誰かにドゴォされるために書いた気がする。
という冗談はさておき魅魔様のやつを書きたいに追加して色々とTSなどの要素を入れたくなった結果この作品というものを書き始めてしまいました。
タイトルに関しては魅魔様のネタをちょっと合わせつつ本人ではないのでまあ『うそ』って感じです。
どうぞよろしくお願いします。
1
気がついた時には、俺は神社の境内で倒れていた。
何が原因でこうなったかは全くわからない。
視界が突然揺れたと思った時には、もう目の前は真っ暗になっていた。
直前までパソコンの前に座ってゲームをしていた記憶はあるが、別に夜更かしなどの無理をした覚えはない。
ただ真っ暗になった視界に椅子から転がり落ちた衝撃だけが最後に色濃く残っていた。
(…………)
ぼやける視界に目を擦りつつ立ち上がる。
どうやら結構な時間まで眠っていたらしい。
見上げた空に太陽が登り切っているのを見ながら俺は、体についていた砂埃を叩こうとして……そこで初めて自分の体の違和感に気付き驚愕した。
「な、なんじゃこりゃ?」
視線の先には二つのたわわに実った双丘がある。そしてその双丘に視線を向けるために俯いたせいかはらはらと長い緑がかった金髪が顔にかかってきた。
邪魔に思いその前髪をかきあげる手は子供のように細くしなやかな自分の指。また後ろ髪は相当長いらしくちらりと確認しただけでも腰下までありそうある。
そして着ている服も全体的に青緑色をしていてところどころ黄色で星や月をデフォルメしたかのような装飾がされていた。
「え……あ……」
突然の衝撃のあまり言葉が出ない。
自分は間違いなく男であったはずである。先程、服の隙間から手を入れて確認して無くなっていることがわかったが、気を失うまでまではきちんと自分のタワーだって持っていたのだ。
だがしかし、それも今はない。
俺はその事実に思わず手で顔を覆って天を仰いだ。
そして俺はしばらくの間その状態のままであったが、やがて考えをまとめると――
(これは夢だな。間違いない)
そのように結論づけることにした。
そんな時である。
不意に水が跳ねる音が聞こえ、そちらの方に目を向けるとちょうどそこには池があった。
誰もいる気配がしないこの神社で、突然聞こえてきた音に俺は不思議と気になり、ついでに池の水面で自分の姿も見ることが出来るかと思ってそちらに行くことにしたのだったが――
(む、むむむむ……バランスが悪い)
どうにも慣れない胸の重量。気がつくまで男であった俺にとっては未知のそれが俺の足の運びの邪魔をしてきた。
とりあえずまだ水の跳ねる音が聞こえているが、それもいつ無くなってしまうかわからない。
俺は仕方なく……やましい気持ちなどないと仕方なく両手で自分の胸を押さえるとふらふらと歩き、ようやく池の縁まで辿り着いた。
(セルフちちもm……まてまてそれよりも池だ)
そして精神的な疲労から色々と満身創痍になりそうであったが、なんとか池の中を覗くとそこには一匹の亀がいた。
どうやら先程の音の原因はこの亀らしいが、何を考えているのか必死に池から出ようと縁の石に足をかけてはそのたびにずり落ちることを繰り返している。
その様子を休みながら静かに眺めていると亀はやがて諦めたのか、水に潜っていってしまった。
俺はそれを見てしゃがんだままの状態から立ち上がった。
あの亀が何であり、どうしてあのような行動をとっていたかはよくわからない。
まあ考えても仕方ないだろうと人一人乗せれそうな大きさの亀のことは放っておいて、俺は自分の姿を確認すべく、池の水面を覗きこんだ。
そして俺は改めて喫驚することとなった。
※ ※ ※ ※
「この姿って……」
そこに映ったのは現実の自分が会ったら間違いなくドキドキしてしまうかのような美女――尚且つ、その姿は気を失う直前までやっていたシューティングゲームの登場キャラクターにそっくりなもの。具体的に表すならば、『東方Project』の旧作キャラクターである『魅魔』の1Pカラーと2Pカラーが混ざったかのような姿だった。
「……は、はは」
乾いた笑みが口から漏れる。
まさかの魅魔様である。
何度か東方の設定をインターネットなどで覗いた時にその姿は見たことがあるが、それも現実になってくると何と言うかレベルが違ってくる。
何が言いたいかというと健全な男の子の精神としてのあれである。
さらに言えば先程、自らの……というより魅魔様の胸をセルフ>>301しかけたのである。
とりあえず俺は頭の上の三角帽子を掴んで顔に被せると、悶えるように肩を震わせて心の中で羞恥心などの絶叫をあげたのだった。
(…………ふぅ)
ようやく落ち着いたのか三角帽子を頭の上に戻す。
少し帽子の先が潰れてしまっていたが、まあ問題ないだろう。
そして俺は意識を自分の足に向ける。
実のところ、混乱しながらも自分の体が本当に魅魔様のものであるか確認する術を考えていて、ふと旧作の設定から魅魔というキャラクターが作品によっては二本足の実体を持ったり、幽霊のような幽体になったりなど切り替えていることを思い出したのだ。
つまりは、それを自分で意識することで切り替えることができるんじゃないかということだ。
俺はそれを確認しようと自分の足を睨むように見つめた。
「お!」
そしてその考えは見事に当たる。
今さっきまでしっかりと地面に立っていた二本足は、色を白く失うとともにまるで粘土のようにぐにゃりと形が崩れた後にまとまり、イメージ通り幽体となった。
俺はそれに驚きつつも興奮で口端が上がってしまう。
例えこれが夢でも、現実では起こりえないそれをたった今俺は成したのだ。
それだけでも十分に嬉しさがこみ上げてくるが、それ以上に今の自分は地面に足をつけていない――つまりは浮いているのだ。
(おおっすげぇ! 俺浮いてるよ)
そしてその興奮のまま俺は、ふよふよと浮かぶ体をそのまま前後左右、もしくは軽く二、三メートルほど宙に浮かんで初めて味わう空を飛ぶ感覚に酔いしれかけたが、しかし――
「あんた誰?」
唐突に頭上より声をかけられて、俺は空中で回転しようとした格好のまま動きを止めた。
そしてゆっくりと声がした方を向くと、そこには巫女っぽい不思議な服装の少女がいた。
俺は思わず目を見開く。袖が無く、肩と脇を露出した巫女服に頭の大きな赤いリボン、ゲームのメインキャラクターである博麗の巫女『博麗霊夢』が現実のものとして目の前でこちらを胡散臭そうに睨みつけてきている。
「もう一度聞くわ。あんたは誰? どっから入ってきたの?」
彼女は地面に降り立つと、いまだにふわふわと浮いている俺に向けてお祓い棒を突きつけてくる。だがこの時、俺は俺で夢とはいえまさか本物のリアル博麗霊夢に会えるとは思ってもいなかったため彼女の問いに答えられる余裕が無くなっていた。
しかし、それがいけなかったらしい――
「無視してんじゃないわよ」
「っ!?」
いつの間に接近していたのだろうか。霊夢はこちらの頭にむかってお祓い棒を振り下ろしてきていた。それに対して俺は、慌てながらもなんとか後ろに飛んでそれを回避する。
そしてお祓い棒はそのまま振り下ろされ、そこに宿っていたらしい力――この場合、霊夢の霊力であろうそれが帯電したかのように空気中に放たれて青白い光が放たれた。
「あ、危ないじゃないか」
「……なによ。話せるじゃないの」
少し荒い息を吐いて俺は霊夢と相対する。
さすがにもう彼女を無視したりすることは出来そうにない。
彼女は今もまたこちらの隙を窺うように、敵意を込めた視線を向けてきているのだ。
「ああ、すまない。気がついた時にはここにいて気が動転していたんだ」
ひとまず俺は霊夢の警戒を少しでも緩めることから始めた。
それに気になることもある。たしか設定上、魅魔様は博麗神社周辺にいるはずだが、どうにも目の前の彼女の反応からするに、まるで初めて会ったかのような雰囲気なのだ。
もしここで彼女がこちらの姿から魅魔様のことについてなんら反応がないというならば、それは即ちこの夢での設定に旧作というべき領域が無かったことになりかねない。
「ふーん……まあいいわ。それでさっきの質問にさっさと答えてくれる?」
「えーと俺が誰でどこから来たかってことでいいのかな?」
「質問に質問を返さないで欲しいけど……ええまあそんなところよ」
霊夢はその後、どこから来たかは見当がついたと言ってきて、こちらも驚きを返したがやはり魅魔様のことについては何も反応がない。
そして俺はその反応から自らのことを敢えて『魅魔』と名乗った。
それに対し霊夢はめんどくさそうにジト目で――
「ふーん魅魔ね」
ただそれだけしか反応を示さなかった。
やはりこの夢の幻想郷には旧作の設定がないらしい。
続けて俺は他にも魅魔がいるのかと霊夢に聞いてみるが、それもすぐに――
「いないわよ。魅魔なんて名前、初めて聞いたわ」
と否定されてしまった。
それを聞いて俺は旧作の設定がないならないでこの先どうしようかと考えていると、霊夢は突然付いてくるように言ってきた。
「とりあえず魅魔。あんたからは邪気も感じないし、私の勘も何も言ってこないからしばらくここに置いといてあげる。それと私は博麗霊夢、この神社の巫女でまあ呼び方は好きにしなさい」
「ええっ?」
そう言われて俺は思わず目をパチクリさせて驚いた。
どうにも霊夢が言うには、新しく入ってきた俺のような存在はとりあえず幻想郷に馴染めるように手を打つことになっているらしい。
まあ確かに幻想郷はすべてを受け入れるなんて言葉もあるが、受け入れた後に何もないというのもおかしな話だし、そもそも弱まった妖怪などを自動的に呼びこむ幻と実体の境界を作った妖怪の賢者がその弱った妖怪を放置するというのもありえないことだ。
もちろん邪悪な存在などはすぐにでも退治する規定があるようで――俺はそれに引っかからなかったらしい。
「あ、そういえば」
「ん?」
そんなことを話しながら霊夢と共に玄関から土間に入った時、突然彼女は言った。
「あんた、さっきから自分のこと俺って言ってるけど全然似合ってないわよ」
「んなっ」
「もしかして外の世界ではずっとそれでやってきたの?」
霊夢は何だか哀れむような、そして呆れたような表情でこちらのことを見てくる。
たしかに外の世界というか現実では男であるためにこのように話しているが、今の自分はこの世界で唯一の魅魔様である。
それに夢であるなら別に拘る必要はないのではないか。というかこれは夢の方からの矯正なのではないだろうか。
「ま、まあな……」
肯定を示すと俺は霊夢のより一層の憐憫な視線を受けてしまう。どうやら彼女は俺がこのように喋ることに、何やらひどく違和感を覚えるらしい。
そう語った彼女に俺はなんとなくではあるが、先程の考えがあながち妄想でもなさそうなことに気づいた。
(やはり夢は俺に魅魔の役を演じることを迫っているらしい。ならお望みのままにやってみるのもありか)
俺は霊夢の言うことを聞き入れたかのように折角だしと前置きして――
「わかった。
「ええ、不思議とあんたはそっちのほうがずっといい気がするわ。それじゃお茶でも入れるから中に入ってて」
そういうとようやく微かに笑みを浮かべた霊夢を見て、俺はわざわざ両足を実体化させると部屋の方にあがっていったのだった。