ソードアート・オンライン《三人の勇者》(凍結) 作:ホイコーロー
ーーーカイトたちが老人と出会う約一時間前、第49層でのこと。
「どうして俺がこんなことをしなきゃいけないのか…。」
俺、ハチマンは今回起こった《神隠し》の調査をしていた。
本来なら他人に任せて狸寝入りするのがエリートぼっちたる俺のやり方なのだが、ここまで攻略が滞ってはどうにもならん。今回は働いてやることにしたのだ。
なぜか
いやもちろん、俺も初めはパーティで行動してたよ?だが、そのメンバーの隙を突いて隠蔽スキルを使いながら逃げてきたのである。
『さすがヒッキー!』とか思ってるそこのお前、俺の名誉のために理由を説明しておこう。
現在、調査のほとんどは第50層で行われているが、《神隠し》が第50層で起きているという保証はどこにもない。それならば当然、第50層以外の場所でも調査すべきだが、今回パーティを組んだ奴らが調査に対して全く意欲的でなかった。
俺は攻略を再開するためにとっととこの奇怪な事件を解決したいのだから
(……やっぱり、班分けなんてろくなもんじゃない。)
ーーーちなみに、キリトはハチマンと組もうとしていたが、意外と人望があるらしく他のプレイヤーからの誘いを受けていた。断ってしまえばいいのにそれが出来ないのがキリトである。それも人望がある一つの理由に違いなかった。
そうして、とりあえずここ第49層に来て片っぱしからNPCに声をかけていた。
(ん?こんな洞窟、前にもあったか?)
すると、見覚えのない洞窟の前へとたどり着いたのである。ここは前にも来たことがあるはずだが、洞窟なんてものがあった覚えはないし、そういった噂も聞いたことはない。
さらに近づいてみると洞窟の前には老婆がいた。
(怪しいよな……。)
そこで一応、パーティメンバーに連絡をしておいた。
本当ならあいつらなんかではなく、情報屋のアルゴ辺りの方が信用は出来るのだが、そのアルゴ本人が《神隠し》に遭っていて連絡が付かないのだから仕方がない。あいつがいれば俺が出しゃばるようなこともなかっただろうに…。
とりあえず声をかけてみる。
「どうかしたのか。」
『ワタシの孫が洞窟の中に入ったきり戻って来ないのよ…。探してきてくれないかね?』
目の前に『Yes』『No』の選択肢が現れ、迷わず『Yes』を選択する。
『そうかいそうかい。ささ、こっちじゃよ。』
(は?イヤイヤイヤイヤ。)
突然、腕を掴まれて洞窟の中へと連れて行かれてしまった。
入口では老婆がこちらを向いて立っているのが見える。
確認してみると、やはり既に外部との連絡は取れないようになっていた。
(なんだ、あの怪力…。絶対自分で行けるだろ…。)
そんなことを毒づきながらも先へと進む。
(暗いな…何も見えん。《暗視》も効かないのか。)
ますます《神隠し》っぽい状況になってきた。
そのまま歩いていくと洞窟の奥に出口があるのが見えてくる。
そこから外に出ると…
「…何も見えん。」
辺り一面がめちゃくちゃ濃い霧に覆われていた。はっきり言って、視界は洞窟の中と全く変わらない。
しばらく歩いても全く晴れる気配はない。
これなら周りに誰かいても気づかないだろう。
(おいおい、ホントに何だ、これ。子供を探すどころじゃないだろ…ん?)
すると遠くの方から、『オバァチャーン、オバァチャーン!!』という子供の声が聞こえてきた。明らかにターゲットの子供の声じゃないか?
攻略組のプレイヤーが苦戦するにしては簡単すぎる。
(これは…あっちの方からか。《神隠し》とは関係なかったか…?)
そう思いながら声のする方へと向かうが、
「ぐはッ!?」
いきなり何かに突き飛ばされた。
「ハァッ、ハァッ…!」(なるほど…確かにこりゃあ”怪物”だね。まさか
俺は老人に連れ去られた後、とある集落へとたどり着いていた。
そこは《クリスタル無効化エリア》で転移結晶も使えなければ、フレンドに連絡を取ることも、周囲の森に入ってもいつの間にか戻ってきてしまう、完全に外と遮断された場所だった。
周囲に行方が分からなくなったプレイヤーの気配はなかったが、状況的に考えてこのクエストが《神隠し》の正体に間違いない。俺しかいないってことは、たぶんここは《インスタンスマップ》ってやつなのだろう。
とりあえず周囲を歩き回っていると、”怪物”らしきものを発見したので、とりあえず交戦を始めていた。
《ザ・メタモン》
初めに見つけたときにはただの銀色の液体だったのだが、エンカウントした瞬間、激しくうごめいたかと思うと俺と全く同じ姿に変化したのだ。
(姿形はともかく、戦術とか動きまで全く一緒かよ…。)
こっちが相手に向かって槍をつけばむこうも同じことをノータイムで返す。それを避ければむこうも避ける。ダメージをくらって(回復結晶が使えないので)ポーションを使えばむこうも使う。何もしなければ何もしてこない…。
(埒があかん…こんな戦いは初めてだ。)
一進一退どころではない。まるでこいつと二人三脚でもしているかのような感覚。
(でも何か、何かが引っかかる…。)
攻撃していた手を一旦止める。
(そうだ…それじゃあ相手が追いつかないほどの速さで走れば…?そういうこともありえるんじゃないのか?)
当たり前だ、こいつは俺じゃないんだから。
(恐らく、俺の思考がナーヴギアを通してこの世界のこの体に反映されるのと同じ経緯でこいつも動いてる。それでもその過程には違いがあるはずだろ。だったら俺の思考がこいつに反映される前に俺がこいつを倒す…。)
矛盾はない。
(しかし、可能なのか…?)
先程から、俺とこいつの動きにそんなラグは感じられない。
それに、失敗すれば同じダメージを俺自身も負うことになる。
その先に待ち受けるのは…。
《死》
(じゃあ、助けを待つか…?)
それも一つの選択肢ではある。
(そういえばサチたちはちゃんと助けを呼びに行ってくれただろうか。)
……まさか。
(…まさかここに来てたりは…しないだろうな…。)
いや、俺があそこまで念を押したんだ、戻ってるはず。
(でもあいつらは三人…誰かが戻って、残りでここに来れば助けは呼べる…。)
そんな…嘘だろ…?
(あいつらのことだ、そうする可能性が高い…。迂闊だった…!)
どうする!
(決まってる!!)
倒す!!
(倒して俺が戻る!)
覚悟を決め、槍を手に再びヤツへと向かう。
(考えろ!!こいつが追いつかないくらい速く!!)
どんどん攻撃を繰り出す。
(まだだ、まだ足りない!)
それでも次第に双方のHPは減っていく。
徐々に思考が体を追い抜くような感覚。
(倒す!!!)
そして俺は槍を振り下ろした。
(一体何なんだ、こいつらは。)
あれから一時間ほどがたっただろうか。
俺はまだ濃い霧の中に囚われていた。
さっきから攻撃してくるのは明らかにエネミー。しかも攻撃からして一匹ではない、二匹いる。
しかし姿が見えない、音も聞こえない、匂いももちろんない。どんなに五感に訴えかけても、捕捉することができなかった。
(いや、触ることはできるか、相手が攻撃してきているんだからな。)
それでも捕捉できないことにはこちらからは攻撃できない。ただ、幸いなことに一定以上退けば攻撃はしてこないようだった。進んでは攻撃され、退きながら《戦闘時回復》を使って回復し、さらに進む。
しかし何度やっても結果は同じだった。子供までたどり着くまでHPがもちそうにない。
(倒すしか…ないのか。)
視えない敵を?
(それとも救助を待つか?)
もうここに来て一時間は経ってる。そんなのアテにならないし、事態が一刻を争うのは明白。外へと情報が届かないならなおさら期待はできない。
(戻らなきゃいけない、俺自身の手で。)
そう覚悟を決めて歩を進める。
「ぐッ!」
やはり視えない。
(集中しろ!)
二つの方向から攻撃が来る。避けることは考えない。
(ぼっちは気配に敏感なんだ…。)「ナメんなッ!」
そして俺の剣は二匹のエネミーをほぼ同時に斬り裂いた。
活動報告書きました。
かなり重要なことを書いたので、もしこの作品の存続を気にしてくださる方がいれば読んでもらったほうがいいと思います。
先に言っておきますが…本当に申し訳ないです。