無く、イャンクックの足に吹き飛ばされる。

 さらに、その攻撃を喰らい、未だに立ち上がれないヴェルデに、イャンクックは容赦なく炎を吐く。

「のわぁっ!?」

 かろうじてその攻撃を、横に転がることで躱すヴェルデだが、イャンクックは攻撃の手を休めない。すぐさま振り向き、炎を体勢の崩れているヴェルデに吐く。

「うおぁっ!!」

 咄嗟に体を捩じり、直撃こそ避けるヴェルデだったが、イャンクックの吐いた炎は、ヴェルデの右肩に掠るようにして着弾する。しかし、

「ぐっ...おあぁっ!?」

 悲鳴を上げたヴェルデが、自分の肩に違和感を覚えて、右肩を見ると、

 ハンターメイルの右肩の部分が、炎によって溶けていた。

「冗談じゃねぇ...っ!」

 直撃せず、肩の部分に掠っただけ、さらに雨で威力は弱まっているはずのイャンクックの炎が、ハンターメイルを、跡形もなく溶かす程の威力を持っていたのだ。

 その恐ろしさを感じたヴェルデは、硬直の隙にすぐさま立ち上がり、双剣を構えず、後退する。

 しかしそこで、ヴェルデは、イャンクックの様子が変わったことに気付く。

「ん...?」

 先程までの違いは、嘴から溢れていた炎が無くなっていて、呼吸も整っていたこと。

 ――イャンクックの怒り状態は、解除されていた。

「そうか、だから若干、起き上がるまでの余裕があったのか…」

 すぐさま攻撃がこなかった理由がわかったヴェルデは、双剣を構え直し、イャンクックと対峙する。

「ここからが本番だ、覚悟しろイャンクック!」

 その言葉と共に、泥の地面を蹴り、イャンクックへと突撃するヴェルデ。

 イャンクックに接近し、双剣を抜刀し、イャンクックの足へと斬りつける。

 しかし、その斬撃は、ガギャァンという甲高い金属音と共に、斬撃とは真逆の方向へと弾かれてしまう。

 思い切り振りかぶってしまった分、その反動が全てヴェルデへとかかる。そのせいで、双剣に引っ張られるようにして、何歩か後ろへと後ずさってしまうヴェルデ。

「このタイミングでか...!」

 怒り状態の次は、斬れ味の低下がヴェルデを襲う。この二つは、狩人が狩りを続ける上で、避けては通れない道。

 その為の作戦も、アリナに頼れない今、実行する事はできない。

(なら、どうする...?)

 しかし策は無く、ヴェルデはイャンクックから逃げ回りつつ、隙を探す事しかできなかった。

「くそ...ッ!このままじゃジリ貧だぞ...!」

 そう言いつつ、イャンクックの嘴を避け、炎をかいくぐるヴェルデ。しかし、懐に入っても、先程の感触を思い出し、抜刀することができない。

「くっ...閃光玉さえ忘れなければ...!」

 惜しむように言うヴェルデだが、そこで、思い出したように、ポーチから球状の物を取り出す。

 それを持ったまま、全速力で後退するヴェルデ。そして、彼は十分に距離をとった状態で、イャンクックに、その玉のピンを抜き、投げつける。

 突如、キィンという、心地よい音が、エリア中に響いた。

 彼が投げたのは、音爆弾。聴力の優れた特定のモンスターに投げつけることで、真価を発揮するアイテムだ。

 それは、イャンクックの眼前で炸裂し、イャンクックの三半規管などにダメージを与える。

 体内に直接攻撃するこれには、流石にいくら装甲の硬いイャンクックでも、防げるものではない。

 音爆弾の影響を受けたイャンクックは、小さく悲鳴をあげて、空を仰ぐ。

 その隙を利用して、ヴェルデは急いで双剣を砥ぐ。砥石使用高速化のスキルでもあれば、ここまで苦労することはなかったが、無い物ねだりをしても仕方ないだろう。

 双剣を砥ぎ終えたヴェルデが顔を上げて立ち上がると、ちょうどイャンクックも、音爆弾の影響がなくなり、硬直が無くなった頃だった。

 そして、イャンクックの目は血走り、口からは炎が溢れている。怒り状態だ。

「今度は怒りか。全く、この地面といい、自然は俺らには味方してはくれないのかよ...」

 と愚痴をこぼすヴェルデだが、すぐに切り替えて、双剣を構え、イャンクックに向き直る。

 そして、

「準備終わったよ、ヴェルデくん!」

 ふと声が響く。その声にヴェルデは、

「おぉう!」

 と声を返す。そして、ニヤリとイャンクックに向かって笑い、

「こっからが本当の本番だ、イャンクック!」

 そう叫び、後方で手を振っているアリナへ向かって走る。

 頭に血が上っているイャンクックは、突然逃げ出した敵を、怒り狂って追う。

 それこそ、彼らの思うツボだった。

 アリナが、まるで挑発するように、石ころを投げつける。しかしそれは、イャンクックが、すぐそこまで迫っていることを意味していた。

「うおあぁぁっ!」

 必死にアリナの下へと駆けるヴェルデ。

 そして、彼がアリナの下へと着いた瞬間、すぐさま振り向く。そこには、

 落とし穴に掛かったイャンクックが、もがいている姿があった。

「よし!」

 ヴェルデはすぐさま鬼人化し、そうしてもがいているイャンクックの頭部へと、乱舞を繰り出す。

「うおあぁぁぁぁあッ!!」

 斬れ味が最高の状態のランポスクロウズで繰り出す乱舞。それは、イャンクックの頭やエリマキ状の耳を切り裂いていく。

「っだらあぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

 そして、その全体重を乗せた乱舞の、最後の一撃をイャンクックの頭に振り下ろす。

 その一撃を放ったヴェルデは、一度後退する。直後、落とし穴の効果が切れ、イャンクックが、空へとはばたいていった。

「今だ、アリナ!」

 その言葉と共に、爆雷針を抱えたアリナが、空へと飛び立ったイャンクックの影に、爆雷針を次々に設置する。そして、

 ――雷鳴が轟いた。

 起動した爆雷針は、頭上の雷雲から、その針に向かって、電撃が迸る。その電撃は、ちょうど飛翔していたイャンクックを貫き、次々に針へと流れる。

 その雷撃に貫かれたイャンクックは、たまらず悲鳴を上げて、地面に墜ちる。

 雷撃に貫かれて感電しているのか、そのまま立てずにいるイャンクック。その姿を見たヴェルデ達は、再び総攻撃をかける。

 ヴェルデは再び鬼人化し、全体重をかけた乱舞を、イャンクックの頭部に繰り出す。

アリナは散弾Lv1を装填し、イャンクックの足に接近し、全ての弾を撃ち込む。

 そうして、彼らの総攻撃を受けたイャンクックが立ち上がった時には、その大きな耳は斬り裂かれてボロボロになり、体を支えている足の甲殻も、一部が砕けていた。

 しかし、狩人に向けるその瞳は、まだギラギラと光っている。

 その目を向けられた狩人達の瞳にも、油断や慢心といったものは無く、ただ眼前の敵をどうやって狩るかという事しか頭になかった。

 そうして睨み合うこと数秒、唐突にイャンクックは、背を向けて走り出すかと思えば、そのまま空へと飛び立っていった。

 

「おぉ、疲れたぜ...」

 ため息をついて、その場にしゃがみ込むヴェルデ。彼の超人的なスタミナにも、さまざまな悪条件が重なって、相当な負荷がかかっていた。

「ごめんね、ヴェルデくん。数秒の為に、何分もヴェルデくんを一人で戦わせちゃって...」

 申し訳なさそうに呟くアリナ、しかしヴェルデは、そんなアリナに、何ともないような顔をして、

「気にすんなよ、たとえ数秒だったとしても、その数秒が、狩りでは重要なんだから」

 そうは言うものの、ヴェルデはかなり満身創痍だった。攻撃さえ直撃されてはいないものの、ハンターメイルの右肩は溶け、足場の悪い場所で、怒り状態のイャンクックと、長時間戦っていたせいで、息は荒く、肩で呼吸をしていた。

「だから、イャンクックの体力が回復したり、雨が止んだりしないうちに、追撃して勝負を決めようぜ!」

 そう言って応急薬を飲むヴェルデ、アリナも「うん...」と言って応急薬を飲む。

「イャンクックはエリア8に行ったみたいだから、この洞窟を通っていけばすぐだ。行くか!」

 勢いよく立ち上がり、台車を引いて、洞窟へと向かうヴェルデと、それを追うアリナ。

 二人の狩人の頭上の空は、ますます暗さを増す、黒く、分厚い雲で覆われていた。




ちなみにこのイャンクック戦の為に、2ndGでヴェルデと同じ装備で何回も狩りに行ったことは内緒。
え?アリナ役のガンナーはどうしたかって?
ハハハ、そんな人(友人)いる訳ないであろう?(血涙)

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