インフィニット・ストラトス 忘れ去られた恐怖とその銀龍 作:妖刀
では本編どうぞ
今日は学年別タッグトーナメント当日。この日、生徒の人数的問題でアリーナは複数使われて大会は行われる。
その中で一夏は、小さくため息を漏らしながらこれから映されようとしているトーナメント表を見ていた。
「白式、戻ってきたけど相方はランダムか……」
そう、一夏は白式が帰ってこない場合は大会の出場はできなかったのだが、急きょ戻ってきたため大会に出ることになったのだ。だがすでに相方を決める期限は過ぎており、他の専用機持ちもすでに相方を持っている。そのため一夏は即席で相方を決めるくじに頼ることになったのだ。
「それは無理ありませんわ。一夏さんの白式が戻ってきたのは一昨日のため、実際はトーナメントにも出れないはずだったんですわよ?」
「だけど、航が出れないから急きょ出るようになって」
「一夏、練習をしていないが大丈夫か?」
ラウラの言葉に小さくため息を漏らす一夏。これは完全な死亡フラグだ、そう言い聞かせて割と生存フラグになったりするかもしれない言葉を言い放つ。
「大丈夫じゃない、問題だ」
「そういう返しができるってことは問題ないわね」
「いや、鈴!問題しかないから!」
珍しく大声を上げる一夏。
実際一夏は不安なのだ。あの時、航の親のことを馬鹿にした女子生徒に反論したが、あの日以降周りの女子たちからの目が、自分を敵視するものに変わりつつあることに。
分かっていたはずだ。ここはIS学園で、女尊男卑に染まった人が沢山いるということを。いくら鈍感な一夏でも、流石に味方がいないとここで3年間まともに過ごせるわけがない。その矢先でこの出来事のため、一夏はあの時反論したことに反省はしたが後悔はしていなかった。
「っと、どうやら出るみたいだぞ」
ラウラの言葉と共に皆がトーナメント表へと顔を向ける。そこに映っていた名前に呆然とする。
「なんで、だ…?」
「うそ……」
周りもその名前に驚きを隠せない。なぜなら、そこに書かれていたのは「篠栗航」文字が書かれいたのだから。
学年別タッグトーナメントで一夏は、この状況に困惑を隠せなかった。相手は一夏に顔を向けず、それどころか完全に背中しか見せていない。その相手とは……。
「航、久しぶりだな……」
「……」
そう、まさかのパートナーが航だったのだ。確かに前に千冬がトーナメントまでに復学すると言っていたが、それが今日、しかもこの時とは思わず、実際一夏も戸惑ってしまう。
そしてトーナメントのパートナー申請をしてない一夏は自動的に抽選機によって相手を選ぶのだが、それで今日戻ったばかりの航。しかも機体は四式機龍ではなく打鉄だ。
そして現在、2人は男子専用更衣室にいる。だがその空気は鉛のように重く、どう話しかけようにも、鋭く細くなった瞳が一夏を無言で見つめるだけだ。
「あれ、航。背中……」
このとき一夏は気づいた。航の背中を見た際に、無理やり背びれを切り落とされた痕があるのを。だがその大きさが今までと違って大きくなってるため、若干不気味にも感じる。
「なあ、航。この前ニュースになってたけど、北斗さんと月夜さん……」
「……ぁ゛」
この時、初めて航から一夏に目を合わせる。だがその鋭く白目に近い睨みは一夏の行動を制限するには十分であり、ただ一夏は息を飲む。
「ま、まあ、トーナメントのでコンビになったから、よろしく……」
その寂れた背中を見る一夏。だがこの時、航が小さくうなずいてくれたため、一夏は少し安心を覚えた。
一夏は機龍の暴走で、周りがボロボロになったことに怒りを忘れたわけではない。だからと言って航にその件で怒鳴り散らしても意味がないと知っており、とりあえずこの状況でも少しずつコミュニケーションを取っていくことにしたのだ。
そしてアリーナの方では、これから試合が始まるという挨拶等々が行われており、観客たちもそれをワイワイガヤガヤと騒がしくしながらも聞いている。
「航、もうそろそろ試合始まるみたいだぜ。ここにモニターあるから一緒に見ないか?」
一夏はそう話しかけるも航は無視する。そのため苦笑いを浮かべ、諦めた一夏はモニターからアリーナの様子を見ることにした。
なお一夏・航ペアが出るのは第0回戦である。これは一夏たちの復活で人数の都合上どうやってシードを付けるか悩んでた教員たちが、急きょ作ったものであり、おかげで一夏たちはこれに勝ってやっと1回戦ということになる。
そしてこの学年別タッグトーナメント、専用機持ちが例年に比べて多いためかレギュレーションが組み込まれており、そのおかげで学生は専用機持ち同士、代表候補生同士で組むことが禁止になっている。そのためセシリアは箒と、鈴は同じクラスの子と、ラウラは同じ学年のドイツの子と組んでいた。
なお一夏と航だが、本来専用機持ち同士になるかもしれないが現在航の機龍は使用停止。そして戦いで注目を集めるためという目的もあって、上層部の方で男同士で組むように仕込まれていたのだ。だが本人たちはそのことを知らないため、上の方だけの秘密となっている。
そのころアリーナの方では第一回戦の試合がとても盛り上がっている。1年生の試合であるが専用機持ちが学年の中で一番多く、おかげで様々な専用機が見れるため盛り上がりが異常なのだ。
そして一夏・航ペアの番が来た。一夏は白式を展開してカタパルトからさっさと射出。航も打鉄を纏ってカタパルトから射出される。
そして白式は空中で浮遊するが、航の打鉄はそのまま地に落ちてガリガリと地面を削りながら着地する。その様子を見ていた観客たちは大きくブーイングを上げ、御来賓の企業の人たちは何かひそひそと話し合ってる。
その中一夏たちの対戦相手の金髪と茶髪の女子たちは航の行動に眉を顰め、ヤジを飛ばすかのような物言いで挑発するが……
「貴方みたいな人間は本当に屑よ。だからさっさと倒してあげるわ。あんなでかい人形がないと弱いでしょうし、誤れば許してあげないこともないわ」
「本当に人間の屑ね。そんなんだから貴方、家族が死ぬのよ。お分かり?」
そういってニヤニヤと笑みを浮かべる2人。それに航が反応するかと思ったが、一夏が先に反応した。
「おい!何言ってるんだ!航、気にすんな…、航……?」
一夏は、自分を無視する航に苦笑いを浮かべそうになるが、彼の顔を見たとき少し表情が凍り付いた。
航は顔の表情を一切変えず、ただ物を見るような眼で彼女たちを見ている。
「ひっ……」
「なによ、その目……」
それは鋭く、虚ろな目だった。まるで深い深淵のような、のぞき込もうとすればそのまま飲み込む虚無。その眼力にビビったのか2人は少し体を震わせ、手に持っていたライフルが震える。
『それでは、試合開始!』
アナウンスと共に試合開始のブザーが鳴る。
それと同時に航はスラスターを吹かして一直線に女子がいる方向へと飛び始めた。
「天音!いくよ!」
「うん!」
彼女たちの作戦は、相手は近接装備しか持っていないため、中遠距離で攻撃をして仕留めるという単純なものだ。
そして天音と呼ばれた女子は手に持っていたライフルを航に向けて標準を向け、そのまま引き金を引いた。そしてパン!と銃声が響く。
銃弾はそのまま航に直撃しようとしたが、航がそのまま急な角度での方向転換を行ったためそのまま躱される。
「嘘っ!?」
「ミーナ!止めちゃダメ!」
ミーナと呼ばれた金髪の女子は驚きの表情から気を引き締める。それで引き金を引き続けて2人は航めがけて銃弾を撃ち続けた。
「航!?」
一夏は航が真正面から突っ込んでいったのに驚きを隠せなかった。いくら打鉄が防御が硬く、近接重視の機体とは言え、無理やり突っ込めばそのまま銃弾の雨にさらされて負けるのがオチだ。そして航は無理やり体をひねるなどをして回避を行っているがそれもいつまで持つかわからない。
そのため一夏も雪片二型展開、そしてスラスターを吹かしてミーナと天音の間を無理やりすり抜け、そしてミーナめがけて雪片二型を振り下ろした。
「きゃあ!」
いきなり一夏が現れたように感じたミーナはそのまま地面に叩き落され、そのまま一夏は追撃のため地面へと向かう。いきなりのことで驚きながらも反応した天音は一夏めがけてアサルトライフルを撃とうとしたが。
「……葵」
「えっ……?」
天音の後ろには航がいた。彼の両手に近接ブレードが2本展開されており、そのまま右手に握っていたブレードで袈裟斬りをしようと振り下ろす。だが天音は急いで近接ブレードを呼び出して展開。そして両手で持ってそれを受け止めると、横腹に強い衝撃が走った。
航が横腹にミドルキックを食らわせたのだ。
「きゃあ!?」
そして吹き飛ばされた天音が次に見たものは、その顔を手で鷲掴みにしようとする航の姿であった。それを脳が認識する前には顔面をアイアンクローのごとく鷲掴みされ、そして航がスラスターを吹かすことによって勢い良く地面にたたきつけられ、大きく粉塵が舞い上がった。
このとき絶対防御が働いたため体にダメージはほとんどなかったが、たたきつけられた時の衝撃でラファール・リヴァイブのシールドエネルギーを大きく消費し、それと同時に意識が吹き飛びそうになる天音だったが残った意識を集中して手に握ってる近接ブレードを航の首に叩き付けた。
そのため頭がガクンと落ち、彼女の顔を掴んでいた手の握力が緩んだため天音は上手く気絶したと思った。だがその時、うつむいていた航が顔を上げる。その彼の目を見た天音は、とてつもない恐怖を感じた。
そして、航が手に持ってたブレードを、天音に振り落とされた。
ここは学園から北側の海岸上空。そこに2機の教員用ISを纏った黒髪と茶髪のIS学園教員が海の方を見ながら何やら通信を開いている。
「こちら一番機。学園上空、異常なし」
『こちら学園、あと30分で交代だ。それまで頑張ってくれ』
そして通信が切れる。現在彼女たちがしてるのは、前の学園への襲撃があったため、次それが起きないようにするための防衛だ。東西南北4方角に2機ずつISが配備されており、武装は前の無人機戦の事も考えており、取り回しの良い強力な武器やワイヤーを
なおISが2機ずつなのは、下手に多く出すと周りからの顰蹙を買うということでこうなったらしい。
それを知ってる教員たちはため息を漏らしながらも警備をしている。
「あともう少しで交代よ」
「はーい。それにしてもトーナメント、私も見たかったなぁ……あの男子たちの見たかったし。」
現在彼女たちの通信にはアリーナ内の情報等が流れてきており、その中に試合の実況なども混じってるのだ。そのため結構重要ながらも暇なこの任務の時間を潰すため、護衛をしてる間このお通信を開きっぱなしにしてたのだ。
「あ、そういえば男子チームも勝ったね。まあお互い近接が得意だから分断と奇襲を上手くすれば勝てるって思っていたし」
どうやら一夏たちが勝ったらしく、教員の1人が少しうれしそうな声を上げる。反対側の方角の教員の悔しそうな声が通信に流れてしまうが、まあ誰もそのことは聞かなかったことにしていた。
「よく病み上がりからここまでできるよね……。ねえ、男って皆こんないきものかな?」
「さあ?」
彼女たちは男性経験がないため、一夏たちがその男性の基準となってしまう。
その時、他の教師から無駄口叩くなと注意をくらう。即通信ができるように通信は開きっぱなしになってるため、この会話すべて丸聞こえなのだ。
仕方ないためほかの話題に変える2人だったが……。
「あの大きなトンボ……名前忘れちゃった。あれが来たりして―」
「まっさかー」
「さて、今日の試合もあともう少し。それまで気を引き締めましょ」
そういってお互い笑い合う。そう、ここを攻めても意味がない。前に飛んで行ったトンボは南へと下っていってた。そのため、もし攻めてくるなら南側の可能性が高い。その時は燈に教えてもらった方法で落とせばいいだけだ。
「虫が苦手とか言ってられないじゃない……!」
彼女はそうつぶやいた。
その時、ISの音響センサーにとあるノイズのようなものが走った。
……ブブブブブ
「何、これ……。ねえ、今何か」
「ええ、聞こえたわ。故障、かしら……?」
そのノイズのような音はどんどんと大きくなり始めたため、何かが近づいてきてると判断した彼女たちは、東、南、西の方向にいる教師たちに警戒を強めるように言う。
それは突然のことであった。
「何よ……、あれ……!?」
ハイパーセンサーに映ったのは、はるか遠く、東京都方面から向かって生きている黒い靄のようなものであった。それが近づくにつれてどんどんと鮮明になっていき、彼女たちはそれの正体がわかったとき驚愕の表情を浮かべた。
「総員、武器を展開!お客さんが来たわ!」
彼女の声とに反応し西、南、東に配備されていた教員たちは即座に射撃武器、しかも弾幕が張れるものを展開し、
「総員、撃てぇ!」
そして引き金が引かれ、学園のすぐの海上では戦闘が始まった。
更識楯無は、現在学園に向けて帰路をたどっていた。そして学園行きのモノレールの車内、誰も乗っていない中彼女は、小さくため息をつきながら家での出来事を思い返す。
まず最初に見たのは、楯無の父から渡された資料だった。それには様々な紙媒体と数枚の写真だ。そこに映されていたのは航の両親と、自分が送り出した篠栗家護衛の部下の変わり果てた写真だったが、暗部としての仕事に慣れていた楯無は眉一つ動かさず、どちらかというと怒りの混じっていた表情でそれらに目を通した。
むろん、自分の偽物の写真にもだ。
その後は家での尋問が始まる。楯無はその日の自分がした出来事をすべて包み隠さずに話し、アリバイとして虚に電話をして証言をしてもらい、何より写真に写っていた自分らしき女が刺された写真の刺された箇所を母に見てもらうことで今自分ができる分のアリバイを証明し、その後は遺体が除かれた航の家に行って証拠見聞。
その時偽物が刺されたと思われる刃物を縁側の下で発見し、それをDNA鑑定にまわした後は他の証拠となりそうなものを見つけていき、その後は偽物に彼の両親を殺すように指示した可能性の高い日本政府に大きく探りを入れることにする。
だがここまでの急務のストレスにより疲れが大きく出たため家で数日の療養を取っていたのだ。
その後彼女は現在、学園に向けて移動していたというわけである。
「あの女、いったい何者なのよ……。どうして私に化けたのかしら。更識の名を落とすため?航の中を引き裂……かれちゃったな……絶対許さないわ。見つけたら死なない程度に殺してやる」
さらりと言う楯無だが、その目には光が宿っていない。
「あ、そういえば今日は……」
楯無は今日は学年別タッグトーナメントの1年生の部の日だったことを思い出し、一夏がどれほど強くなったのかが気になるのと、航が出るのか少し不安に思っていた。もし出ているのだとしたら、機龍は手元にないはず。それでどう戦うのか……。
とても不安で仕方ない楯無だったが、その時モノレールが急ブレーキをかけたため椅子から飛ばされるが、空中で1回転して見事に着地を決める。その間も大きな金属音をたてながらモノレールはブレーキをかけ、楯無はいったい何があったのかと急いで先頭車両に向けて走り抜けていく。
学園息のモノレールは基本的に無人運転のため相当ながない限り止まることは無い。だが途中で急ブレーキをかけたということは道の先に何かがあったということであり、さっさとたどり着いた楯無が見たものは、学園に向けて大きなトンボが飛んでいく光景だった。
「あれってこの前テレビに映ってたトンボ!?名前は……えっと、メガニューラ?」
これじゃ航に笑われるなって心で思うも、彼女はその光景に驚きを隠せずにいた。数は約30ほど。だがその大きさは遠くながらもとても大きく、体長大きい個体で4mはあるのではないかと思われる。それらが集まってる場所は丁度トーナメントが行われているアリーナ。楯無は現状を聞こうと千冬に電話をかけようとスマホに手を伸ばした。
その時、大きな羽ばたき音がしたため右の方向を向くと、そこには今にもモノレールの側面に突っ込んできそうなメガニューラの姿があった。
「え、嘘」
そしてメガニューラは楯無がいる車両側面部めがけて突っ込んだ。
始まるは悲劇か惨劇か。