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前を飛ぶ霊夢ともう一つの影――魔理沙を追って俺は飛行速度を上げる。
いくらか飛ぶことには慣れたかといって、こんな速度は俺にとっては初体験であり、いつバランスを崩して失速するかもわからない状態だった。
しかし、前を飛ぶ二人はそれに気づく余裕もないだろう。
例え俺が置いて行かれたとしても気づかないどころか、霊夢に至っては寧ろなんで付いてこなかったかと怒るかもしれない。
その状況が余裕で想像することができ、憂いて彼女の隣を見る。そこにはこうなった原因で、霊夢に勝負を仕掛けた魔理沙が俺の視線に気づいてサムズアップを返してきた。
(違う! そうじゃねぇ!)
俺は心の叫びとついでに無茶する羽目になった恨みを視線に込めて、徐々に離れていく魔理沙の背を睨みつける。
どうせ口で叫んでも飛行時に魔法やらなんやらで風を遮断している彼女達には届かない。また聞こえたとしても元々二メートルくらいであったお互いの距離はもうすでに十メートルを超えどうしようもなくなっていた。
(ここらで一旦追いかけるのを諦めようかなぁ……正直面倒臭い……)
どうやら今の異変解決に向けて動く真面目な霊夢から抜け落ちたらしい普段の彼女のだらけっぷりが、俺に逃げこんできたらしい。そんなこちらを堕落させようとする憂鬱な気持ちを相手に適当に相槌を打ちつつ、俺は先程の気になった魔理沙の話について考えた。
それはどうして霊夢より先に紅い霧について気づけたはずの魔理沙が、異変解決に動くのが遅れたかというもので、霊夢がボロボロになって帰ってきたあの日から魔理沙はずっとその原因となったマスタースパークによって破壊された香霖堂を修理するのに忙しく、動くに動けなかったそうだ。
それでいて異変解決に動くタイミングが霊夢と同じになるというのはまったくもって笑えない。この紅霧異変の元凶であるお嬢様ではないが、まるで運命のめぐり合わせが確定しているのを見せられたかのようだ。
(あっ……)
思考しながら飛んでいたのが不味かったのだろう。
気づけば辺り一面紅い霧のせいで視界が悪く――俺は前を飛んでいたはずの二人を見失ってしまった。
(しまったなぁ……)
俺はもう追いつけないならばとその場に立ち止まる。
実際の所、この後何処に行けばいいかはわかっているし、原作での一面――対『ルーミア』戦が始まったのは日が落ちた後の夜であるはずなので、だいたい時間的には午後の三時頃である今はまだ余裕があった。
(まあそれもきちんと場所を把握していないとまずいんだけどな……)
そう思ってとりあえず上空に向けて飛び上がる。
霧の壁を突き破り、幻想郷を一望できる高さまでくると目印となるはずの妖怪の山の位置を確認し眼下を見下ろす。最終的な目的地はあそこに見える山の麓にあるはずの霧の湖近くに建っている。そこに向かうように飛べば必ずはぐれた二人とも出会えるであろう。
俺はそう楽観視して早速霧の湖を探すがすぐに挫折した。
(霧で湖がどこにあるか全くわからねぇ……)
よくよく考えて見れば霧の湖なんて名前からして湖は普段から霧に包まれているのだろう。
普段ならそれが逆に目印にでもなりそうなのだが今は時期がまずい。幻想郷中に広がっている紅い霧が霧の湖の霧と交じり合い、全く場所がわからないのだ。
そんな時である――
「あややや……誰かと思えば最近博麗の巫女の所にいる幽霊ですか?」
どうするかと腕を組んでいた悩んでいた俺の前に一陣の風が現れたのだった。
※ ※ ※ ※
「ったく……逃げ足だけは早いんだから」
腐れ縁とも言えそうな友人である白黒の魔法使い……魔理沙が飛んでいった方向を見て、私は一人ぼやく。勘だよりに強引に連れてきた魅魔と共に異変の元凶を探していた時、あいつは何処からともなくやってきて、私にどちらが先に異変を解決するか勝負だなどと、こちらの都合も聞かずに仕掛けてきた上に、一緒に行ったら勝負にならないぜと言いたいことだけ言ってから、来た時と同じように何処かへ去っていった。
「はぁ……」
ひどく面倒くさくなってきたと溜息が出る。出来ることならどうぞどうぞとあいつに異変解決を任せる、もとい押し付けてしまいたいが、あいにく私は博麗の巫女であり……こう言った時に動かなかった場合、あの胡散臭い妖怪に何をされるかわかったものじゃない。
それにいつの間にいなくなったのか、魅魔の姿もない。一応は逃げないようにきつく言っておいたので逃げたということはないだろうが、何処に行くにしろ自分に何か伝えてから行けというのだ。
(それに魔理沙が張り切っている理由は間違いなく魅魔が見てるせいだし……ああもう連れてきて損したかも……)
少しだけ苛立ちを感じ、頭が痛くなってきた私はちょうど下が湖の畔であることを確認するとそこに降り立ち、側にあった木にもたれかかった。
いまだにこの霧の異変の原因がなんであるか見当がつかず、ただただ勘を頼りにその答えを導き出そうとする今の自分は見たこともない先代の博麗の巫女の目にはどう映るのか、思わず溜め息が漏れる。
するとそれが白い息となったことに眉をひそめる。どうやら勘だよりにここに立ち寄ったことで何かを引き寄せたらしい。
私は木にもたれかかったまま辺りを見渡すと、側の茂みから六枚の氷の羽と虫とも鳥とも付かない縁のついた羽がとび出ているを見つけた。
「……」
(なんだろう……厄介事な気しかしない……)
黙したまま顔に手を当ててその様子を見る。
頭かくしてなんとやらというか、まあそれについてはどうやっても頭の足りない妖精らしいといえばらしいのだが、意識を向けることで聞こえてくる小さな会話の内容にはどうにも不穏な空気が漂っていて、無い頭を振り絞ったそれにこちらの頭は余計痛くなった。
「いくらチルノちゃんでもあの巫女相手に勝つなんて無理だよぉ……」
「大丈夫よ大ちゃん。あたい本人が注意を逸らして頭の上から氷を落とすこの作戦があればなんとでもなるわ」
(その作戦を相手に聞かせている時点でどうにもならないでしょうに……)
しかも相手が博麗の巫女とわかっていての作戦である。
里の只の人間ならまだしも、私を相手にそれとはもはやこちらを甘く見ているとしか思えない。
いくら妖精だからといってこちらにも気にしていることぐらいはあるのだ。
「やいっ! そこの紅白巫女っ!」
私は茂みからとび出してきた水色の妖精に注意を向けつつ、その背後に飛べるよう亜空穴の準備をして仕掛けてくるのを待った。
「……なによ?」
「あたいと勝負しろっ!」
妖精が叫ぶと同時に霊力のようなものが頭上に集まったのに感じて、私は予め用意していた亜空穴に飛び込む。そしてこちらの姿が急に消えたことに驚いて左右に頭を振り回している彼女の後ろに現れると手にした御札を彼女に向けて振り下ろした。
「チルノちゃん! 後ろっ!」
「んなっ!?」
「これでよし……」
もう片方の妖精が慌ててこの『チルノ』とかいう水色の妖精に注意を促すがもう遅い。私は博麗特製の札を彼女の額に貼り付けた。
「な、なによこれ……急にあたいの……力が……」
額に御札を貼り付けた妖精の少女――チルノは途切れ途切れに言葉を呟きながらその場に崩れるかのように倒れこむ。
(ふーん、初めてこの特製の御札を妖精相手に初めて使ってみたけど案外効くみたいね)
妖怪相手に使用した際は一撃で昏睡させた記憶はあったが、妖精相手でもここまで効果があるとは思わなかった。
私がそんなことを考えていると緑色の髪の妖精が、どういうわけか……こちらのことを恐れながらもチルノに近づき、その体を揺すって何度もその名を呼んで耳に残る悲痛な叫びをあげはじめた。
「チルノちゃん! 起きてよチルノちゃん!!!」
(……なにこれ)
目の前で繰り広げられる寸劇にまあなんともきまりが悪い、というかどう見てもこちらの方が悪役であるかのようにさせられてしまう状況に長い溜息を吐きつつ、私はチルノの額に貼られた御札をビッと勢い良く剥がすとそのまま先程と同じ位置にもたれかかった。
そしてチルノの方はといえば、目を覚ますと同時に勢い良く飛び上がるとこちらを見て構えを取り、緑色の妖精はそんな彼女にやめるように言いながら腰に手を回して抑えている。
「ああもう最強だか最凶だか知らないけど、認めてあげるからこれ以上私に迷惑かけるんじゃないわよ」
私はもう面倒くささでどうでもよくなり、さっさと厄介払いしたいという気持ちで言ったのだが、どうやらこの二人にはそれ以上の意味で伝わったらしい。
チルノの方は何やらぽかんと口を開けて、ぶつぶつとあたいが最強と呟き、緑色の妖精は嬉しそうに彼女の両手を握って振っている。
しかしそれは――
「それじゃ本題なんだけど……ってそんなに身構えないでよ」
私が本題と話した瞬間に凍りついた。
「はぁ……」
「さ、最強のあたいはま、負けないぞ」
「ち、チルノちゃんもう逃げよう。これ以上は本当に殺されちゃうよ」
「あんたら……」
「「っ!?」」
調子が狂う。
どうしてこう……私が関わることが彼女らにとって戦闘に結びつくのか。
「いっその事、全部ぶちのめしちゃえばいいのかなぁ……」
「「ひぃ!?」」
思わずぽつりと口から出た言葉に、二人は身を寄せ合い震えている。
里の人間――特にあの寺子屋を営んでいる先生がこの状況を見たら間違いなく私は頭突きものだろう。まあそれもどうでもいいかと私は二人に告げる。
「とりあえず私の質問に何一つ疑問に思うことなく答えなさい」
「え、あ……」
「返事……」
「「は、はいっ!」」
そうして二人から少なからぬ情報――湖にある島の畔に建っている大きやな紅いお屋敷から紅い霧が吹き出したのを見たこと、その屋敷には門番がいるをこと、そして強大な妖力がそこから溢れていたことを聞き、思わず口元が緩み、私はいまだに何処かを見当違いのところを飛んでいるだろう魔理沙に心の中で勝った宣言した。
そしてにやりとする笑みを浮かべたまま、もたれかかった木から離れると、私は異変の原因であろう紅い屋敷に向けて飛び立ったのだった。
さて今回のお話ではなんとなく霊夢が色々と外道のような……まあなんか個性を発揮してますがこれは私の独自解釈みたいなものですのでご注意ください。
あと少々推敲があまいというより霊夢視点というのをうまく書けなかったと思うところがありますので、違和感がありましたら遠慮なく教えて下さい。