わたしゃここにいるよ(うそ)   作:bebebe

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 咲夜さんのキャラが安定しない。
 彼女はいろんな属性をもった天然だから仕方ない。

 おぜうさまの『運命を操る程度の能力』はちょっと拡大解釈。
 結果に対する原因。
 物理的な動き(物理の層)と心理的な動き(心理の層)を原因として結果(記憶の層)を改変する流れを作るというイメージです。※香霖堂のを作者の妄想で弄っただけです。
 




 

 カツカツと俺の前を歩くメイド――十六夜咲夜の足音が廊下に響く。俺はと言うと、その後ろを幽体となった足でフヨフヨと浮きながら付いて行っていた。

 

 それにしても改めて思ったが、この廊下というよりこの館は予想以上に広くそして紅い。

 入口から入ってすでに数百歩分は歩いた感じであるのに、まだ目的地に着きそうな気配はない。

 まあ原作からしてあれだけ霊夢と魔理沙が飛び回ったこの場所がそんなに狭いわけはないとは思ったが、実際に見てみると正直この現象を起こしているはずの目の前の彼女には呆れを通り越して疲れないのかと心配になってくる。それに何処を見ても紅ばかりで目が痛くなりそうだ。

 代わりとばかりに青いメイド服を着ている彼女に視線を向けて目を休めていると、その彼女から「如何しましたか?」と声がかかってきた。

 

「ああ……外観とは違って中は随分と広いと思ってね」

「そうですか」

「私もここ半月ぐらい神社で家政婦まがいなことをしているからね。こんなに広いと色々と大変じゃない?」

 

 「掃除とか?」と俺が素直に感じた疑問を述べると、彼女は足を止めて振り向くと少し驚いた顔でこちらを見た。

 

「ん、どうしたんだい?」

「いえ、すこし意外だと思いまして……少なくとも私は、貴女があの二人の師やその類あたりだろうと見ていたのですが……」

「あー……期待に添えなくて悪いね。こちとら幻想郷に来てからまだ一月も経ってないんだよ」

「なるほど……ではあの傍若無人な二人に対して無責任なわけではなく、元よりそういう関係ではなかったんですね」

 

 彼女はそう言うと先程までの仏頂面とは違う、彼女本来の笑みを俺に見せる。

 何と言うか……勘違いも甚だしいと言うべきか、それに俺が心の中で溜め息をついていると、彼女は見事なカテーシーをして――

 

「失礼しました。私は十六夜咲夜。是非とも咲夜とお呼びください」

 

 と言ってきた。

 どうやら咲夜から見て俺は、あの『二人の無責任な監督者』から『巻き込まれた被害者』やら『上司に振り回される部下』と言った印象にグレードアップ? したようで、何と言うか同類のような扱いになったようだ。

 その後の彼女は随分と友好的で、いつの間にかお互いに名前を呼び合う仲になっていたのだが――

 

「――でですね。こんなに館を広げたのに掃除はいつも通り行いなさいと、お嬢様は最近ではそのようなことばかり……いえ、わかっていますよ。異変を起こしてそれを解決しに来る相手を格式高くお出迎えするために塵一つ残っていても駄目なことは!」

「あんたも大変なんだね……」

 

 どういうわけか俺は咲夜の語るお嬢様の無茶ぶりを聞かされる羽目になっていた。

 

「でも、それでやめないあんたはお嬢様が大好きなんだろう?」

「ええ当然です! 特に普段からカリスマ溢れるお嬢様がお眠りになった際の寝顔ときたら……一日の! いえ一月の疲れぐらい吹っ飛びます!」

「お、おぅ……」

 

 これもある意味幻想(お約束)というやつだろうか。

 咲夜のあまりの勢いに俺が引いていると、興奮してお嬢様のことを語る彼女の周りに何やら花が咲き誇り目がキラキラして鼻からタラリと赤い液体が――

 

「って大丈夫かい?」

「おっと……失礼しました。いささか興奮しすぎたようです」

(いや興奮ってだけであそこまでならんでしょ……)

 

 俺は心の中で咲夜にツッコミを入れる。

 彼女はフキフキと、どこから取り出したのかハンカチを手に持って鼻血の後を綺麗さっぱり拭き取り凛とした表情をすると、出した時と同じようにハンカチをいつの間にか仕舞い、そろそろお嬢様の部屋に着くと俺に告げてさっさと前を歩き出してしまった。

 

「…………」

 

 そして俺はそんな咲夜の変わり様に黙ったまま驚いていた。

 というのも彼女から最初に感じていた印象は警戒されていたのもあるが極めて冷淡であり、やはり現実的とでも言うのだろうか、現実に則した行動をとっていたのだが、途中から自分と同じような立場にあることがわかるとそれが一転して急に親身になり、そしてお嬢様について話した途端に、まさかの鼻血である。

 霊夢や魔理沙についてはさほど感じたことはないが、この咲夜については恐ろしいほど創作的な行動――俺にとって元の世界と呼べるその世界での創作された彼女のような行動をとってくる。

 この分だと他のキャラクター……いや他の人達についても同様にそういったことがありえるかもしれない。俺がそんなことを考えていると――

 

「こちらです」

 

 唐突に聞こえた咲夜の声に思考の海から起き上がり、俺は彼女に視線を向けた。

 視線の先には彼女がノックして開いた扉があり、その奥には青みがかった銀髪をクルクルと指に絡めて暇そうにソファに座っている幼女がいた。

 

「あら、いらっしゃい。ようこそ悪魔の館へ……座ってくれて構わないわ」

 

 そして部屋に入ると、幼女がこちらを向いて口元に弧を浮かべ、対面に座るように薦めてきた。

 その様はやはりカリスマの具現と求聞史紀で書かれている通り、優雅でありながら何処か威厳があり、不思議と威圧感を感じてしまう。

 俺はちらりと部屋の入り口に静かに立っている咲夜に視線を向け、彼女がキッとさっさと座るように睨んできたのを受け、観念すると幼女の対面に座った。

 

「はじめまして、私はレミリア・スカーレット。吸血鬼でこの館の主よ」

「ご丁寧にどうもレミリア嬢、私は魅魔。幽霊みたいなもんで最近幻想郷に来たばかり、それと博麗神社で家政婦まがいなことをしているよ」

 

 俺がそう言うとレミリアにとって予想外だったのか、彼女はきょとんとするとすぐに堪えきれなくなったのか笑い出した。

 

「プッククク……なぁにそれ! 家政婦って貴女、アハハハハハ!」

 

 レミリアにとって、俺が家政婦をやっているということは余程に笑いのツボに入ることだったらしい。

 確かにわからないでもない。俺だって魅魔様が家政婦なんてことをしていたら、そのおかしさに笑ってしまうかもしれない。だが、ここで笑われているのはあくまで俺である。

 正直気分のいいものではない。

 

 俺は膝の上で重ねていた手を解いて腕を組むと、眉間に皺を寄せてレミリアを睨む。

 そして彼女もそれに気づいたのか、荒い息を整えて笑うのをやめるとテーブルの上にいつの間に置かれていた紅茶を一口し「悪かったわ」と小さく呟き、ティーカップをテーブルの上に戻した。

 

「いいよ、私も少なからず似合ってないとは思ってたし、まあそんなことよりもどうして私と会いたいと思ったんだか、それを教えてくれないかい?」

「そうね。でもそれを語る前に私の能力について話す必要があるのだけれど……魅魔、貴女は能力について何処まで知っている?」

 

 レミリアに問われ、俺は俯き気味に視線を彼女から逸らして考える。

 思い当たるのは原作の情報であるが、さすがに今ここでそれを話すわけにはいかないし、元より話せるものでもない。そう考えて俺は、霊夢に軽く教えられた『それぞれが何らかの固有の能力を持っている』ということだけをレミリアに伝えた。

 彼女は「まあ概ねその通りね」とそれに頷くと、ソファの肘掛けに腕を乗せて手で顎を支えるように体を預け目をつむる。

 それに俺が何をしているのかと訝しげに見ていると、彼女は目を開いて小さくため息をついた。

 

「私の能力は『運命を操る程度の能力』と言ってね。まあ文字通りの能力なんだけど、相手のこれから起こりうる結果に対する原因、すなわち因果から相手がどうなるかを予見できるし、それを多少なりとも誘導して別の結果を導き出すことができるの」

 

 その後レミリアは、ニヤリと笑みを浮かべて「まあ弱い因果ならいくらでも弄れるけどね」と言ってまた紅茶に手を出した。

 俺はというと、原作で他のキャラクターに憶測で語られていた彼女の能力を本人から聞かされて驚き、またそこから考えられる会いたいという理由を朧げながら掴んだ。

 

「……あんたが私に会いたい理由ってのは私の運命ってやつが御眼鏡に叶ったせいかい?」

「ええその通りよ、貴女は理解が早くて助かるわ。それで……貴女の運命なんだけど……」

 

 レミリアは何故か言い淀む。

 彼女は間違いなく俺の運命を見たはずなのだが、一体何が見えたのだろうか。

 そして、こちらが続きを促すと彼女は参ったとばかりに肩を竦めてソファに体を投げ出すと――

 

「見えないの」

「へっ?」

「だから複雑に絡み合ってて逆に見えないのよ」

 

 とぶっきらぼうに言った。

 これはどう反応すればいいのだろう。というよりレミリアは一体何を見たのか。

 俺の運命が複雑に絡み合っているということを先程の彼女の能力の話から考えるなら、一つの原因から様々な結果が導き出されるのか、それともいくつかの原因から一つの結果が導き出されるのかがわからない。

 それを彼女に尋ねると、彼女は深々と座ったままのだらけ気味な姿勢から感心の視線をこちらに向けてきて言った。

 

「ほほう、さすがに魔法に携わる輩は揃って頭の回転が早い。まあ答え合わせをするならどっちもだ。どうしてだか……複数の因果の糸が絡み合ってまるで解ける気配を見せない」

 

 ちょっと手を出しただけでこの疲れ具合だ。とレミリアは長々と息を吐いた。

 なるほど、確かに感じていた威圧感が減って――彼女で表すならカリスマがブレイクしてしまっている。俺に内緒でこちらの運命に手を加えようとした結果、勝手に疲労して、勝手に座り込んでしまったようだ。

 

 それにしても彼女ですら手を出せず、尚且つ読めないという俺の運命というやつは何なんだろうか。

 そもそも俺という存在自体が訳が分からない代物だ。

 最初は夢だと思って魅魔様として行動していたら、いつの間にやらそれが違和感なく行動できるようになり、霊力や魔法といった幻想の存在についての知識もどうしてだか持っている。

 それとこれもある意味――と言うより一、二位を争うくらい重要なことだが、最初は見るのもやばかった魅魔様の体も今では自分の体として認識しだしてしまっている……。

 別に精神が女のものになったというわけではない。現に射命丸に対しては随分と男としての対応してしまっていた。

 

「ふむ……おいしい……」

 

 色々頭で考えつつ少しぬるくなった紅茶をいただく。

 こういう時、体は頭とは違って素直なものでポロリと口から感想が漏れてしまう。

 それにつられるように少しクリアになった頭で、ふとあの二人のことが思い当たった。

 

「そういえばレミリア嬢。霊夢と魔理沙の二人なんだがどうしてる?」

「ん、ああ……そういえばすっかり忘れていたわね。咲夜、あの二人は?」

 

 俺の問いにレミリアは手を叩き、後ろを見る。

 すると咲夜がレミリアの座るソファの後ろに瞬きする間に現れ――

 

「あの二人でしたら白黒の方は罠に誘導後、現在では図書館でパチュリー様と交戦中です。また紅白に関しては何故か誘導がうまくいかなかったので本気にさせた門番に再度相手をさせています」

「なるほど……まあありえないとは思うけど、そこを通られたら掃除は任せるわね。咲夜」

「はっ!」

 

 咲夜はレミリアの指示に頷くと瞬時にその場から消え去る。

 それを見届けた俺はというと、咲夜がもたらした情報からまだ二人が脱落していないことを知り、どうするか一瞬だけ悩んだが目の前に新しい紅茶が入れられているのを見てどうもしないことに決めた。

 ただそれについてはレミリアに気づかれたようで、彼女から「さぼってていいの?」と呆れられてしまったが、それはそれで代わりとなる重要な役目が俺にはあった。

 

「なにそれ?」

「ここでレミリア嬢(ラスボス)とお茶会して出張るのを抑える役目」

「フフ、面白いわね。それじゃもし私が出張ろうとしたら力尽くで止めるの?」

 

 どうやら俺の言葉が少しレミリアの気に障ってしまったらしい。

 彼女は笑みを浮かべたまま立ち上がると、座ったままの俺を見下ろして威圧してくる。魔力も垂れ流しているようで、彼女の周りの空間が若干歪んで見えた。

 それに対して俺は紅茶を一口しつつ、彼女の魔力に対抗しようと霊力を放射した。

 

「ッ!」

 

 レミリアは一瞬驚きの顔を見せると、それを瞬時に好戦的な笑みに変える。

 彼女が何を思っているかはわからないが、その表情からは何とも嬉しそうな部分が見え隠れしているように見えた。

 そしてその後、このそこそこ広い応接間は今ではお互いに吹き出す力と力のぶつかり合いにより所々でバチバチと力の反発による放電のような現象が起こってしまっていて、もはや一戦もやむなしかと俺が立ち上がろうとした矢先――

 

「なに、ラスボスの先輩としてちょっとしたお節介よ。あの二人がそれ相応の力を示したなら相手をしてやればいいし、また来させたいなら死んでしまわない程度に倒せばいいのよ」

 

 何故か俺は心の底から浮かんだ言葉を口にしていた。

 

 俺は思わず自分の口に手を当てる。今の一瞬だけ、俺は無意識に言葉を発していた。

 その事実にショックを受けて動揺していると、どうやらレミリアも俺ほどではないが衝撃を受けたらしい。

 妖力の垂れ流しをやめるとポスンとソファに座り、まじまじと不思議そうな目で俺の方を見てくる。

 

「せんぱい? 先輩って、貴女最近幻想郷に来たのよね?」

「あ、いや……そのはずなんだが……」

「ふぅん……」

 

 俺の曖昧な返答にレミリアは何かに納得したのか、考えるような素振りを見せて何かに頷くとこちらを見るのをやめて紅茶を飲み始める。

 

「まあいいわ、付き合ってあげる。確かに異変の元凶(ラスボス)なら出張るのは最後じゃないと駄目ね」

 

 そしてレミリアがテーブルの上のクッキーを摘むのを余所に、俺はというと何がなんだかわからないままに混乱しつつも当初の目的通り、彼女をここで抑えることには成功したのだった。

 




 
 主人公戦わない!
 一体何時戦うのか!そしてそれを表現できるのか!
 作者は戦々恐々としている!

 とまあそれは置いておいて、今更ながらお気に入り250越えや、そしてそしてまさかのランキング入り! 誠にありがとうございます!
 何位までいったかはちょっと確認できませんでしたが(確認できたりします?)本当に感謝です!
 今後もできるだけ早めに更新できるよう頑張ります!
 

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