東方亡霊侍   作:泥の魅夜行

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亡霊さん、斬る

「あ、綺麗な石見っけ」

 

 水底に沈んでいる石の一角に私は水面から伸びる光の筋に光る綺麗な石を見つけました。

 石を拾って水面からお空に掲げると綺麗に反射します。

 

「うん、綺麗!」

 

 久々の綺麗な石に私の心は弾みます。

 最近は良い石が見つからなくて詰まらなかったのでこれは嬉しい事です。

 

「湖から上流へ来たかいがあったな~」

 

 でも、熱中し過ぎて疲れました。少し、体を休めようっと。

 私は体を川の縁に上げて、一息つきました。

 ですが、人魚である私は陸に上がると動くことが大変になるので下半身は水につけたままです。

 

「収穫はこの石一個。うん! もう少ししたらもう一回探してみよう」

 

 綺麗な石を見つけて、影狼さん達に自慢しよう。

 でも、見せる度に生暖かい視線を送られるのは何でしょう?

 

「綺麗なんだけどな~」

 

 友達から中々理解されないのが悔しいですね。

 

「よし、こうなったら絶対綺麗な石を見つけて驚かせよう!!」

 

 決意を決めて、もう一度私は潜ろうとしました。

 

「えさぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 凄く怖い声が聞こえ、気が付いた時には私は水底へ叩き連られていました。

 

「な、なに!? 何なの!?」

状況を確認する暇も無く、私は強い力に動きを止めらる。

 

「えさぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 声と共に私に飛びついて来た女の子。

 札の下から覗かせる鋭い歯と大きな口、そして叫んでいる言葉によって私は理解しまいた。

 あ、食べられるっと。

 

「きゃあああああああああああ!!!!」

 

 悲鳴を上げて無我夢中で体を動かすけど、私の肩を掴んだ女の子の力は私でびくともしないくらい強かった。

 

「いただきまーす」

 

 大きく開いて近づいてくる口。

 いや!! 死にたくない!! 死にたくないよぉ!! 誰か……助けて!!

 

「た、助けて……」

 

「私との遊びはどうしたぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 私を掴んでいた女の子が消えて、私の視界にいたのは、

 

「大丈夫かっ!?」

 

 白い髪と、札が髪にくっ付いているのが特徴的な男の人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 間に合ったか!!

 芳香を蹴り飛ばした勢いで川から丘へ着地。 

 胸を撫で下ろしつつ、私は助けた者を見た。

 

「なんと、人魚か」

 

「あ、は、はい」

 

 頷く少女を一瞥し私は、茂みに顔を埋めた芳香を見た。

 

「嬢。早く逃げるがよい。あの者は私が何とかする」

 

「え、でも……」

 

「早く行くのだ!! 私とて勝てるかはわからん」

 

「……ッ!! ご、ごめんなさい!!」

 

「待て、餌ぁ!」

 

 いかん! 芳香は既に起き上がり、少女へ飛び出していた。

 反射的に飛び出すが、間に合わない!! 私より先に芳香が少女へ飛び掛かるのが速い!! だが、手はある。 

 

「『吹っ飛べ』!!」

 

 私の言葉通りの現象が芳香に怒った。

 言葉通り芳香は見えない壁にぶつかったように明後日の方向に跳ねた。

 

「がぁ!!」

 

 そして、予想通りの激痛が私の全身を襲う。

 何なのだ、この痛みは? 何故、こんな痛みが起こる?

 飛べぬ私はそのまま川へ落ちる。

 息が出来ない上に、激痛で体が動かない。

 亡霊が溺れ死んだらどうなるのだろう。

 意識が消える直前、体が引っ張られる感触がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかりしてください!!」

 

 私を助けてくれた男の人が沈んでいく。

 彼を抱き留め、背負った私は水面に上がり、彼の顔を出して呼吸が出来る様にします。

 

「あれ? 餌が無い!? どこだぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 森の奥から聞こえる声に体が震える。

 駄目だ。早く逃げないと。

 このまま潜って逃げれば多分、あれには見つからない。

 

「でも……」

 

 今、自分が背負っているこの人が窒息する。

 

「二度も助けてくれた人を見捨てる気はありません」

 

 私はこの人を背負い直し、水上へ顔を出したまま、最高速で泳ぐ。

 

「逃げるなぁ!!」

 

 背後から聞こえる声、見つかったけど声は遠い。

 なら、逃げ切れる!!

 湖までいけば、あの女の子を撒けるかもしれない。

 もしもの時は、紅魔館の門番さんに助けて貰おう。

 弱い私にはそれくらいしか、方法が無いのだから。

 

「……ッ!!」

 

 悔しい。思わず歯を噛んでしまう。二度も助けてくれた人をこんな風にしか助けられない自分が悔しい!

 

「ごめんなさい」

 

「すまぬ」

 

 謝罪の言葉が背後から聞こえました。

 肩越しに彼を見ると彼は薄らと目を開けています。

 

「助けるがはずが、助けてもらうとは……」

 

「そんな、私じゃこれくらしか出来ないんです」

 

「だが、主は私を助けてくれた。ありがとう」

 

 そう言って目を閉じました。

 

「ありがとう……」

 

 この人を助けよう。私を助けてくれただけじゃない。逃げる事しか出来ない私にありがとう、と言ってくれたこの人を。

 

「必ず助けます……ッ!!」

 

「いただきまーす」

 

 それはと突然過ぎました。

 影が私達を暗く覆います。

 体から冷汗が流れ、体に緊張が生まれ、様々な疑問が私の頭を埋め尽くす。

 何故何故なんでなんでなんで!!!!

 逃げたはずなのに! まだ、あんなに遠くにいたはずなのに!!

 

「なんでッ!!」

 

 分からない事だらけでした。でも、分かった事は一つだけ。

 私が突き飛ばされて、あの人の腕が喰いちぎられたことだけでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グぁァァァあああオオオおおッッッッ!!!?」

 

 声を抑えることが出来無かった。

 喰われた。左腕を喰いちぎられた!

 芳香は私の腕を喰いちぎり、そのまま川へ思いっきり己の体を叩き付けた。

 川の水は吹き飛び、川底が露出。その勢いで私は陸へ飛ばされて、木へと背中を強か打った。

 

「ごは、はぁ……! ッ……彼女は無事か……!?」

 

 咄嗟に突き飛ばしたが、怪我はしていないだろうか?

 

「だが、不味いな」

 

 亡霊だからか、失血は無い。ただ、腕が無くなっただけだ。

 

「いっそ生えてくれ。亡霊だからそれくらいは有りだろう」

 

 痛みを堪えつつ、立ち上がる。

 聞こえる音は、固い物を砕く音と、モノを食べる咀嚼音。

 

「喰われたか」

 

 私の左腕だろう。

 音が無くなると、芳香がゆっくりと水面から浮いてい来る。

 

「美味い……美味しい。お前、美味しいなぁ!!」

 

「そんなに褒めるな」

 

「お前を食べたい! もっと食べたいぞ!!」

 

「主ら主従は私に恨みでもあるのか」

 

 何故、主従揃って私に興味を持つ。

 

「イタダキマス!!」

 

「ちっ!!」

 

 飛び掛かる芳香を躱し、距離を取る。

 どうにかしなければ、何か無いのか?

 モッテイルダロウ?

 武器は無いのか?

 モッテイタダロウ?

 木の枝……。

 オモイダセ。

 ソウダ、思イ出せ、私の武器ヲ。

 ああ、そウだ。

 如何に殺スカ。

 それを理念としヒトが練り上げたチカラを。

 ヒトきり道具、殺人ブグ。

 刀。

 私の……俺の……武器ハ……。

 木の枝を適当な長さに折る。

 

「コレハ……『刀』だ」

 

 そう、これは『刀』。

 

 『木の枝』ではナイ、『刀』。

 

 私の言葉が木の枝を侵食する。理を壊し、変化させ、形成する。

 ハラリ、と札が落ちる。

 私の髪の毛に付いた札が一枚、地に落ちて塵となり消えた。

 

「う? なんかお前変わった?」

 

「言葉を纏わせる……」

 

「ん?」

 

 思い出した。久方振りだ。

 バケモノを斬るのは。

 人をキルノハ。

 生キ物を斬るのは。

 

「斬る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いたた。……ッ! あの方は!?」

 

 体を起こしました。吹き飛ばされて、水の中から地に打ち上げらえていたようです。

 

「川に……戻らなくちゃ」

 

 幸いだったのは川のすぐ近くだったことでしょう。

 体を引きずりながら私は川を目指します。

 あの人が心配ですが、人魚である私は陸ではまともに動けません。

 移動速度がかなり遅いですが、ゆっくりと川へ。

 

「つ、着いた……」

 

 息を乱しながら、私は川へ滑り込みます。

 

「早くあの人を探さないと!」

 

 だけど、水に潜ろうとした時、私は動きを止めました。

 

「なに……これ」

 

 肩に軽く当たった川上から流れて来た漂流物。

 流木と思ったけど違いました。

 腕でした。

 そして、足が流れてきました。

 ごつごつとした腕では無く、私の様に細く華奢な腕。

 

「これ、男の人の手じゃない。これ……女の子の手だ」

 

 川上で何かが起こってる。

 

「何が」

 

 私は、流れて来た腕と足を持って上流へ向かいました。

 そこで、私が見た光景は、あまりにも衝撃的で。

 左右に真っ二つになった、女の子と、左腕と右の脹脛が無くなって木に背を預けている男の人がいました。

 でも、それ以上に私が気になったのは、男の人。

 私を助けてくれたその人はとてもとても深い、水底のような悲しい目をしていました。




「私は……」

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