インフィニット・ストラトス 忘れ去られた恐怖とその銀龍   作:妖刀

31 / 81
1週間更新は結構きつくなってきたが、それでもやらなければならないんだ!ストックが亡くなって焦ってきてるけどね。

では本編どうぞ。


思惑

「いいか!絶対に死なすなよ!」

 

「更識さん、いいですね?」

 

「はい」

 

あれから集中治療室に運ばれた航は上半身半裸で手術台へと乗せられており、今、刀奈が航の傷口を覆っているアクアナノマシンを取り除こうとしてるところだ。この時、少しでもミスれば航の助かる確率が一気に下がるため刀奈は気が抜けず、IS男性搭乗者を手術する医者たちも気が抜けない状況だ。

そして一瞬の空白の間、

 

「行きます」

 

刀奈は展開していたアクアナノマシンを取り除き、傷口から多量の血が溢れだす。いくら輸血はしているとはいえ、この出血だと体力が尽きて死んでしまう。そもそもあのとき襲われて、今に至るまでの間に体力が尽きててもおかしくないが、航は限界まで頑張ったのだろう。そして血が出ながらも医者たちは手術を開始する。

 

(航をお願いします……)

 

祈るかのように心で呟いた後、刀奈はぺこりとお辞儀をして手術室を出て行くのであった。

 

 

 

 

その後、刀奈は大輔にIS学園へと向けて送られていたが、車内で一切口を開かず、ただ暗い高速道路からの景色を眺めていた。

 

「楯無様、お気を落とさずに」

 

「あなたに何が分かるのよ」

 

ただ不愛想に答える刀奈に対して溜息が漏れる大輔。

 

 

「大丈夫ですよ、楯無様。彼はこんなんじゃ死ななないって知ってるでしょ?」

 

「そうだけど……」

 

「なら信じて待ってやりましょう。それがあなたのできることです」

 

「……そうね。なら私は待つわ」

 

それを聞いた大輔は笑みがこぼれる。

 

「その意気ですよ、楯無様」

 

「……ありがと」

 

だが刀奈は気付いてなかった。大輔の目が全く笑っておらず、そして口角がニィ、と上がってることに。

そしてワゴン車はIS学園のある神奈川県へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

「ただいま、虚」

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

あれから時間は過ぎ、現在は夜9時。普通なら寮に戻っている時間だが、刀奈、もとい楯無は生徒会室へと足を運んでいた。

理由は航と一旦別れた後に起きた無差別殺傷事件のことについてと、そしてメガヌロンについての処置である。あれは更識ではもうどうすることもできず、自衛隊の力が必須だろう。そのための資料政策と、とある人に連絡を入れないといけないため、刀奈は部屋にあるパソコンを起動するが。

 

「お嬢様、ちょっといいでしょうか」

 

「どうしたの?」

 

この時虚がいきなり話しかけてきたため、楯無は手を動かすのをやめて虚の方を向く。だが虚は時折目線を逸らすなどをしており、楯無は何なのかと首をかしげる。

 

「お嬢様。とても悪い知らせがございます」

 

「……どういうこと?」

 

この時空気が張り詰め、虚はコクッと息を飲むが、ここで臆せば駄目だと思い、話題に入ることにする。

 

「詳しくはこれに書かれております」

 

そして虚が出したのは一通の封筒だ。だが封がされてるところにとある印がされており、それを見た楯無の眼つきが鋭くなる。

 

「これ、政府からのね。いったい何が……」

 

そして封筒の封を切り、中身を取り出して

 

「虚。これ、わかってて私に渡したの……?」

 

「はい。ですが」

 

「わかってる。別に貴女は何も悪くないわ」

 

この時の楯無の声はとても冷たいものであり、虚は冷や汗が流ながらも楯無から目線を逸らさない様にする。逸らせばどうなるかわからない。そう思えるほど楯無からは冷たい、恐ろしいオーラが出ているのだ。

そして楯無は誰かに電話を掛けるのか、立ち上がってスマホを取り出すが、この時封筒に入っていて紙が1枚、下に舞い落ちる。

そこに書かれていたのは、

 

 

篠栗航、その家族を抹殺せよ

 

 

これを見て冷静でいられるほど刀奈は人間ができていない。そもそもなぜ航とその家族なのだろうか?

刀奈はスマホの電話帳欄で『父親』と書かれたアドレスを選び、そして通話のボタンを押す。そして数コールの後、聞きなれた男の声が受話器から聞こえる。

 

『どうした、刀奈』

 

「お父さん、政府からの読んだ?」

 

『ああ、あれか。読んだが……政府はいったい何を考えてるんだ?ついに団体にでも乗っ取られたのか?』

 

そう言って受話器越しにため息が漏れるのが聞こえる。

団体ってのは女性権利団体のことだ。最近の政府は団体によって傀儡となってきており、いろいろとめちゃくちゃな条例が案として出されてきている。だがほぼ却下されており、最近いろいろと可笑しくなり始めている組織だ。

 

『まあこんなのは気にするな。航の方はお前に任せているし、篠栗家の方はこっちが見ている。だから大丈夫だ、問題ない』

 

そう言って軽い笑い声が聞こえるが、どうも不安が脳裏によぎってしまう。何故だろうかと思い、刀奈はとあることを聞く。

 

「ところで・・・・・どこの家が護るの?」

 

『ん?霧島家だが?』

 

「……そう。分かったわ。じゃあ切るね」

 

『ああ、じゃあおやすみ」

 

「うん、おやすみなさい」

 

そして通話を終了して、思い溜息を吐く楯無。霧島家でいいのだろうか?と思うが、あの家は前から色々と護衛任務をこなしてるだけあって信頼もある。だからこそだが、どうも大輔のことで気にかかるのだ。

 

(あの男、私を舐めるようにみていたのは気のせい……?)

 

病院から出て、すぐ近くに大輔はいたが、自分を見るなり少しニヤついていたのだ。

 

「お嬢様、大丈夫ですか?」

 

「うん、大丈夫よ……。ところで虚ちゃん、霧島家についてどう思う?」

 

いきなり何なのだろうかと首をかしげる虚。だが楯無が真剣な表情を

 

「霧島家ですか?あの家は代々布仏にならぶ更識家の従家として動いており、現当主である隼人さんは更識家前当主である北斗様の一番の友人でございますが……」

 

「じゃあ次期当主のことは?」

 

本当に何だろうかと疑心の目で楯無を見つめる虚。だが真剣な目であることに変わりがないため、とりあえず彼について思うことを楯無に話す。

 

「大輔さんですか?彼は小さい頃はよく遊んでくれましたし、私はいい人と思うのですが……ただ、偶に気がかりなころがあるのですよね」

 

「気がかりな事って?」

 

「偶にジロジロと見てるような……」

 

「やっぱり……」

 

楯無が顎に手を当てて何かぶつぶつ言ってることに少し不安を感じ始め、

 

「お嬢様?」

 

「あ、んん。何でもないの。さて、資料も出来たし、瞬さんに言わなくちゃね」

 

瞬とは現在政府にいる役人であり、本名は中條瞬。40年前にモスラを東京に呼んだこのとある人物だ。

刀奈はその人物に電話を掛けようと、スマホに手を伸ばして番号を打とうとする。

 

「今の時間、大丈夫なのでしょうか?」

 

虚は部屋に備え付けられている時計を見る。時間は夜9時半を指しており、今かけても迷惑だろう。

 

「まあ、確かに。でも、今少しだけ残ってる特生自衛隊をまともに動かせるのってあの人しかいないのよ」

 

刀奈はそう言って小さくため息を吐く。

特生自衛隊。

過去にゴジラが殺された後、たくさん現れるようになった怪獣を相手にする組織だ。1966年に結成され、その後90年代までメーサー車などを用いて様々な怪獣を相手に勝ち星を奪ってきている。

その後1998年に現れたゴジラに大敗するが3式機龍を開発、そしてゴジラ相手に2度も引き分けている組織である。

だがこれも過去の話。

現在ISが最高の兵器と言われるようになって、自衛隊は大半が解散し、特生自衛隊もその煽りを受けていた。全盛期では隊員1000人以上だったのが、現在は100あっていいとこというほどに落ち込んでおり、さらに現在も隊員が減りつつある状況だ。

で完全に解散をしない様に食い止めているのが中條瞬であるのだ。

楯無は瞬へと電話を掛ける。そして数コールの後、優しい声の男性が出る。

 

『どうしたのかね、更識君。こんな時間に』

 

「こんな夜分にすみません、中條さん」

 

『いや、別に構わんよ。で私に電話を掛けるってことは……生物関連か?』

 

「はい。今からパソコンでその資料を送るので目を通してもらえませんか?」

 

そして先程まとめた資料を送る楯無。

 

『ん?わかった。えっと……。これは……、ふむ。……わかった。明日にでも動かせる隊を作っておく』

 

「本当にすみません。こんな事態になってしまって」

 

『別にいいさ。こっちは対生物が相手だからね』

 

軽い笑い声が聞こえ、楯無も小さく笑う。

 

『じゃあこっちはやっておくからそっちも頑張ってくれ。ではな』

 

「はい、失礼します」

 

そしてツー、ツーと音が鳴り、スマホをテーブルの上に置く。そして小さく息を吐き、楯無は近くにあったソファーに腰を下ろす。

 

「これでいいんだけど、やっぱり不安が残るのはなんでだろう……?」

 

不安そうな表情を浮かべる楯無の前に、一つ紅茶が出される。顔を上げると、そこには優しいほほえみを浮かべながら楯無の方を見る虚の姿であった。それに口を少しつけて飲む楯無。

 

「大丈夫ですよ。あの人はちゃんと期待に応えてくれる御方でしょ?それにそんなにくよくよしてたら航君に何も言えませんよ?」

 

「うん、そうね……。よし!なら他の仕事もさっさと終わらせるわよ!あと織斑先生にこのこと「織斑先生はもう寝てますよ」……なら明日の朝一に伝えるわよ」

 

そうして気合を入れなおした楯無は、今残ってる仕事を30分もしないうちに終わらせるのであったとさ。

 

 

 

 

 

現在夜10時。誰もいない職員室では家城燈が自身のパソコンの前で腕を組んで、小さく唸っていた。画面には様々なことが書かれており、その中でメガヌロンの写真が大きく張り出されている。

 

「更識さんがこんなに資料をくれたけど、どうまとめようかしら……。彼女視点で逃走劇の映像までくれるとは思わなかったけど、これ、編集もしないといけないし……」

 

9時過ぎに楯無が職員室に現れたことに驚いたが、この資料にはさらに驚かされた。

今度の授業はフランケンシュタインだったが、今回の事件はしっかりと一番優先で授業に取り入れないといけない。ただでさえこの学園から被害者がいるため、これ以上増やさないために様々なことをまとめるが……。

 

「そもそも1メートル半以上の大きさで外皮の強度が異常に固いってどういうことよ。これ、仕留めるのグレースケールでも使わないといけないの?あとハイパーセンサーで探索しにくいって……、完全に忍者じゃない」

 

カタカタとキーボードを打った後、少し手を止めて大きくため息を吐く。すでに職員室には彼女以外に誰もいないから溜息を吐いたが、何か空しさが残るため、再びキーボードを打ち始める。

 

「さて、更識さんの蒼流旋はガトリングが牽制用だから弾かれた可能性があるし、もしかしたら口径が大きいのだと希望はあるかも。でもね……」

 

そして再生した動画は、蒼流旋に真正面からぶつかっても拮抗しているメガヌロンの姿だ。楯無の突きは渾身ともいえるものだが、それを耐えきるメガヌロンの姿を注目していた燈はその場面で映像をストップさせる。

 

「これ、最悪なパターンでしょ。腹側が柔らかいと言っても、潜り込む前にやられかねないし。更識さんみたいな地中から攻撃できる武装……は無いか。ISってそもそも空中で戦うものだし。まあ対戦車ライフルとかあったら楽だね。逃げられそうだけど。あと一応はライフルとかでどれぐらいダメージが与えられるか知りたいわね……」

 

そしてカタカタとキーボードを打っていき、とある画像をたくさん出す。それは今回出現したメガヌロンに酷似しており、大きいもので50センチほどだ。

 

「それにしても……。まさか中国、ドイツからこれと同一の形をした化石が発掘されてるなんてね。検索サイト『グーグレ』でも普通にそう言う画像がたくさんあるし。まあ古代生物図鑑にも載ってるのは完全に見落としていたわ。あとはこれらね……」

 

そして別のページを開くとそこに書かれていたのは翼長2メートルほどの大きなトンボの化石と、それよりもずっと大きい全長10メートルほどの先程のトンボに酷似した生物の化石だ。前者は大きいトンボって感じだが、後者は顔が爬虫類とトンボの顔を足して2で割ったかのような顔つきだ。いや、トンボの割合が大きいだろう。

それを見た燈は小さくため息を漏らす。

 

「メガニューラにメガギラス、ねぇ……」

 

そして作業は夜明けまで続くのであった……。




さて、ついに航の手術が開始されました。
そして政府の思惑とは?


では次回に続く。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。