インフィニット・ストラトス 忘れ去られた恐怖とその銀龍 作:妖刀
とりあえず車の免許で大型一種と大型特殊を取らないといけなくなったのでいろいろ大忙しです。
では本編どうぞ!
ここは関東圏にあるとあるホテル。その部屋の一つに1組の男女がいた。女は男の股に顔をうずめて何かしてるようで、椅子に座っている男はそれを見てニタァと口角を上げている。
「ん……っ……」
女は顔を動かしていたが、何かあったのかその動きが止まり、そして股から顔を上げて、その蕩けきった顔を男に見せた。
男は満足したのか、本題に入ることにした。
「さて、今回の相手はこいつだ」
男は手に持ってた写真を女の足元に落とす。女はそれを拾って確認すると、わずかに目を見開いて男の顔を見た。
「旦那様…。彼は
女は首をかしげて男を見つめるが、男は表情を変えずに女が持ってる写真に目をやる。そこに写っていたのは航の姿だ。女はこの写真を首をかしげながら見ており、男は近くに置いてた煙草に火を付けて吸い出す。
「両親を殺せば覚醒すると思ったが、ダメだったみたいでな。だから上の奴らはこいつを切ろうという考えらしい」
女は興味なさそうな感じで、すでに写真から目を話して股の方に顔を戻してる。男もそのことを気にしてないのか、女のやることをただニタニタと見つめている。
「まあ、政府からの彼の殺害命令はまだ撤回されてないんだ。それならさっさと始めてしまう方がいいだろ?」
「それで、私の出番ということですか」
「ああ、頼むぞ」
「はい、わかりました、だい―――」
「今はここで言うな。誰が聞いてるのか分からねえんだから」
「はい、旦那様」
男はニヤニヤと笑みを浮かべて女を見る。水色の髪に赤い瞳を持つ彼女は、ジッと虚ろな眼で男を見つめていた。
さて時間も場所も少し飛び、現在IS学園では、とあることで話題になっていた。まあ主に話題になってたのは1年だけだが、正直教員たちの中でも若干話題になっている。
「ねえ、臨海学校になに水着着ていく?」
「うーん、まだ決めてないなー」
「なら今度レゾナンスで買いに行こうよ」
「えー、外行くのー?」
「大丈夫大丈夫、最近出てないらしいし?」
「うん、なら行こうか!」
廊下でそんな話題をする女子たちの横を通り過ぎる千冬は、正直今回の臨海学校が不安で仕方なかった。
(政府はいったい何を考えている…?)
臨海学校はIS学園で1年生が行う行事であり、主にISの試験運転や学園ではできないことなどを学ぶのが主なことだ。まあ、1日目は海に入れるから生徒たちも何着るか悩んだり楽しそうにしてるが。
だが今回はそうとはいかない。なぜなら前のトーナメントに現れたメガニューラの件があるからだ。IS学園襲撃以降メガニューラの姿が関東圏では渋谷でしか見られないと言われているが、今回の臨海学校でISを多数使用するとなると、ISのエネルギーに反応してこちらに来られかねない。
そのため今年は中止にしようという案が教員会議で上がっていたが、政府から絶対にするようにという通達が来たため、仕方なくする羽目になったのだ。
(というか政府も襲撃やあちこちを飛んでる件を知ってるはずだ。だがなんで……?)
自身がIS学園の教員でなかったら、おそらくその政府の人間に一発拳を入れてただろう。
こう腑に落ちない、そんなモヤモヤを抱えて千冬は職員室を目指す。
そしてたどり着いて扉を開けると、今日が休日のためか職員が少ない中、真耶が仕事をしてるのが目についた。
「あ、織斑先生おはようございます」
「ああ、おはよう。ところで山田先生、今日外出届を出した生徒は何人いましたか?」
「えっとですね……。ああ、今日は7人が外出届出してますね」
「その名前は?」
「えっと、1年1組の専用機持ち全員と篠ノ之さん、2組の鳳さん。あと2年の更識楯無さんですね」
どういう組み合わせになるかすぐに察した千冬は、小さくため息を漏らす。
「専用機持ちたちか……。まあ、一夏は代表候補生がいるし、航は更識がいるから大丈夫…か?」
一夏は大丈夫だろうとなんとなく思う千冬だが、正直航の方が若干不安に感じていた。なんせ彼、前に外出してあんなトラブルに巻き込まれたのだから……。
千冬たちがそう話してる頃、ショッピングモールレゾナンスに向けて男子1人女子4人の5人組が移動していた。
「本当にあちこち休業中ですのね。これレゾナンスという店は開いていますの?」
「ネットで見てみたらまだ開いてるらしいけど。だけどこれはなぁ…」
セシリアと一夏はシャッターをあちこち下ろされた街を見て、驚きを隠せなかった。彼らが今通ってる通りは、いつもなら割と人がにぎわう通りなのだが、この前の事件で店を閉めてしまうところが多数増えたのだ。まあ、安定して開いてると言えばコンビニとかそういうのだろう。
「こう、にぎわってたはずなのに静かになると不気味に感じるな……」
「ふむ、これがいわゆるゴーストタウンというやつか」
ラウラの言葉に違うと突っ込む一同。
そんな風ににぎわう中、ただ鈴は落ち込んだ様子でため息を吐く。
「あーあ、なんでこうなるのよ…。一夏だけを誘ったはずなのに……」
鈴は最初、一夏だけに「水着を買いに行こう」と勇気を出して一夏を誘い、そしてOKをもらった。だが不幸にも近くにセシリアがおり、それを聞いたセシリア、箒が割って入って付いてきてるのだ。
なおラウラがいる理由は、彼女は水着を持ってないため、それをどうしようと思ってたセシリアがこれを理由に彼らについていこうとしてこうなったという。
なお現在時刻は9時50分。まだ開店には少し早いが、こう話しながら歩いていれば着くころには開店時間を過ぎてるだろうと思い、和気あいあいと話していく。そして着いたころにはすでにレゾナンスは開店しており、5人はそのまま店に入って目的のものを買いに行くのであった。
「いやー、買った買った」
「水着か…初めて買うな」
(い、一夏にあの水着姿を……)
「一夏さん、その少し持ちましょうか?」
「んー、ああ問題ないよ。セシリアものんびりしておけよ」
5人は買い終わり、現在一夏は4人の買った荷物を持つ荷持ち係になっている。セシリアは量がそこそこある荷物を持ってる一夏を心配したが、彼は問題ないと笑顔で返す。まあ彼からしたら軽い男の強がりのようなものだが、セシリアは媚びてる男性に少し見えたんだろう、少し頬を膨らませる。
ただ一夏はここまで荷物が増えると思っておらず、若干手がプルプル震えていたりする。まあ、主な目的は水着を買うことだったため、そこまで荷物がないのが幸いであるが。実際ほかのも買うとなったら一夏も少しは反応が変わっただろう。
「でもさ、こう買い物も終わってこれからどうするんだ?」
そう。現在まだ11時頃で、昼食時というには少し早すぎる。そのため何か暇つぶしになるかと思い、あちこち店を周っていた。ただ一夏は女性は本当にあちこちを周っていくのかと軽く驚き、荷物が増えない様に、と心の中で祈りながら彼女たちについていく。
そんな時だ。一夏はとあるものを見つけた。
「おっ、あれって航と楯無さん?」
「「「「え?」」」」
一夏が指さした方向には、黒髪の青年と水色髪の女性の姿があり、女性は男性用の水着を持つと青年の腰元に当てたりしている。どうやらどんな水着が合うか見てるようだ。2人の顔は楽しそうにしており、遠くからでもその様子がうかがえる。
「おーい、わたふぅ!?」
この時一夏は2人に声かけようとしたが、すぐに箒に口を押えられ、そして箒、鈴、セシリアに引っ張られて物陰に隠れた。ラウラはいきなりの行動で少し戸惑ったが、すぐに一夏たちに習って物陰に隠れる。
「ちょ、いきなりなんだよ!?」
「一夏、こういう時は見て見ぬふりをするのが人というものだ」
「そうよ。人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られるっていうし」
「お、おう。わかった……」
箒と鈴の力説、もとい有無を言わせないような眼力で見られた一夏はただ生返事でうなずくことしかできない。ラウラもなぜかを聞こうとしたが、この時の彼女たちの迫力に押されたのか、口を閉じてただ物陰から2人を見ていた。
だがしかし、無理やり物陰に引っ張ったため、彼が持っていた荷物が崩れしまいそこそこ大きな物音を立ててしまう。
「あ、やべっ」
「ちょっと、何してるのよ!」
「いきなりお前らが引っ張るからだろ」
そして始まる一夏と鈴の口喧嘩。それを止めようとする3人だが、お構いなしに声が大きくなっていく一夏と鈴。仕方ないので無理やりでも止めようと箒とラウラが拳に力を入れた時だ。
「お前ら、何してるんだ?」
「「「「「あっ」」」」」
彼らの前にいたのは、呆れた顔をしてる航と楯無の姿であった。
航たちに見つかった一夏たちは、あれからお昼時のためレゾナンスのフードコートで昼食を取り、軽い休憩と雑談をしていた。
「ISの
「だがこれで一夏の持つ分がほぼなくなったじゃないか」
「そういうあんたのは一夏のに入れてるじゃない」
「し、仕方ないだろ!私は専用機とか持ってないのだから……」
鈴の言葉に落ち込む箒。鈴に対してラウラとセシリアのじーっと見る目が刺さり、鈴はアワアワとしながら箒を慰めている。
そんな2人を尻目に一夏は航の方を見る。航の方も荷物はすでに格納済みで、ほぼ手ぶら状態だ。
「航も水着を買いに来たのか?」
「まあ、そんなところだな」
「ふーん。なら航たちはこの後どうするんだ?俺たちと付いてくるか?」
笑顔で言う一夏だが、その後ろでは4人が首を必死に横に振っており、断ってもらおうと必死になってる。その姿に笑いが出そうになった航だが、小さくため息を吐いて肩を落とした。
「すまん。この後野暮用があって無理だ」
「野暮用?」
「墓参りだよ。葬式には出れなかったからそれぐらいはな」
「あっ……」
実際航たちの今日の目的は墓参りであり、水着云々はただのおまけでしかない。
一夏たちは何か慰めの言葉でも言おうとしたが、航が寂しそうな笑みを浮かべてるため言葉にすることができない。むしろ言ってしまうと、何か悪いことが起きそうな気がして言うことができないのだ。
重苦しくなった空気の中、一夏は意を決して
「わ、航!……俺も、墓参りに―――」
「あー、ごめんね。そうしてくれるのは嬉しいけど、航のご両親の墓は更識家所有の墓地にあるからそう簡単に行けないのよ」
「え、どうして…」
いきなり楯無に止められてことに困惑する一夏。彼女に喰いかかろうとしたが、楯無がとても申し訳なさそうな顔をしてるため、とりあえず話を聞くことにする。
「正直彼のご両親をちゃんと墓に入れることすらとても苦労したわ。ISを使える男子を産んだ両親なら、ね?」
一夏はこの言葉に最初は理解できなかったが、少しずつ理解して言葉を失った。もしISを使える理由が遺伝子的なものなのだとしたら、両親の遺体を解剖してそれを調べていけばいいのだから。
楯無はそれを阻止したくていろいろ手を尽くした。だがある日、調べていたらとあることに気付いてしまい、その手を使った時に彼らの遺体を政府や研究所に引き渡すことなく、無事彼らを火葬して墓に入れることができたのだ。
ことことはすでに航に伝えられている。だが楯無は調べていた中身については彼に言えずにいた。ただ、彼には両親は無事、墓に入れられたことしか伝えていない。だが正直、あれはいまだに楯無自身も事実を受け止められずにいた。
楯無はこの重い空気をどうにかしようとチラッとスマートフォンを開いたとき、時間になってることに気付いた。
「航、もうそろそろ時間よ」
「ん?ああ、わかった」
「え、時間?」
「ああ、今から墓参りに行くから。じゃあ、また学校でな」
航は席を立ち、そのまま楯無についていく。そして近くのエスカレーターから降りて行ったのを一夏たちはただ見てることしかできなかった。
あれから航は更識所有の車に乗り、政府からの電話で遅れて乗った刀奈と一緒に自分の両親がいる墓へと向かっていた。
「航様、大丈夫ですか?顔色が悪いみたいですが」
「だ、大丈夫です……」
運転手の霧島大輔は少し顔が青い航を見て声をかけるが、航は少し苦しそうな笑みを浮かべて手元にあった水の入ったペットボトルを飲む。
航は怖かった。これから両親の墓参りに行くことが。自分のせいで死んでしまった、自分が殺したと言っても過言ではない両親に会いに行くのが怖かった。
その手は少し震えており、時折手のひらを握ったり放したりしてたりと落ち着きがない。それもそうだ。
航は親の墓に行くのが怖かった。親は自分を恨んでるのは無いのだろうか。こんな親不孝な息子が行くのは間違ってるのでないのだろうか。そう考えてしまい、航は体を震わす。
その時だ。刀奈はそんな震えてる航の手を握って、体を密着させる。
「大丈夫。北斗さんも月夜さんも怒ってないから」
「……だけど」
「ただちゃんと現状報告とさよならはいいましょ?じゃないと2人がずっと航を心配したままだから」
「……わかってる。けど…けど……」
「お嬢様、航様。もうそろそろお着きになります」
大輔は2人の姿をチラッとミラーで見た後、そう言うのであった。
車で移動すること2時間少し。高速道路も使わずに来たため、県をまたいでそこそこの距離があったが、無事に更識所有の墓地へとたどり着いた。
時間もすでに15時近くになっており、日も少し傾いてきてる。
「じゃあ、私たちは行ってくるから待ってて」
「はい、いってらっしゃいませ」
刀奈は大輔を墓地の入り口付近の駐車場で待つように指示した後、航を連れて、彼の両親の墓がある場所へと向かっていた。
お供えの花はすでに買っており、今は航の手に握られている。だが航の足取りは重く、歩き始めたときと比べて結構遅いペースになっており、刀奈は少し不安げだ。
「ねえ、今日はもう止めとく?航、辛そうだよ?」
「……いや、行く」
「そう…無理しないでね?」
そして遅いペースながらも2人は航の両親の墓の前に着いた。
航は小さく息を飲み、そして墓と向き合う。
「……父さん、母さん。いろいろあったけどさ、やっとここに来れたよ。学校ではさ、色々あったけど皆とはそこそこ仲良くなれてる。そしてさ―――」
航はこれまでいろいろあったことを話していく。最初は顔は少し悲しそうな笑顔だったが、それも少しずつ曇っていく。
その後航の体は小さく震え出し、声も少しずつ小さく震え出した。
「そしてさ……ごめんなさい。俺が、俺がISを動かしたせいでこうなって……」
そして航は絵からぽろぽろと涙を流し始める。
ただ刀奈は何も言わず、ただ泣いてる航を見つめていた。
そして墓参りも終わり、2人はIS学園に戻るため車に向けて歩いていた。
ただ航の顔は行きがけの時より明るくなっており、少しは元気になったようだ。
「航、もういいのね?」
「ああ。俺は、頑張って生きるよ。誰かが邪魔しても、俺は絶対」
「そう……。なら頑張らなくちゃね」
その後特に会話もなく、駐車場へと向かうが航はチラチラと刀奈を見る。その不審な動きに刀奈は首をかしげるが、特に問題ないと判断してるのか、声をかけたりはしない。
その時、航の足が止まった。刀奈は何で止まったのか不思議に思い、少し首をかしげる。
「航、どうしたの?」
「あのさ。聞きたいことがあるんだ」
「ん?おねーさんに何でも聞いてみなさい。答えてあげるわ」
そういって彼女は胸を張る。それを見て航は小さく苦笑いを浮かべたあと、少し目を細め、そして口を開いた。
「なら聞くよ。……なあ、あんたはいったい誰なんだ?」
航は、目の前にいた刀奈にそう聞いた。
チラリと目を覚ます音がする。
“ソレ”は、何も言わずに見ていた。
男の中にある“感情”の小さな牙を。
それを見たとき、“ソレ”は小さく嗤った。