LINKIN PARK
アメリカ出身のミクスチャーロックバンドで、楓がよく聴いてるバンドだ。
音楽性としては様々なスタイルやジャンルを緻密に絡めた、いわゆるミクスチャーロックを掲げていて、今でこそ知らぬ人は殆どいないバンドだが、結成当初はメンバー全員が学生だった事もあり、活動も上向かずにかなり苦労していたそうだ。
ちなみに結成したのが1996年、メジャーデビューをしたのは2000年で、その4年間の間に4回バンド名を変えていて、最後の最後で現在のリンキン・パークという名前になったんだ。
日本では実写版トランスフォーマーの主題歌で有名で、それ以外にもボーカルのチェスター・ベニントンは様々な映画にカメオ出演しているんだ。
ちなみにバンド名のリンキン・パークの由来はニューヨークにある公園の名前らしいな。
午後7:30頃、水晶邸2階・颯の部屋…
「…あの〜、お兄ちゃん?もうすぐご飯なんだけど」
「ごめん、俺今忙しいから先食っといて」
「……。」
楓は半開きになった部屋の扉から顔を覗かせたまま、呆れたように溜息をついた。
学校からの帰り道で突然のバンド結成宣言をした颯は、家に着くなり即行で自室に篭ったのだ。
何だかんだでそれから3時間以上経過し、夕飯時になっても部屋から出てこないので、楓が様子を見に来たのである。
そして、颯の部屋の中を見て唖然とした。
颯はノートパソコンが置かれた机を前に回転式の椅子の上でちんまりと体育座りをし、食い入るようにディスプレイを見ていたのだ。
どうやら動画サイトを見ているらしく、画面の中では何やらケバケバしいメイクを施したバンドがライブをしている映像が流れていた。
「…早く降りてこないとお父さんに怒られちゃうよ?」
楓は一応それだけ言うと、扉を静かに閉めた。
実際にはそんな事を言ったところで無駄なのは彼女自身が一番分かっていたりするのだが。
と言うのも、颯は一度気に入った、あるいは熱中できるものを見つけると、飲食や睡眠さえ忘れて没頭してしまうのだ。
そのため、彼は両親や担任から「その集中力を勉強に発揮してくれないか」と常々言われていたりする。
『おーい、楓ー?颯はまだ降りて来ないのか?』
と、下から父親の声がする。
「あともう少し待って、すぐ降りてくるから〜」
と、楓は適当にお茶を濁した。
お父さんはこういう事には結構うるさいのだ。
これ以上面倒な事になる前に颯が部屋から出てくる事を切に祈った。
……しかし、祈られている当の本人はそんな事お構いなしだった。
結局、この後颯は実に3時間以上部屋から出て来ず、出て来た時の第一声が「今日の飯何?」だったので両親も怒るどころか呆れていたんだとか。
※※※※
数時間後、午前0:00頃、市内某所・ナイトクラブ・ペルソナ・・・・
ナイトクラブ、と聞くとどんなイメージがあるだろうか。
フワフワの付いた扇子片手に踊り狂う女性や肩一直線のスーツを着てナンパに勤しむ男性、そして天井で輝くミラーボール……と、大体のイメージはこんなものだろう。
しかし、そのナイトクラブには扇子を片手にした女性や肩一直線のスーツ姿の男性はいなかった。
その代わりにダンスフロアは多くの若者で溢れ返り、スモークを焚いたり、レーザーを照射したりと過剰な演出をしている。
そして、そんなダンスフロアを見下ろせる場所にあるDJブースに、その少年ー剣持隆靖ーはいた。
マスクで顔の半分を隠し、首にはDJ用のヘッドホンを引っ掛けている。
『Hey,Hey,Heeey!!!オメェら盛り上がってっかYOOOOO!!!』
すぐ真下のダンスフロアではMCのラッパーが踊り狂う若者へ向かって叫んでいる。
それに合わせて若者達もイェー、だのフー、だのと返している。
『今夜はこの俺、MC・ジョニーがお前らを全力でノせてやるから覚悟しとけYooo!!!』
そこまで言ったあたりでMC・ジョニーは「おっと」と言葉を止めた。
『忘れちゃいけねぇぜ!今夜を最高の夜にするのは俺だけじゃねぇぞ!!!』
言いながら、DJブースの方を指差すMC・ジョニー。
それと同時にスポットライトが当てられ、ターンテーブルにレコードをセットしている剣持が暗闇の中に顕現する。
『このクラブ・ペルソナが誇る最強DJ・トランスマスター・剣持だぁぁぁ!!!』
剣持の登場に、フロアでは歓声が巻き起こる。
ーーー…ったく、キャーキャーうるせぇなーーー
しかし、剣持本人は盛り上がる客とは対照的に、胸の中で毒づいた。
俺のやりたい事はこんな事じゃねぇのに、と思いながらも、剣持はターンテーブルの上に載ったレコードに針を当てがい、プレイヤーの再生ボタンを押した。
数秒の間を置いて、フロアの至る所にある巨大なスピーカーからダブステップの重低音が流れ出した。
それに合わせてダンスフロアの若者達は先ほどにも増して踊り狂う。
レーザー光やスモークが焚かれ、まるで戦場と化したフロアを見下ろし、剣持はターンテーブルの中央に配置されたミキサーでエフェクトを掛けつつ、素早くクロスフェーダーを弄って次に流す曲をセッティングする。
『Hoo!!今日はトランスマスターがお前らをアゲるぜぇぇ!!!』
と、MCジョニーは喉が擦り切れる程に叫んだ。
---……はぁ---
「…ふぁ〜…」
そして、剣持は心の中で大きな溜息を吐きながら、同時に大きなあくびをした。
「…多分今日は眠れねぇな…」
その後、フロア全体を巻き込んだどんちゃん騒ぎが午前2時まで続いたのは別の話。
※※※※
翌日、午前7:30、通学路・・・・
「…ふぁ〜、眠ぃ……」
通学中の学生でごった返す朝の通学路。
集団登校でもないのに登校中の学生達のほとんどが山王学園の生徒というあたりには、この学区にある学校の少なさを感じさせる。
そして、その中には水晶兄妹の姿もあった。
「お兄ちゃん、昨日は何時まで起きてたの?」
「ん〜、4時くらいかな…」
「うげっ、じゃ2時間しか寝てないの!?」
「いや、ほぼ寝てない」
と、妹である楓からの問いかけに飄々とした態度で応答する颯。
そんな彼の目の下には大きな隈ができていた。
「っていうか、そもそも昨日は何してたの?」
楓は颯の顔を覗き込むようにして言った。
「いや、ちょっとした情報収集だよ。バンドメンバーの集め方について、ちょいとな」
言いつつ、颯は肩に引っ掛けていた鞄からルーズリーフを一枚取り出した。
そこには何やら細かい字でびっしりとメモ書きがされており、どうやらこれが情報収集で得たものなのだろう。
「…お兄ちゃん、本気でバンドやる気なの?」
「おうともさ。俺に二言は無いぞ」
胸を張り、自信満々に言う颯。
「それにあれだ、他人にできて"俺たち"にできない事は無いだろ?」
「……"俺たち"?」
颯の言葉に楓は顔をしかめる。
「お兄ちゃん、俺たちって言ってもバンドメンバーはまだ決まってないんじゃ……何で複数形?」
「…何でってそりゃ楓、お前もメンバーにカウントしてるに決まってるだろ」
「………え?」
楓はいよいよ歩を止め、颯の顔を凝視した。
「…私が、バンドメンバー……?」
「そそそ。楓には……そうだな、ギターとか良いんじゃないか?」
「……わ、私がギター……」
何とも楽観的かつ独断専行な兄の言葉に楓は完全に固まった。
ギターなんて生まれてこの方弾いた事は愚か、触った事すら無いのだから。
「うん、俺がボーカルで楓がギター、あとはベーシストやドラマーも必要だよな……あ、あとできたらプログラマーとかサンプラーがいても良いよなぁ…あ、あとDJがいたらもっと良いな……」
と、完全に自分の世界へ没入していく颯。
兄のその姿に楓は、ただただ、呆然とするしかなかった。
※※※※
同刻、通学路・・・・
「……ふぁ〜……」
同じ頃、剣持も颯と同じく肩に鞄を引っ掛け、眠たそうに大あくびをかました。
---ったく、夜勤明けの学校はきついぜ……---
もう高校に入学してから半年くらい経つと言うのに、毎度毎度この朝の辛さには慣れない。
ただでさえ夜はトランスマスターなるご大層な通り名で呼ばれ、その翌日の昼間は学校で大人しく生活するというサイクルがここ1年ほど続いているのだ。
---…あれさえ無ければ、な…---
…と言うのも、剣持には深夜までDJをしなければならない理由があった。
実は彼の実家は赤貧では無いとは言え、かなり貧乏な境遇にある。
故に、困窮した家計状況を助けるため、放課後はコンビニでアルバイト、深夜はナイトクラブでDJを務めているのだ。
尤も、彼がそこまで手を回す必要は無かったのだが、それはまた別の話。
そんな事を思い浮かべつつ、剣持は朝の空を見上げた。
「……はぁ、今日もまた一日が始まるのか…」
いつも同じ事の繰り返し。
ただただ、一日が終わるのを待ち続けるだけの毎日。
しかし、この時剣持は知らなかった。
あと二日で、自分がそんな日々に別れを告げる事になろうとは…
※※※※
「…お兄ちゃん?何これ…」
「何って決まってんだろ!メンバー募集のチラシだよ!!」
「いや、それは見ればわかるけどさぁ…まさか、それだけで人を集める気なの?」
「何だ?何か問題でもあんの?」
「だって、楽器弾ける人は大概吹奏楽部か軽音楽部に行っちゃってるし…今更メンバー募集しても人が集まらないと思うんだけど」
「……まぁ、大丈夫大丈夫。とりあえずこのチラシ配りまくっとけば何とかなるっしょ!」
「……」
To be continued
キャラクター紹介 No.2
水晶楓
(イメージCV.小見川千明)
【挿絵表示】
illustrated by かにかま(http://syosetu.org/?mode=user&uid=42805)
主人公・水晶颯の双子の妹。
滋賀県立山王学院高校の1年生。
巨乳、ニーソ、お兄ちゃんっ子を始めとする諸々の要素を詰め込んだ存在。
兄により、半ば強制的にギプノーザへギタリストとして加入させられる。
ちなみに彼女自身はギターを弾いた事も無ければ触った事すら無い。