ソードアート・オンライン《三人の勇者》(凍結) 作:ホイコーロー
カイトたちが《月夜の黒猫団》と出会ってから約一ヶ月、すでに第23・24層が攻略されている。
現在攻略に参加している主なギルドは三つ。
《アインクラッド解放隊(ALS)》
キバオウが立ち上げたギルド。《DKB》と共に攻略組の二大巨頭を成す。
《ドラゴンナイツ・ブリゲード(DKB)》
今は亡きディアベルの派閥を中心に結成されたギルド。リーダーは《リンド》というプレイヤーで、その特徴からハチマンをよく思っていないプレーヤーが多い。
《星空の騎士団(SSK)》
キリトとカイトが立ち上げたギルドで、規模は10人ほど。下層からの依頼などに応じたりもしていて便利屋のような一面もある。
クラインもギルドを立ち上げてはいるようだが、仲間のレベルアップに時間がかかっているらしくまだ攻略には参加していなかった。
他のメンバーはソロや、何度かに一度しか参加できないような小規模のギルドで、ハチマンやアスナはこの部類に入る。
今、彼ら攻略組は第25層のボス部屋の前にいた。
カイト、キリト、アスナは今回は同じパーティを組んでいる。
「サチちゃんたちはまだ合流できてないんだね。」
「いや、そりゃーお前、つい一ヶ月前までスイッチもろくにできなかったんだから流石に無理だろ。少なくともあと三ヶ月くらいは鍛えねぇとな。」
「大変ね…。そういえばハチ君は?まだ姿が見えないんだけど。」
「多分またどこかで道草でも食ってるんだと思う。」
「ボス戦に遅刻するだなんて…許せないわね…。」
「「(こっわ…。)」」
「何か?」
「「いえ、何でも。」」
ボス部屋に突入する直前、カイトが《ALS》のパーティへと向かっていった。
「よぉ、キバオウ。」
「なんや、どうかしたんか。」
「まぁな。…もうラストにあんまり無茶な特攻をするのはやめとけ。」
ここ何度か、《ALS》はボスの体力が減ってくると明らかにLAボーナス狙いの特攻を仕掛けていた。その中心となっていたのがキバオウである。
ハチマンが第20層でLAボーナスをとったことがキッカケだろう。第一層からずっとキバオウはハチマンを忌み嫌い、彼が力をつけることを全く良しとしていないのだ。
「なんやと、文句あんのか?」
「大アリだね。何に焦ってるのかは知らねぇが、あれじゃいずれ犠牲が出る。」
「そんな憶測あてになるかぁ!まだ出てないんやから問題ないってことやろ!」
「…忠告はしたからな。」
「よし、みんな!行くぞぉ!」
リンドの合図で一行は部屋の中へと入っていった。
部屋に入るとすぐに、最奥に何かが鎮座しているのが見える。
そのまま20歩ほど進むとその頭上に名前が表示された。
《ザ・タグウェル・ガルガンチュア》
頭部が二つある巨人が今回のボスだった。取り巻きのエネミーなどはいない。
偵察の時点で判明していたことだが、HPが今までよりも圧倒的に多い。
と、突然こちらにものすごい勢いで走ってきた。
「構えろぉ!!」
その手にはいつの間にか棍棒を握っていて、それを前衛のプレイヤーに振りかぶる。
そこまではよくあること。
「なっ!?」
しかしその威力が普通でなかった。
前衛数人が吹っ飛び、陣形が崩れそうになる。
カイトが前に出ようとするとその横を何かが走り過ぎていってボスの顔面に斬りかかった。
「悪い、遅くなった。」
「ハチ!!」
ハチマンの攻撃でボスに隙ができ、なんとか陣形を立て直すことができた。
「それにしても今のはなんだ、ありえねぇだろ。」
「あぁ、ちょっと本腰入れないとヤバイな。」
「ちょっと!ハチ君!どうして遅れたの!」
「アスナ、それは後にしてくれないか…。」
それからはお互いに一歩も譲らぬ持久戦だった、いや、消耗戦と言った方が正しいかもしれない。プレイヤーたちはボスの動きに翻弄されて決定打を見出せずにいたのだ。
犠牲者は既に六人、ボスのHPはようやく半分、といったところだった。
すると突然ボスが叫んだかと思うと壁際へと走って行き、
「松明を喰った!?」
「おいおい…そうくるのかよ。」
それが意味するところはつまり
「
ここに来て予想外の特殊攻撃。それぞれ急いで火に耐性のある防具やアイテムを使うが、数人が対応に遅れてしまった。彼らは炎に包まれると跡形もなくいなくなっていた。
その光景に多くのプレイヤーが恐怖に顔を歪ませる。
しかし一部の者たちは違う反応を見せる。
「カイト君、これって…。」
「あぁ、チャンスだな。」
今まで苦戦していたのはボスの通常スペックが悉くプレイヤーたちのそれを凌駕していて、一振りの攻撃でもダメージが大きかったから。
でも今のは違う。
大きな攻撃には必ず予備動作が存在し、放った後も膠着が起こる。
それはまさに決定打を与える”チャンス”だった。
「お前ら!気合入れろおォ!!」
カイトの喝で陣形をとり、再びボスへと立ち向かう。
攻撃パターンを完全につかみ、ブレスによる隙も狙いながらHPを削っていった。
そしてHPバーが残り一本になった時。
ボスが後ろに下がり、二本目の棍棒を取り出した。
誰もが武器が二つになる、と予想した次の瞬間、
「はぁ!!??」
そいつはそれを自分のわき腹に突き刺した。
一気に残りHPが四分の一ほどになる。
さらにそれはそのまま体の中へと取り込まれていった。
(なんだ、一体なにが起こる?)
誰一人として理解が追いついていなかった。
そんなのはお構いなしと言うようにボスが断末魔のようにも聞こえる叫び声を上げると
「…マジかよ……。」
棍棒を突き刺した場所から一本ずつ腕が出現した。つまり腕は合計四本。
新しく生えた腕二本には二振りの片手剣が握られている。
それはその巨人が扱うにはあまりに細く、漆黒に輝いていた、迂闊にもキリトが魅入ってしまうほどに美しく。
「キリト!来るぞ!」
「あ、あぁ。すまん。」
そして最初に部屋に入ってきた時のようにこちらへと走ってくる。
「ビ、ビビるなぁぁ!!あともう少しやないか!かかれぇ!!」
「ま、待て!」
それを《ALS》のパーティが迎え撃つが、
ボスの攻撃の前になぎ払われてしまう。
さらなる追撃によって多くのプレイヤーの命が刈り取られていった。
「くっそがぁ!!」「うおオォォ!!」
カイトとキリトが二人がかりで攻撃をはじく。
「「スイッチ!!」」
トドメとばかりにハチマンとアスナがソードスキルを発動させる
がわずかに足りない。
間髪なく、身動きが取れない二人に槍が振り下ろされる。
「くッ!」
しかし、なんとかカイトが勢いを殺して致命傷を避けることができた。
「これで…終わりだ!!!」
そしてキリトがソードスキルを叩き込むと
ボスはポリゴンとなって消滅した。
結局、最初の6名、ブレスによる5名、最後の攻撃パターンの変化による14名、合計で25名が犠牲(うち17名が《ALS》のプレイヤー)となる、これまでに類をみない凄惨な結果を残して第25層の攻略は終了した。
某黒い剣が、早々に登場しました。でも軽く流しすぎて、描写も酷すぎて気づいてない人がほとんどでしょうが…。