Monster Hunter ~失ったもの、手に入れたもの~ 作:小松菜大佐
ジーグ君たちはやっぱりこの後にクエストがあるらしく、その用意のためにそれぞれのギルドハウスに戻ったようだ。まだまだ続くざわつきの中、僕だけが一人残される。
窓から外を見ると、着いた頃にはまだ上の方にあった日が傾き、空は朱に染められていた。
夜が近づき、狩りを終えたハンターたちによってどんどんと席が埋まっていく。ベッキーさんも忙しそうに動き回っていた。
「……よし」
僕は一人だけになったテーブルを立ち、椅子を元に戻す。そして僕は歩き出した。その先にはクエストカウンターがある。
クエストを受ける人が減り、暇そうにしている受付さんに声を掛ける。
「すいませーん」
すると、受付さんはすぐに姿勢を正して営業スマイル100%で応対してくれた。
「はい、なんでしょう?」
「クエストを受けたいんですけど……」
「登録証をお見せしていただけますか?」
「どうぞ」
さっき渡されたペラい紙を受付さんに渡す。
「……確認しました。タクト・シノカワさんですね?今回はどのような物をお探しですか?」
「ドスランポスか、ドスファンゴあたりの狩猟依頼来てませんかね?」
ドスランポスは、鳥竜種の一種であるランポスの上位種。ドスファンゴは牙獣種の一つであるファンゴの上位種である。どちらも初心者ハンターにとっては楽ではないモンスターだが、僕が何度も戦ったイャンクックと比べればどうということもない。
なんせ、イャンクックは鳥竜種だが、飛龍に数えられる程強力なモンスターであるからだ。鱗は硬く、吐き出される火炎、大きな嘴や尻尾に付いた鋭い棘を受ければ、僕の体は簡単に死んでしまう。それに比べれば飛ばない竜に強い猪など児戯に等しかった。
「……ちょうど、定期のドスランポス狩猟依頼がありますね。フィールドは密林です」
ちょうどいいクエストがあったようだ。僕は迷わず飛びつく。
「では、それでお願いします」
「分かりました」
そう言うと一枚の紙を取り出し、慣れた手つきで持ったペンを走らせていく。さらさらという音が、聞いていて心地いいほどだった。
「契約金はどうされますか?」
「引き落としでお願いします」
「分かりました。現在の残金は18050zですので、100z差し引いて17950zとなります」
そして、さらさらという音が止みこっちに差し出された。あれだけ早くペンが動いていたのに、凄く綺麗な字だ。真面目に書いた僕の字より綺麗である。
「では、依頼内容をご確認の上こちらにサインをお願いします」
(ふむ、サブは肉食竜の卵の納品にランポスの討伐か。ランポス討伐はやっとこう。サーペントバイトに後ランポスの皮が2枚足らなかったはずだからね)
まだハンターカリンガ改にすらできてないけど、先に先に終わらせておいて丁度いい。その次に作る予定のヴァイパーバイトの素材も、もう集め終わっている。あとはランポスの皮が足らないだけだったのだ。
なぜハンターカリンガ改に先にしないのか?という疑問も出そうだが、簡単だ。目指してる物に一気に到達できた方が心地いいからである。
そう思考しながら、報酬金をぼったくられてないかなど、いろいろ確認していく。
(よし、特におかしいところもないな。サインサインっと)
受付さんからペンを受け取り、長方形の欄に名前を書き込む。
「ありがとうございます。期限は明後日の朝までとします。ご武運を」
クエストを受けた後、僕は一度ギルドハウスに来ていた。装備を整えるためである。
中は、フローリングが貼られていて、普通のベッドが一個。そしてアイテムボックスが置いてある。普通以外の言葉で言い表せない部屋である。
「でも、やたら綺麗でも気持ち悪いしね。ちょうどいいや」
そう呟きながら、取り敢えずバッグをベッドの上に放り投げる。そしてそのまま、アイテムボックスを開いた。
「お、入ってる入ってる……っと!」
中に見覚えのある革袋を発見。これは手で持っていくには重く、着ていくのはめんどくさい武具を先に送ってもらっていて、それら全てが入っているものだ。
「ふふーん♪」
手一本で開けるのはもう慣れた。一本ずつ解き、中に入っている物を取り出す。
あの日作ってもらったハンターナイフを強化し、鉤のように刀身が大きく曲げられたハンターカリンガ。そして僕の努力の結晶であるクックシリーズ。後、クックシリーズにはなぜか頭装備と足装備がないので、代わりであるバトルグリーブである。頭装備は、別の物があって付けることができない。
「よし!刃こぼれもないし、さっさと装備しよっと!」
これらの武具、全て装備するには時間がいる。
防具はまず、グリーブから。ズボンを履き、グリーブを履いて金具を止める。次にフォールド。これは巻いて再び金具を止めるのみなので簡単。時々、意匠として付けられている棘が刺さって痛い思いをすることはあるが。そしてメイル。これは外側に甲殻が貼られているだけでただの服だ。これも簡単。
防具は簡単だ。しかし、盾の装備が面倒なのだ。
一度、ベッドに座る。棘が刺さらないように尻の部分は持ち上げてから座った。
そして、盾を取り出し、これからの作業に溜息をついて、作業を開始した。
「う、うぐぐぐ……」
盾を腕にはめた後、固定用の紐を口で引っ張り、わずかに開けられている空間に差し込み、金具で固定しなければならない。この差し込む作業が面倒なのだ。
「――――ッ!(入らねー!!)」
チッ、チッとかする音は聞こえるが、うまく入ってくれない。
駄目だ、このままでは息が持たない――――と思ったとき、耳元でカチッと聞こえた。そこで口を離し、大きく息をつく。
「は、入った……」
今日、一番疲れたと断言できるだろう。それだけの疲労感に襲われていた。
しかし、ずっと座りこんでいるわけにはいかない。僕は、夜でないと戦えないのだ。
僕は頬を叩こう、として頭を盾で打ち付け悲鳴を上げた後、立ち上がって最後に残ったハンターカリンガの入った鞘を取り出す。
「よい……しょっと」
それを盾が付いた腕で苦労しながら、左腿に付けた。これはハンターになりたての頃から変わっていない。やっぱりこれが、一番しっくりきたからね。
「よーし、かんせーい!」
一人で万歳三唱でもしようか、と考えなくもなかったが、さすがにそれはかわいそうな子になってしまうので却下。アイテムボックスをもう一度覗き込む。
「えーっと……あ、あったあった」
僕はそれぞれの用意をいろんな袋でまとめてある。腕一本だと、物を探しているときに他の物を破損させてしまう恐れがあるからだ。
そして取り出したのは緑色の袋。これには狩場に必ず持っていく道具類が入れてある。もともと白色だったんだけど、回復薬の瓶が割れて中身が……いや、思い出さないでおこう。
僕はうっかり黒歴史に葬り去った出来事を思い出してしまい、顔をしかめた。しかり止まっている訳にもいかずその袋を担いで外に出る。
夕焼けの朱の中、向かうは密林である。
◆
馬車に揺られて1時間ちょっと。
空が朱から黒へ勢力が交代した頃、ようやく僕は密林にたどり着いていた。
「ふう……っうう~!!」
僕はすっかり固まってしまった背骨をパキパキと鳴らしつつ、大きく伸びを一つ。
「……っぷは。やっと着いたか~」
ひたすら、変わり映えのない草原を見続ける1時間というのは、なかなかに過酷なものであった。山の中腹にあるから、もっと近くにあるもんだと思い込んでいたが……甘かったようだ。
「んじゃ。支給品ボックス、御開帳~お?携帯シビレ罠に捕獲用麻酔玉?これは捕獲せよという神からの指令か!?いや~盛り上がってまいりまし……た……」
夜の密林、みんみん、とどこかから聞こえてくる虫の声。一人でぶつぶつと呟きながら勝手に盛り上がっている僕……ヤバイ。これはヤバイ。端から見たら変人、いや変態?いやもう狂人?
「あぁ~うがあああああ~」
こうやって頭を抱えて唸っているのも、さらに変人さを助長させていて、それでまた唸って……ああ、なんというジレンマだろう。
「落ち着け。ビークールだ。中身は?もう一回見てみよう」
暴れまわる思考回路を、深呼吸によって送られてきた冷たい空気で冷却する。
「回復薬、地図、携帯食料、携帯砥石……うわ、支給用閃光玉まである。けど使わないだろうな……。んじゃ、持つならこいつと、こいつと……」
そうやって、持っていく道具の取捨選択をしていきバッグに詰める。
「よっし、んじゃ始めるか!!」
ここで、持ってきたバッグをもう一度漁る。そう、この中に残りの頭装備が入っているのだ。
そして取り出したのは、
「これがないと本当にやってられないよ」
耳あてである。
イャンクックなどにある鳴き袋。その中で声を幾重にも反響させ、一気に放出することで飛龍は大きな咆哮をすることができると考えられている。
僕は最初、イャンクックを撃破することにとても苦労した。なんせ、片手がないことで両耳が塞げないのだ。鳴く、と思った瞬間に一目散に逃げ出すことを繰り返してなんとか撃破したものの、イャンクックでこんな状況では、もっと大きな咆哮を出すとされているフルフル、ディアブロスなどと戦うのは困難を極めるだろう。
そこで鳴き袋の反響する効果を利用し、それを外側に貼り付けた耳あてをあの店員さんに特注で作ってもらい、今ではそれを狩場に欠かさず持ってきている。まあ、そのおかげで耳から得る情報は無。さらに頭防具をつけることができないというリスクはあるが、それを補って余りある効果を持っていると僕は考えている。
(装着……っと)
耳に装着した瞬間、世界から音が消えた。
ほんの数秒前まで聞こえてきていた虫の鳴き声、風に揺れる木々のざわめきも、自分の息遣いすらも、何も聞こえてこなくなった。
(この感覚だよ。いつものこの感覚)
そして、耳当てに一緒についているゴーグルを装着する。モンスターの攻撃によっては地面すらも破壊するなど、破片だけで危険な、自分を傷つける武器になることもある。それが目に入ったらそれこそもうハンターとしては終了となってしまう。これ以上体を傷つけないために僕は万全を期さなければならなかった。
きっちりゴーグルがはまったことを確認し、僕はまたまた道具袋を漁る。
(えーと……あった。『千里眼の薬』)
この薬、飲むと千里を見通すほどの視力を得ること……は残念ながらできない。そんなのあったら悪用される。実際は嗅覚を数倍に強化し、モンスターの体臭を頼りにある程度の位置を割り出すことができる薬である。
それを一息にグイっと……
「……んぐ、んぐっ……ぷはっ。うえ……」
舌に、口全体に甘苦い味が広がる。僕は思わず顔をしかめ、舌を出した。
(まっず……まあ、良薬は口に苦しってやつか?ちょっと意味は違うかも……)
そんなことを考えた、その後。急に鼻づまりが通ったような感覚がして、突然ツン、と肉食竜特有の臭いが鼻を突いてきた。
その匂いの元を感覚でおってみる……。
「むむむ……これは、エリア6……いや。むしろそれ読みのエリア5と見た!」
僕はその臭いの根源はエリア8を移動していた。おそらく、これからエリア6、そして5に向かうのではないか……と僕は予想した。
「よっしゃ……って、つまりここ登るってことだよな……」
エリア5に行くには二つの道がある。
一つはエリア1から迂回していく方法。しかしこれは千里眼の効果も切れた後、さらに探さなければならなくなるという可能性もある。
ということで、もう一つの方法としてあるのが目の前にそびえ立つ崖を、頼りない蔦だけを辿って上る方法。こちらの方が早く済むことには済むんだが……途中で手を離したかと思うと……
「ヒィィ……い、いや!やらなきゃ逃げちゃうよ!!」
少しの時間しか効果が出ない千里眼の薬の効果も、考えているうちに切れた。
「よっ、ほっ、ほっ、ほ……」
恐怖心を押し殺して、ギシギシと軋みを上げる蔦に命を預ける。
そして、上を目指してひたすら蔦を引いた。
◆
荒ぶる心臓を、深呼吸でなんとか押さえ込む。草の匂いが僕の鼻をつくがそれを気にしてはいられない。
(落ち着け、もうあいつは来てるんだ……)
僕は茂る草の中、投げナイフを抜いて伏せていた。
ちなみに、もともといたランポスは全滅済みである。ドスランポスと連携されてはたまったものではないし、サブターゲットの達成による報酬、そして新たな武器を手に入れるための糧として、命を頂かせてもらった。
そして今、目の前には、形を持った死が動いている。
それは青い体色を持ち、頭にある大きな赤いトサカが思わず目を奪われる。それが細かく首を動かして、敵はいないかと警戒していた。
「グルルルル……」
目標のドスランポスである。それがちょうどエリア5に現れたのだ。
(よし、そろそろだ……)
耳元で動き回る大きな足音を聞きつつ、僕はエリア6につながる洞穴の近くにいた。
(早く通り過ぎてくれ……)
落ち着けた心臓が、再び暴れだそうとする。
「………」
そして、ドスランポスの巨躯が僕の前を通り過ぎた!
(今だ!!)
その瞬間、僕にシナプスに似たものが頭を、背中を、体全体を駆け巡っていく。
それに素直に従って、僕は姿勢を低く駆け出した。
「……グォッ?」
僕の足音が聞こえ不審に思ったのか、突如周りを見回すターゲット。
しかし、ドスランポスの習性というか、癖というか。こいつは必ず、体を起こして周りを見回すのだ。でも、姿勢を低くした僕の姿を捉えることはできない!
僕は投げナイフを投げず、あえてそのまま突き刺した。こいつはかなり特殊な金属でできているらしくて、投げればあの古龍の鱗でさえも貫くという。古龍なんて戦ったこともないが。でも、それはなんとなく分かる気がした。前、ちょっと試し切りと思って野菜を切ったらその下のまな板すら切断したから。
そして、その切れ味は遺憾なく発揮され、刃の部分が完全に肉体にめり込むくらいのレベルであった。
「グォウ!?」
ランポスは、いきなり体を貫かれたことに驚いたか驚愕混じりの悲鳴を上げる。
(まだまだ!)
その様子を見ながら、僕は背中側から正面よりの左側面へ回り込んで。
「うおおおおおおおお!!!」
そのまま、左目へ突き刺した。
「ギャッ!?」
プチっと、なにかが弾けるような感触がした。少し嫌悪感がして鳥肌が立つが、それを抑えてナイフをグリグリと相手にねじ込んでいく。
「―――――ッ!?!?」
おそらく、今ドスランポスは自分の体験したことのないような激痛に襲われているだろう。気の毒だが、僕たちの生きるためだ。許してくれとは言わないけど。
「……っらぁ!!」
そしてナイフを抜いて、血が吹き出すのを再びナイフを差すことで塞ぐ。貫通させるくらいのつもりで突き刺してやったが、さすがに骨を貫通させることはできなかった。
「ッ!!」
そしてナイフを突き刺したまま、今度は左腿にあるハンターカリンガを抜いた。ハンターカリンガは鉤爪のようになっていて、斬るだけでなく突き刺す、引っ掛けて引き裂くなどいろいろなことが可能な万能武器なのだ。
それを僕は胴体に引っ掛けて……
「ごめん!!」
思いっきり引いた。
「ギャオァアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?」
鱗に弾かれながらも、無理やり鱗に引っ掛けて引き剥がす。剣先が肉を抉る感触が手に届いてきて悪寒が走るが、歯を食いしばって耐える。
「ギャアアアアアアアア!?!?」
(このまま一気に……ッ!?)
しかし、鱗によって刃が途中で阻まれる。瞬間、僕に電流が走ったような感覚が走った。
僕はその感覚に従って迷わず剣を捨て、盾を構える。
瞬間、腕に痺れるような衝撃が走った。
「っぐあ!?」
空気を切り裂く音が聞こえる、周りに見える景色が猛スピードで過ぎ去っていく。
その中、青い尻尾がムチのように撓っていっているところが見えた。なんとか、起き上がったドスランポスにその尻尾で殴られたということは分かった。
「い、いっててててて……」
その後、少し地面を滑ってようやく止まった。擦過傷がひりひりと痛むが、そんなこと気にしてたら今度は二度と痛みを感じることのない体になってしまうだろう。
それだけは避けなきゃ……!
「いよっと!」
後転倒立の要領で立ち上がり、再び盾を構える。もう相手は準備を整えている、いつ来るか分からない!!
「ギャオワッ!!」
構えて間もなく、再びの衝撃。
「ぐぅ……!!」
ドスランポスの鋭い爪による一撃を、コースの予想をしてなんとか防ぐ。今は向こうのターンだ。耐えろ……!
盾に爪が擦れる嫌な感触、そして何度も襲い来る衝撃。僕のスタミナは切れる寸前だ。
「はぁっ、はぁっ……ぐあっ!?」
そして僕は思わず体勢を崩してしまい、大きな隙を生んでしまった。そこをドスランポスは見逃さず、体当たりで僕を吹き飛ばした。
「う、うぐぐぐ……」
再び景色が後ろに流れていく。その果て、僕は壁に叩きつけられてしまった。
「……はぁ、はぁ………げっほ、げほ……!」
肺から空気が強制的に吐き出され、僕は思わず咳き込む。脳が揺らされたせいで、視界がぐらぐらと揺れて立てなくなってしまった。
そして響く、狩人の笑い声。
(ま、またか……この感じ、久々……だよ!!)
場所は違えど。モンスターは違えど。
それは、確かにいつだったか、どこかで見たような光景で。
(あの日と……同じだ)
僕は心が震えた。
それは、恐怖?命を失うことへの?
それは、虚脱?目の前で蠢く狩人の強大さからの?
(確かに、それもあるだろう……でも)
でも、今、僕には何もできないか?あの時のように、何一つ抗うことすらできないのか?
それならじゃあ、お前は何のために生き延びてきたんだ!?
(ふざけんな!お前には、新しく手に入れた物が何もなかったのか!?)
「違う!!」
僕は盾をあえて構えず、体の左側に振りかぶった。
「ギャアッ!!」
ぐるぐると回る視界の中、そんな勝ち誇った鳴き声が遠くから聞こえてくる。そんなところまで、あの日の時と状況が酷似していた。
でも、今日、あの日のように、シルフィードさんが颯爽とやってくる訳などない。だから、シルフィードさんにもらったこの剣で、あの剣を振るう姿が教えてくれたこの気持ちで!!
「うおりゃあああああああああ!!」
切り開いてやる!!
振りかぶった盾を適当なところにフルスイング。すると、僕に噛み付きをしようとしたドスランポスの顎をかち上げ、相手をひるませることに成功した。
「グオッ!?」
完全に勝利したと思っていたのか、カウンター気味に入った攻撃は逆に相手の脳を揺らし、ドスランポスはフラフラと体を揺らしてうめいている。
「う、うおおおおおおおお!!!」
脳震盪から回復した僕は、倒れた姿勢からうつぶせになって低い姿勢で駆け出す。
そして敵の後ろに回り込んで、そのままローキックを繰り出す。
いくら竜とは言えこのランポスなどの鳥竜種は、ガノトトスなどの魚竜などに比べればまだ人間に近い構造であり、関節、筋肉などで動いていると既に解明されている。それを狙って攻撃すれば、当然竜だろうと体勢は崩はずだ。
僕はここで、人間でいう膝辺りを攻撃。まあ、要するに膝カックンを狙ったのだ。
そしてその目論見は見事的中。相手は膝を落とし、無防備な巨躯を目の前に晒してくれた。
「これは……返してもらうよ!」
ここで突き刺さっていた剣を回収。再び少し前のような状態に。
「うわああああああああああああああああ!!!」
そしてまた、何度も何度も相手に突き刺す。何度も何度も相手を切り裂く。溢れ出す血液が地面に広がって、地面をどす黒く染め上げていた。
「グルルル……!」
押されていると理解したのか、突如背中を向けて走り出すドスランポス。
「逃がすかっ!!」
それを見た瞬間、僕は迷うことなく剣を捨て、ポーチから支給されていた閃光玉を取り出す。
この閃光玉、ピンによる起爆ではなくボタン式で、僕にとっては嬉しい代物である。
「せぇ、のっ!」
結構なスピードで遠ざかっていく背中、そのさらに先へ起動した閃光玉をぶん投げる。そして、それは逃げるドスランポスの鼻先に落ちた。僕は急いで目を瞑る。
瞬間、弾ける閃光が黒に染まっていたはずの視界を白に塗りつぶした。
(う、やっぱりきついなこの光!)
思わず一本しかない手で庇いそうになるが、衝動を押し殺して無理やり目を開く。
目を瞬かせると、コマ送りのようになった視界でドスランポスが悶えているのが分かった。
「今だ!」
僕はハンターカリンガを回収、駆け出して一気に距離を詰める。
「せいやぁっ!!」
剣を目一杯、遠心力すらプラスして思いっきり叩きつけ、薙ぎ、切り上げて、袈裟懸けに振り下ろす。その度、ドスランポスから鮮血が吹き出、舞い散る血飛沫。それを浴びながらも、僕は嫌がることなく、剣を振り続けた。
「らっ!せいっ!はりゃあっ!!」
対する目標のドスランポスは大した抵抗もできず、ただ僕になます切りにされるのみ。
このまま討伐できるか……?そう思ったが、さすがに甘かったようで。
「グウウオオオオォォオ!!」
「うわっ!?」
何回突き刺したか数えることもできなくなった時、怒りに狂ったようにドスランポスが突き刺さった僕の剣ごと立ち上がり、別のエリアに向かって駆け出した。
(駄目だ、これは一旦エリアを移動させた方がいいな)
スピードに乗って、どんどんと小さくなっていくその背中に溜息をつき、僕は地面が血で濡れているのも構わずにその場へ座り込む。
(ふぅ~……)
光源は何一つなく、空に輝く星々が眩しく感じる。僕の吐息が空に溶けていった。
まだまだ、戦いは終わりそうにない。
物語的な意味でも、リアルな意味でも、このタイトルをつけました。
そう、狩りの半ば。
僕は、こんな中途半端な場面でありますが、更新を一時中断しようと思います。
そして、もう一つ。
次話更新は『未定』です。
受験が終わり次第、講談社かファンタジア、MFの新人賞に応募しようと考えているためです。ちなみに応募するのはメインで投稿している物ではないです。
本当に半ばなところで止めるのは悔しいですが、一度本気で小説を作ることで、少しスキルアップできるのではないかと考えているところもあったりします。
小説家になろう様にて、その断片である短編小説が投稿されています。それに似たような小説が書店に並んでいたらそれは僕ですうへへ。捕らぬ狸の皮算用ですねww
では、また、どんな形であれ、皆様と会える事を楽しみにしています。