インフィニット・ストラトス 忘れ去られた恐怖とその銀龍 作:妖刀
では本編どうぞ
IS学園で授業が終わり放課後。IS学園の第3アリーナでは生徒たちが訓練機などを使って特訓などをしており、大いににぎわっていた。そのアリーナの真ん中、そこではいつものように一夏と楯無の両名がISを展開しており、お互いに得物を握って模擬戦を行っている。
一夏は雪片弐型を中段で構えて、約10メートル離れた楯無を見るが、いつもみたいに蒼流旋を構えておらず、両肩から機龍のバックユニットに似た武装が装備されており、一夏にはロックオンの警告が多数なっていた。
「さて、一夏君。今日も始めるわよ」
「はい、お願いします」
いつも通りの返事のはずだが楯無は何か違和感を感じる。まあ気のせいだろうと思って楯無はバックユニットから誘導弾を左右合わせて6発放って弧を描くように一夏へと迫る。まあ特訓ということで誘導が甘く設定されているが。
一夏はスラスターを使って回避するが、ミサイルはそのまま旋回をして一夏を追いかけるため、一夏は前に習った切払いでミサイルを1~2つ切り裂き、
「どうしたの一夏君。いつもみたいに気迫がないわよ」
「楯無さん、聞きたいことがあるんですがいいですか?」
「……何なの?」
この時楯無はいったん攻撃をやめ、ロックオンを解除して安全装置を起動させてバックユニットが暴発しない様にする。
一夏は時落ち目を逸らしながらであるがあることが気になってた。
「楯無さん、あの、航は……」
この時一瞬だけ楯無は顔を苦痛にゆがめるが、一夏がそれに気づかないことに感謝しながらも楯無は淡々とした表情で言う
「彼は今緊急手術中よ。一夏君、今は特訓の途中だからそれは後回しにして頂戴」
「……!?楯無さん!貴女は航のことが心配じゃないんですか!?」
そっけない返事に一夏は頭に来たのか叫ぶが、楯無の表情は全く変わらない。彼を見捨てたのか?一夏にはもうそう言う風にしか彼女が見えなかった。
「一夏君。私は彼を信じてるからこうやって集中できてるの。それぐらいできないと彼の幼馴染失格だわ」
そういった楯無の顔は穏やかな表情であり、一夏は驚きの表情と共に、彼女の考えにも驚く。
確かに彼は不死身とも思えるほどの回復力の持ち主だ。だが今回は今までと違って生物に襲われ、致命傷を負ったと聞いたのだ。それで航といえどもどうなるか分からないのに、楯無があそこまではっきりと凛とした表情で言うと……。
一夏は自分が友人を信じてないことを恥ずかしく思ったのか俯く。だがこの時いきなり衝撃が走り、気が緩んでた一夏はそのまま地面に叩きつけられた。グワングワンする頭を抱えながらも上を向くと、そこには蒼流旋を掘り下ろした姿でいる楯無の姿だ。恐らく蒼流旋で突かれたのだろうか、ただ彼女は先程の笑みを消し、真剣な表情で一夏を見下し、蒼流旋の穂先を一夏に向けた。
「いったい何なんですか!?」
「たしか貴方は将来自衛隊に入りたいって言ってたわね。こんなので上の空だと自衛隊に入るなんて夢のまたの夢よ」
「い、いったい何を……」
「私はね、もう航みたいに怪我人とか出てほしくないの。だからしっかりと集中して」
この時一夏は楯無が少し悲しそうな表情をしてるのに気付き、一夏は真剣な顔をして雪片を握りなおす。それを見た楯無は少し嬉しそうな顔をしてバックユニットの安全装置を解除する。
「よし、ちゃんと始めましょうか」
「はい!お願いします!」
「じゃあ、今からこの攻撃を回避していってね♪」
「えっ……」
その時一夏は多重にロックオンされていることに気付く。それは先程のミサイルの時の比ではなく、その2~3倍はある。
「では行くわよ……」
「ちょ、まって、それは、うわぁぁぁ!!??」
その後一夏はミサイルを切払いをしながらも最終的に墜落するのであった。
「まあ前よりは強くなってるわね。射撃系にもそれなりに対応できてるようだし」
「それはそうと、このミサイルの嵐はきついですよ……」
「今日はこれがメニューでしょ?}
「そうですけど……」
一夏は白式を纏ったまま地面に大の字で寝っ転がった状態で、頭もと立ってる楯無の方を見る。彼女も蒼龍を纏たままで一夏の顔を覗き込んでおり、汗だくの一夏と比べて全く汗をかいていなかった。
「さて、次は「あの……、ちょっといいですか?」ん?あら、貴方は」
その時楯無の背中の方から声がしたため振り返ると、そこにいたのはISにのったシャルルがいた。ISは訓練機でおなじみのラファールリヴァイブだが、色はオレンジ色で、部分部分が訓練機のラファールと違っていてさらに高機動になってるように見える。
「初めまして。知ってると思いますが3人目の男子搭乗者のシャルル・デュノアです」
「初めまして。この学園で生徒会長をしてる更識楯無よ。よろしくね、デュノア君。ところで何の用かな?」
「えぇっと、一夏と一回模擬戦がしたくて……。いいですか?」
「別に私は構わないわ。一夏君、どうする?」
寝転がっていた一夏はゆっくりと体を起こして立ち上がる。疲れはすでにとれたのか、もう息は整っており、そして格納してた雪片を再び展開する。
「決定ね。なら今から一夏君対デュノア「シャルルでいいですよ」あら、そう。なら一夏君対シャルル君の試合を開始ね。ただし制限時間は20分。それ以上はアリーナが閉まるから無理ね。わかった?」」
「「はい!」」
そう言って楯無は先程まで離れていたが、また近寄ってきた生徒たちをさがらせ、模擬戦を開始させようとした。だがこの時、一部の生徒がいきなりざわめきだすため楯無はその方向を見ると、そこには黒いISがこちらに向かっていた。
「ねえ、ちょっとアレ」
「嘘、ドイツの第三世代機じゃない」
「まだ本国でのトライアル段階って聞いてたけど……」
一体何なのだろうか?楯無は少し警戒していると、そのISはゆっくりと一夏たちの方へ近づき、それに気づく一夏。そこにいたのは黒いIS『シュヴァルツァ・レーゲン』を纏ったラウラ・ボーデヴィッヒである。
彼女は一夏たちを見るなり小さく鼻で笑ったため、一夏はイラッときたのか眉間に皺を寄せる。
「おい」
「なんだ?」
「どうして今鼻で笑った」
一夏はラウラを睨みつけるが、彼女はただ見下すかのような目で一夏を見た後に再び鼻で笑う。しかも先程みたいに小さくではないので、一夏の眉間に刻まれている皺が深くなる。
「どうということはない。ただ噂ではここにメカゴジラと一緒に訓練している輩がいると聞いてやってきたのだが、どうやら……見込み違いだったようだな」
そして見下すかのように笑うラウラ。いきなりやってくるなりいきなり見下して笑う彼女に対して、一夏は雪片弐型の柄を強く握るが、決して倒そうとは考えていない。相手は専用機かつ初見の相手だ。下手に戦うとどうなるか分からないため、楯無に前言われたとおり様子見をする。
ラウラは一夏たちに挑発を掛けていたが、全く仕掛けてこないことに
「正直私はメカゴジラと戦ってみたかったのだが、いないのだとつまらないな。まともに戦える相手は……「私がいるわよ」ほぅ……」
この時ラウラが見たのは少し笑みを浮かべて腕組みをしている楯無だ。しかも腕組みのせいで胸が押し上げられ、それで強調された胸が謎の存在感を出している。
おまけに一夏もチラ見でそっちを見ており、シャルルがジト目で一夏を見ていた。その時一夏は一瞬ながら楯無に睨まれたことに気付き、何事もなかった顔の様に目を逸らす。ただ一瞬だが殺気に触れてしまった一夏は、気付かぬうちに全身から冷や汗を掻いていた。
「確かキサマは生徒会長の更識楯無だったか?なぜこんな弱い奴にISのことを教える?」
「こっちのもいろいろ事情があるのよ。それに誰だって最初はISに乗っても弱いものよ。貴女だってそうだったでしょ?」
この時ラウラの表情は一気に険しいものへとなり、楯無はあれ?何か地雷でも踏んだのだろうかと少し首を傾げる。
「……ない」
「え」
「私はISで弱くない!」
そしてラウラはプラズマブレードを展開し、楯無へと斬りにかかる。高速移動で一気に楯無へと近づき、そしてプラズマブレードを展開した右腕を振り上げて下ろす。この時楯無は腕組みをしたままで動かない。誰もが危ないと思った時、不可解なことが起こった。
「なっ!?AICだと!?」
プラズマブレードは刃が楯無に届く10センチほど上で止まっており、それと同時にラウラの動きも止まっている。彼女は体を動かそうとするも全く動かず、レールカノンも砲口が楯無の方を向いてなかったせいで標準も付けることもままならず、ただ隻眼であるが赤い瞳が楯無を睨みつける。
「いいえ、全く違うわ。答えはコレよ」
「これは、水か!?」
ラウラの動きを止めていたもの。それは大量の水が蜘蛛の巣みたいな形状に形成されており、そこに突っ込んだら裏の動きを止めていたのだ。
「違うわ。これは私のISに仕込まれてるアクアナノマシンよ。固体、液体、気体と好きな状態に変化させて攻撃防御と様々な戦法に使える優れものよ」
「それはロシアの技術だったであろう!」
「婆羅陀魏社は様々な世界のIS技術を持った企業よ。これぐらいのことは朝飯前らしいわ」
ラウラはもがいてこの水で出来た蜘蛛の巣から逃れようと四肢を動かしてもがくが、更に網はラウラの四肢をからめとり、もう完全に指一つ動けない。
「ここから放せ!」
「貴女が攻撃する意思をなくしてくれたら放してあげるわ」
「くっ……!……わかった」
ラウラはロックオンを楯無から外し、レールカノンの安全装置を起動させる。そしてプラズマブレードも格納して
攻撃意思がないと
「分かってくれる子は私は好きよ?」
「気持ち悪い」
その一言を吐いてラウラはピットの中へと戻っていく。何かショックを受けた楯無だが、その後姿を見届けた後に一夏の方を向くがどうも一夏の様子がおかしい。頬を赤くして、目があった時にすぐに目を逸らすのだ。楯無は私が何かしたのだろうか?と首を傾げる。思いつくのは一夏が自分が腕組みをしてた時にチラチラ見てた程度。
(もしかして……)
この時何か思いついたのか、一夏がこんなことをしてる理由を知らないふりをして聞くことにする楯無。
「一夏君、どうしたの?」
「いや、その」
「一夏は楯無さんの腕組みの時に興奮してしまったようで……」
「ちょ、シャルル!?」
一夏は顔を真っ赤にして否定するかのように腕をブンブン振るが、本人が気づいてるため、全くの無意味だ。楯無はわざと恥ずかしそうに胸を隠して
「一夏君のエッチ。航に言いつけてやるわ」
「それだけは勘弁!」
この時一夏は腰から90°の角度で頭を下げる。それを見た楯無はクスクスと笑い、一夏は呆けた顔で楯無の方を見る。
「ふふっ冗談よ。だけどもし触ったならISを纏た状態仰向けに倒して、逃げられないようにした後に蒼流旋でひたすら顔のとこをずっと本気で連続で突くからね。いい?」
笑顔を浮かべる楯無。だが目がまったく笑ってないことに一夏は恐怖を覚え、ただコクコクとうなずくだけだ。
その後改めてシャルルと模擬戦をしようとする一夏だが、監視している教師がマイク越しでもうすぐ閉館時間だから出て行くようにと催促され、模擬戦をまた今度に持ち越しとなる。
そして3人もピットに戻っていき、更衣室近くで楯無と別れた後一夏とシャルルは着替えており、10分後にはお互い着替え終わっていたが、一夏はどうしても気になることがあるため、シャルルがいる壁越しのロッカーへと向かう。この時シャルルは少しびっくりした表情を浮かべていたが。
「シャルル、どうして着替える時にそう体を見せない様にしてるんだ?」
「あ、あのね、それは誰にも言いたくないんだ。ただ、僕の体……」
この時シャルルは暗い表情を浮かべていたため、地雷を踏んだ一夏はやばいと思ってすぐに謝る。シャルルは「いいよ」と言うものの、顔には寂しい笑みが浮かんでおり、一夏はこの状況をどうしようかと首をひねる。
「あ、シャルル。そういえば日本でなんか興味あることってあるか?」
「え、興味?えっとね……あ、僕抹茶を飲んでみたい!」
「抹茶か……わかった。明日飲ませてやるから待っててくれ」
「うん!」
シャルルが笑顔を浮かべたため、一夏は一安心と安堵の息を吐く。とりあえずどうにか乗り切った……。この時一夏が何かせわしく表情を変えているため、シャルルは「変なの」と小さくつぶやき、そして二人は寮へと戻っていくのであった。
「何とかばれずに済んだ……」
シャルルはそう呟くが、一夏には聞こえていないのであった。
場所は変わり、ここは女子更衣室。一夏たちが更衣室で着替えてる時、楯無も着替えており、すでに制服に着替え終わったのだが、彼女は外に出ようとはせず、ただ着替えを置いてあったロッカーの後ろにあるベンチに腰かけていた。
この時の楯無の顔は先程とは打って変わってとても暗く、生き生きとした様子がまったく見られない。そしてベンチの後ろの方に手を着いて天井を見上げる。
「はぁ……何か疲れちゃった……。どうしてだろう……」
楯無はそう問いかけるが、誰も答えてくれる人はいない。ただため息が出ては俯き、また天井を見ては溜息を吐く。そんなことをしてる間に無駄に時間は過ぎるが、楯無はなぜ自分がこんな風になってるのか自問自答を繰り返すばかりだ。
「……航、早く帰ってきて。私、寂しい……」
ボソリと本音が漏れる。その一言はとても小さく、蚊の鳴くような小さく震えてる声であった。
そして再び溜息を吐いた後、ベンチから立ち上がって更衣室を出ようとした時だ。スマホから着信音が鳴ったため、楯無はバックの中に入れてたスマホを取り出して画面を写す。
「ん、電話?相手は……。……!?」
着信相手は大輔の叔父、霧島健二だ。彼は航の手術での担当のため電話に出るというとは一切なかった。こうやって着信してきたってことはおそらく航の手術が終わったのだろう。楯無はマシンガントークみたいにいろいろ聞こうとしたが、一旦落着いて冷静を装って電話に出る。
「はい、こちら楯無です」
『おお、嬢ちゃんか。健二だ。どういう用件で電話したのかわかってるな?』
電話からは少しドスのきいたかのような声が聞こえる。
「……はい。あの、おじさん。航は、ど、どうなったんですか……?」
心を落ち着けようとするも彼女の声は震えてしまい、それが向こうに伝わってしまう。楯無は
『……手術は成功した』
「え、本当で『だがこれを聞いても恨まないでくれ。これ以上は無理だった』えっ……?一体何が」
聞くな。電話を切れ。心はそう自分に呼びかけるも、楯無は止めることができなかった。たとえ後悔するとしても、
『確かに手術は成功した。だがな、-------』
「そん、な……」
楯無はそれを聞いたとき、スマホを手から離してしまい、カチャンと地面に落ちる音がするも、持っていた時の姿で固まったままだ。スマホからは健二の声がわずかながら聞こえるが、楯無にとってはすでにどうでもいいこと。糸の切れたマリオネットの如く楯無は崩れおち、ただその場で茫然としたままだ。
「うそ……航、が……。そん、な、ぁ……。航……うぅ……」
そして声を殺しながら、楯無は涙を流すのであった。
楯無は何を知ってしまったのか。