インフィニット・ストラトス 忘れ去られた恐怖とその銀龍 作:妖刀
まあ本編どうぞ!
機龍暴走事件から数日後。
ここはIS学園敷設の病院。ピッピッと心電図の音が響く中、そこの一室にシャルロット・デュノアは眠っていた。頭には幾重にも包帯が巻かれ、口には呼吸器を付けられている。そして体は布団に隠れているが、彼女の骨の大半が複雑骨折を引き起こしており、その影響でいまだ意識が戻らない。
あの時機龍の尻尾によってつぶされたシャルロットは、絶対防御がぎりぎりで働いたがそれでも足りず、全身を強く打ってしまう。そのせいで回復したとしても、最低半身不随は免れない状態となっていた。まあ緊急手術の時にわかったのが、肺と心臓に折れた肋骨が深く刺さっていて、そのため意識が戻っても大きな後遺症を残すだろうと判断されているが……。
その病室の中、楯無と千冬と真耶はピクリとも動かないシャルロットをただ見ていた。
「まさかデュノアから洗脳用ナノマシンが検出されるとはな……」
「はい。ですが、彼女のしたことは」
「わかってる」
千冬は自分がこのことを見抜けなかったことの怒りと弟が簡単にハニートラップにかかったことに対する呆れを感じていた。そして学園の備品等々の破壊などもしてくれたせいで教師たちの休み時間が一気に削られていくのだ。
なお今回の件によって、IS学園に置かれているISは全機、電磁パルスによる危害を極力軽くするための処理が行われることになる。
そしてこの後、シャルロット・デュノアはここで治療された後、フランス政府からのお迎えが来てそのままフランスへと強制送還される。その後は向こうで今回の件の裁判が行われるだろう。死人は出てないとしても、世界に2人しかいないIS男子搭乗者の両方に危害を加えてるのだ。いくら洗脳されていたとはいえ、安い判決では済まないだろう。
「それにしても更識、体は大丈夫なのか?」
「はい、蒼龍が護ってくれましたから……」
現在蒼龍や機龍は開発元である婆羅陀魏社へと運ばれており、蒼龍はダメージレベルC+のためオーバーホール。機龍は今回の暴走の原因を探り、それを厳重にロックすることによってこれ以降起こさないようにするのだそうだ。なおお互いの壊れた武装類はこの時に補充され、数日後に蒼龍は楯無のもとへ。機龍は学園へと送られる。
「そうか。……そういえば更識、篠栗の様子は見に行ったか?」
「いえ、まだですが」
抑揚のない返事。まるで他人事でも言わんばかりの言い方に、千冬の目元がピクリと動くが彼女の顔は先ほどと変わらないシャルロットを見たままの状態だ。
「あいつとお前は仲がいいと聞いてたから、すぐに行くと―――」
「そういえば弟さんとボーデヴィッヒちゃん、あまり怪我がないみたいなのですぐに退院できるみたいですね」
「あ、あぁ。遅くとも来週までには学園に復帰できる。ただISは修理のため予備パーツがあれば早いが、なかったら数週間待たないといけないがな」
いきなり話題を逸らされた。いきなりの変更に隣で聞き耳立てていた真耶も困惑の表情を浮かべており、千冬は少し驚いた表情を見せるが、楯無は先ほどと変わらない涼しい表情だ。
千冬は少し話題を戻そうと口を開こうとした。だが……。
「そういえばもう来月には学年別トーナメントがありますが、あれって普通に開催できるんですか?この前は乱入者が入り込んで中止になりましたが」
「そこは2人でタッグを組んで戦ってもらう。……あまりやりたくないが、場合によっては私たちが鎮圧に向かうまでに多くとも4人のIS乗りに相手してもらう」
「……そうですか」
千冬は、楯無が何か無理やり話題をそらさせようと必死になってることをひしひしと感じるが、その根拠がないため無理やり詰め寄ることができない。
その後、彼女からこの学園の警備の見直しや外からの勢力からに対する防御案などを提案していくが、千冬はそれを生返事で答えており、そのたび楯無がジッと彼女を睨みつける。こちらも睨み返すが、楯無はそれでひるむ様子も見せず、どちらとなく舌打ちをしてお互いの話し合いは続く。
そして一通りそのことが終わり、この病室を楯無は出ていくため扉を開けて出ていこうとしたが。
「更識、お前は篠栗のことどう思っている」
いきなり話しかけられたため振り返る楯無。だが千冬は彼女の方を向いておらず、先ほどと変わらずにシャルロットの方を見てるだけだ。
「どう、とは……?」
「先ほどの会話の時と言い、いきなり話題を変えただろ。お前らの中に何があった?確かに篠栗は機龍の暴走でお前に手を掛けたが……」
「いえ、これは男女関係での縺れなので、そちらに話すことはありません」
「……そうか。わざわざ止めてすまなかったな。言ってもいいぞ」
「では失礼します」
そして楯無は病室から出ていき、扉が閉じると同時に千冬はため息を漏らす。
なぜあそこまで、航のことを聞きたがらないのか不思議で仕方ないが、彼女にも彼女なりの何かがあるのだろう。千冬はそう判断し、この病室を真耶と一緒に後にした。
そして帰り道、千冬は手に持ってた電子パッドに目を通す。
それは婆羅陀魏社から送られてきた機龍の情報であった。そこに書かれていたのは、暴走前と暴走後の機体の変化についてである。
身長が5mから6mに変化しており、重量は14.5トンと0.5トン増加。
シールドエネルギーにの上限ついては最大上限が14万と、暴走前の約2倍と膨れ上がっている。
そして一番の重要点は暴走前には不明であったシステムについて判明。だがどういう者かは要検証しなければならず、細かいところは不明。
千冬はその情報に目を疑った。シールドエネルギーが6桁というのは軍用機となってる機体でも一握りでしかなく、そのうちの1機が生徒が使っていた機体。
今後様々なリミッターが施されると聞いてるが、正直ただ不安しかない。そのため航にはこれから機龍を没収、そして学園の訓練機を渡すことになるだろう。
そして千冬は資料を読んでいて、1つだけ気になるものがあった。それは機龍の
これは前に燈から、「国家予算をたくさん使うから修復されなかった」と聞いていたが、それが使われているとなると、どれほどの開発予算をこの機龍に使われたのか……。
「あとで婆羅陀魏社に聞いてみるか……」
千冬はそうつぶやくのだった。
だが婆羅陀魏社の主任の馬鹿にしたような説明の仕方にイラついた千冬が、電話をガチャ切りしてしまうのは余談である。
「航……何で……」
病院を出て、楯無は近くにあったベンチに腰掛けていた。あいにく今日の空模様は曇りで、どんよりした雲が空を覆い尽くしてる。それはまるで楯無の心の中を現してるようで、現在彼女は頭を完全に抱えたままとなってる。
「なんで航の北斗さんと月夜さんが……!」
そう、航が言ったあの言葉、「何で俺の家族を殺した」の意味が最初は理解できなかった。彼の言い方は、まるで更識楯無が航の両親を殺したといっても過言ではない言い方であり、2人が死んだということが信じ切れず、楯無は暴走事件の翌日に航の実家に電話を入れるが留守電になるため、彼女は自分の実家に電話を掛けたのだ。
そして楯無の父親が「すでに死んでいる……。しかも犯人はお前かもしれない……」と言われ、頭が真っ白になったのだ。
そして後日、暴走事件のあった最初の現場である、病室のベッドの中から1つの茶色の封筒を発見し、楯無はそれを恐る恐る開いて中を見る。すると、ただ口を手で覆うことしかできなかった。
そこに映るは“自分のそっくりさん”が航の両親を殺しているのだ。なぜこんなことを……。ただそんな思考しかできず、それと同時になぜ航が自分を敵視する理由が判明する。
こんなのを送られてくれば誰だってそうなる。むろん、相手が自分の好きな相手だったとしてもだ。
そして彼女は改めて実家に連絡を入れ、そのことについて話し合うことになり楯無は今度、一回実家に帰ることになったのだ。むろんこの時は学園は休むことになるが、仕方ないだろう。
ただ楯無は、この悲しみや怒りをどこに向ければいいのかわからなかった……。
あれから1週間チョイ経ち、ここは1年1組の教室。そこには、いつもの女子生徒たちがいたが、全員そこにいなかった。一夏、ラウラ、シャルル、箒、静寐の席には誰もおらず、ただ誰もそのことについて触れるものはいなかった。
現在クラス代表は臨時でセシリアが行っているが、まだ数日しかたってないせいか仕事もあまりない。
あの日1組にも怪我人は出たが、かすり傷などの全員軽傷で済んでおり、そのせいか心にも深い傷を負わずに済んだのだ。
そして数週間後には学年別トーナメント、もとい学年別タッグトーナメントが控えてるのだが、いまいち彼女たちにそのやる気というのが見えない。
それは新聞部が発行したとある学園新聞が原因だ。
機龍、大暴走。篠栗航は悪魔だ!
この新聞には、そのときの写真がカラーで貼られており、それが学園の生徒の大体が読んでしまってるのだ。
現在生徒会もこれを書いた犯人を捜しているが、未だに犯人は見つからず、現在こう着状態となってるのだ。
なお新聞部はこの件について、『私たちは何も知らない。誰かが書いたんだ』と主張。結果犯人がわからないため、新聞部には1か月の活動停止処分が下される。
これで一夏たちがいない原因を知った生徒たちは、その怒りを航がいる席へとむける。まあ仕方ないだろう。新聞の情報が明らかに航を乏しめるものであったが、怪我人とかがすでに出てるのだ。その怒りをどこに向ける?答えはこうやって彼のいる席を睨みつけることしかできないのだ。ここで机を壊すなどしたら、学園の備品を壊したということになり、その人が対象者となるためだれも壊そうという考えのものはいない。
そのとき、教室の前の扉が開き、そこから入ってきたのは織斑一夏であった。彼は数日前には退院しており、すでに修理の終わった白式が倉持技研から渡されたため、こうやって学園に堂々と復帰することができたのだ。
そして彼の入った後からはラウラ・ボーデヴィッヒも一緒に入ってきたため、とても暗い雰囲気だったクラスの生徒たちの顔に光が灯り始める。
「一夏さん!」
その中で1番抜けをしたのはセシリアだった。彼女は一夏のもとに一目散に向かうと、彼の胸に飛び込んだのだ。いきなりの行動に目を点にする一夏。だがセシリアはすでに目が潤んでおり、今にも泣きだしそうな顔をだった。
「お、おう、セシリア。元気そうだな……」
「一夏さん!体は大丈夫ですの!?」
一夏はこの数日間教室にいなかったため、心配してるのだろうと判断し、笑みを浮かべて元気だということを示す。
だがそれを皮切りに、周りにいた生徒たちが一気に2人の友へと詰め寄ってきたのだ。
『織斑君!』
『ボーデヴィッヒさん!』
あまりの光景にお互い引き攣った笑みを浮かべており、そして周りがいろいろ言ってきて聖徳太子でもない2人は、それに振り回されることとなる。
「織斑君、大丈夫?」
「ケガない!?」
「全く篠栗君ひどいよね!」
「うんうん。織斑君に大けがを負わせるんだもん!」
「あんなの世界の悪よ!排除しないと!」
「そうだそうだ!」
この時、一夏は強い疑問を感じた。航がとても悪く言われてることに。
この時一夏はそのことについて聞こうと、周りに言った女子たちに距離を取ってもらうように言うが、彼女たちはそんなことを聞かずにお構いなしに2人に詰め寄る。
それにいい加減に困り果てるが、それに気づいたのかラウラが大声を上げた。
「ちょっと待て!」
その声は大きな声で女子たちの動きを止め、全員はラウラの方を見る。
「一夏が何かお前らに聞きたいことがあるみたいだ」
そして女子たちはいっせいに一夏の方を向くため、その迫力に少し驚いた一夏は少し口がごもってしまうが、けついしたのか真剣な表情となって口を開く。
「なあ、何で航が悪いんだ?あいつは機体の暴走にやられた被害者なんだぞ?」
『えっ……?』
一夏の発言に固まる女子たち。その顔は、とても信じられないといわんばかりに驚いており、逆に一夏もそれに困惑を隠せない。
「お、織斑君。それ、本気で言ってるの……?」
「お、おう。だってそうだろ。俺は、あいつが先に攻撃を仕掛けてくることはないと知ってる。だからきっと航の身に何かがったんだ」
「……なんでそう言い切れるの」
一人の女子が一夏を、ごみでも見るかのような目でにらみつける。だが一夏はそれにひるむことなく、真剣な目で見つめ返す。
「俺があいつの友人だからだよ。それ以外に何かあるか?」
女子たちは何か言い返そうとした。だが一夏はその反論を許さないとでも言いたげな真剣な、千冬に似た目つきで女子たちに反論させないようにする。そのため言葉が詰まったクラスの女子たちは、同時になったチャイムと共に少しずつであるが自分の席に戻っていくのだった。
ただ、一夏に対して怪訝な視線を送りながらであるが。
航はただ、壁を見続ける。その目つきも前からずっと変わらず、時折教師の誰かがドアについてる格子越しに中を見るが、不気味なほど静かにしていた。
だが背中は前とは違い、無理やり切り落とされたのか切り口が荒いが背びれが無くなっている。
ただ時折、その口は何かつぶやくように動くまるで「助けてよ、誰か……」と言ってるかのように見えた……。
ふぅ、今年の福岡は6/15日にアクロス福岡で『特撮 meets Classics 伊福部昭の世界 ~ゴジラVSオーケストラ~』があって、7/15~8/31まで福岡美術館で『ゴジラ展』があり、割と今年の福岡はゴジラ尽くしでうれしいです。
あとSHモンスターアーツでも、GMKゴジラ、初代ゴジラが出ますし。
そして今年の7/29にシン・ゴジラが上映。これほどうれしいことはない……!