「さあ、第二幕だ、いくぞイャンクック!!」
その言葉と共に、泥の地面を蹴り、走り出すヴェルデ。この悪天候、初見のモンスターとの戦闘、アリナのサポート無しという、どう考えても、彼に絶対的不利なこの状況で、しかし、彼は走る。
そこには、背後で2つ目の作戦の準備をしているアリナへの信頼と、何としてもイャンクックを狩るという、揺るがぬ目的があったからだ。
そして、イャンクックに接近したヴェルデは、イャンクックの懐で抜刀し、足を斬りつける。
相変わらず硬いその甲殻に、弾かれかけつつも、ヴェルデはイャンクックを斬る。
しかし、イャンクックも、ただ黙って見ている訳にもいかない。その場で突然、その尾を180度回転させる。
「うぉっ!?」
たまらず身を屈め、その尾を回避するヴェルデ。しかし、イャンクックは、もう一度尾を回転させる。
「またかよ!?」
起き上がりかけていた体を無理やり動かし、後方へと転がるヴェルデ。泥の音がするが、そんな事を気にする余裕は、彼には無かった。
それは、起き上がったヴェルデに、イャンクックが突進してきたからだ。
「っ!?」
起き上がったばかりのヴェルデに、それを回避する余裕は無く、イャンクックの足に吹き飛ばされる。
さらに、その攻撃を喰らい、未だに立ち上がれないヴェルデに、イャンクックは容赦なく炎を吐く。
「のわぁっ!?」
かろうじてその攻撃を、横に転がることで躱すヴェルデだが、イャンクックは攻撃の手を休めない。すぐさま振り向き、炎を体勢の崩れているヴェルデに吐く。
「うおぁっ!!」
咄嗟に体を捩じり、直撃こそ避けるヴェルデだったが、イャンクックの吐いた炎は、ヴェルデの右肩に掠るようにして着弾する。しかし、
「ぐっ...おあぁっ!?」
悲鳴を上げたヴェルデが、自分の肩に違和感を覚えて、右肩を見ると、
ハンターメイルの右肩の部分が、炎によって溶けていた。
「冗談じゃねぇ...っ!」
直撃せず、肩の部分に掠っただけ、さらに雨で威力は弱まっているはずのイャンクックの炎が、ハンターメイルを、跡形もなく溶かす程の威力を持っていたのだ。
その恐ろしさを感じたヴェルデは、硬直の隙にすぐさま立ち上がり、双剣を構えず、後退する。
しかしそこで、ヴェルデは、イャンクックの様子が変わったことに気付く。
「ん...?」
先程までの違いは、嘴から溢れていた炎が無くなっていて、呼吸も整っていたこと。
――イャンクックの怒り状態は、解除されていた。
「そうか、だから若干、起き上がるまでの余裕があったのか…」
すぐさま攻撃がこなかった理由がわかったヴェルデは、双剣を構え直し、イャンクックと対峙する。
「ここからが本番だ、覚悟しろイャンクック!」
その言葉と共に、泥の地面を蹴り、イャンクックへと突撃するヴェルデ。
イャンクックに接近し、双剣を抜刀し、イャンクックの足へと斬りつける。
しかし、その斬撃は、ガギャァンという甲高い金属音と共に、斬撃とは真逆の方向へと弾かれてしまう。
思い切り振りかぶってしまった分、その反動が全てヴェルデへとかかる。そのせいで、双剣に引っ張られるようにして、何歩か後ろへと後ずさってしまうヴェルデ。
「このタイミングでか...!」
怒り状態の次は、斬れ味の低下がヴェルデを襲う。この二つは、狩人が狩りを続ける上で、避けては通れない道。
その為の作戦も、アリナに頼れない今、実行する事はできない。
(なら、どうする...?)
しかし策は無く、ヴェルデはイャンクックから逃げ回りつつ、隙を探す事しかできなかった。
「くそ...ッ!このままじゃジリ貧だぞ...!」
そう言いつつ、イャンクックの嘴を避け、炎をかいくぐるヴェルデ。しかし、懐に入っても、先程の感触を思い出し、抜刀することができない。
「くっ...閃光玉さえ忘れなければ...!」
惜しむように言うヴェルデだが、そこで、思い出したように、ポーチから球状の物を取り出す。
それを持ったまま、全速力で後退するヴェルデ。そして、彼は十分に距離をとった状態で、イャンクックに、その玉のピンを抜き、投げつける。
突如、キィンという、心地よい音が、エリア中に響いた。
彼が投げたのは、音爆弾。聴力の優れた特定のモンスターに投げつけることで、真価を発揮するアイテムだ。
それは、イャンクックの眼前で炸裂し、イャンクックの三半規管などにダメージを与える。
体内に直接攻撃するこれには、流石にいくら装甲の硬いイャンクックでも、防げるものではない。
音爆弾の影響を受けたイャンクックは、小さく悲鳴をあげて、空を仰ぐ。
その隙を利用して、ヴェルデは急いで双剣を砥ぐ。砥石使用高速化のスキルでもあれば、ここまで苦労することはなかったが、無い物ねだりをしても仕方ないだろう。
双剣を砥ぎ終えたヴェルデが顔を上げて立ち上がると、ちょうどイャンクックも、音爆弾の影響がなくなり、硬直が無くなった頃だった。
そして、イャンクックの目は血走り、口からは炎が溢れている。怒り状態だ。
「今度は怒りか。全く、この地面といい、自然は俺らには味方してはくれないのかよ...」
と愚痴をこぼすヴェルデだが、すぐに切り替えて、双剣を構え、イャンクックに向き直る。
そして、
「準備終わったよ、ヴェルデくん!」
ふと声が響く。その声にヴェルデは、
「おぉう!」
と声を返す。そして、ニヤリとイャンクックに向かって笑い、
「こっからが本当の本番だ、イャンクック!」
そう叫び、後方で手を振っているアリナへ向かって走る。
頭に血が上っているイャンクックは、突然逃げ出した敵を、怒り狂って追う。
それこそ、彼らの思うツボだった。
アリナが、まるで挑発するように、石ころを投げつける。しかしそれは、イャンクックが、すぐそこまで迫っていることを意味していた。
「うおあぁぁっ!」
必死にアリナの下へと駆けるヴェルデ。
そして、彼がアリナの下へと着いた瞬間、すぐさま振り向く。そこには、
落とし穴に掛かったイャンクックが、もがいている姿があった。
「よし!」
ヴェルデはすぐさま鬼人化し、そうしてもがいているイャンクックの頭部へと、乱舞を繰り出す。
「うおあぁぁぁぁあッ!!」
斬れ味が最高の状態のランポスクロウズで繰り出す乱舞。それは、イャンクックの頭やエリマキ状の耳を切り裂いていく。
「っだらあぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
そして、その全体重を乗せた乱舞の、最後の一撃をイャンクックの頭に振り下ろす。
その一撃を放ったヴェルデは、一度後退する。直後、落とし穴の効果が切れ、イャンクックが、空へとはばたいていった。
「今だ、アリナ!」
その言葉と共に、爆雷針を抱えたアリナが、空へと飛び立ったイャンクックの影に、爆雷針を次々に設置する。そして、
――雷鳴が轟いた。
起動した爆雷針は、頭上の雷雲から、その針に向かって、電撃が迸る。その電撃は、ちょうど飛翔していたイャンクックを貫き、次々に針へと流れる。
その雷撃に貫かれたイャンクックは、たまらず悲鳴を上げて、地面に墜ちる。
雷撃に貫かれて感電しているのか、そのまま立てずにいるイャンクック。その姿を見たヴェルデ達は、再び総攻撃をかける。
ヴェルデは再び鬼人化し、全体重をかけた乱舞を、イャンクックの頭部に繰り出す。
アリナは散弾Lv1を装填し、イャンクックの足に接近し、全ての弾を撃ち込む。
そうして、彼らの総攻撃を受けたイャンクックが立ち上がった時には、その大きな耳は斬り裂かれてボロボロになり、体を支えている足の甲殻も、一部が砕けていた。
しかし、狩人に向けるその瞳は、まだギラギラと光っている。
その目を向けられた狩人達の瞳にも、油断や慢心といったものは無く、ただ眼前の敵をどうやって狩るかという事しか頭になかった。
そうして睨み合うこと数秒、唐突にイャンクックは、背を向けて走り出すかと思えば、そのまま空へと飛び立っていった。
「おぉ、疲れたぜ...」
ため息をついて、その場にしゃがみ込むヴェルデ。彼の超人的なスタミナにも、さまざまな悪条件が重なって、相当な負荷がかかっていた。
「ごめんね、ヴェルデくん。数秒の為に、何分もヴェルデくんを一人で戦わせちゃって...」
申し訳なさそうに呟くアリナ、しかしヴェルデは、そんなアリナに、何ともないような顔をして、
「気にすんなよ、たとえ数秒だったとしても、その数秒が、狩りでは重要なんだから」
そうは言うものの、ヴェルデはかなり満身創痍だった。攻撃さえ直撃されてはいないものの、ハンターメイルの右肩は溶け、足場の悪い場所で、怒り状態のイャンクックと、長時間戦っていたせいで、息は荒く、肩で呼吸をしていた。
「だから、イャンクックの体力が回復したり、雨が止んだりしないうちに、追撃して勝負を決めようぜ!」
そう言って応急薬を飲むヴェルデ、アリナも「うん...」と言って応急薬を飲む。
「イャンクックはエリア8に行ったみたいだから、この洞窟を通っていけばすぐだ。行くか!」
勢いよく立ち上がり、台車を引いて、洞窟へと向かうヴェルデと、それを追うアリナ。
二人の狩人の頭上の空は、ますます暗さを増す、黒く、分厚い雲で覆われていた。
ちなみにこのイャンクック戦の為に、2ndGでヴェルデと同じ装備で何回も狩りに行ったことは内緒。
え?アリナ役のガンナーはどうしたかって?
ハハハ、そんな人(友人)いる訳ないであろう?(血涙)