インフィニット・ストラトス 忘れ去られた恐怖とその銀龍 作:妖刀
とりあえず次話は来月中に上げれるようにはしていきたいと思います。
さて、最新話をどうぞ。
銀の福音は逃げ出したかった。海の中に“ソレ”がいるから、出来るだけ遠くへ逃げたかった。だが命令が最優先され逃げることができない。もうパイロットも自身から出る“毒”のおかげで虫の息に近い。
早く、早く自分を倒してほしかった。目の前の男はそれを叶えてくれるのだろうか。
この最後の思考も消えていく。再び理性を失った銀の福音は、目の前にいる男目掛けて突っ込んだ。
これは機龍が再起動する少し前のことである。
箒を銀の福音から救い出し、そして対峙する一夏だが、前に見た姿と全く違うのを見て、警戒するかのように柄を強く握りしめる。
(なんだよあれ……!あれが俺と同じ二次移行した機体だって言うのかよ……!)
一夏は内心焦っていた。まだ慣れない機体に
そして銀の福音に刃は当たらなかったが、ソレから出てる蒸気が刃をボロボロにするのだ。今は刃こぼれ程度で済んでいるが、あまり下手に打ち合えないことがわかり、ギリッと小さく歯噛みする。
その時、目の前から銀の福音が消えた。
「っ!」
一夏はとっさに雪片撃貫を構えるが、そこに強い衝撃が走り、そのまま後ろに弾き飛ばされる。
「ギィィ……」
3本の爪がギチチと鳴る。どうやらあの手で突きを行ったのだろう。だが見えないほどの速度で放たれれば、下手な弾丸よりずっと強い。
そしてふたたび銀の福音が消えた。ふたたび前から来ると思われたが、その攻撃は真横から飛んできた。
「うおっ!?」
一夏はとっさに体をひねり、爪が横腹を掠めながらもどうにか躱す。瞬時加速は下手に無理矢理曲がれば骨折しかねないほどの代物だ。いったいどうやって横に来たのか、それが分からない一夏は焦ってしまう。
「一夏!よく見ろ!ヤツは停止してそれで曲がってる!」
「はぁ!?」
下を見ると、眼帯を外したラウラからの指示が飛んでくる。一体どういうことなのか。そして再び仕掛けてきた銀の福音の攻撃をかわすと、一夏は必死に目で追いかける。すると一瞬。そう、一瞬だが銀の福音は足を止めて、方向転換を行っているのだ。
これによって鋭角な軌道も描け、不意打ちに近い攻撃が行えるのだろう。
ハイパーセンサーが全方位を映すが、ソレを追うには一夏の反応では追いつけず、一瞬見えた影を追って前に出た。
「そのまま前に出ろ!」
ラウラの声がした。体が勝手に反応し、そのまま前に出たら、まるで背部を抉ろうとせんばかりに銀の福音が真下からの攻撃を行ってたのだ。だがどうにか寸のところで躱すことができた一夏だが、その顔は冷や汗にまみれていた。そして再びラウラの声が響く。
「いいか!私が指示するからそれに従え!」
「お、おう!」
ひたすらラウラの指示を聞き、極力回避に徹する一夏。どれも寸のところの回避になるためとても危ないが、どうにか有効打はくらっておらず、それにイラつく銀の福音の攻撃も激しくなっていく。
ラウラのヴォーダン・オージェはどうにか動きを捉え、一夏に伝えるが更に速度が上がっていくため、脳が締め付けられるかのような苦しさを味わいながらも、どうにか一夏に指示を伝える。
だがそれも長くは持たず……。その時、自分の左目の視界が真っ赤に染まるのが見えた。
「くそっ……!」
「ボーデヴィッヒさん……!?」
能力の限界を超え、血管が切れたのだ。その激痛が走り、ラウラは左目をかばってしまい、それに気づいた簪が急いで彼女のそばに寄る。他のメンバーもそれに気づき、焦りを見せるがラウラは咄嗟に右手を伸ばして制する。
だがその声は一夏の方にも届いてしまい、振り向くとハイパーセンサーが目から血を流してるラウラの姿を映してしまう。
「ラウ―――」
「一夏っ!私のことは気にするなっ!」
「だけど……」
「来るぞ!2秒後に後ろだ!」
「っ……!くっそぉ!そこだぁ!」
「ッ!?」
彼女の叫び。一夏はとっさに振り返り、何もない空間を突いた、かのように見えた。だがその刃は銀の福音の翼を深々と貫いており、そのままお互いの体が接触する。銀の福音から漏れ出してるミクロオキシゲンの影響でシールドエネルギー等が削れていくが、一夏は離れようとせず、柄を強く握った。
「はじけろ、白式!」
薬莢が3つ飛ぶ。すると刃と峰から一気にエネルギーの刃が噴き出し、その大きな片翼を粉微塵に消し飛ばしたのだ。
「gyaaaaaaaaaaa!!!!!!」
悲鳴を上げ、長い尾を咄嗟に股下から伸ばし、そのまま一夏の首を掴む。いきなりの後ろから掴まれたため、一夏は驚き、そのまま引き剥がすように一夏を尻尾の力だけで投げた。
そして銀の福音は片翼を振るい、光弾の雨を降らせる。一夏はその機動力を生かして雨の中を縫うが、銀の福音が
「なっ!?」
急いで雪片撃貫を盾にし、蹴りを無理矢理受け流す一夏。だがその衝撃は凄まじく、そのまま一夏も明後日の方向に弾き飛ばされてしまう。それを見逃すはずもなく、銀の福音はそのまま一夏を追いかけ追撃を行う。
「うおおおおおお!?」
だが一夏は体を無理矢理ひねり、その攻撃をかわして距離をとるが、すでに生えた2枚の翼から放たれる豪雨に飲み込まれた。
「ぐうううう!!!」
急速旋回や複雑な軌道をとって躱していくが、圧倒的弾幕に不利に立たされる。
負けるわけにはいかない。負ければ彼女たちが襲われる。一夏は失うのが怖かった。だからこそ、この新たな刃で倒さなければならない。
これが焦りや不安なのはわかってた。だが一夏は歯を食いしばり、躱しきれないものは刀身を横にして受け流し、そして雪片撃貫から薬莢が2つ飛ぶ。
「零落、白夜ぁっ!」
斬撃として零落白夜を飛ばす。それにより一気に道ができたため、一夏は左腕に装備してある多機能武装腕「那由多」を前に突き出し、4本の爪を大きく開く。掌には砲口が覗いており、紫電が走ったと思ったら青白い光線がそこから放たれた。それを翼で弾こうとする銀の福音だが、翼に接触したと思ったら大爆発を起こしたのだ。
「ギュァア!?」
まるで
「まだだぁ!」
だが諦めずふたたび光線を放たれ、それを即座に躱そうする銀の福音。だがしかし放たれた光線はすぐに拡散し、目の前に壁を作り上げたのだ。それにより方向転換のため一瞬止まるが、放たれた光線が壁を貫き、そのまま銀の福音に直撃させた。
「ギュアァァアアア!!!!」
その激痛に悲鳴を上げ、一夏から離れようとするが、このチャンスを逃がすまいと一夏は踏み込み、零落白夜を起動させたまま
「ギィィ……!」
反応に遅れ、小さく唸り声を上げる銀の福音。
そして一夏は懐に入り込み、雪片撃貫を高々と振り上げる。この距離なら射撃武器も使えないはず。そう思い、振り下ろして唐竹割を行おうとした。だがしかし、銀の福音の頭部から発せられたヴァリアブル・スライサーが伸び、顔を上げるようにして雪片撃貫の斬撃を受け止めたのだ。
「なん……だと……!?」
切り裂けぬ物は無い、と思ってたがゆえにショックを受ける一夏。だがしかし、それで悲観する暇もなく、全スラスターを使って押しつぶそうとするが、それに劣らぬ推進力で押し返す銀の福音。
分解による破壊とエネルギー系の消滅の相殺によって起きるつばぜり合いにより、爆ぜたエネルギーの余波でお互いが吹き飛ばされた。
「負けて、負けてたまるか!!!!」
だが一夏はすぐに体勢を立て直し、そのまま銀の福音目掛けて突っ込み剣を振り下ろした。
彼女たちはただ空を見上げていた。一夏が独りで戦っている。なのに、自分たちは何もできず、ただ指を咥えてることしかできない。その悔しさに強い怒りを感じていた。紅椿はもうそろそろナノメタルで復活するだろうが、他のメンバーはそうはいかない。
箒も同じ気持ちだった。アレは一夏や自分だけの力ではどうしようにもできない。皆の力がいる、と。だがどうすればいい。
(教えてくれ、紅椿。私はどうすればいい……。私は……)
ギチッと拳を握りしめる音が響く。
だがその時、紅椿からある表示が映った
『
「えっ……」
その時、紅椿が金色に染まりだしたのだ。それに戸惑う箒だが、それは周りも同じことだ。
「な、何なのよいったい!」
鈴は悲鳴のように叫ぶ。箒もいきなりの事で混乱しているが、紅椿の装甲の回復速度が大きく上がったのだ。そしてそれだけではない。
ソレに一番最初気付いたのは、セシリアだった。
「鈴さん!?甲龍が……!」
「えっ?……えぇ!?」
鈴は中破した甲龍の装甲が回復し始めてるのに気づいたのだ。それどころか箒を中心として彼女たちの専用機の装甲や武器が修理されていってるのだ。
色は青みのかかった銀だが、とりあえず飛行ユニットと手に持ってた武器等はその形を取り戻していき、それと同時にシールドエネルギーも回復していく。
「すごい……これが紅椿の……」
箒は金色に染まったら紅椿を見る、空を見上げると、白と銀が線を結ぶかのように何度も接し、金属のぶつかる音と爆発音が響く。
「一夏……!」
仲間の機体を直しながら、箒は彼の名を呟いた。
「いい加減、倒れろよっ……!」
あれから薬莢をすべて排出したため、次のマガジンを装填する一夏。そして零落白夜を起動させて斬りかかるが、動きに慣れたのか銀の福音の動きが少しずつ最小限なものに変わっていく。
それにたいして一夏の雪片撃貫は太刀から野太刀になってるため、それに慣れない一夏は動きが次第に大振りになり、隙が出来始めた。おまけに燃費も零落白夜が別稼働とはいえ前より悪くなっており、更に与えられるダメージもあってシールドエネルギーがどんどん減っていく。
そして一夏が袈裟斬りしようとした時だ。銀の福音がカウンターの様に尻尾を顔面に突き付けてきたのだ。それをとっさに躱す一夏だが、そのまま首に巻き付き、体を1回転させてそのまま投げ飛ばされる。
「くっ……うっ……!?」
頭がフラフラとしながらも目を開くと、そこには自分目掛けて突っ込んで来る銀の福音の姿だった。その距離は雪片撃貫で対処するには距離が短く、その爪が一夏を捉えようとした。
「まだ、だぁ!」
だがその突きを那由多で無理やり受け止める一夏。火花が散り、そのまま押されるが、スラスターの輝きが強くなり、押し返そうと拮抗する。
だがしかし、お互い引けないと判断し、頭部に光線のエネルギーを貯める銀の福音。一夏もそれに気づいたのだが、完全に引けない状態になってることに気付いた。
「うぉぉおおおおおお!!!!」
叫び声とともに那由多から放たれた光線は、銀の福音の右腕の装甲を消し飛ばす。それによって照準がずれ、銀の福音が放とうとした光線は空を切る。
「ギィィィ!!!!……ガァァァ!!!!」
「っ!?」
だがしかし、銀の福音は損傷を無視し、無理やり踏み込んで来たどころか、のっぺらぼう面を付けたかのような顔に亀裂が入り、大きく開く。その中には形の不揃いなたくさんの牙が生えており、そのまま一夏の肩口に思いっきり噛みつき、もがく一夏を逃がさんと使える左手で一夏の右腕を掴んだ。
「こっの、離せっ!!!」
悲鳴を上げながら那由多を側頭部に向け、そのまま接射で光線を放つ一夏。だが煙の中から出て来た顔は無傷に近く、
体のいたるところから噴き出す蒸気が白式を痛みつけ、鋭い牙が一夏にダメージを与える。そして口内が紫に光り始める。何かわからない一夏だが、どう見てもやばいと判断して那由多のクローで顔を殴りつけるそれによって大きく装甲をへこませたり吹き飛ばすが、それも見る見るうちに修復していくのだ。
そして銀の福音がニヤリと嗤った。その時だ。
「ッ!」
銀の福音は口を離してからとっさに一夏から離れ、そのまま回避行動をとり始める。すると先ほどまでいた場所にレーザーや実弾と言った弾幕が空に向けて通り過ぎたのだ。
「一夏!」
「箒……?」
彼が見たのは、装甲のいたるところを修復させ、彼の元へと駆けつける4人の少女の姿だった。その装甲は直ってはいるが、紅椿以外の装甲は壊れてた部分が青みのかかった銀の装甲色になっており、応急手当とも言える状態に見える。
「お前ら、何で……」
「馬鹿者。お前ひとりだけで無茶をするな!」
「そうよ!見てるこっちがひやひやするんだから!」
「一夏さん!無茶しないでください!私たちが援護しますわ!」
「さあ、仕切り直しと行こうじゃないか!」
箒が、鈴が、セシリアが、ラウラが、みんなが力を貸してくれる。その嬉しさに一夏は俯き、自分の独りよがりに情けなく感じていた。
「一夏。これを受け取れ」
「えっ?……えっ!?」
そのとき、箒が一夏を抱きしめたのだ。それで驚いた一夏が顔を上げようとするが、彼女の手が一夏の頭を回りこみ、そのまま優しく撫で上げる。
この行動に他のメンバーは声を上げるが、箒はそれを無視して一夏に語り掛ける。
「一夏、無茶するな。お前が頑張るのは嬉しいが、それで怪我したら元も子もないのだぞ?」
「箒……」
暖かいぬくもり。一夏は頭の血が引いていく感覚がし、少しずつ冷静になっていく。
その時、紅椿が再び金色に輝き始め、一夏はそれに驚くが、その柔らかい光に警戒心を無くしていく。そして一夏はあることに気付いた。
白式のシールドエネルギーが回復し始め、そしてダメージを受けた装甲が直っていき、また戦えるほどにまで戻っていくのだ。
「これは……?」
「紅椿の力だ。これでもう問題ないだろう」
そしてシールドエネルギーはほぼ全開になり、一夏は確認するように手を動かしたりする。
「一夏、そう気を張るな。お前のおかげでまたみんな戦えるだけの時間が稼げたんだ。だから、今度は勝つぞ」
「何を思ってるかは知らないがアイツを倒すぞ」
「私たちの力、思い知らせてやりましょ!」
「一夏さん、行きましょう!」
皆が俺に力を……。
まだ俺たちは負けてない。それが分かって、一夏は深呼吸をする。
「そうか……そうだよな……」
顔を上げ、雪片撃貫を強く握りしめる一夏。その時だ。機体の各所が輝きだしたのだ
『那由多、スラスター、制限解除。再起動します』
「えっ……」
するとどうだ。輝きが収まり、そこにあったのは那由多の形状が少し変わり、背中のウィングスラスターも大きく広がった白式・薄明の姿があったのだ。
「皆、待たせて済まなかったな。これで、やっと本調子だ」
「一夏、さっきのはまだ未完全だったのか?」
「まあ、そうだな。ただ皆が傷つくのを見て居られなくて……」
それであんな無茶したのかと呆れる彼女たち。だが、それでも一夏の思いは分かった。敵討ちとは言え自分たちがやられてはいけないのだ。さすがに自分たちも無茶したなと反省しながらも、気を引き締めて己の得物を構え直す。
「じゃあ皆!
コクリとうなずいて分かったと返事する面々。そしてそれぞれのスタスターの輝きが強くなり……。
だがその時、巨大な反応が海中から発した。
『!?』
一体何なのか。だがその答えはすぐ現れた。海面から1筋の稲妻が走り、銀の福音の装甲を斬り裂く。完全に意識の外だったため躱し損ね、羽の一部が霧散する。
いきなりの一撃に驚いた銀の福音はとっさにその場を離れるが、海面から稲妻が幾重も放たれ、それを縫うかのように躱していく。そしてお返しに光弾を海に叩き込んでいくつもの水柱を立て、光線を海に叩き込んでこれまで一番の水柱を立てた銀の福音は、その海面を見つめる。
「まだだ……」
「一夏……?」
鈴は小さくつぶやいた一夏をみつめる。一夏の口角は上がっており、嬉しそうな、だが少し怖い笑みになっている。
「俺もお前もまだ負けてない!そうだろ!航!」
その時、名を叫ばれたソレは一夏たちの後ろに水柱を立て、その中から吼えた。
「キィィァァァアアアア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
ビリビリと響く声。それに一瞬顔をしかめるが、一夏のその顔はとても嬉しそうなものだった。
「航!……わた、る?」
声を上げる一夏だが、その機体の姿を見たとき、言葉を失ってしまう。
「ゥゥゥ……」
多量の廃熱と一緒に唸り声を上げる機龍。
それはこれまでの機龍とは大きく違った。亀裂の入った部分に赤い光を走らせながら装甲がところどころ紅く輝き、大量の蒸気を噴き上げる。そして部分部分融解気味の背びれに紫電を走らせ、その赤色の眼が敵を睨みつけた。
「ギィィィァァァグォォァァアアアアアアア!!!」
「ギィァ……ギュァァァァアアアア!!!!」
赤く染まろうとする空。その下で最後の戦いの火ぶたが切って落とされようとしていた。
次回、福音戦最終回!(の予定)