ソードアート・オンライン《三人の勇者》(凍結) 作:ホイコーロー
(なん…だと…?)
「再来週の12月25日、クリスマスの日に発生するイベントのボスが蘇生アイテムをドロップするっていう情報をこの間ゲットしたんダ。場所は…」
俺の耳に、もはやアルゴの言葉は届いていなかった。
(コペルを…生き返らせる…?そんなことが可能なのか?確かに、茅場はHPが全損したら現実で死亡するとは言っていたが、俺たちプレイヤーにそれを確かめる方法はない…。「カッ………。」まだ生きたままどこかに囚われている可能性も否定できない。あり得るのか、そんなことが…)「カッちゃん!!」「うおッ!?」
アルゴの声で意識を現実に連れ戻される。
「何をぼーっとしているんダヨ、カッちゃんらしくもナイ。」
「す、すまん…。」
「まァ、無理もないカ。もう一度言うゾ?時間は12月24日から25日に変わる午前0時。場所はまだはっきりとは分からないガ、とある大きなモミの木の前ダ。」
「茅場からのクリスマスプレゼント、ってか。」
「どうすル、行くのカ?」
「当たり前だ。教えてくれてサンキューな。いくら払えばいい?」
「…御代はいらないヨ。」
「へ?」
「情報料は今回はいらなイ。カッちゃんには何度も助けてもらってるからナ、これはオレっちからの日頃のお礼ってやつダ。」
(あのアルゴが?)「お、お前…熱でもあるんじゃないか…?」
「にゃハハハ!まあ、当然そうなるだろうナ。でも本当だゾ。」
「…すまねぇ。この恩はいつか必ず返す。」
「そんなの別にいいッテ!でもナ、このイベント、ライバルは多いゾ、精々頑張りナ。」
そう言うと、アルゴは走り去って行った。
俺はその日からレベル上げに没頭した。恐らく、今のレベルでは全く足りない。SAOに今まで存在しなかった蘇生アイテムだ、それをドロップするのだから、半端な強さではないことは容易に想像できる。
キリトたちに頼めばそりゃあ手を貸してくれるだろう。でもこれはあの時の俺の罪過だ。あいつらを巻き込みたくはない。
毎日、適当な理由をつけては一人で行ける中でもなるべく効率のいい狩場に張り付く。
そんなことを何回か繰り返した日のことだった。
(誰かにつけられてる?)
別に、誰かが同じ狩場に来るのはおかしいことじゃない。そういう時には、いつもちょっと距離をとってから狩りを再開するのだが、そいつは明らかに俺のことを追ってきていた。
(速いな…ていうかこれって…。)
その速さに覚えがあった俺は追手の正体に感づき、立ち止まる。
「よお、キリト。どうかしたか?」
「…何してるんだよ、カイト。」
追っ手の正体はキリトだった。
「何って、言っただろ?ここで俺の欲しいアイテムがドロップするんだよ。協力してもらうほどのことじゃないし、先に戻ってろって。」
「…アルゴから聞いた。『カイトがとあるイベントに一人で参加するつもりらしいゾ。』って。」
(アルゴが!?余計なことを…。)
もちろん、アルゴは無駄に情報を漏らしたりはしない。あいつなりに考えた結果なんだろう。
「その内容も聞いた…。どうして、どうして俺に相談してくれなかったんだよ!!」
「…聞いたならわかるだろ。俺はどうしてもそいつを手に入れたい。それにあいつが死んだのは俺の責任だ、一人で片をつけなきゃいけねぇ。」
「まだそんなこというのかよ!?ふざけるなよ!!俺だって一緒に戦ってたんだ、あいつを…コぺルを助けたい気持ちは同じじゃないか!!」
「…。」
「それに…俺たち、”兄弟”だろ…。」
「!?」
「もっと頼ってくれよ…。それに…もしそれで啓が死んだら…俺はどうすればいいんだよ…。」
キリトは泣いていた。
それは悲しみか、怒りか、それとも悔しさからなのか、俺には分からなかった。
(俺は、何を考えていたんだ。)
しかし、これだけは分かる。
(罪過…?責任…?)
俺が間違っている。
(こんなのただの我儘じゃないか…。”弟”がこんな風に考えていたとも知らずに…)「すまなった、和人。」
「啓…。」
「俺が、どうかしてたみたいだ。こんな兄貴でも、許してくれるか。」
「ははっ、もともと怒ってなんか、ないさ。」
「そうか…。じゃあ一緒に戦ってくれるか?」
「当たり前だろ。ていうかその言葉を待ってたんだよ。」
(はっ、本当に生意気な奴…。)
その後、俺たちはしばらく狩りを続け、ある程度成果が出た時点でホームへと帰っていた。
「そういえばハチとアスナにも話しとかないとな。」
「あ、確かに。アスナなんか、話してなかったことが後で知れたらどうなるかわからないし…。」
ただ、参加出来るかはかなり怪しいところだ。
アスナはギルドを離れられる状況じゃないし、ハチはまあ、期待できない。
そうなると、二人だけでやることになるのだろうか。
ならば、その前にキリトに話しておくべきことがある。
「実はな、キリト…。」「カイト、言っておきたいことが…。」
言葉が重なってしまった。
「お、すまん、キリトから話していいぞ。」
「ああ。ボス戦の前に話しておきたい。俺のスキル……”ユニークスキル”について。」
「!?」
キリトとカイトが和解した次の日。
「えぇ、私もそれ聞いたわ。もちろん手伝ってあげたいのは山々なんだけど…ちょっと難しいかも。でも《KoB》は総意では参加しないって決まったから安心して。」
「やっぱそうだよなー。まぁ、俺たちでなんとか頑張るよ。」
「ハチはどうだ?」
「俺も忙しいから無理だ。」
「「「(ソロのくせに何が忙しいんだか…。)」」」
ハチマンは嘘をついているということを隠そうともしていなかった。しかし、どうしても参加して欲しいわけでもないのであまり深くは追求しない。それに二人で倒す算段も付いていて、むしろその方が都合がいい理由もある。
「そうか、いきなり呼び出してすまなかったな。」.
「いえ、こっちこそ協力してあげられなくてごめんなさい。」
「頑張れよ。」
「「あぁ。」」
「今回はサンキューな、アルゴ。」
四人が会合した数時間後、ハチマンは今度はアルゴと会っていた。
「別にいいッテ。他ならぬハチ坊からの頼みダ。でも…本当にこれで良かったのカ?」
「ん?何がだ。」
「だから…オレっちに蘇生アイテムの情報を流したのがハチ坊だってことをカッちゃんたちに伝えなくて良かったのカってことダ。」
そう、アルゴの言う通り、この情報のソースはハチマン。《神隠し》の調査をしていた時に第49層でNPCから聞いたのが始まりだ。
つまり、ハチマンはカイトたちがそのイベントに参加するということを、彼らから聞く前どころか、一番初めから知っていたのだ。
「別にいいんだよ。ああいうタイプは恩を売っておくと後々がしつこい。『あの時の恩を返すから~。』ってな。それに、最終的に情報を集めて形にしたのはお前だろ。俺がしたことなんてほとんどない。」
「イヤ、そんな訳ないダロ!オレっちに『他の奴らに情報を流さないでくれ。』なんて頼んでおいてサ。それもカイトたちがアイテムをGETする確率を少しでも上げるためなんダロ?」
もちろん、《神隠し》のことで恩があるからこそ受けた依頼だった。
「俺がそんなお人好しに見えるか?それは蘇生アイテムなんかのせいで攻略組内で衝突が起こるのを未然に防ぐためだ、別にあいつらのためじゃない。」
「ハチ坊…。分かったヨ。そういうことにしておク。」
「おう、頼む。」
そう言うと背を向けて歩き去っていくハチマン。それを見てアルゴも帰っていく。
(ハチ坊…それでいいんダナ、本当ニ。それなら、せめてオイラだけでも本当のことヲ…)「そういえば。」「ワォッ!?」
「なんつー声上げるんだよ…。そういえば聞きたいことがあるの忘れてたわ。」
「な、なんダヨ。」
「お前のホームってどこなんだ?」
「ヘ?オレっちのホームは…ってそんなの言うかヨ!?情報屋が簡単に情報を売らないことはハチ坊も知ってるじゃないカ!」
「なら、見返りとして俺のホームの情報を売る。それでどうだ。」
「フム?……いいダロウ。交渉成立ダ。それにしても何でそんなものヲ?」
「まあ、予防線、だな。」
「?」
活動報告にも書きましたが、この作品は「未完」になることが現在確定していてですね…とりあえず次の話で最後になります。
中途半端もいいとこですが、どうかご理解よろしくお願いします。