東方日々綴   作:春日霧

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 ※紅魔郷編と妖々夢編の間(夏→秋→冬→春)に日暮がやってそうなこと※
 ・第n回草の根妖怪ネットワークとの飲み会。友好度UP
 ・その流れで霧の湖の大妖精とチルノと遭遇。あとルーミアとリグルとミスティア。
 ・自転車のパーツがいくつか集まる
 ・慧音経由で妹紅と知り合う
 ・香霖堂でレミリアと遭遇。
 ・霧の湖越しに門番の美鈴を見ているかもしれない
 ・人里での収穫祭(秋)とかで秋姉妹を目撃
 ・レティとは香霖堂への通勤中に遭遇



その六 七冊目

 月 日 ( ) 雪

 

 俺は日記に日付を書かないと決めているんだ。

 

 そんなわけで七冊目である。幻想郷では二冊目。

 時折二日酔いとか外泊で書き損ねたりもしたが、それでもまぁよく続けたものだと我ながらあっぱれである。

 

 ……日記が七冊目に入ったのを記念して書き終えた六冊目をざっと読んでみたのだが、雰囲気的にどうやら今はもう四月に入っているらしい。

 幻想郷には「四月に雪が降る」という幻想が入ってきたのだろうか。

 何でも幻想ってつけりゃいいと思うなよ!

 

 まぁ餅は餅屋って言うし、俺は外来人らしく(最近は外来人より香霖堂の店員として扱われることの方が多くなってきたが)面倒事には首を突っ込まないようにしよう。

 

 今日は休日なので朝から昼までずっと毛布の中で暖まっていて、昼頃蛮奇さんが襲来したのでこの雪の中でも商売している食事処を探して食べてきた。

 蛮奇さんはうどん。俺はご飯味噌汁鮭の定番な定食。

 見ているだけでも熱そうなうどんだった。どうも麺類はあまり好きになれない。

 

 その後、二人してさっさと家に帰って、なぜか蛮奇さんも俺の部屋に入ってきて、一緒にストーブで暖まっていた。今更ながら、妖怪も寒がるんだなぁと感心してしまった。

 蛮奇さんに言ってみたら、なんでも冷えると首が痛むらしい。怖い。

 

 晩御飯を俺が作って、二人で冬野菜の野菜炒めをつっついた。女性である蛮奇さんはともかく、俺も小食なので野菜炒めとご飯とみそ汁だけでなんとかなった。

 

 

 

 

 

 月 日 ( ) 雪

 

 さて、今日もまた一段と寒く、長袖のシャツを着てワイシャツを着てネクタイを締めてセーターを着て、コートを羽織って手袋をつけてマフラーもつけて、完全装備で雪道を歩いた。

 何度も書いているけれど、冬場は香霖堂に行くのがひどく面倒である。

 

 過ごしやすい気候の時ですら閑古鳥が鳴いているのに、こうも雪が降ってしまっては当然香霖堂に客など来ない。やはり立地を変えるべきではなかろうか。

 しかし店名が香霖堂、林の字が入っているということは、きっとこの立地に関しては何かしらのこだわりがあるのだろう。森近君のような文系知識人は何につける名前でも意味を持たせたがるものだ。というか名前が森近だしよっぽど木々が好きなのだろうか。

 

 残念ながら俺の日暮という字は思いつきでつけた、そこらへんにありそうな名前なので、大して意味はない。後付けで何か考えようかとも思ったが、何も思い付いていない。

 もし下の名前を付けることがあれば、何かしらの意味を持たせようと画策はしている。

 

 例えば、運の良さを表して……四葉とか。

 運がいい、すなわち「ツイている」という言葉の洒落で月とか。日暮は夕方であるから月というのはちょっと洒落が利いてるかもしれない。

 まぁ、下の名前を付けるつもりなどこれっぽっちもないので考えて楽しむだけなのだが。

 

 さて、今日も寒い寒い言いながら閑古鳥の巣を後にしたのだが、コートで身を包んでいる時、そういえば以前たまに見た影狼さんの毛はとてもふさふさしていたけど、今思うととても暖かそうだったなぁということを思った。流石狼だなぁとしか思ってなかったけど、正直あの毛は羨ましい。

 気にしてるって言ってたし割と失礼だけど。

 

 影狼さんは今は冬眠しているのだろうか。

 ……いや、確か狼は冬眠しないはず。イヌ科の動物はほとんどが冬眠しなかったと記憶している。となると、湖が凍っているからいつもの集合場所が使えないだけで、あの飲み会のメンバーは皆活動しているのだろうか。

 春になったら聞いてみよう。

 

 本当に、いつ春が来るんだろうか。

 

 

 

 

 

 月 日 ( ) 雪

 

 今日はパッチワーク一号が雪の中に沈んでいるし、仮に発掘したとしても人里まで引っ張るのが億劫なので、大人しく来るはずもない客を待って店番をしていた。

 仕事がありすぎて死にそうってよりは良いっちゃいいけど、ここまで客が来ないと暇で暇で泣けてくる。

 

 雪の日でも客が来るような何かが欲しいなぁ。

 

 どの道客が来るはずもないので、今日一日そういったことを考えていた。

 ちなみに森近君は店の奥で何やらラジカセを弄っていた。どう見ても電源が必要に見えたが聞かれなかったので教えなかった。

 

 まず初めに、森近君には悪いが、この香霖堂に人里の普通の人間は来ることはないだろう。なにせ場所が場所だし売り物も売り物であるし店主の性格も性格である。

 それでも香霖堂へ来るほどの用事があるとすれば、おそらく幻想郷でも五指か十指に入るであろう店主である森近君の知識目的だろうが、人里には上白沢さんや稗田さんがいる。香霖堂へ行くまでもない。

 

 とすると、まぁ客引きの対象は人ではなく人外になる。

 何せ店主が半人半妖だし、森近君は種族で差別するような輩ではあるまい。それに蛮奇さんのような(自称)弱小妖怪よりも、空を飛んで妖怪をやっつけている霊夢ちゃん等の方がよっぽど人外じみている。同じ人間であるのか不思議に思ったりもする。……というのはさすがに冗談だが。

 

 そう考えると妖怪相手に客引きをしなければならないという結論に至るのだが、この幻想郷にやってきて八か九ヶ月ほど経つが、妖怪と言う妖怪にはあまり出会っていない。

 蛮奇さんと姫さん、影狼さん。それから霧の湖でであった妖精のチルノちゃんと大妖精ちゃんも妖怪と言えば妖怪なのかもしれない。その友達のルーミアちゃんとリグルちゃんもおそらく妖精か妖怪。あとは天狗の射命丸さんに吸血鬼のレミリア嬢。この間出会ったレティさん。

 

 こうして書いてみれば意外と出会っているなぁとも思うが、あまり香霖堂の売り上げには貢献できそうもない。そもそもわかさぎちゃんは陸を歩けないだろう。

 レミリア嬢とその従者咲夜ちゃんはついこの間ご来店したようで、なんでも咲夜ちゃんの時を操る感じの能力で森近君が一杯喰わされたらしい。つまり客引きする必要もない。

 霧の湖のチルノちゃんと愉快な仲間たちは多分お金を持っていない。

 以上により新規の顧客予定はレティさんのみとなる。

 

 ……もっと考える必要がありそうだ。

 客の少なさに何も思っていなさそうな店主を見て、俺はそう思ったのだった。

 

 

 

 

 

 月 日 ( ) 雪

 

 今日も店番。

 結論からいえば、今回の三日間の俺の店番中の売上はかの素晴らしき数字、ゼロである。

 それでも給料をくれる辺り森近君の懐の深さ(と暖かさ)には脱帽である。

 

 なので今日も昨日の続きを考えていた。

 

 つまり妖怪相手の客引きということであるが……。

 昨日の夕食時に蛮奇さんにも聞いてみたが、まぁ暇つぶしには良いかもしれないが、雪の中行くほどでもないし、店主の性格が性格だから物凄く客を選ぶ店だと思う。と言っていた。

 どうやら以前香霖堂へ行ったことがあるらしい。

 

 確かにそれもそうだ。

 けど、あの冷淡で淡白な森近君も、あれはあれで話していて面白いと思う。なにせ知識が豊富であるから語彙も豊富であるし、いらん知識が結構増えて得した気分になれる。

 

 そうだ。森近君の蘊蓄トークショーなんてどうだろうか。

 森近君が普段脳内で繰り広げている面白可笑しい持論推論をお偉いさんや妖怪相手に述べるというのだ。……いや、何となく森近君らしくないな。

 では評論本を出すというのはどうだろう。

 なんとなくだが脳内のあれこれを文字に起こすのならば彼らしい気がする。それに、本と言う物の森近君に合っている気もする。

 

 だがそれでも、提案してみると、やっぱり変な顔をされるのだった。

 

 それを見て、なんやかんやで客が来ないのが香霖堂らしいのかな。という諦めにも似た結論を出して、客引きについて考えるのをやめた。

 

 帰り際に上白沢さんに会ったので、色々と世間話とか無駄話をした。

 この雪はいつ止むんですかねぇとか、そもそも春はいつ来るんですかね。とか。

 寒い冬でも変わりないようで何となく安心した。

 

 

 

 

 

 月 日 ( ) 雪

 

 三日間閑古鳥の鳴き声に悩まされ続けた俺が手にしたのは、二日間の休日。

 もしや幻想郷には閑古鳥と言う鳥が本当にいるのではないだろうか。いやでも香霖堂の屋根に鳥がとまっている所は見たことが無いのでそれは無いだろう。閑古鳥が香霖堂へ行かずにどこへ行こうというのか。

 

 さてまぁ、本日もやっぱり朝から部屋に乗り込んできた蛮奇さんと寒い寒い言い合いつつ一日を過ごした。

 初雪の時ははしゃいで外に出たりもしたが、こうも降り続くともはや見ているだけでも元気がなくなる。食傷気味というヤツだ。

 なので意地でも外に出てやるもんかと二人してストーブを焚いた俺の部屋にこもっていたのだが、部屋にこもっていると料理するのも面倒になってきたので、本末転倒のようにも思えるが外へ食べに行った。この間と同じ所だ。

 

 前回はうどんだった蛮奇さんだったが、今回は前回俺が食べた焼き魚定食であり、だったらと俺はうどんを頼んだ。我ながら馬鹿だと思う。猫舌なのに。

 案の定蛮奇さんに笑われた。

 

 寒い中熱い熱い言いながらうどんのスープまで食べ尽くした俺は、そのすぐ後に寒い寒い言いながら家に帰った。なんだか気の狂った奴みたいだ。いわゆる舌の根の乾かぬうちに、というヤツだろうか。めったに使わない表現なので使っておこう。

 俺は熱い熱いと言った舌の根の乾かぬうちに、寒い寒いと繰り返した。

 

 そんな俺を見て尚一層笑う蛮奇さんを見て、何となく負けた気分になった一日だった。

 

 

 

 

 

 月 日 ( ) 雪

 

 昨日負けた気になったので、今日は蛮奇さんの部屋にお邪魔した。

 寝起きで寝惚けた蛮奇さんの、少し肌蹴た寝巻きの首元が見えて、蛮奇さんのろくろ首たる所以とも言える首の切れ目を見てしまい、何となく朝から気まずかった。

 気まずかったというよりちょっぴりグロテスクだったので怖かった。

 

 でも妖怪に対して怖かったって言うのはある意味褒め言葉なんじゃないだろうか。しかし蛮奇さんは見た目から考えるに妖怪であると同時に女性であるので、女性に対して怖いというのは俺の常識的に失礼に当たる。

 そこら辺どうなのだろうか。と、目の覚めた蛮奇さんに枕を叩きつけられて追い出された扉の前で考えた。いっつも俺の部屋に勝手に入ってくるのに随分な歓迎である。

 

 女性と男性の扱いの差というのはどこでも理不尽であることに変わりはないようだ。

 分かりやすく言うと、男性の女装と女性の男装という二つの言葉から感じるものの差である。小説のジャンルで言い換えれば、前者はラブコメかギャグであり、後者は純粋な恋愛モノかワケありな重い感じ。

 ギャグかシリアス。酷い格差だ。

 

 その後ごきげん斜めな蛮奇さんに、女性に対するマナーについて長々と語られた。やっぱり妖怪でも女性であることに変わりはないようだ。

 怖いという感想は胸にとどめておこう。

 

 マナー講座が済むと、そのまま俺は昼飯を作らされていて、気が付けば食材も俺のため込んだのを使わされていた。よく考えもせず言う通りに謝ったり頷いていたのがいけなかったのか。

 食べ終えたときの、あぁ得した得した。と言わんばかりの蛮奇さんの勝ち誇った顔にまたしても負けを感じた。二連敗である。

 

 

 

 

 

 月 日 ( ) 雪

 

 今日も年上クール系店主と二人っきりで日中を過ごし、ただの一度もいらっしゃいませを言わずに店番を終えた。全然店番らしくない。

 年上クール系店主と書くと何だかヒロインみたいに見えるけど残念ながら淡白な男性である。魔理沙ちゃんによれば唐の変な木、略して唐変木らしいので、ヒロインどころかヒーロー(主人公の意)かもしれない。白髪という所もポイント高い。

 

 そもそも、偏屈だの冷淡だの物好きだの好き勝手言われているし言っているが、ある種筋の通った男性であるというのには変わりがなく、言ってみれば軟派の対極に位置する硬派な男性であるから、やっぱり結構モテるんじゃないだろうか。

 

 上白沢さんの話によれば、昔は人里のあの大手道具屋霧雨店で修業していたらしいから、モテるとしたらその頃に間違いはない。

 どうでしょう。人里にいた頃、女性と色恋沙汰になったことはないんですか。と店の奥で拾って来たと思われるぼろぼろの鯉のぼりを器用にも縫い直していた森近君に聞いてみたが、やっぱりそんなことはなかった。君が思ってるより、半人半妖ってのは風当たりが強いよ。とも言われた。

 

 別に半人半妖なんて気にする必要ないと思うけどなぁ。

 見た目がクリーチャーなら一寸考えるかも知れないけど、見た目は至って普通どころかむしろ整っているわけだし、中身がおどろおどろしいのならまた話は別だが、偏屈であるが取って食おうなんて考えもしそうにない優男である。

 

 風当たりが強いと思っているのは森近君だけではなかろうか。

 なにせ妖怪の射命丸さんなんかは人里にも新聞を配っているようだし。

 

 やはり唐変木に色恋沙汰を聞いても無駄か。

 そう結論付けることにする。







 2016/4/11 ふわっと修正。

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