ソードアート・オンライン《三人の勇者》(凍結) 作:ホイコーロー
(師匠ッ!?)
ディアベルさんが死んでしまったのを見て、突然師匠がボスへと向かっていった。
ボスに攻撃を繰り出しているけれど、何だか様子がおかしい。いつもの師匠だったらあんなことしない。
(嫌な予感がする…師匠が危ないッ!)
そう思って、すぐに僕もボスに向かって走り出した。
(間に合え…!)
やっぱりかなり無茶だったらしく、もう少しで追いつきそうになったところで師匠の攻撃がボスにはじかれてしまう。
さらにボスが刀を振りかぶった。
そこにさっきのディアベルさんの吹き飛ぶ姿が重なる。
「師匠ッ!!!」
僕は手を思いっきり伸ばして、師匠を突き飛ばした。
次の瞬間、すごい衝撃が体を襲ってボスが目の前から遠ざかっていく。
そして僕の体は地面に叩きつけられる。
(体が、動かない。し、師匠は…?)
なんとか首を動かすと、尻餅をつきながらこっちを見つめる師匠がいた。
ダメージはくらってなさそうだ。
「グオオォォ!!」
しかし、ボスが無情にも再び刀を振り下ろすのが見える。
師匠はまだ硬直が残っているのか、まだ動くことが出来てない。
でも僕には不安の気持ちはなかった。
「カイト君!」「カイト!」
だってそこには僕なんかよりもずっと強い剣士が三人もいたんだから。
アスナさんとキリトさんがボスの攻撃をはじいて、
最後にハチさんがボスにソードスキルでトドメを刺す。
そして《イルファング・ザ・コボルド・ロード》は消滅して、
『Congratulations!!』という文字が虚空に映し出された。
(さすがです、皆さん…。)
僕はと言えば、もうHPが0になる寸前だった。
「コペルッ!!」
再び師匠に目を向けると、立ち上がってこっちに走り寄ってくるのが見える。
(良かった、師匠は無事なんだ…。)
不思議と目から涙は流れない。
前の僕だったらこんなことするなんて、ありえなかった。
でも、もちろん後悔なんかしていない。
(最後に師匠の役に立てて良かったです。)
「どうか、生き…て…。」
声を振り絞った僕の言葉はもしかしたら聞こえなかったかもしれない。
でも、大丈夫だと思う。
(だって師匠は僕の師匠なんだから。)
きっとこのゲームを終わらせてくれる。
次の瞬間、視界が真っ暗になって、
僕の意識は闇に沈んでいった。
こうして僕らの初めての決戦、僕の最後の決戦は幕を閉じた。
「このバカ野郎がッ!!」
ハチマンの放ったそれは誰に向けて放たれた言葉だったのだろうか。
不可解な指示を出して単独特攻をしたディアベルか
一瞬で無能と化したボス組か
一人で突っ込んでいったカイトか
カイトをかばって攻撃を受けたコペルか
それとも、すぐに動くことのできなかった自分自身か
どれにせよ、もうなにも戻りはしない。
二人のプレイヤーが死んだという事実に誰も言葉を発することが出来ない。
そんな静寂を切り裂いたのはキバオウの予想外の言葉だった。
「なんでや!なんでディアベルはんを見殺しにしたンや!!」
キバオウは怒りをむき出しにしてキリトに詰め寄る。
彼が言うことにはキリトがボスの情報を一人占めし、結果ディアベルが死んだということらしい。明らかにβテスターへの偏見のまじった発言だった。
初めはキバオウ一人が喚いているだけだと思っていたが、徐々に後ろの方からもキリトを攻め立てるような声が聞こえてくるようになっていった。
(なんだ、これは。)
ハチマンは考える。
(いや、
カイトはコペルの死に呆然とし、キリトも急な出来事に動けないでいる。
その傍らでアスナが怒りを露わにしていた。
「ふざけないでッ!!こっちだってコペル君が…パーティメンバーが一人死んでるのに…どうしてそんなことが言えるの!!?」
「そんなん知らんわ!!そこに膝まづいてる奴が暴走したせいやろが!!」
キバオウは茫然と座り込むカイトを指さす。
(はは、あいつだって死んだのはお前らのせいだろうに…。)
「茶番だな…。」
「なんやと!!」
「茶番だって言ったんだよ、間抜け。」
「[ハチ/ハチ君]……?」
キリトとアスナはハチマンの発言の意図がつかめていない。
そんなのはお構いなしに、ハチマンは”最善策”へとたどり着くと、キバオウに向かっていく。
「何が茶番やて!?」
「じゃあ聞くが、あいつが死んだときお前らは何してたんだ?」
「は?そりゃお前、ディアベルはんの指示で待機「アホか。」
「あそこは相手の出方を見るのが普通だ、そうだろ?それを全員下がらせてたった一人で特攻?あり得ねぇだろ。奴はLAボーナスに欲をかいて死んだんだよ。キリトのせいでも何でもねぇ。」
「…LAボーナス?なんやそれは?」
「ん?知らないのか?(そういえば俺もキリト達に聞くまで知らなかったな……ははっ、そういうことか。こりゃ好都合だ。)…なら教えてやるよ。各層のラスボスはな、倒すと必ず強力なアイテムをドロップするんだよ。でも手に出来るのはラストアタックをきめた一人だけ。そのせいでプレイヤー間に軋轢が出来ることがあるから、攻略本には載せてなかったんだろうな。」
「それがどうしたっていうんや。」
「まだ分かんねえのか?あいつ、ディアベルはLAボーナスを狙ってたんだぞ?俺だって情報通の知り合いから聞くまで知らなかったのに。どうして奴はそのことを知っていた?」
「は?ま、まさか…。」
「そうだ、ディアベルはβテスターだったんだよ。どうだ?お前の慕ってたリーダーがお前の大ッ嫌いなβテスターだった気分は。」
「う、うるさいッ!!」
怒りで頭に血が上ったキバオウはソードスキルを発動させてハチマンへと斬りかかる。
なんてことのない単調な攻撃。
ハチマンなら問題なく回避できたはずだった。
しかしハチマンは不敵な笑みを浮かべると
その攻撃を避けずに受けた。
瞬間、《犯罪禁止コード》が働き、キバオウの頭上のカーソルがグリーンからオレンジに変わる。
「つまりは、だ。この世界に存在するのは”善い奴”と”悪い奴”だけ。βテスターなんて関係ない。βテスターでも善い奴だっているんだよ。…そして、その逆の、俺みたいな奴とかもなッ!!」
そう叫ぶとハチマンはキバオウを斬りつけた。
キバオウは《犯罪者》なのでハチマンのカーソルはグリーンのままである。
そのままハチマンは攻撃の手を緩めず、キバオウの反撃も悉くはじき返す。
見る見るうちにキバオウのHPは残りわずかとなる。
それでもハチマンは剣を振り上げた。
「死ね。」「やめろぉ!!」
ハチマンがトドメを刺そうとした時、キリトが止めに入ったことで剣がはじかれ、ハチマンの体が押し戻される。
キリトの後ろをみるとアスナが急いでポーションをキバオウに使っていた。
(ホントにお前はお人好しだ、キリト…。)
「……もううんざりだぜ、てめぇら。せいぜい俺の足を引っ張らないように強くなってくれよ?」
そして、ハチマンはウィンドウを操作してLAボーナスの黒いコートを身に纏った。まるでLAボーナスを取れてラッキーだったとでもいうかのように。
「ハチ!!」
「…なんだ、カイト。」
いつの間にかカイトが立ち上がり、去ったいくハチマンはの背中に声を投げかける。
「すまねぇ…。」
「……俺は何もしてない。」
そう言い残し、ハチマンはボス部屋の奥へと消えていった。
その後、第一層に残る全プレイヤーたちに”第一層攻略”という情報が知れわたった。
ボスにとどめを刺した《勇者》と、犠牲になった者を侮辱した《裏切り者》の名前と共に。
「コペル…絶対、絶対に生き残ってみせるから…そこから見ててくれ。」
そういってカイトはコペルの使っていた剣と盾を地面に突き立てる。
アスナがその横に花を添えた。
「すまない…俺たちの反応が遅れたばかりに…。」
「そんなことねぇよ!!俺が一人で突っ込んだのがいけなかったんだ。」
「そういえば、一体あのときはどうしたの?すごく取り乱してたけど…。」
「…そうだな、もうあんなことにならないためにも話しておくべきか。」
「いいのか?」
「隠してもしょうがないしな…。なあ、アスナ、数年前にアメリカへの飛行機を狙ったでっかいテロがあったことは知ってるか?」
「え、えぇ。被害がすごかったからよく覚えてる。それがどうかしたの?」
「…その飛行機に乗ってたんだよ。」
「え?」
「俺もその飛行機に乗ってたんだ。俺はあの事件の数少ない生き残りなんだよ。」
「ええ!?」
「俺の家族も乗ってはいたんだがな…戻ってこれたのは俺だけだった。その後、親父の知り合いだったキリトの両親にかくまってもらってこいつと知り合ったってわけ。高校を出てからは一人暮らしするようになったけどな。」
「そ、そうだったんだ…。」
「だからさ、なんていうか…目の前で何もしないで人が死んでいくのが耐えられなかったんだな。全く…情けない話だ、っておい!どうしてお前が泣いてんだよ!?」
「な、泣いてなんてないわよ!!」
「そこ別に強がらなくてもいいだろ…。」
会った時とはまるで別人のようである。
「そういや、アスナ、これからは生きていくために努力する気になったか?」
「…正直、まだ自分が最後まで生き残れるとは思わないわ。でも…コペルくんみたいな…生きるために必死になる人たちのために、私なんかでもできることがあるのならこれからも頑張ろうとは思った、かな。」
「そうか、そりゃ良かった!それにしてもハチの奴……」
「許せないな。」「心配だな…。」「許せないわね。」
「フレンドも解除しやがったし、今度会ったらただじゃおかねぇ。」
「え、そんな感じ?心配してるとかじゃないの?」
「まあ、心配だけどよ。あいつは強いぜ。隠蔽スキルも相当なものだし、こうなった以上、そう下手なことはしないだろ。だからあいつの足を引っ張らないためにも強くなんねぇとな。」
「ああ!」「そうね。」
ダメだ…書きたいことが全然書けない…。
文才なさすぎて泣ける。
次回、カイトの過去を書きます。