Monster Hunter ~失ったもの、手に入れたもの~ 作:小松菜大佐
昼に近づきはじめ、少し人通りが多くなってきただろうか?
そんな事を考えながら、僕はシルフィードさんと共に、市場が多く集まっているエリアに歩いてきていた。人が多くて、凄まじい熱気が僕に直撃。うんざりとしてしまう。
太陽の位置が高くなり、当たる日差しがちょっと熱く感じる。
に、しても……
(シルフィードさん、人目を引いてるなあ……)
周りを行き交う人が、老若男女問わず必ず振り返りシルフィードさんに視線を向けてきていた。視線の主が男性ならどこか神聖視で、女性なら羨望と若干の嫉妬混じりと言ったところだろうか?
なんか、僕の場違い感半端ないな……。
「……む」
「どうかしましたか?シルフィードさん」
「いや、君を呼ぼうとしたら、君の名前を聞いてなかったと思ってな。呼べなかったんだ」
「あ、そうでしたっけ」
なんだかんだあったけど、僕の事なんも言ってないな。
「えーっと、僕はタクト・シノカワです。改めて、よろしくお願いします」
「あぁ、よろしく」
「……それで、どうして僕は呼ぼうとしたんですか?」
「おっと、本題を忘れていたな。すまない。……今君は、どこに向かっているんだ?」
そう問われた僕は、少し迷った後、謎の悪戯心を発揮する。
「うーん……後ちょっとで着きますんで、それまで内緒で」
「む、そうか。なら聞かずにいよう」
その後、歩きながら通りすぎる人の数を数えていて、それが25人を超えてそろそろめんどくさくなってきた頃、ようやく目的地が発見できた。
「あ、見えましたよ」
「そうか……ということは」
見えてきたのは、数人の武装した(・・・・)人が集まる場所。その人達は皆、己の武器を差し出したり、受け取ったりしている。
そう、この場所は……
「はい、ハンター用(・・・・・)の武器屋です!」
「……まさか、君も」
「………はい。僕は、ハンターになります」
「そうか……。どうしてか、だけは聞いていいか?」
「確かにこの職は安定はしていません……ですが、事業を起こすとしても元手はありませんし、かと言って何かの技術を持っているわけでもない」
「だからハンターになる、か」
「はい。僅かな資金で始めることができ、かつ訓練によっては護身術代わりともなります。命の危険はありますが。ですが、ハイリスクハイリターン。無茶な真似さえしなければ……」
そこまで言うと、シルフィードさんは嘆息した。そのシルフィードさんが浮かべる表情は、どこか憐れみのような、そして諦めのようなものでもある。
「同年代で、そこまで未来を見ながらハンターになる奴などいないだろうな。英雄気取りで始めて奴が大半だろう。まあ、そういう奴はすぐに諦めるが。とりあえず、否定はしない」
「ありがとうございます。そこでシルフィードさんには武器を買っていただきたいんです」
「なるほど、それでここに来たと。分かった……防具はいいのか?」
「さすがに、そこまでしていただく訳にはいきませんよ」
「………無謀は自分を殺すぞ?」
すっ、と細められた鋭い視線が僕を捉える。
確かに、そう見えるよね……。
「構いません。これ以上、人を頼ってしまったら、どこまでも甘えてしまいそうなので」
「……はぁ。君はある意味ハンターに向いているのかもな。リスク計算ができるという意味でな」
「それほどでも」
そう話している内に、武器屋はもう目の前のところまで来ていた。
「いらっしゃ~い!」
話しかけてきたのは、かなりテンション高めの女の人。
「どうかしたかな~!少年アーンド別嬪さん!?」
綺麗な蜜柑色をした髪をタオルで縛り、そこにドライバーやらカナヅチやらを挿している。服は煤でところどころ黒く染まり、まさに僕の『職人』イメージにぴったりだ。声がやたらでかい、女の人っていうこと以外だけど。
「あ、えーっと」
再び
「この子に合う武器を」
「りょーかい!とうっ!!」
大きく頷いたあの人は足に力を込め……と、跳んだ!?
「うわっ!?」
そして僕の目の前で着地。そのままぬっ、と手を伸ばしてきた。
「ふ~む、少年!結構筋肉あるのに腕細いね!私より細いとは何事だー!!」
さらに、僕の腕にあの人の指が這い回っていく!?
「うわ!?うわわわわ!?」
「ふむふむ!で、どうして片手だけなのかな!?もしかして、もう一本の腕はシャイなのかな!?」
(シャイな腕ってなんぞ!?)
「いや、その……」
なんと説明していいか分からず、さらに元からの上がり症も混じって言葉がでなくなる。
「少年にも、いろいろあってな。今片手しかないんだ」
そこにシルフィードさんのフォローが入った。さすがです、シルフィードさん!
その言葉を聞いた店員さんは、
「う、うぅ……うわあああああああああああああん」
号泣していた。
……って号泣!?
「ちょ、どうしたんですか!?」
「うううううう、少年も大変だねぇ~っ!お姉さん感動しちゃったよう!」
そう言うと店員さんは僕の手を握り、ブンブンと上下に振った。
「なにかあったらお姉さんのところに来て!いろいろサービスしちゃうから!!」
「あ、ありがとうございます」
手を離し、ずずっと鼻をすすって、涙をゴシゴシと腕で擦ってようやく、話が進み始める。
「……さて、何があったかは聞かないでおくけど、基本ここの武器は両手持ちだよ!どうするのかな!?」
「……え、そうなんですか!?」
まさかの新事実。軽いナイフとかないの!?
とも思ったが、
(あー、でもそうか。そんなので鱗を粉砕、切断することなんてできないよなあ……)
そう思い直した。そりゃそうだよな。
「そうだよー!で、どうするのかなー!?」
「うーん……一番軽い武器ってなんですか?」
取り敢えず両手で持つ得物は重量がありそうだ。この細腕一本で振れるかどうかは微妙だが、とりあえずはこう聞くべきだろう。
「片手剣だよ!」
「え、片手……?」
あるじゃん、片手で振れそうじゃん。
「じゃあ、それの一番安いのをお願いします」
「合点承知!少々お待ちを~!!」
言葉を残して、店員さんは店の中へ消えていっ
「はいよ~!!」
たと思ったらもう出てきていた。
「速っ!?」
「スピードが私の命だからね!はい、これが『ハンターナイフ』だよ!!」
そう言って店員が出した箱。
それを開けると、出てきたのは盾と小さな剣。特に目を引くその剣は、日の光を反射してギラギラと輝き、鋭利な事を自ら証明しているかのようだった。
剣は手一本で片手剣、でも盾があるから両手持ちってわけか。
「あ、盾があるから両手持ちって訳ですか」
「しょうゆうこと!」
しょ、しょうゆうことて……。
「ま、とりあえず剣だけ握ってみなよ!!」
「は、はい」
店員さんのセンスに戦慄しながら、ひとまず言われた通りに剣を握る。
(……重いな!?)
第一印象はそれ。
僕の腕の長さくらいしかないその剣は、自分の想像していたものより遥かに重量感があり、油断していた僕は思わず取り落としてしまいそうになった。
「どうだい?ちょっと重かったかな?」
「け、結構重くて、ビックリしました」
「でしょ?でしょでしょ?どうするの!?」
「うーん……もう一つ小さいサイズの物ってありますか?」
「待ってて……お待たせ!!」
「待ってませんよ!?」
一瞬店員さんの姿と同時に握っていた剣が消えたと思ったら箱に収まって小さいサイズに入れ替わっていた。
僕も、何を言っているのか、わからねえ……
もっと、恐ろしいものの、片鱗を、見たぜ……!
「だからいったじゃん。スピードが命って!」
「そういう問題……いや、まあ、いっか」
「そうだよそうだよ気にしない!んじゃ、早速握ってみなされぃ!!」
そう言ってさっきと同じように差し出される剣。
「は、はあ……」
もう突っ込まないでおこう。
諦めた僕は、店員さんに言われるがまま柄を握る。
「あ、これいい」
素直にそう思えた。
柄の細さ、刃の部分の長さ、重さ。さっきよりもずっと僕にあっている気がする。
「おお、そうかいそうかい!?じゃあこれにするかな!?」
「……本当にいいですか、シルフィードさん」
「ああ、君がいいなら構わない」
「……じゃあ、それでお願いします」
「わかったよ!ほかになにか注文はあるかなん?」
「何か?うーん……」
いきなり何か、と言われても困ってしまう。僕は少し思考を巡らせてみた。
……………
………
そうだ!
「あ、えっと。剣はどこに付けるんですか?」
「片手剣だと背中に、横向きで付けるよ!」
「それ、足に付けられますかね?左足に、縦向きで」
「それは別に大丈夫だよ!でも、普通ならお腹に巻く鞘を固定する紐をちょっと調整しなきゃいけないけどね!!」
「なるほど、ありがとうございます」
「ほかに何かあるかい!?」
「うーん……今は別にないです」
「りょーかい!んじゃ、お会計をば~」
「あ、それは私が出す」
そう言ってシルフィードさんが僕の前に出た。すいません、ご迷惑をお掛けして……。
「あいよ!今回は購入からでいいかな!?」
「ああ、それで頼む」
「んじゃあ、お会計500zでござーい!!」
店員さんから放たれた言葉。僕にはあまり意味がわからなかったが、シルフィードさんは面食らった顔をした。
な、なにかすごいことがあったんだろうか?
「ちょ、ちょっと待て。500って安すぎじゃないか?ほぼ半額だぞ?」
「え、半額!?」
僕も、回らない頭でやっと理解できた。は、半額!?
「いいのさいいのさ!聞くに少年、片手だけでハンターやろうって言ってるんでしょ!?感動したよ!!あとそんな子に協力してるお姉さんも最高!!」
「……私も?」
「当然!!」
そこまでまくし立てるように叫んでいた店員さんだが、ここで少しトーンダウン。
「後、結構打算的なところもあったりしてですねえ。こういう子、基本的にやめないんと思うんですよ。逃げ道が既にないからね。だから、のちのち強くなりそうな有望株を確保しておきたいという考えなのさっ」
そこまで期待されてるの僕!?
僕は緊張で思わず体を強ばらせる。
「そ、そんな事言われたら緊張しますよ」
「頑張れ頑張れ!ビッグになるんだよ、少年!!そしたら君も嬉しい、私も宣伝効果で売上アップで超ホクホク。お姉さんもいい目があるって話題になるから!!」
「私はそんなつもりで助けたつもりは……」
シルフィードさんはちょっと困った表情をしているが、僕としてはそれもいいなと思った。僕を助けてくれたお二人の宣伝ができるっていう事だよね?できるかどうかは微妙だけど……
「が、頑張ります……」
(や、やるだけやろう!)
バシバシと背中を叩かれながら、だらだらと冷や汗を流しながら、僕はそう決意したのであった。
時が経ち、傾いた日の光が僕らに降り注いでいる。
気づいたら24000字書いていた小松菜大佐でございます。
前回は塾直前投稿だったため、無言でしたごめんなさい。
さて、上にも書いたとおり書き溜めが合計……どうだろ。6話分くらいあります。
ですが、これから受験シーズン本番。成績もあれだったので、連投せず、時々投稿するくらいの気持ちで逝きます。
これからも、どうぞよろしくお願いします。
※ちょっと前の話で、修正を加えました。
ドンドルマ→ミナガルデ
勘のいい、記憶力のある方はこれからの展開が読めてしまうかもしれませんね。