わたしゃここにいるよ(うそ)   作:bebebe

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※注意※
作者が我慢できなくなったせいで前半霊夢が壊れます。後半は元に戻る?はずなのでご許しください。

でも反省も後悔もないので作者へのドゴォ推奨
 




 

「こらぁ魅魔! 逃げるんじゃないの!」

「いやぁ無理無理無理!」

 

 俺はドタドタと縁側の通路を半裸で霊夢から逃れるために走っていた。

 抑えるための服が無いために胸の上の双丘が大きく揺れるが、今の俺にそれを気にするだけの余裕はない。飢えた獣のような存在がこちらのことを狙っているのだ。

 

 あれから数日経ったある日の夜、俺は魅魔になってからある意味最大のピンチを迎えていた。

 

 事の発端はいつもの様に取り込んだ洗濯物を俺が畳んでいた時に、ぐうたらと寝そべっていたはずの霊夢が、その時だけ妙にスキンシップを図ってきたことから始まった。

 俺はそんな霊夢の変調を気味が悪いと思いながらも手を止めないでいたのだが、彼女は何を思ったのかにやりと笑うと……正座をして黙々と畳んでいる俺に後ろから抱きついてきた上に、両手で掴んだこちらの胸をむにむにと揉んできたのだ。

 

「ひゃあ! ってな、何をしとるかぁーー!!!」

 

 当然、その時の俺は突拍子もない霊夢の行動に顔を熟したトマトのように真っ赤にしながら怒鳴り、そして彼女を突き飛ばしたのだが、彼女は壁にぶち当たるなんてことはなく、ふわりと浮かんで勢いを殺すとなんとも無さそうに手をにぎにぎさせて――

 

「仕方ないわね……揉めと囁くのよ。たぶん大いなる(作者の)意思が……」

「何言ってるんですかあなたは?」

「三話目にもなってキーワードタグ二つを無視することはできないのよ!」

 

 と霊夢曰く何やら逆らってはいけないと勘が(ささや)くものがあるそうで、あまりに真面目に語るものだから俺は怒るに怒れず、それどころか更に彼女は俺の髪や肌をじっと見て……あることに気づいたらしい。

 

「ねえ魅魔、あんたきちんと髪を洗ってる?」

「んん? ああ、そうだけど……?」

 

 突然何を聞いてくるんだと俺が思っていると、霊夢はこちらの髪を手で梳いたりして何かを確認し、おもむろに俺に言った。

 

「……わかったわ。今日からお風呂に一緒に入る」

「はいっ!?」

「あんたの髪は私が洗ってあげるわ」

 

 後々聞いたことだが、この時の俺の髪は相当傷んでいたらしい。

 幽霊なのに痛むのかとも思ったが、そこはさすがの幻想郷……不変なものなど何一つ無く、幽体なども傷ついたりするようで、そこに元々男である俺の洗い方が荒いのも加わってそうなってしまったようだ。

 まあ霊夢は俺がかなりがさつであることを最初の口調とこれまで一緒に生活していたことで気づいていたらしく、ついでに一緒にお風呂に入ることでそのたびにお風呂を温める必要が無くなると言われてしまい、そこらへんの光熱費関係について少し思う所があった俺は強く拒否することができなかった。

 

「こ、これも大いなる意思ってやつの仕業か?」

「そういうことかもね……まあ綺麗にしておいた方がいいって私の勘が囁くのもあるわ」

 

 そして物語は冒頭で俺が逃げ出した所に戻る。

 

「待ちなさいっての!」

 

 俺は上に着ていたものをほとんど霊夢に脱がされて、まるでどこかのエロゲの如く手ブラで逃げていた。というか自分が見る分にはいいが自分がやるとなるととんでもなく恥ずかしい。

 それならこれまではどうしたということになるが、それはそれ……今ではだいぶ思わなくなったのだが、その時はこれが夢であると思ってそれならば特に問題ないなと慣れてしまったのである。

 しかし、今から霊夢と一緒に入るということは彼女の裸を見ることになるということで、俺の精神衛生上かなりまずい。また今日の彼女はちょっと怖いのだ。

 

(主に大いなる(作者の)意思のせいで……)

 

 そして俺は、外にある倉庫に入り内鍵を閉めると一息ついた。

 

 彼女の感性からするならば、たぶん……友達の美人なお姉さんが真面目にそれを維持しようとしないから自分がやってあげるというお世話感覚なのだろう。たしかに俺も魅魔様の美貌が損なわれることには同意できないし、この長い髪を洗うのを手伝ってくれるというなら歓迎すべきだ。

 だがそれでも、一緒にお風呂に入るというのは勘弁してもらいたい……というのも彼女は自身が美少女であることには無頓着、というか身内に対しては口が悪くとも色んな意味で無防備となるのだ。まあ俺も外面だけ見れば魅魔様であるため、彼女が気にするようなことはないというのもあるだろうが……

 

 そう思って俺は不意に気配を感じて顔を上げる。

 するとそこには――

 

「はぁい」

 

 裸にタオルを巻いただけの霊夢が何故か腕を組んだまま、逆さまに天井からぶら下がって俺のことを見下ろしていた。

 どうやって入ってきたのだろうか……と俺はその訳のわからない光景に混乱しつつ、逃げ場はないかと考える。しかし、暗闇に沈む倉庫の中に役立ちそうな物は見当たらない。

 とりあえず時間を稼ぐべく、俺は口を開いた。

 

「……何をしているんだい霊夢?」

「あら、あんたが逃げるからちょっと本気を出しただけよ」

「なんか何時もと感じが違うけど誰かの真似でもしてるのかい?」

「あ、気づいた? ちょっと知り合いの妖怪のね」

 

 ああ、間違いない。

 どうやら霊夢はあの妖怪の賢者の真似事をしているらしいが、とりあえずはここでその話は切ったほうがいいだろう。無いとは思うが、俺がもし彼女のことについてなにか知っている素振りを見せれば、勘のいい霊夢のこと違和感に気づくかもしれない。

 

「それよりどうやってここに……? 鍵は閉めたはずなんだけど」

「ああそれなら……」

 

 俺がどうやったのか尋ねると、霊夢は一瞬姿を消し――

 

「――こういうことよ」

 

 すぐ隣に現れて俺の手を取った。

 亜空穴――原作ゲームでもあった零時間移動(テレポート)に、知識として知っていたはずの俺は目を見開いて驚いた。

 そしてその様子が可笑しいらしく、霊夢は俺を見て笑っている。どうやら彼女は、目論見通り俺を驚かせたことが嬉しいらしい。

 

 俺はそんな霊夢をみて俯くと、ついでに双丘の向こうに見えたものに小さくため息を漏らした。

 どうも彼女は今浮かべている笑みの裏で俺を捕まえる気が満々のようで、足元には俺を捕縛するための結界が張られ、じきに俺はしびれて動けなくなるだろう。

 何はともあれ、俺はもう逃げられないことを悟り天を仰いだのだった。

 

 この後、彼女によって俺がどうなったかはご想像に任せるが、一言だけ言うならもうお嫁に行けないというやつだろう。

 

 

 ※ ※ ※ ※

 

 

 その次の日、俺は朝早くから妙な気配を感じて日が出る前から目が覚めていた。

 隣の布団では、というより同じ布団なのだが……いつの間に入り込んだ霊夢が俺に半ば抱きついて寝ている。その様子に溜め息をつくと、彼女を起こさないように静かに部屋から外に出て、神社の上空に飛び上がった。

 すると眼下に見えてきたのは一面の紅――幻想郷中に広がる紅い霧がいよいよ博麗神社の周辺まで広がってきているところだった。

 

(そうか……いよいよ紅霧異変が始まるのか)

 

 俺は何やら感慨深い思いでその霧を見つめる。

 今の自分の立ち位置からして、どうなるかははっきりとはわからない。一先ず言えることがあるとすれば、これはゲームではなく霊夢や魔理沙がもしかしたら怪我をするかもしれない、悪くすれば死ぬかもしれないということだけだ。

 別にそれがこの世界の設定となっているかはわからないし、いまだにここが夢である可能性は残っているが、弾幕ごっこでも結構死ぬ。それが原作者であるZUNの言葉である以上、警戒するに越したことはないだろう。

 しかし、幽霊である自分があの二人を助けること――即ち異変に介入することはやっていいのだろうか……まあ何かあったらあったで霊夢が危なかったと言えば、いくら妖怪の賢者でも許してくれるはずだ。

 

 だから大丈夫のはず、とそう決意を固めた俺は登ってくる太陽を背に神社へと降り立った。

 とりあえずは霊夢が起きてくる前に朝餉の用意をしておかなければ、彼女の怒りに触れる可能性がある。俺は用意できなかった時に現れた鬼巫女の姿を思い出してぶるりと震えながら、土間に入り朝餉を作るのだった。

 

 その後、霊夢が起きてきてなんとか間に合った朝餉を二人で食べることとなり、俺は小さなお茶碗にほんの少しだけ乗っけたご飯を口に運ぶ。ここに来てからしばらくは幽霊だからとそういった主食を食べずに過ごしていたのだが、霊夢に言われて少しずつでも食べるようにしている。

 なんでも実体がある以上は食べたほうがいいらしいのだが、理由を聞いても答えてはくれなかった。まあ実際のところ……彼女に内緒でデザートや煎餅などの間食は食べてたりするのだが、それを彼女に言えば怒るのが確実なので黙っておこう。

 

「ごちそうさまでした」

 

 俺がそんなことを考えながらゆっくり食べているともう食べ終わったのか、霊夢はそう言って食器を流しに運び、片付けられた机の対面になんだか真剣な雰囲気を漂わせて座った。

 そんな彼女の様子から察するに、ほぼ間違いなく紅い霧についてだろうと見当をつけた俺は、食べる手を止めずに横目でちらりと彼女を見る。どうにも彼女は何か言いたげであるようだが、こちらが食べ終わるのを待ってくれているのだろう……俺は気にする必要はない、何か聞きたいことがあるんだろう? と、とりあえず彼女に話すよう促した。

 

「魅魔、あんた最近……毎朝空を飛んでいたみたいだけど、あの紅い霧について何か知ってるの?」

 

 なるほど、そういうことか。

 と疑いの視線を向けてくる彼女と視線を交差させる。どうやら彼女は俺を疑っているらしいがそんなことできるはずがない。

 

「いや、何も知らないよ。毎朝飛んでいるのは飛行訓練みたいなものと朝の体操を一緒にやっているようなものだし、そもそも博麗の巫女である霊夢と一緒に住んでいる私が異変なんて起こせるわけがないでしょう」

 

 嘘は言っていない。

 俺は紅魔館とはまるで関わりあいがないし、毎朝博麗神社の上空を飛んでいるのは霊夢に言った通り、飛ぶ感覚に慣れるための訓練みたいなものだ。

 そして最後に言ったことについては言うまでもないだろう。

 

「ふーん、たしかにそうね……でもどうして訓練なんか始めたの? あんた結構なんでもできるでしょ?」

 

 そういえばどうして訓練しだしたか霊夢に話したことがなかった。

 俺は彼女に聞かれてそれを思い出すと、少し苦い記憶――魔理沙にスペルカードルールを教えられた際に、強制的に弾幕ごっこをさせられボロボロにさせられたことを話した。

 あの時は、外の世界ではこんなに自由に飛ぶことが出来なかったと誤魔化したが、魔理沙とそしてそれを下で見ていた霊夢の若干失望に染まった顔が記憶に新しい。

 

 霊夢もそれが分かっているのだろう。こちらの話に何度か頷くとそれ以上聞いてはこなかった。

 

「……なるほどね。それよりあんたはどうする?」

「へっ? どうするって?」

「なぁに忘れたの? 契約書には異変の時に博麗の巫女をサポートするようにちゃーんと記載してあるわよ」

「な、なんだと……」

 

 俺は慌てて契約書を箪笥より引っ張りだす。

 そして空いている机に書類を広げ、隅から隅まで一文字一句確認するように眺めて右下の方に小さく書かれたそれを見つけた。

 

「何々……? 契約者は異変の際には博麗の巫女のための肉壁となるってあほかっ!?」

 

 思わず俺は契約書を放り投げた。

 家政婦になったり彼女の修行の相手になったりぐらいならまだしも、右下にできるだけ見つからないように書かれたその内容は認められない。

 しかし俺がそんな視線を向けたことを彼女は気にする様子もなく、無い胸を張って見下すように契約書は絶対よと、当然であるかのようにほざいて抗議する間もなく亜空穴で逃げられた。

 

 その後、俺は沈んだ気持ちのまま朝餉を食べ終わり、食器の片付けに入る。

 そしていつの間にか戻ってきた霊夢はいよいよ異変解決に向けての準備なのか、押入れにしまってあった御札や針の点検を始めた。

 しかし、御札はいいとして針はどうなんだろうか。俺はたわしで食器を洗いながら霊夢が手に持っている凶器を一瞥する。弾幕とは基本的に結構な自由度があるのだが、あの針や……ゲームでも見たナイフなど物理的にも危険なそれを放つのはありなんだろうか。

 

(まあ自分のことも含めて、妖怪とかの肉体強度なら大丈夫なのか?)

 

 疑問に思う俺の脳裏には、この魅魔様ボディに霊力を軽く流してみた際の経験――なんか軽い気持ちで振ったパンチで木をまるまる一本、殴った箇所から破裂させた記憶が蘇った。

 たぶん霊夢や魔理沙、そしてこれから戦うことになるであろう『十六夜咲夜』に関しても大丈夫だろう。霊力や魔力の不思議幻想パワーを信じよう。

 

 俺はそう結論付けると霊夢が出かける前にできるだけ終わらせておこうと黙々と作業を始めるのだった。

 


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