Stage1 霧中の未知
「……ここは、どこだ?」
眼前に広がる光景に、ヴァルバトーゼは己が目を疑った。
何故なら頭上を青い空が覆っている。
のどかにも生い茂る草木が視界を埋める。おまけにそれに満ちた山の数々が辺りを囲んでいる。
辺りの空気は魔界の刺々しいそれではなく、まるで春の陽気を連想させる穏やかなものであった。
己が立っているのはそんな場所に相応しい、草原の一角。
そんなはずはないと、ヴァルバトーゼはかぶりを振った。数瞬前の記憶が正しければ、確かに己は自分の館へと転移したはずなのだから。
しかしあたりを見回しても、自分の館どころか建物一つ見当たらない――というかそもそも周囲の景色からして、ここが魔界などということはありえない。
ならばどこか、などと深く考えるまでもなく一つの場所が彼の頭に浮かぶ。
その結論に眉を顰めながら、ヴァルバトーゼは自分の推測を口にした。
「まさか、人間界だと?」
だがそれも疑問生じる。
仮に転移に失敗したと仮定しても短距離の転移のはずが界を跨いでしまったなどということはありえない。世界の垣根を越えるという行為はそう容易くはない。
そもそもここが人間界だとするにしても、納得のいかない点が存在する。
かの断罪者が起こした事件の際、ヴァルバトーゼは数百年ぶりに人間界に訪れた。しかしその人間界は既に発達した文明に侵されきっており、こんなのどかな自然が残っている余地があったとは思えない。
もちろんヴァルバトーゼとて人間界の全てを見てきたわけではなく、事実存在するのだとすれば反論の余地はないのだが。
とにかく答えを断定するには情報が足りない。無意識に何かないかとヴァルバトーゼは周囲を見渡した。
「……何だ、アレは」
蝶やトンボのような翅を身につけているそれらは、しかし決して虫などではない。
その小さな体躯はまさしく、人の形を成していたのだから。
こんな存在をヴァルバトーゼは知らない。いや、心当たりが一つあった。
人間界では天界や魔界にいる存在が歪んだ形で伝説となることがある。
そのうちの一つ、妖精。それこそまさしく虫の翅に人の体を持った手の平サイズの存在であると、ヴァルバトーゼは聞いた覚えがあった。
しかし妖精はそういった伝承でも起源がしっかりと把握されていたはずである。すなわち妖花族がさらった人間を気まぐれで帰すときに見せる幻覚に含まれる存在――架空の生物であると。あるいはその話こそが間違っていたのかもしれないが。
ともあれ人の形をしている以上、遺志の疎通ができる可能性は高い。早速ヴァルバトーゼは近くを飛んでいたソレに近づいていく。
しかしどうやら気配に敏感なようで、ヴァルバトーゼが一歩足を向けるとすぐに逃げてしまった。
気を取り直して別のソレへと近づいてみる。
またもや逃げられた。
強引に捕まえることも考えたが、弱いものイジメのようで気が乗らない。
仕方なく他に何かないかと彼は再び周囲を見渡し――そして、それは見つかる。
「……バカな」
彼の視界に映っているのは一つの山。
辺りの山でも一際高い、一見すればただそれだけの山。事実ただの人間が見ればそれだけに留まるだろう。
だが人ならざる目を持つヴァルバトーゼには、山全体を覆う歪みが見えていた。
一見陽炎のように見えるそれだが、それが陽炎などではないことをヴァルバトーゼはよく知っている。
極めて似た現象をヴァルバトーゼは魔界の、邪竜の歪みと呼ばれる場所で見たことがあったからだ。
そこは魔界でも最強の種族と謳われる竜の一族が住まう山。
彼ら竜の一族が日常的に発する魔力は多く、少しずつ周囲の空間へと沈殿していった。それがいつしか光を歪ませるほどの密度になったという。
それと同じくするというならば、あの歪みはまさしく魔力が生み出したものなのだろう。
だがその現象が起こるには、長い年月を必要とする。
いかに強大な存在であろうとも数十年。だが山を覆うほどとなると相応の集団が存在することになる。ならば数百年――あるいは千年以上の時間が必要に成るだろう。
そんな長期間悪魔の集団が住み続けている場所が人間界にあるとは到底考えれない。
つまりここは人間界ではない、ということになる。
いい加減己の理解を超えてきた事態に、さてどうするかと頭を悩ませた矢先、彼はあることに気づいた。
「おお、そもそもここがどこであろうとさした問題ではなかったか」
想定外の事態に動転こそしたものの、別に帰れぬわけではないのだ。
どういう経緯であったにせよ、転移でこの場所にきてしまったというのならば転移して帰ればいい。
ヴァルバトーゼの用いる転移術は、目的地さえわかれば魔力次第でどこへでも行けるのだから。
まさか往路と復路で距離が違うなどということはあるまい。残存魔力は半分を超えて余りある。よもや帰れぬということはないだろう。
その判断から数秒と経たぬうちに、ヴァルバトーゼは己が魔力を駆動させた。
超速で発動する転移は一秒すら必要せず、彼を故郷へと――
「バカな……! 転移が失敗しただとッ!?」
組み上げた術式が解ける手ごたえを感じながら、ヴァルバトーゼは叫んだ。
だが、この発動失敗の感覚に彼は覚えがある。
「まさか――結界か!」
それは遥か昔、暴君と呼ばれ強大な力を揮っていた時のこと。そのネームバリューから彼は数多くの悪魔から命を狙われていた。
加えて卑怯を美徳とする価値観を持つ悪魔ゆえに、数に恃んだ襲撃というのも珍しくはない。ヴァルバトーゼがその結界を使われたのは、そんな襲撃の一つであった。
逃げられると思ったのだろう。十を超える術者が築いた空間隔離の結界は、売り言葉を買う形で試したヴァルバトーゼの離脱を確かに封じることに成功していた。
この失敗の感覚は、その時のそれによく似ている。
しかし、そうと仮定するならば対処法が存在することを彼は知っている。
例えば結界を力ずくで破ること。あるいは術者を潰すこと。
このあたりは結界に限らず多くの魔法に共通する弱点である。
だが前者を行うには多くの問題が存在した。そもそも結界の範囲、効力、強度全てがヴァルバトーゼの感覚では掴めない。そんな結界を弱体化している彼が突破できるとは到底思えない。
対して後者には一つ、しかし決定的な問題が存在した。術者の存在が全く感じられない。それでも結界を破るよりは可能性を感じるが、どちらにせよ現状においては不可能だろう。
他にも結界を壊すのではなく解術するであるとか、あるいは巧妙な転移ですり抜けるといった方法もあるのだが、このどちらもヴァルバトーゼの得手とするものではない。
つまり今すぐ魔界へ帰ることは不可能である。
「ならば」
思索を打ち切り、ヴァルバトーゼはある方向へと足を向けた。
その先には、歪んだ景観の高き峰がある。
ヴァルバトーゼの結論はシンプルだった。己では対処できないならば、他者の力を借りればいい。それが知恵であれ、能力であれ。
そしてそれに適した場所こそが、彼が見据えた先なのだ。あの山には強い魔力を持った存在があることはほぼ間違いない。高魔力の存在は往々にして高い知能を持つことが多く、それが集団で存在するということはますますその可能性が高い。
何より己が頭脳労働など柄ではない。そう苦笑しながら、彼は歩を進め始めた。
十分ほど歩いただろうか。
山の麓が見えた頃、周囲を薄い霧が覆い始めた。
とはいえ障害となるほどではなく、先と変わらぬペースでヴァルバトーゼは足を動かし続ける。
そんな中、ふと視界の端で何かが揺らめいた。
「む? ……湖か」
位置関係から見て、目的の山が水源である可能性が高い。
そちらを辿るべきかと、一歩湖へ近づいた――その時であった。
「ちょーっとまったっ!」
高い制止の声が、霧を切り裂いてヴァルバトーゼに届く。
声の先を辿るように顔を上げれば、そこには一人の童女がいた。人間の基準で言うならば十にも満たない、といったところだろう。
強気な笑みを浮かべる彼女は、しかし冷たい氷をヴァルバトーゼに連想させた。
水色の髪、青いリボン、青い瞳、さらには青のワンピースと、寒色だらけ見た目からだろうか。
違う。その程度のモノから抱く印象にしては、イメージが明確すぎた。それにもっと決定的なそれが、ヴァルバトーゼの瞳に映っている。
それは少女の背より伺う六枚の羽。それは先に見た妖精たちのそれとは違い、まるで氷細工のようであった。
それにそもそも最初から分かっていたことではあるが、彼女は湖上に浮いている。
おまけに彼女が現れてから、周囲の気温が一気に低下した。人間界の春を思わせるそれが、まるで真冬の夜になったように。
ここまで異常な要素が揃っているのだ。目の前の少女がただの人間であるということはよもやあるまい。
「何か用か」
「アンタ、見ない顔ね」
「うむ。……おお」
ぽん、と手の平を拳でたたく。
気づいたのだ。彼女こそヴァルバトーゼが求めていた意思疎通の図れる相手であると。
欲を言えばもう少し期待のできそうな印象を抱かせて欲しかったが、そう言える状況でもない。
そもそも、彼女が非常に博識であるという可能性も残っている。
「実のところここに来たばかりでな。ここがどういう場所か教えて欲しいのだが」
「へー、そーなんだ。えーっとね――あ!」
存外友好的な態度にすんなり話が進むかと思ったが、ふと何かに気づいたかのように少女は顔を上げた。
彼女はごそごそと懐を漁り始めると、何枚かカードのようなものを取り出して構える。
「最初に一つ、ここのルールを教えてあげるわ!」
「ほう?」
「――欲しがりましょう勝つまでね、よ! 勝負だっ! あたいに勝ったら何でも答えてやろーじゃないの!」
その答えはヴァルバトーゼが望むものではなかったが、しかし興味深いものであった。
力で白黒つけるという考え方は、彼にとって馴染が深くそして好ましい。
「ただーし! あたいが勝ったらしばらくアンタはあたいの舎弟よ!」
「よかろう! 受けてたってやろうではないか!」
ヴァルバトーゼの快諾に、少女は笑みを深くする。自信の表れだ。
例えそれが過信だとしても、ヴァルバトーゼはそういう手合いが好きだった。
自然とこちらにも笑みが浮かぶ。
「よーし! 負けてから謝ったって許さないんだからね!」
「当然だ。約束は守ろう」
「じゃあ、この結晶が落ちたらスタートね。準備はいい?」
少女が胸の前で人差し指を立てると、その先に拳大の氷の結晶が模られていく。
それを見たヴァルバトーゼは小さく頷いた。
「じゃあいくよ!」
少女は大きく空に向けて腕を振ると、結晶が高く空へと孤を描く。
そして彼女はヴァルバトーゼを不敵に見据えると、高らかと名乗りを上げた。
「あたいはチルノ! 泣く子も凍る妖精さ! 覚悟はいいか!」
「我が名はヴァルバトーゼ、魔界のプリニー教育係だ! 俺を敵に回したこと、後悔させてやろうではないかッ!」
直後、地面で結晶が砕けた。
まるで口上が終わるのを待っていたかのように。
「先手必勝!」
弾かれたようにチルノが動く。
右手にカードを一枚掲げて叫んだ。
「『ダイヤモンドブリザード』!」
宣言に応じるようにカードが凍り付いて破砕する。
変化はそれだけではなく、彼女の六枚羽を起点に六つの氷柱が放たれる。
しかしそれらの軌道はてんででたらめであり、ヴァルバトーゼを掠めることもしないだろう。
ならば狙うは隙だらけのチルノだろうと、ヴァルバトーゼは駆け出して、
「なめたな!」
「何だと?」
チルノの言葉に遅れて、全ての氷柱が小気味いい音を立てて砕け散った。
その意味をヴァルバトーゼが理解するよりも早く、答えが彼の視界を埋める。
多くのつぶてに分かれた氷弾は、今度こそヴァルバトーゼをその軌跡に捉えた。
とはいえそれでも隙間は多い。全ての氷の軌道を読みきったヴァルバトーゼは、右前方へと踏み出した。
「あまい!」
しかしチルノの仕掛けはその上をいく。
彼女が一つ腕を振ると、全てのつぶてが破砕したのだ。
「――む」
無数に煌く氷の粒子をみて、ついぞヴァルバトーゼはダメージを覚悟した。彼は回避を諦めると、両腕で顔と胸を庇う。そして大地を踏み抜いて、あえてさらに速度を上げた。
直後に幾多の衝撃がヴァルバトーゼを襲う。同時に、強烈な違和感もまた彼を襲った。
「よーし! まず一機!」
だが今はそんな場合ではない。無邪気に喜んで隙を晒したチルノを視界に収め、ヴァルバトーゼは思考を断ち切った。
だが無邪気に喜び、隙を晒したチルノを見てヴァルバトーゼは違和感を振り払い意識を前方に集中する。
加速した勢いを殺さずに湖の岸を踏み切って、ヴァルバトーゼはチルノへと飛び掛った。
「えっ、あっ」
チルノが動揺した一息で懐まで飛び込むと、まるで地面があるかのように空中を踏み抜いた。
慌てて新たなカードを構えるチルノの右腕を掴み、湖岸へと投げ飛ばす。
それを追うようにヴァルバトーゼは空を蹴った。
「あうっ!」
背中から地面に叩きつけられたチルノは小さく呻き声を上げる。
迫るヴァルバトーゼは己が剣を右手に顕現。銀の刃がチルノの頭上に鈍く閃く。
恐怖に目を瞑るチルノに構わず、ヴァルバトーゼは手中のそれを振り下ろした。乾いた音が両者の耳を叩く。
「――……?」
恐る恐る目を開けるチルノ。その体には切り傷一つ存在しない。
ヴァルバトーゼの剣はチルノの顔、その右側の土を抉っていた。
「続けるか?」
冷たくヴァルバトーゼが問う。
しかしチルノの返答はない。いや、できないのだろう。
見れば瞳を潤わせ、目尻に雫を溜め、口からはくぐもった声が漏れている。有り体に言えば、今にも泣き出しそうであった。
そんな彼女を見たヴァルバトーゼは、剣を消して威圧を解く。
するとチルノはその場から飛び退き、ヴァルバトーゼに指を突きつけた。
「ずるいっ!」
涙声の批判。まるでルールを破ったかのようにチルノはヴァルバトーゼを糾弾した。
しかしヴァルバトーゼには己の何が悪かったのか全くぴんとこない。
まさか武器を使ったことだろうかと思ったが、それは違うと直感が告げている。
ならば何かと思考に意識を静めていき――ふと思い出す。先程の違和感を。
すぐに己の身体に意識を移したヴァルバトーゼは、ようやく答えを得る。
痛みの有無。それこそがヴァルバトーゼの抱いていた違和感の正体だった。
先の一撃は鋭利な無数の氷のつぶてであり、ならばヴァルバトーゼには無数の裂傷ができていて然りのはずである。
今の彼の身体は脆い。例えあれが微塵も魔力を含まぬただの氷だとしてもあの速度でぶつかれば服や身体が傷ついていなければならない。
だというのに先程彼を襲ったのはあくまで被弾したという衝撃だけであった。
ならばもしやと、ヴァルバトーゼは己の推測をチルノに問う。
「まさか、これは実力勝負ではなかったのか?」
「弾幕ごっこだよ! あとなんか別の呼び方もあった気がしたけど……アンタほんとに知らないの!? じょーしきだぞ!」
ヴァルバトーゼがとぼけているように見えたのだろう。チルノは眉を上げて声を張り上げる。
しかし当然彼はとぼけているわけではない。
「俺はさっきここへ来たばかりだといったはずだ。ここの常識など知らぬ」
「あ」
そういえば、と言わんばかりにチルノは非難の声を止めた。
しかし感情が納得させないのだろう。頬を膨らませてヴァルバトーゼを睨んでいる。
そんなチルノの態度をみてヴァルバトーゼは苦笑した。
経緯はどうであれ、郷に入りていたのはヴァルバトーゼである。ならばこちらのルールに則って戦うのは道理。
まあそこのすり合わせができていなかったのが原因なのだが、明らかな年長者であるヴァルバトーゼがそれを行うべきだったのだろう。
少なくともチルノが一方的に悪い、ということはない。相応の非はヴァルバトーゼにもあった。
「……まあ、勝負のルールぐらいは確認すべきだったか。すまぬな」
「そーだそーだ!」
「というわけでだ。俺としては今の勝敗はなかったことにしても構わぬし、お前の言う弾幕ごっことやらで再戦することも吝かではないのだが……ルールがさっぱりわからぬ」
「ええと、たしか……ちょ、ちょっと待って!」
そう言ってあーでもないこーでもないと頭を捻るチルノ。
一分以上うんうんと悩んだ彼女は、清清しいほどにすっぱりと言い放った。
「カードの必殺技をあてて先に相手を落としきったほうの勝ち! どうだ、わかったか!」
「いや……」
「むー」
正確には情報が少なすぎる。
そのカードとやらは何なのか、落としきるとはどういうことなのか、突っ込もうと思えばできるところはいくらでもあった。
しかしチルノにそれに対する答えを求めるのは明らかに酷な気がしたので、ヴァルバトーゼはわからないと答えるにとどめたのだが。
そのうち頭から煙を出しそうな勢いで悩んでいるチルノを見て、ヴァルバトーゼは一つ提案を告げた。
「……その弾幕ごっことやらはここでは常識なのだろう?」
「? そうだよ」
「ならば俺が誰か適当な相手にルールを聞いてくればいい。再戦はそれからにすればよかろう」
すぐに承諾の返事がくるかと思ったが、しかしチルノは表情を曇らせた。
そして意外なことを彼女は聞き返してきたのだ。
「でもアンタ、なんか聞きたいことがあって勝負にのってきたんでしょ? じゃあそのてきとーな誰かにそれも聞いちゃえば別にあたいと勝負しなおす必要なんてないじゃん」
「ふむ、確かにそうだな。だがこんな形で終わりというのはお前も納得ゆかぬだろう?」
さらに問い返されたチルノは、小さく頷いた。
「……うん。白黒つけたい」
「――では約束しよう。俺は必ずその弾幕ごっこのルールを誰かに聞き、再びお前と勝負をするためにここへ来ると」
「……ほんと?」
まるでその言葉は想像もしてなかったと、チルノは目をぱちくりさせてヴァルバトーゼを見上げている。
だからヴァルバトーゼは泰然と頷いてみせた。
「当然だ」
「ほんとにほんと?」
「俺は約束を破りはしない。絶対に、だ」
その言葉にようやくチルノは安心したのか、ぱあっと表情を輝かせた。
「じゃあ出血大サービス! ひとつ、このチルノ様が何でも質問に答えてあげる!」
何でも聞きなさい、というようにチルノは大きく胸を張った。
ヴァルバトーゼが抱える疑問はいくらでもあった。しかし確信めいた直感が、これを尋ねろと強く告げる。
だから彼はそれに従って、一つの問いをチルノに投げた。
「では一つ尋ねよう。ここはどこだ?」
それはチルノにとっても回答が容易な質問だったのだろう。
強気な笑顔を浮かべて、自信満々に彼女は答えた。
「ここは――幻想郷さ!」