ソードアート・オンライン《三人の勇者》(凍結) 作:ホイコーロー
「死ぬかと思った…。」
ハチマンのHPはレッドゾーンぎりぎりである。
彼がイベントボス《ゴースト・ジ・アイズ》を倒すと辺りの霧は晴れていった。もっとも、霧が晴れて名前を確認する前に消えてしまっていたので、彼には相手の名前も姿さえもわからない状態だったわけだが。
そして視界が広がり、彼の目の前に現れたのはターゲットの子供と、
「は?」
「ハチ君…?」「ハチ坊…。」
行方不明だった二人のプレイヤー、アスナとアルゴだった。
(そういえばこいつらもいなくなってたんだっけか。同じところに閉じ込められてたのか。それにしても…二人だけ?どういうことだ?まさか他の奴らはもう手遅れ…)「は、ハチ君ーーー!!!」「ぐはぁッ!?」
突然アスナがハチマンに勢いよく抱きついた。
「お、おま…何を……。」
ハチマンは文句を言おうと口を開いたが、そのまま固まってしまう。
「ウッ…ヒッグ…」
アスナは泣いていた。
その後ろで、アルゴもアスナほどではないが尻もちをついて動けないでいる。
(はぁ…メンドウな…。)
ハチマンはそれを見て何も言えなくなってしまったのだ。
ぼっちは一般人よりも空気が読めるのだ。ただ、気にしないというだけ「うるせぇ。」
『おばあちゃーん!!』『瑠璃子!!』
「感動の再会ダナ。」
「そ、そうね…。」「……。」
ハチマンは落ち着きを取り戻した二人と子供を連れて洞窟の中から脱出した。
アルゴは早々に自力での脱出を諦めてじっとしていたが、死にかけるまで孤軍奮闘していた二人は目の前の光景にイマイチ納得できていないらしい。
それと結局、二人以外のプレイヤーは見つからなかった。
『旅のお方…本当に!どうもありがとうございました!これは、ほんの気持ち程度ですが…どうか受け取って下さい。』
クエストをクリアしたのはハチマンだけなので二人には何の反応も見せない。
(集団で挑んで一人でもクリアしたらオッケーだったのか…)「ってはぁ!?」
ハチマンの手の中には本当に”気持ち程度”のコル(SAOでの通貨)が握られていた。
「ちょ!あれだけ苦労してこれだけとか…!!」
「まあまあ、いいじゃないカ。」「……。」
「代わりに今度ハチ坊が困った時には言いナ、オレっちに出来ることなら手助けしてやるヨ。」
「…!」
「お、マジか。それは心強いな。」
「なんてったっテ、命の恩人なんだからナ。それくらいはさせてくレ。」
「おう、その時はよろしく頼m「わ、私も!!」うおッ!?」
突然アスナが声を上げた。なんだか先程から様子がおかしい。
「わ、私も、その…あの…、h…」(ハチ君に何かあったら…。)
「な、なんだ…。」
「h…ふ、フレンドになってあげる!」(私のバカ~~~!!!)
「は?」
「だから、フレンドになってあげるって言ってんの!光栄に思いなさい!!」
「い、いや、別にいいって。そんな無理強いしねぇから。」
「なッ!?私とフレンドになるのが嫌だっていうの!?」
「そういうわけじゃねぇけど…。」
「だったらなりなさい!」
「は、ハイ…。」(訳がわからん…。)
「そうよ、初めからそう言えばいいのよ。」(け、結果オーライかしら…?)
(これはまさカ…思いがけず面白い情報を手に入れたナ。)
三人はそれぞれ別々のことを考えていた。
「おーい!」
そんな時、森からハチマンの(元)パーティメンバーたちが出てきた。
「で、そっちの方はカイトが解決した、と。」
「そういうわけ。いやーお前もお手柄じゃないか、ハチ!」
ハチマンのパーティメンバー二人と合流した三人は、事情を話したのちに第50層にある《神隠し》調査本部まで戻ってきていた。
そこには今まで行方不明だった者たちも含めた攻略組のメンバーがほとんど勢ぞろいしている。
カイトもあの決死の戦いをなんとか制して、クエストに囚われていたプレイヤーたちを解放することに成功していた。ハチマンの時と同じように一人がクリアすればよかったらしい。
ちなみに、カイトが得た報酬も”気持ち程度”だったという。
「というかさ、俺はハチがいなくなったって聞いたときにはてっきりどっかで狸寝入りでもしてるのかと思ったけどな。」
「まあ、お前らだけで解決できるか怪しいところだったからな。」
「またお前はそんなことを…。いなくなった奴らが心配だったんだろ?隠すことねぇって。それにしても《神隠し》が二箇所で起こってたなんてよく気づいたよな、ハチ。」
「いや、もしかしたらそんな可能性もあるんじゃないかって思っただけだ。それと言っておくが、俺はただ攻略が進まないのが見過ごせなかったからであって…「それでもお前のおかげで二人が助かったんだからよ、もっと誇れって!」………。」
「ねぇ、ちょっと分からないことがあるんだけど。どうしてカイト君の方にはそんなにたくさんの人達がいたのに、こっちにはハチ君を合わせても三人しかいなかったの?」
「ああ、それはだな、ケイタとサチから聞いたんだが、俺の方のクエストを受けるには何らかの条件を達成してないとダメだったらしい。たぶんレベルかステータスに制限があったんだな。お前ら三人に共通することと言えば…。」
「《敏捷》か《感覚》にステータスを多めに振ってる、だな。」
「ああ!なるほど!それで今回は攻略組ばかりが被害にあったんだ。」
「でも、これで《神隠し》も解決したし。遅れた分、頑張らないとな。」
キリトの言葉に攻略への意欲を取り戻すプレイヤーたち。
しかしそんな中、カイトとハチマンの二人だけは浮かない顔をしていた。
(このクエストは明らかに普通じゃなかった。難易度といい、報酬といい。受けるための条件も厳しすぎる。何かしらの意図があったんじゃないのか…?一体何を考えている、茅場晶彦…。)
一方、湧き立つプレイヤーたちにまじって”SAO最強の男”が二人を面白いものでも見つけたかのように見ていたことには誰も気が付いていなかった。
アスナについては…吊り橋効果ってやつですかね(´ω`;)