Monster Hunter ~失ったもの、手に入れたもの~ 作:小松菜大佐
最初は主人公が物理的に、次は作者の文章的に。
しかも、モンハンまだ関係してません。
俺は、俺が嫌いだった。
「うわぁキモッ!」
「寄んなこっちくんな死ねっ!!」
俺は、この体が。こんな体を作った親が。周りのやつらも、嫌いだった。嫌いになった。
「陰気なやつよねー……」
「関わんないほうがいいって!」
友人たちの痛烈な言葉。
悲しかった。
悔しかった。
俺は何もしていないのに。
ただそこにいるだけで、拒絶され、気味悪がられ、軽蔑される。
神がいるというのなら、そいつは俺にどうしろと言うのだろうか?
こんな抵抗する事さえできないこの体で。翼があるわけでもないこの体で。
いや、むしろ神は試練しか与えてはくれなかった。
一瞬だった。俺が全てを失ったのは。
何も変わらない生活。
揺られる体、耳から流れてくるお気に入りのバンドのロック。
しかし、凄まじい音を聞いた後から全てが壊れた。
車で揺られていたと思ったら、目の前に一瞬で壁ができた。そして目が覚めたら病院だった。たった、それだけ。体感では3秒にも満たない出来事である。
病院で、あの凄まじい音がタイヤの擦れる音、ブレーキ音だった事に気付いた。そして、自分の身に事故が起きたことも。
その病院の医者からの話によると、とある交差点、トラックドライバーが居眠りをしていた。
そしてそのまま信号を無視。その交差点を自分たちが横切ろうとしたときそこに突っ込んできた。そして激突。俺の両親は死亡。俺はなんとか生き残ったが、大きな怪我を負った。血まみれだったそうだ。割れたガラスが体に突き刺さり、そこから血がどんどんと溢れ出していたらしい。
「悔しい……!憎いっ……!!」
両親が憎い。トラックドライバーが憎い。そしてこの世界が、憎かった。何度、この世界を自分の手で壊したいと思ったか。
でも、
「どうして……こんなっ………!!」
―――俺は今、壊す手が、存在していない。
そう、俺は、あの事故によって失ったものがある。
それは親。それは友人。それは親戚。それは恋心。
そして、それは両腕。
こんな体にした親は死に、恨む相手ももういない。
こんな体を気味悪がった親戚達は離れていき、頼る相手ももういない。
そこからは、本当にどん底だった。
「くそっ、こんなの……っ!!」
数週間の月日が過ぎ、俺は退院した。
しかし、学校に登校した時俺は周りの環境が驚く程変わっていることに気付かされた。
冗談を言い合う仲であった友人には距離を取られ。
俺の事がもともと気に食わなかった生徒は、反撃のできない俺をいじめの標的にして、不満のはけ口にした。
淡い初恋も異形を見る怯えの視線と聞いた陰口で砕かれた。
「畜生……何が悪かったんだ……!!」
どこかのRPGの主人公が、こんな事を言っていた気がする。
「自分たちのこの手は、この両手は、何かを掴む為にあるものだ」と。
じゃあ、手がない奴は、何を掴むのだろうか?むしろ、何かをつかめるのだろうか?
ご飯すらまともに食べれず、流れる涙を拭うことすらできず。
そんな俺は、一体、何を掴むことができるのだろうか?何かを掴むことができるのだろうか?
失意、絶望。それらに俺は、完全に体を支配されていた。
逃げるように、現実から、何もかもから逃げ出すように俺は誰もいない家に引きこもった。。
そんな状態で食欲など湧くわけがなく、飲まず、食わず、いつまでもうずくまりつづけていた。
そうやって目を閉じ、耳を塞いで何分、何時間、いや何日か経っただろうか。ふと周りを見回せば、もう闇しかなかった。
硬く閉じたドア、その外の風景はいつから見ていないだろうか?
どんな風景だっただろうか?
そんな記憶すらも、俺から遠ざかって、バラバラになって消えていく。
寒い。
痛い。
怖い。
何も見えない。
何も聞こえない。
そう思ったらドサッ、と何かが落ちた音がした。
何が落ちた、と周りを見ようとしたら埃をかぶった棚が横になっていた。いや、もう動かない時計、何も映さないテレビ、吊り下げられたサッカーボールも横になっている。また、趣味だったゲームが無造作に積み上げられたタワーも横になっている。
そこでようやく理解した。倒れたのは、俺だ。
(そろそろ、死ぬのか)
俺は、そう直感した。なぜか分からないが、そんな気がした。
「…………」
少し前まではなかったはずの死が、今目の前で横たわっている。
しかし、俺は怖くなかった。
怖いと思える心が、思うための心が、もう存在していない気さえした。
転がった拍子に、ぼんやりとした視界に飛び込む鏡。
そこには人体標本になりそうなくらいやせ細り、目は落ち窪み、頬に肉は無く、髪の毛も無造作にぼさぼさになっているヒトのような何かがいた。
自分だと思えなかった。思いたくもなかった。
唇は噛み締められたせいで裂け、血が固まっている。
目尻には大量の目やにがあり、そこから涙が流れて固まった後が残っている。
「……ッ!」
鏡の向こうのそいつと目があった。俺は初めて、本物の恐怖を感じた。
そして、震える僕に向かってそいつは言うのだ。
「夢じゃない、こいつはお前だ」
と。
悲鳴をあげたかった。事実、自分の中では上げていた。しかし、長い間何も喋らず、水すらも飲んでおらず乾ききった喉から発せられるのは掠れた、か細い声だけだった。
視界が、黒に染まっていく。意識が遠のいていく。
どこかのゲームのシーンのように、空に手をかざそうとするが、その手はないことを思い出してすこし虚しくなった。
見上げるべき空はそこにはなく、あるのは黒いカビの生えたぼろっちい木の壁。
……こんなものなのだろうか、この世界は。
尊いと、守るべきものであると教育されている命は、こんなものなのだろうか?
忘れていた感情が、少しだけ蘇る。
それは、寂寥。
それは、哀惜。
それは、憎悪。
それは、空虚。
枯れ果てたと思っていた涙が、また溢れ出す。それは床を濡らし、染み込み、広がっていった。
それの一部が見えたところで、黒くなっていく視界が完全に染まった。
(悪くはない…でも、悲しいな。やっぱり)
それが俺の最後の思考。
俺と世界を繋ぐ何が途切れ、俺は意識を失った。
◆
――――ろう?
何か、声が聞こえた気がした。
―――――何も得られないのは、虚しいだろう?
あれ、俺は死んだはずなのに。
――――世界の不条理に負けるのは、悲しいだろう?
もう、何も聞こえないはずなのに。
――――絶望に打ちのめされ、立ち上がる手さえ奪われたのは、悔しいだろう?
それでも、外から、耳からでは無くもっと奥から何かが響いてくる。
――――聞こえないのか、全てを失った者よ。
「………ぁ」
声が。出せなかったはずの声が出るようになっている。
周りを見ると、色が、重力が、広さの分からない、そんな不可解な空間が広がっていた。
―――――聞こえないのか?
「……いや、きこえている……」
久しぶりに放つ言葉、それは以前とは比べるまでもないほど拙いものであった。誰が話しているのか?それも気になるところではあったが、それよりも久しぶりに誰かとしゃべれた。声を出すことができた喜びの方が勝った。
――――お前は、全てを失った。家族、友、夢。それを掴むその手、何かを掴む為のその手すらも、立ち上がる為のその両の手すらも世界に奪われた。
「……ああ。そのとおりだ」
――――そして、今はわずかに灯るその命さえも、消えようとしている。
「あぁ、事実だ。俺はそろそろ死ぬ」
――――私は、惜しい。
「……は?」
――――お前が、全てを失って、そのおかげで手に入れた物があるお前が、ここで消えるのは惜しい。
「…なんだよ、意味わかんねえよ!はっきり言ってくれ!!」
俺は、その不可解な言い回しに苛立ちを覚えた。はっきりとしない言い回しほど憎たらしいものはないだろうと俺は思う。
――――お前は、知ったはずだ。
「……何を?お前言ったよな?俺は全てを失ったって!!そんな俺が、得た物なんにもない俺が、何を知ったっていうんだよ!?」
――――命の、脆さを。
「ッ!?」
――――世界の不条理さ。人の脆さ。愚かさ。
「……」
――――運命の、過酷さを。
「……」
何も、言えなかった。そいつの放った言葉に対する言葉を思いつこうにも、思考回路が凍結させられたかのように、意味のない言葉が羅列され空回りしては消えていく。
――――だからこそ、お前には生きていてほしい。それらを知ったことによって生まれた強さを持つ、お前に。それを得た者が何もできずに死ぬのは、私にとっては惜しすぎる。
「……やだね。こんな俺になにができるってのさ?お前が言うその不条理な、過酷な、クソッタレなこの世界で、何もない俺に何を求めてんだよ?」
―――――一つ、力が絶対である世界がある。
「……?いきなりどうした?」
――――そこで、生きろ。生き延びて――――
「はぁっ!?これで、この体でか!?どうやっ」
――――幸せになってくれ。
「て……!?」
いきなりの言葉に面食らう俺。
幸せに、なってくれ。
その言葉を、俺は初めて誰かに言われた。
――――もう一度言う。苦しかっただろう?悔しかっただろう?悲しかっただろう?
「……ッ、ぐぅ、うううううううっ……ッ!!」
熱い雫が、目尻に浮かぶ。それを零さぬよう、必死にこらえる。
――――辛かっただろう?
「…ぅうううぁああああああああ!!!!」
だが、限界だった。
一度流れた雫は、それが栓であったかのように別の雫を呼んで一つの流れを作った。
膝に力が入らなくなり、ストンと体が落ちる。そのまま頭を地面に強打した。痛みより、悲しみが勝った。そのまま、地面に頭をこすりつけて涙を流した。
―――――また、世界がお前に試練を与えることがあるだろう。再び苦しみ、悲しむこともあるだろう。
―――――でも、そこでならきっと何かを得られるはずだ。強さを得たお前なら乗り越えられるはずだ。
「……ひっ、ぅぐ、ぐすっ……げほっげほっ!!」
――――お前をそこに送る。やり直してこい、そこで、必ず幸せになってくれ。
――――そして、この(・・)不条理な世界では見つけられなかった事を、見つけてこい。
「げほっ…ひっく……ぅん」
不思議と、勝手に返事ができた。なにも考えていなかったのに。
――――よし、ではお前が幸せになれることを祈っている。
「……っさ、最後に、アンタは誰なんだ?」
遠ざかっていく声、その気配に急いで俺は声を掛ける。嗚咽混じりのひどい声だ。でも、俺を勇気づけてくれた。やり直すチャンスをくれた人が、誰か気になったのだ。
――――私は……
そこで、迷いなく話していたそいつが言葉を止めた。しかしそれも一瞬で、決意したように再び声を上げた。
――――いや、俺はお前に誰よりも近かった男さ――――
そう言ってそいつの気配はこの空間から、俺の中から消え去った。なんとなくだが、そんな気がした。
あの人が消えたので、この不可思議な空間に残ったのは俺だけである。
また一人になった。だが、なぜか寂しくない。俺の胸の中には、最近全くのご無沙汰だった、ほっこりとした暖かさが残っている。
「……あーあ、ああいう感じの泣き方は久々だったな……ってうおぅ!?」
寝転びながら、呟きながら、さらに苦笑いをした俺の視界に飛び込んできたのは、薄れゆく俺の足だった。
「な、なんだなんだ!?……って、ああ。そういう事か」
驚きの声を思わずあげたが、すぐに理解できた。おそらくあの人の言っていた世界に行くのだろう。
さっきは消える、死ぬことに不安はなかった。俺の身には今同じようなことが起こっている。
でも、さっきには無かった、久々に感じるこの高揚感はなんだろう?
……この感覚は、覚えている。
それは、期待。
それは、好奇心。
それは、希望。
再び、消えゆく意識の中感じたのはいくつかの感情。どれも思い出したものだが、一回目のときより圧倒的にいい気持ちばかりだ。
思わずにやけてしまい、笑みを浮かべながら、じりじりと消えていく体を急かすように動かす。
胸のあたりまで消えてからは早かった。そこから堰を切ったように首、そして顔が消え始めて、一瞬で視界が白に染まった。
意識も白に染まりかけているその時、そこで俺は、ふと思った。
(あの人は、もしかして父さんだったんじゃないか?)
今は生前となったが、そこでは本当に優しくて、強くて、カッコよかった父さん。
俺が憎くて憎くてたまらなかった父さん。
責任感が強い人だったから、そのまま死ぬのが辛くて俺を見に来たんじゃないだろうか?
そして、俺がやり直せるチャンスをくれたんじゃないだろうか?
転生なんていうファンタジーな事が事実、俺の身に、現在進行形で起こっているのだ。何が起きたっておかしくない。
そう考えたとき、俺の中に巣食っていた悪の根源が断たれた気分がした。
父さんは、やっぱりカッコよかったんだ。そう思い直すことができた。
その父さんがそばにいる。
それによる安心感、そして生まれた仄かな暖かさに包まれたまま、俺の意識は完全に白に染まった。
ここから始まるのは、全てを失った少年の物語。
ここから始まるのは、強さを得た少年の物語。
ここから始まるのは、絶対強者による過酷な世界の物語。
ここから始まるのは、仲間と笑い合える素敵な世界の物語。
はい、初めましての方は初めまして。
見たことがある方はどうもおはこんばんちわ。小松菜大佐でございます。
この小説、なんと主人公の人格はこいつではありません。いきなりなんでこんなことに…?
さて、僕は今なろうでオリジナル小説を。pixivでDogdaysの二次創作を執筆しております。
そこでクエスチョン。
Q.ただでさえギリギリな中、僕はなぜ新しく書き始めたのでしょう?
A.お前がアホだから。
言い返せませんが、事実ですが、違います。
正解は、一つの小説と深夜テンションという魔物です。
……その時、モンハン二次創作の恋姫狩人物語読んでたんですよ。それで、つい。
それでですね、この小説はメインではなく、DogDaysとオリに行き詰まった時のみ投稿しようと思います。
深夜のノリで書いたものと、ある程度続けてきて、結構人が集まったものでは、さすがに優先順位を後者の方が高めにつけざるを得ません。
それでもお付き合いしてくれる方は、どうぞよろしくお願いします。