東方魔法録   作:koth3

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珍しく黒のコメディ編です。


赤と青の魔法薬

 学校裏に黒は珍しくカモミールに呼び出されていた。

 その場所は校舎の影となっておりめったに人が訪れない。そこで一人、黒はカモミールが来るまで待っていた。

 

「すまねえ、またせたなユギの兄貴」

「別にかまわないが、なにか用?」

 

 人払いの結界をやってきたカモミールにひとまず張らせる。本来は黒の能力で人を寄せ付けさせないことなどいくらでもできるが、カモミールに魔法を使わせそれに能力を重ね掛けする以外、対外的に魔法が使えない黒は能力を人前で使えない。

 結界を張り終えたことを確認したカモミールは、下卑た笑みを浮かべ煙草を吸い始める。

 

「へっへっへ。ちょいと耳を貸してくだせえ」

「なんだっていうんだか」

 

 仕方なしにカモミールの首元を掴み、耳元に近づけると小さな声で話し始める。

 

「いや、ちょいと俺っちも姐さんの恋を応援しようと思って。ただ姐さんはシャイだから、なかなかタカミチをデートに誘いだせなくて。そこで一肌脱ごうと思ったんだが……」

「それで」

 

 うすうす嫌な予感がしながらも、黒は先を促す。それにひとまず安心したのか、カモミールは続きを話す。

 

「最初は初心な姐さんに恋愛ごとを慣れさせるため、ネギの兄貴にデートをさせようと思ったんだ。でも兄貴はまだ子供だから一緒にどこか出かけても、少なくともデートというより親戚の子供の遊びに付き合っている感じになっちまうだろう。そこで年齢詐称薬がないかまほネットを覗いてみたら、丁度全部売り切れで。そこで、お願いします、ユギの兄貴。俺っちに年齢詐称薬を作っていただけませんか」

「……まあ、それくらいなら別に問題はないけれども」

 

 珍しくカモミールが人助けをしようとしているその態度に動揺したのか、黒はうなずいてしまった。

 とはいえ一度うなずいたのを否定するのは、黒としてもプライドが許さない。別に年齢詐称薬は作成も使用も違法という訳でもない。というより、その使用用途は魔法使いの学生たちの演劇に使用される程度の出来だ。それこそ魔法使いではない一般人ですら、至近距離では違和感をわずかに感じ取れる粗悪な幻術の出来だ。詐欺なんかに到底利用できる代物でもない。そのため魔法界の法律でも特に禁止されているわけではない。さっさと黒は作りカモミールに渡すことにした。

 実際年齢詐称薬は材料さえあれば十分もしないうちにできる。さらにあらゆる薬を作る程度の能力を持つ黒にとって、眠りながらでも作れる程度の薬だ。あっという間に薬を作り上げた。

 

「ほら、年齢詐称薬できたよ。そういえば、ついつい()()を作ったけど、問題ない?」

「ええ、大丈夫っす。ほら、行きましょうユギの兄貴」

「え? ちょ、ちょっと!? 私は別に」

「なに言っているんすか。こういうのは周りのアドバイスが重要なんすよ。人が多ければ多いほどいいに決まっているんすよ」

 

 無理やり押し切られ、黒はなぜか明日菜の恋路の手伝いをさせられることになってしまった。

 

 

 

「それでカモ、ユギ先生まで連れてアンタはなにとち狂ったことを言っているの?」

「まあまあ落ち着きなよ姐さん。なにも俺っちだって伊達で兄貴とデートしろなんて言わねえさ。さすがに今の兄貴と姐さんが釣り合わないというのはよく分かる。なにせあまりにも身長が違い過ぎるからな。そこでユギの兄貴がわざわざ作ってくれたこの魔法薬を使えば、問題は解決っていうわけさ。この赤い魔法薬を使えば大人に、青を使えば子供になれるのさ。そうしたらお二人さんでもデートに見えるぜ」

 

 そういって振るカモミールの手にある薬瓶を見て、明日菜は黒のことを見る。そして再びガラス瓶に入った薬を見、指でさす。

 

「これをユギ先生が?」

「そうだぜ。魔法薬に関してユギの兄貴の右を出る者はいねえさ」

 

 そうこうしている内に木乃香が薬に興味を持ったらしく、カモミールに一粒赤い魔法薬をもらい飲み込んだ。煙が木乃香の体の内側からあふれ出てその姿を隠すが、白煙の中からうれしそうな声がする。

 

「わっ。見てみて、このセクシーダイナマイツ♡」

 

 一瞬煙幕で姿の見えなくなった木乃香だが、すぐに煙は晴れ、成長したその姿を見せる。豊かに膨らんだ胸とくびれたウエストなど、確かに成長した木乃香は、女性的な魅力にあふれていた。鏡を見てくるくる回っている。

 

「こういう魔法私大好きや。せっちゃんもホラ」

「え?」

 

 ただ悪戯好きな面が出たのか、刹那に青い丸薬を飲ませ自身もまた飲んでしまったが。

 木乃香が刹那を引きずり、幼い姿になった二人は走り回る。どうやらかなり楽しんでいるようだ。

 

「木乃香姉さんあんまり食べないで下さいよ。面白いかもしれないけど」

「分かったわ~」

 

 そうはいってもその顔を見れば、あまり信用できるものではない。黒は壁に寄りかかって目を瞑る。指先で肘をとんとんと叩く。

 

「ほなユギ先生の番やな」

「は?」

 

 笑顔の木乃香が黒の眼前に立っており、その口に赤い丸薬を押し付けていた。声を上げた拍子に丸薬が口に入れられる。目を丸くしたまま、口内に入れられた魔法薬が効果を発する。

 

「ほわ~」

「嘘……負けた」

「ど、どちら様ですか!?」

「ユ、ユギ?」

「あ、兄貴? いや姐さん?」

 

 嫌な予感がし、黒は部屋にある姿見を見る。そこには成長した黒の姿、すなわち()()()()()の姿が映っていた。あまりの失態に頭痛を覚えた黒であるが、反省することより前に、

 

「すごいなぁ、ユギ先生。まるでモデルみたいや」

「どうせ私に色気なんて」

「綺麗……」

「……」

「兄貴? ネギの兄貴? 顔を赤らめてどうしたんすか?」

 

 部屋にいる全員をどうにかしなければならないことに、黒はため息をついた。




ネギが顔を赤らめたのは、父親の志向がわずかに受け継がれたためです。
黒と母親は成長すると瓜二つです。

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