遅くなって申し訳ありません。
ちょっっとリアルが忙しかったり、リリカルなのはの小説をいくつか書き溜めしてたり(遅くなった原因のメイン)、小説読んでて書く時間が無かったり――
言い訳は駄目ですね。ごめんなさい。
黒い翼に風を纏い、どこからともなく飛んできた鴉天狗の少女。
「……」
「どうも初めまして、伝統の幻想ブン屋で鴉天狗の『射命丸文』です!」
その少女――射命丸文は俺の前で急停止すると元気よく右手を挙げて自己紹介を行い、いつの間に取り出したのか手に何やら分厚い手帳を持ってこちらに迫ると、いきなりの事で唖然としている俺に質問していいかと聞いてきた。
「……拒否権は――」
「ありませんともっ! 今の幻想郷で貴女について知りたがっている方は大勢いるんですから、こんな取材のチャンスを私が見逃すはずがないでしょう!」
最後に「ねえ!」とウインクして同意を求めてきたがどう反応すればよいのだろうか。
はっきり言ってしまえば、俺は彼女に何も答えたくはなかった。
原作からしてこの射命丸文の新聞――『文々。新聞』は有る事無い事を捏造して書かれるゴシップ記事みたいなもので、ここで書くことを許すと俺にとって大変困るようなことになるだろう。
ついでにそれによって霊夢に迷惑がかかると余計にまずいことになるはずだ。
だから俺は――
「わかった。でもできれば霊夢に迷惑がかからないようにしてくれ。お前も食材の一部にはなりたくないだろう?」
とりあえず霊夢をダシに彼女を脅しておくことにした。
「え、い、いや記者たるもの権力にはですね――」
どの口がほざいているのだろうか。
その後に続く彼女の台詞を聞き流しつつ俺は溜め息を漏らすと、とりあえず気になった「俺について知りたがっている方」が大勢居ることについて尋ねてみた。
「あ、それはですね……あの白黒の魔法使いが言いふらしたんですよ。『私のお師匠様と考えた魔法だぜ』なんて言って結構いろんな方を相手に弾幕ごっこを仕掛けたようでして、それも勝ち進んじゃうものですから皆さんはお師匠様が一体誰なのか気になって仕方がなく――」
「ああ、わかったわかった。もういい、よくわかった」
白黒の魔法使い――どう考えても魔理沙だ。
俺は話を続けようとする射命丸を止めると、なんだか頭痛がした気がしたので額に手を置いて天を仰いだ。
そして射命丸はと言うと、俺の様子が面白いのかニヤニヤと悪い笑みを浮かべて手帳に何か書き込んでいた。
「とりあえずお名前を窺ってもいいでしょうか?」
唐突に手帳に顔を伏せたままの射命丸から質問が飛んでくる。
そう言えば相手にだけ名乗らせて自分は名乗っていなかったらしい。
失礼なことになるが、まあ彼女相手ならそれほど気にしないでもたぶん大丈夫だろう。
一つ言い訳をするならば、原作を知っているせいで相手の名前や性格をなんとなく把握してしまい、つい相手も自分のことを知っているという感覚に陥ってしまうせいだ。
(名前を出したところで魔理沙の師匠の名前がそれって程度だし……大丈夫だろう)
この時の油断のせいで、新聞に大々的に報じられた際に面倒事がやってくることになったのは後の祭りである。
「魅魔だ」
「ほほう……なるほど魅魔ですか」
何を思ったかは分からないが、射命丸は俺の名前を手帳に書き込むと口元に弧を描いて視線をこちらの胸に向けて「なるほど」と呟いた。
ちなみに彼女がこの時何を思ったのかと後々の新聞に俺と霊夢が激怒した時に吐かせたのだが、中国語圏における魅魔という名は夢魔や淫魔――つまるところのそういう代物で、そしてそういう代物を家に置いている霊夢もまたそういう欲求不満であると考えたらしい。
閑話休題。
それからいくつか質問に真面目に受け答えした俺は、日がだいぶ動いたのを確認してまずいことに気づいた。
(やべぇ……紅魔館の位置とかまったく把握してねーのに時間ばっか経っちまった)
その様子が射命丸にも伝わったのか、彼女はどうしたのかと俺に尋ねてその理由を聞くと、一つ頷いて最後の質問をしていいかと何故か極上の笑みを浮かべて聞いてきた。
そしてその後すぐに俺はその笑みの訳を知る。
「ええでは……魅魔さんの一人称が『俺』だったっていうのは本当ですか? ついでに男口調だったってのも知りたいんですが……?」
俺は石のように硬直した。
「ど、どこで……それを?」
そして掠れたように小さな声で射命丸に尋ねる。
その返答が彼女にその質問が本当であることを教えているのだが、動揺のあまり正確な判断ができなくなっていた俺は気づかない。
逆に当たりだと気づいた彼女は手帳に大きく丸をつけて、『俺系●魔と巫女のあられもない関係』とネタを書き込み、その後にそっけなく白黒の魔法使いが言っていたと俺に伝えてきた。
「ま、魔理沙……許さんぞ……」
「お、おおぅすごい霊力ですね。まあ魅魔さん私はこの辺で帰りますのでってなんですか? 離してくださいよ」
はっきり言って自慢したいのか貶したいのか、プライバシーの欠片もない魔理沙に羞恥心やその他もろもろの感情が俺の中で荒れ狂い、霊力もそれに合わせて弾けるように俺の周りを禍々しく渦巻く。
漏れ出しただけでも予想以上に強かったそれに、射命丸が若干呆れつつもネタを早速煮詰めるために帰ろうとした矢先、俺の手が彼女の肩を掴んだ。
「なあ射命丸、他にも俺について何か知らないか?」
「なんですかっていうか口調変わってますけど大丈夫ですか?」
「そっちは気にするな。どうせお前は知っているんだから……それよりも俺が聞きたいのはその手帳の中身なんだが気になって仕方がないんだ……見せてくれないか?」
「え、えーっと…これは……仕事上の機密とかそーいうのも書かれてますので……」
俺が聞いた途端、射命丸は慌てて懐に手帳をしまう。
だがそれを見逃す気はない俺は、掴んだ肩を引いてそのまま後ろに倒れこんできた彼女を抱き込むと手帳があるであろうそこに手を突っ込んだ。
「ひゃう! ちょ、ちょっと魅魔さんっ!?」
「おいおい、あまりはしゃぐな。捕れないだろうが」
「ぁっ、やめ、そこ、は、んっ!」
耳に射命丸の悶えるようなそれでいて何かに堪える声が聞こえるが、俺は全く気にせず手帳を手に入れようと手を動かす。
それが変な所に当たっているのか、彼女はそのたびに体を震わせて小さく唸り、必死に俺の手を引き抜こうとして暴れるのだが、どうにも力が入っていない。俺はそれを好機とみて彼女と体が密着するほど近づくと、彼女の肩越しに懐を覗いて目当ての物を引き出した。だが――
「か、返してください!」
顔を真っ赤にした射命丸が今までにないスピードで動いて俺の手から手帳を取り返してしまった。
そして彼女は手帳を開いて目的のページを見つけると取り出したペンで何度も何度も斜線を引き、「これでどうですかっ!?」とすごい剣幕で俺を睨みつけると、こちらの眼前にページを見えるように持った手帳を突きつけてきた。
そこには大半が――そして一部が完全に読めなくなるほど黒く塗りつぶされたページがあった。
「あ、ああ……」
さすがの俺も、その剣幕に加えてそこまでされては追求する気も起きない。
射命丸も色々な意味で興奮して荒れた息を整えるとすぐさま手帳をしまって、キッと目尻に涙を浮かべた目で俺をまた睨んできた。
「えっとだな――」
「初めてですよ」
なんとなくバツが悪くなって、俺は彼女に謝るべきかと思ったところ……彼女はその表情を怒ったり、恥じらったりと忙しなく変えて遮ってきた。
「千年以上生きてきていきなりこんなことをしてくる人は初めてです」
「な、なにを……」
「……胸」
「あっ」
ボソリと頬を赤く染めた射命丸が呟く。
この時初めて俺は、彼女の懐――つまり胸元に手を突っ込んでいたことに気づいた。
そして気づいてしまったがために、思わず自ら爆発してしまいたくなるほどの動揺、そして先ほどとはまた色の違う恥ずかしさが吹き上がるかのごとく湧き上がり、顔を染め上げた。
「ご、ごめん……」
「いえ、いいんです。貴女がそういう種族だということはわかっていましたから」
「へっ?」
何かとても大事なことを彼女は勘違いしている。
ポカンとしている俺がその答えに辿り着く前に、彼女はその何かを納得したのかサッと俺から離れて視線を逸し――
「別にそういうのはあれです。長く生きてると多少は必要になってきますし気晴らしになるのもわかりますから……せめて私相手の時は誰の目にも留まらないところでにしてください」
早口にいじらしい表情で最後に小さく呟いた後、射命丸は俺から逃げるように飛んでいったのだった。
そして俺は小さくなっていく彼女をただ呆然と見送ったのだった。
※ ※ ※ ※
その後の俺は、ショックのあまり意識しないままに地表付近まで降りて、手早く探索して湖を見つけるとそのままの流れで紅魔館を見つけ、何故か騒がしいその門前までやってきた。
「あっ」
「「んっ?」」
そしてそこでは紅白と白黒――まあ霊夢と魔理沙の二人が何やら言い争っていたようで、俺が話を聞くと、どうやら二人はどちらが先に紅魔館に仕掛けるかということについて話していた。
なんでも霊夢はすでに門番と戦い勝利してきたらしく、この紅魔館の関係者と先に戦ったがために当然自分が先に行くと主張していて、魔理沙は魔理沙で先にここに辿り着いたから霊夢は引っ込んでいろと異変の原因を先に見つけた者としての挑戦者の権利を主張していた。
と言ってもその差も僅かでしかなく、俺からしてみればどちらもまだ紅魔館の中の敵と戦っていないというのに、自分が行けばもう異変解決できる気でいるというのは自信過剰もいいところである。
まあそうでなければ異変解決へ動こうともしないだろうし、動く権利すらないだろう。
ならばと俺はひとつ提案する。
「あれだけ窓があるようだし、どれか好きなところから侵入すればいいだろう?」
「そうね」
かなり物騒ではあるが、相手は異変を起こしているのだから多少の被害は諦めてくれるだろう。
そう考えれば少ない窓が離れたところに点在しているのはありがたい。
別々の窓から侵入すれば全く別の箇所からの攻略となるはずだ。
そう考えての提案だったが、珍しく魔理沙よりも早く霊夢が俺が乗ってきた。ただ、逆に魔理沙の方はというと苦虫を潰したような表情を見せている。
彼女が言うには運ゲー要素じゃ異変時の霊夢に勝てるわけがないだそうだが、ぶっちゃけ知ったことではない。俺を鴉天狗に売った魔理沙が多少不利になろうとも、こちらにとっては何も不利益にならないし、そもそも俺は霊夢に雇われているようなものだ。
「二対一だし決定ね」
「お、おい……」
最後に霊夢がそう言って飛ぶと――
魔理沙が何か言う前に窓ガラスを蹴破って紅魔館に入っていってしまった。
そして置いて行かれた俺と魔理沙はと言うと……
「じー」
魔理沙にジト目で見られた。
何だというのだ。仮に俺が彼女の師匠だったとしてもこういう勝負の場で師匠が弟子に肩を貸すことなんてありえないだろう。それに今回の助言だって一緒にいたら勝負にならないという魔理沙の言い分のままのはずだ。
だから俺は、彼女に博麗神社に住むための条件として付いて行くことを命令されているだけでどちらにも手を貸す気はないと伝えると、何を思ったのか彼女は「だったら私の家にくればいい」と言ってきた。
だが――
「住む部屋があったらな」
「あぅ……」
俺のただ一言で彼女は撃沈した。
魔理沙の家である魔法の森の霧雨魔法店は外の世界で言うところのゴミ屋敷である。
彼女が拾い集めてきたアイテムがところ狭しと散らかっており、小さな魔法の森のようになってしまっていて、当然俺が住むところなんてない。
それを伝えると魔理沙はため息をついて「行くか……」と力なく呟いて、霊夢とは全く別の窓ガラスに飛び込んだのだった。
「さて……」
(俺はどうするか)
二人が紅魔館に侵入し、俺としてはこのまま庭園でも鑑賞しながら待つというのもありと言えばありだったが、そうは問屋が卸さないらしい。
全くわからなかったが気づいた時には俺の前に銀髪のメイドが剣呑な雰囲気を漂わせて立っていた。
「申し訳ありませんが、この館の主人であるお嬢様がぜひ貴女にお会いしたいとのことですので、出来れば抵抗せずに付いて来てくれませんか?」
「随分と物騒だね」
「何のアポイントもなく館に窓から侵入してくる相手に遠慮する必要はありませんから」
「違いない」
どうやら剣呑なのは壊した窓のことについて怒っているかららしい。
それについてはご愁傷様と心の中で呟き、俺はメイド――たぶん『十六夜咲夜』であろう彼女に従って紅魔館のお嬢様――『レミリア・スカーレット』の元へ向かったのだった。
なんというか射命丸との間に何かフラグができてしまった件。
これも全部>>301ってやつのせいなんだ。
ちなみにリリカルなのはの小説は何時かは投稿予定――
どっかで見たことあるテンプレにしかならないさー