Monster Hunter ~失ったもの、手に入れたもの~ 作:小松菜大佐
一旦ここで立ち止まって、予想してから見てみてください!
「はぁ、はぁ……」
再び、世界から音が消え、僕の息遣いだけが聞こえるようになる。
さっきまで僕がいた空間と対局にあるような静寂、それはすぐに破られた。
「グゥゥウウ……」
「きたね……」
エリア7から追いかけてきたドスゲネポスと向き合う。
これからはタイマンだ、逃げることは許されない……。
(やるしか……ない)
口に溜まっている唾を嚥下し、唇を舐める。
「来いっ」
「グゥワオァッ!」
最初に動いたのは、ドスゲネポス。その攻撃は、鍛えられた強靭な筋肉から生み出される、とても速い飛びかかりである。
凄まじいスピードだ。
しかし、僕はその攻撃が来ることが完全に読めていた。
基本的に、ランポス系統のモンスターは攻撃方法が少ない。飛びかかり、爪の振り下ろし、噛み付き、体当たり、尻尾をぶつける。たったこれだけだ、しかも、さっき僕とドスゲネポスは結構な距離があった。もう、攻撃方法は飛びかかりのみに限定されていたようなものなのである。
「ッ!!」
僕はそれを再び飛び込みで躱す。勢いそのまま駆け出して、僕は近くに転がっていた少し大きめの石を拾った。メリケンサックもついていない拳では、鱗に覆われた敵にダメージなど期待をすることすらできない。
再び視線をドスゲネポスに視線を向ける。そこには、
「グルル……グギャオァアアアアアアアアアア!!」
ただの人間を二度も捉えられず、完全に怒ったドスゲネポスがそこにいた。
(よっしゃ!)
僕は、予定通りに進んでいく状況に思わず歓喜した。これを待っていたんだ!
モンスターは怒れば攻撃力が増すらしい。しかしそれを僕は代償として隙を大きくする、ようするにおお振りの攻撃にすることによる物だと考えている。
爪だと近すぎる距離、僕は相手が大きく噛み付いてくると予想した!
「グァォ!」
そして、それはまさに的中、僕は最低限の動きでそれを躱し相手の側面に立った。
「はりゃあっ!!」
閉じきられた顎に向かって、僕はサマーソルトキックをぶちかましてやる。僕はある程度格闘術を習っていたんだ、このくらいはできる!
そして閉じきられた、噛み締められた口に強烈な蹴りが入るとすごい痛い。これ体験談。
「ギャッ!?」
まさか反撃を受けると思っていなかったのか、思わずといった風にドスゲネポスはふらつき、顎を地につけた。
ここだ、と言わんばかりに僕は強気に突撃。ここでさっき拾った石が武器と化す。
「せいっ!おらっ!せいやぁ!!」
僕はひたすら石を振るった。狙うは顔、できれば目を損傷させたいところ……!
ガッ!ゴッ!ガスッ!
僕はちょっとグロいかな、なんて考えながらひたすら殴り続ける。しかし、
「グルル……グギャアアアアアッ!」
「うわ!?」
しかし、それはかするだけで致命傷になりうる僕にとってそれは驚異である。僕は急いで距離をとることになった。
「グゥウオオオッ……!」
起き上がったドスゲネポスの怒りに染まったその瞳。
しかしどちらも異常はないようで、僕の目論見は外れてしまった。
ドスゲネポスもバックステップで距離をとり、再び位置関係は振り出しに戻る形になった。
なら、次くるのは当然……
「飛びかかりッ!」
「グギャアァアアオッ!!」
予想的中。再びドスゲネポスは大きく飛びかかってきた。
「よっと!馬鹿の一つ覚えか――――」
無防備にさらけ出された側面。それに向かって思いっきり蹴りを繰り出そうとする……が。
「――――しまっ!?」
僕はよくわからないものによって、態勢を崩してしまった。
(何が、起こって―――)
下に流れていく視界、見えたそれは。
(糞かっ!?しまった、忘れてた!)
そう、それはエリアに入った時に見つけたアプケロスの物と思われる糞だった。僕はそれを踏んで、足を滑らせてしまったのだ。
今度は僕が無抵抗になってしまったこの体勢。
「やばっ……っぐあ!?」
その生まれてしまった決定的な隙を、砂漠の狩人は見落とさなかった。
一瞬の間もなく、鞭のようにしなる尻尾が僕に近づき、捉える。
「うわあああああああああああ!?!?!?」
痛みを感じた瞬間、簡単に吹き飛んだ僕の体。ぐるぐると回る僕の視界。
「がふっ!!」
その果て、岩に叩きつけられることで僕は停止した。
「う、うぐぐっ……」
肺から強制的に空気が排出され、意識が明滅して立ち上がることができない。
「ち、畜生……目が、回る…」
首を振ってみる、しかしそんなことが通じる訳もなく視界は揺れ動き続ける。
気持ち悪い。
明滅し、遠のいていく意識。その先でドスゲネポスの声が聞こえてきた。喜色、いや安堵か?自分の障害が消えたことによる安堵に聞こえなくもない。
「ギャオワッ!ギャオワッ!!」
「……うっ…ぐううう…」
太ももをつねってみる、頬を叩いてみるがまったく意味なし。近寄ってきたドスゲネポスが再び声を上げる。そして、その開いた口がそのまま僕に近づいてきた。
「う、うわあああああああああああああああああああああああぁああぁああっっ!!?!?」
(噛まれる!?)
ドスゲネポスの鋭い牙が唾液でてらてらと輝いているのが分かるほど、それはもうすぐそばまで来ていた。目指しているその先にあるのは―――――首。
僕は反射的に口と自分の間に腕を、左腕(・・)を滑り込ませた。
そして、
「ぐ、があああああああああああああああああああああああぁ――――」
左腕に感じたこともない激痛が走り、悲鳴が勝手に口から漏れた。しかし、それも意味のわからないしびれによって空気が抜けるだけになっていた。
(そうだ、ゲネポスの……麻痺毒か…)
痛みも麻酔を打たれたように消え、神経を直接触られているような、思わず鳥肌が立つような嫌な感覚。
血が流れているはずなのに何も感じず、また体に全く力が入らない。
視界が回り、少しの浮遊感の後どさっ、という音が聞こえた。
視界がいつの間にか地面と平行になっていて、それは僕の体勢によるものだと理解できた。そしてさっきのあの音も自分による物であることも、ドスゲネポスに投げ捨てられたことも。
砂煙が少し起こるなか、僕は絶望した。
(だ、ダメだ……)
指の一本、筋繊維の一本すら動かせず、僕は目を開いたまま地面に横たわる。
(生き残る、術がない……)
僕にはもう、切れるカードが残っていない。父さんが、母さんが命を代償に得た命であるというのに、無駄になってしまうのか。
(ここで、死ぬのか……?)
死に直面したその時、僕の体を冷たいものが満たした。これは寒さじゃない。確かに自分の中に存在している何か…そう、恐怖だ。
(嫌だ……怖い…)
目の前に横たわるそれ(・・)。
それをしっかりと知覚した僕の前にそれは、形をもって顕現した。
ドスゲネポスという名を、肉体をもって。
(『死』―――)
たった一文字。それだけが、僕の脳を完全に支配する。
(僕は、どれだけ無力なんだ)
何が格闘術を習っていた、だ。
何が勉強した、知識を得た、だ。
今この時、それらは全く無意味じゃないか。何一つ役立たないじゃないか。
汗が、鼻を伝って流れていく。しかし、それを拭う手も、動かすことができない。
恐怖と諦めに打ちひしがれていた僕に飛び込んできたのは、近づいてくるドスゲネポスの足音
……僕に、ついに死の瞬間が訪れたようだ。
(………?)
死を覚悟した僕。そして最後に、感じたことは―――違和感。
(な……んだ………?)
そう、視界に一瞬だけ映ったのだ。ドスゲネポスではない、かといってドスガレオスでもない、それはまさに人のような――――
「グルルルルル……」
ドスゲネポスの声色が安堵から一転、警戒をにじませ始める。
さらに異変は続く。僕と、ドスゲネポスの他に、もう一つ足音が混ざっているのだ。
そして、僕は気付いた。聞こえてきたそのドスゲネポスの足音は、遠ざかっていくもの(・・・・・・・・・)だったということを。
(訳がわからない。一体何が……?)
僕が疑問符を頭に浮かべていた、その時。
「グギャアオワッ!!」
ドスゲネポスがその違和感に飛びかかっていった。
「………セイッ!」
そして、その瞬間。
その違和感は、完全に異変へと変貌した。ドスゲネポスが、弾かれるように吹き飛んだのだ。
ドスゲネポスが視界から消えたことで、その異変が僕の視界に入る。
その正体は、
(綺麗だ……)
月光を背負って立つ、蒼銀の戦士。
影になっていてよく見えないが、身の丈とほぼ同じ、もしかしたらそれより大きいくらいの剣を振り切っているのが月光を反射する光で分かる。そして体に纏っているのは明らかに普段着ではない。防具だ。背は、僕より高いか、同じくらいか。
ハンターだ。そしてそれは多分、救援の人だ。
「………」
チャキッ、という金属音が無音の空間に響く。そして、ハンターが動いた。
(速い!?)
僕は驚いた、だって何十キロにもなりそうな防具を着込んでなお、僕より速く動いたのだから。
無言のまま振り下ろされる剣は、未だにふらつくドスゲネポスへ一直線に向かう!
肉が裂ける音、そして振り下ろされた剣が地面に刺さる音がここまで聞こえてきていた。
「ギャァッ!?」
飛び散る鮮血、響く悲鳴。
しかしハンターは容赦をせず、追撃を加え続ける。
次々と増えていく傷、ドスゲネポスは自分の血液で真っ赤に染まっていた。
「……グ、グギャアオアァッ!!」
だが、ただただやられ続ける訳ではなく、無理やり起き上がってバックステップで距離をとるドスゲネポス。しかしそれも、ハンターが一瞬で間を詰めることで無意味となった。
「ハァッ!」
勢いそのまま、裂帛の気合とともに放たれる横薙ぎの一撃!それは確かにドスゲネポスの足を切り裂いて、吹き出した血がさらにドスゲネポスを赤く染める。
(す、すごい……)
僕はこんな、腕から血がどんどんと流れている状況なのにも関わらず感動していた。
剣が閃く度に血が舞い散り、反撃する敵の攻撃をするりと躱し、剣の腹で受け止め、受け流し、全く寄せ付けない。その完璧な、完全な動きに僕は心動かされていた。
場を支配しているのは確実に、あのハンターだろう。
「グ……グゥウ………」
気づけば、ドスゲネポスの発する声は最初とは比べ物にならないほど弱々しいものになっていた。
「グォオワアァァッ!!!」
そして、ドスゲネポスが最後の力を振り絞るように飛びかかっていく。
まさに死力の一撃。それは今まで見た中で一番スピードが出ており、まともに受ければ人など簡単に、紙のように軽く吹き飛ばされるだろう。
しかしそれもハンターは読んでいたようで、ほんの少しの動きだけで回避。
「フッ!」
刃一閃!
ほんの一瞬。瞬きする間に、ドスゲネポスの首が宙を舞っていた。
少し遅れて噴水のように飛び散る鮮血。
(お、わったのか―――)
あのハンターが剣を収めた瞬間に、僕は生き残ったと理解した、そして、僕の意識はどこかへ落下するようにブラックアウトしていく。
最後に見えたのは、地面に刺さった月の光を受けて輝く剣。そしてどこか神々しささえ持つ血に濡れた戦士が近づいてくる姿だった。
さて、もうお分かりでしょう!
今回登場していただいたのはクールな大剣使い!『蒼銀の烈風』!知性派ハンターシルフィード・エアさんです!
いやー、やっと書くことができて、感無量って感じですよ!
……このキャラクター、僕の好みにかなりストライクでして。ええ。メガネが似合うんじゃないかなーって妄想しています。あ、言ってなかったと思いますが、僕は眼鏡属性持ちです(爆)
話がそれました。そんで、ルフィールさんと同じくらい好きなんですよ。でも最近ルフィールさん、ヤンデレ化してきて怖いんですよね……だから今は大分シルフィードさんに流されてます。
次話も投稿できるはず……。
では~