東方日々綴   作:春日霧

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その四

 月 日 ( )

 

 今日は店番である。

 外の世界と違ってクレーマーとかいないし嫌な上司とかもいないから働くのはさほど苦痛でもないんだけど、一度休日を得てしまうと働くのが相対的に苦痛になってしまうのが悲しいところ。

 楽を知った者は楽を欲するのだよ。

 

 して、今日も当然(と言っては失礼だが)客はおらず、一日中森近君と二人きりであった。

 彼は本を読んだり道具をいじったりしていたが、俺があまりにも暇だったので少々無駄話に付き合ってもらった。

 なんだか幻想郷の妖怪って女性ばかりですねっていう話。

 森近君も同意していた。あとまた独自理論を披露していた。その時は聞いていたし相槌を打ったり意見を言ったりもしたのだが、今こうして日記に内容を書こうとしたら出てこない。

 昆虫とかも雌の方が大きかったり寿命長かったりするから、男の妖怪は時代の流れにやられたのだろうというのも一つの推論。もしくは、女性の妖怪というのがそもそも幻想であったから、この幻想郷には女性の妖怪が蔓延っているのではというのも一つの推論である。

 

 まぁむさくるしい輩が上にいるよりかよっぽどマシだし、気にしてはいないんだけどね。

 

 ちなみに今日森近君が弄っていた道具は電池が入っておらず電波も入ってこないから無用の産物でしかないデジタル式電波置時計であった。

 ずっと「時を表すという用途だし名前も時計なんだが……」とぼやいていた。

 聞かれなかったので、帰り際にぼそっと「それは使えないですよ」と言っておいた。

 

 今日の売り上げもなし。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 我が相棒、パッチワーク一号と共に人里を駆ける。

 もはや語るまでもなく売上は上々。毎度商品が違うので客に飽きられることもなく、毎度売り切れているのでこの場限りというプレミアム感を醸し出すことで購買意欲もかき立てる。

 もしやこれが俺の天職……?

 

 んなわけあるかい。

 

 そういえば今更な話だが、例の赤い霧による農作物への影響は多くもなく少なくもなく、おおよそ八百屋の商品が三割増になる程度であった。

 まぁその程度でも収入が出張販売だけの俺としては苦しい所があるが、やっていけないこともないのでなんとかなる。

 

 しかし香霖堂の商品も無尽蔵じゃなかろうし、人里の人たちの古道具への興味も無尽蔵ではない。むしろ枯渇気味である。

 四日置きって結構スパンが短いのではないだろうか。

 まぁ、その辺は困ってから考えよう。

 なんなら道具の修理とかもして回ればいいのでは、と思った矢先に霧雨の道具店が目に入ったので考えは取り下げた。さすがに修理は大手にお任せしよう。

 

 香霖堂死蔵の電化製品が使えりゃ、まだまだ売れるもんも沢山あるんだがなぁ。俺家電量販店で働いてたことはないし出身校も技術系じゃないから電化製品は直せんのよね。

 役立つスキルを何ももっとらんのよなぁ。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 今日は霊夢ちゃんオンリー。(来客が)

 この店ほんとヤバいんじゃないか?閑古鳥鳴きすぎだろ。誰か閑古鳥に餌やってるの?閑古鳥が巣作って子作りまでしてるんじゃないの?香霖堂で。

 しかも霊夢ちゃんや魔理沙ちゃんがお茶を飲んだり茶菓子を食べたり、森近君の財産をちょっとずつちょっとずつ消費していっているので香霖堂は赤字スパイラル。憐れなり。

 

 そしていつも通り店内の商品に丁寧にはたきをかけて、箒で床を掃き、カウンターの上なんかを適当に拭いたりしていると、霊夢ちゃんが「あんた確か料理もできたわよね」とか言ってきたのでできたよと返すと、「一家に一人欲しいくらいの家庭力ね」と言ってきた。なるほど確かに。掃除洗濯料理ね。

 でも幻想郷ってなんだか独立してる奴多いからみんな料理できるんじゃない?と聞くと、でも幻想郷の独立してる奴ってみんな女なのよねぇと返された。なるほど。

 

 もしやこれは俺の婚期というものではないだろうか。

 考えが甘いだろうか。うん。甘いな。いろんな意味で。

 

 今度神社で宴会があったら呼ぶから料理とか手伝ってよ。とか言う霊夢ちゃんにでもそこ妖怪だらけなんでしょう?と言っておいた。

 そんな魔窟に呼ばれたら命がいくつあっても足りないと思うんだ。

 

 今日貰った給料はやっぱり昨日のお金の三分の一だった。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 はい休み。

 適当に人里の茶屋でお団子食べたり、本屋に行って楷書で書かれている読めそうな本を探して立ち読みしたりと、おおよそ普通な休日の過ごし方を実践してみた。

 小洒落たお店で紅茶の茶葉を買っている咲夜ちゃんと会ったりもした。

 俺は紅茶よりもコーヒー派だし、コーヒー派の中でも最も下の階級とされる缶コーヒー派であるため高級感溢れる飲み物の話は提供できなかった。

 代わりに咲夜ちゃんの紅魔館話に耳を傾けつつ、居眠りが多いという門番さんにコーヒーを進めてみてはいかがという話をした。まぁ、コーヒーが眠気覚ましにいいというのは科学的に否定されているとか実証されているとかプラシーボだとか、多種多様に賛否両論だが。

 

 ちなみにクモにコーヒーを飲ませるとクモの巣が乱れる。

 って例の無駄知識を紹介するテレビ番組で言ってた。

 

 あと紅魔館の地下に館の主人の妹様とやらが監禁(というと何やら雰囲気が怪しくなるが)されていらっしゃるらしい。なんでも少々気が触れている上に能力が危険すぎるので監禁しているとか何とか。

 でも地下室に監禁されてたら精神的な問題なんて悪化しちゃうんでねーの?とか思ったりもするが、紅魔館の輩が馬鹿ばかりということもあるまい。そういったことも考えた上で監禁しているのだろう。……ということにしておいた。

 いや、別に他人の家庭事情に口を突っ込むのが怖いわけではない。決して。断じて。

 

 でも羽が七色の宝石ってどんな吸血鬼なんだろうか。宝石?うーむ。想像ができない。

 

 あと妹様はちゃんとした金髪ロリ吸血鬼らしかった。

 個人的に妹様の方が王道っぽくていいなと思う。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 またもや休み。

 やる事も特にないので数分間考え込んで服を買うことにした。んで、人里中を探しまわって洋服も扱っている古着屋を見つけた。

 適当な私服が欲しかったのだが、見ている内に懐かしく思ってしまい、ワイシャツとネクタイを購入してしまった。あの中高生や社会人が着るようなワイシャツと黄色のネクタイである。

 ワイシャツは三着、ネクタイはもう一つ黒色のを購入し、俺の幻想郷での普段着がここに誕生した。いや、なんか森近君とか霊夢ちゃんとか魔理沙ちゃんとか、みんな独特な服装をしててなんだか格好いいなぁとか思ってたりなんかしないんだからねっ!

 

 して、買い込んだ衣類を紙袋に入れてもらって長屋に帰っている最中のことである。

 

 ふと自分の所だけが薄暗くなったかと思えば、何やら頭上から女性の声がするではないか。

 すわ何事かと頭上を仰ぎみれば、太陽を背にして宙を舞っている女性の姿。

 

 逆光で見えなかったがその女性がミニスカートだというのははっきりと分かったので、平穏を装いながら数歩下がって間違いが起こらない場所へ移動し、地上へ降りてくるのを待った。

 

 んで暫し自己紹介やら経緯やらの問答を経て、彼女が射命丸文という変わった名前の鴉天狗であることと、新聞を書くことを生業としていること、最近幻想郷にやってきてあの香霖堂で働いているという俺の事を取材しにきたのだということが分かった。

 鼻は高くないんだなという感想が頭をよぎったが、女性に向かって鼻が高くないんですねというのもなんだか憚れたので言わないでおいた。

 

 まぁ立ち話もなんだということで長屋にお招きした上で座布団とお茶を出しつつ取材めいた何かをした。いや、された。丁寧な口調と滑舌の良い綺麗な声という何ともエリート記者のような美少女であったためにひどく緊張した。

 どうもああいうのは得意ではない。

 

 色々聞かれた折に下の名前も聞かれたが、そもそも日暮という名前も幻想郷に来てから考えた号、偽名というかペンネームみたいなものだ。本名ではないがこの幻想郷での俺の本名とも言える物である。

 そして、下の名前は考えてなかったので存在しない。

 ということを説明すると今度は本名を色々探ってきた。本名を隠すことに何か理由があるのかうんぬんかんぬん。まぁ、別に意味はないのだが。

 そこは一種のこだわりだということで納得してもらった。

 

 変わった人ですねぇと射命丸さんも言っていた。

 

 別れ際に、もしよければ俺んちにも新聞ください。と言っておいた。ぶっちゃけ今日の今日まで新聞があるとは知らなかった。

 これで俺も幻想郷の流行に乗れる。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 はい店番。

 今日は霊夢ちゃんと魔理沙ちゃんのご来店。たまにはお金を落としていってくれてもいいのよ?と冗談めいて言ってみたが清々しい程に拒絶された。

 そこまでして香霖堂に利益を与えたくないのか。

 

 今日の無駄話は俺が昨日会ったという話をしたせいで天狗の話であった。

 前に稗田さんから聞いたとおり、彼ら彼女らは幻想郷でも数少ない社会を形成している集団であり、鴉天狗と言うのは結構上の立場らしい。あと鼻高天狗とか白狼天狗とか。

 しかしその社会は民主主義などという生易しい社会ではなく強者が弱者の上にたつというヒエラルキーの存在する社会であり、常に虚弱な人間を見下して驕り高ぶりつつもそれを隠してヘラヘラと笑っているクソ生意気な種族らしい。天狗怖い。

 

 そのくせ強者、主に鬼などには媚びへつらうというなんとも想像通りな奴ららしい。

 

 んで、その彼らは幻想郷では新聞を書くのがブーム、というか仕事らしく、虚構に塗れた嘘偽りだらけの新聞を書いてはばらまいて自分たちの中で新聞大会を開いたりしているらしい。

 あの射命丸文という鴉天狗の書く新聞「文々。新聞」はそれらの中でも比較的マシな新聞らしいが、それでもやっぱり天狗の新聞らしい新聞を書くようだ。

 

 なんだろう。とても心配になってきた。射命丸さんは信用してもいいんだろうか。さてはて。

 

 「きっと今頃『日暮は外からやってきた半人半妖』ぐらいにはなってるぜ」と魔理沙ちゃんが言う。いままで店員を雇わなかった香霖堂が店員を雇ったからそれはただの人間ではあるまい、というのが天狗の書きそうな筋書きだ。とのこと。

 霊夢ちゃんも「もしかしたら『虎視眈々と店の乗っ取りを狙う妖怪』になってるかもしれないわよ」と面白がって言うものだから、どんなあらぬ噂を書かれるか気になって夜も眠れなくなりそうだ。

 

 まぁ、天狗の新聞を読む輩は皆天狗の新聞が虚構だらけと分かって読むから、さほど心配はいらないと森近君が言っていたから夜は眠れそうだ。

 

 せっかくなので、隣の部屋の蛮奇さんにも天狗の新聞について聞いてみたが、あれは新聞として読むのではなく娯楽小説として読むものだと言っていた。

 そして天狗については、「あいつらは性格が物凄く腹立つし、その上実力も持っているから始末に負えないわ。関わりたくない連中ね」とのこと。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 今日のパッチワーク一号での販売は午前中で切り上げ、午後は森近君の古道具蒐集について行った。これには普段森近君が蒐集に使っている台車を引っ張って行ったので、俺の相棒パッチワーク一号はお休み。

 売上が下がるが別に大丈夫だろう。

 

 森近君から無縁塚は結構危険な所だという話を窺っていたので、例の霊夢ちゃんの札を懐にしっかりと入れた上で、森近君から離れすぎないよう気をつけてガラクタ拾いをした。

 

 ちなみに昨日書き忘れていたが、昨日からさっそくワイシャツとネクタイを装着している。ズボンも元から持っていた黒いズボンなので、まるで公務員のような雰囲気だと自画自賛。これが俺のトレードマークになる日もそう遠くあるまい。ふふふ。

 

 んで、無縁塚で墓を拝んだ後、ガラクタ拾いをする森近君の様子を暫し伺ってから、俺もガラクタを拾い集めた。もちろん、商品になりそうな物と、自室に置いておけるような使えるものが本日のターゲットである。

 

 結果はこれまたまあまあと言ったところか。

 ゲーム機をはじめ二層式洗濯機や白黒テレビなど、確かに時代遅れと言える家電製品や、底が抜けたバケツとかひび割れたガラス窓など、使い物にならないものも多々落ちていた。

 そんな中俺が個人的にゲットした物は、前輪後輪揃ってパンクしているボロいママチャリである。

 森近君によれば、自転車はよく流れ着いてくるとのことなので、諦めず集めていればいずれパンクしていないタイヤを持つ自転車も流れ着いてくるだろう。

 そうしたら健在なパーツたちを寄せ集めてパッチワーク二号の誕生だ。

 

 一号がリアカーなのに二号が自転車じゃあ変だろうか。

 

 森近君が拾った物の中にルービックキューブがあったので借りて遊んでみた。真ん中の色に合わせるのがコツというか一種の目安である。

 ルービックキューブはハンガリーの建築学者、エルノ―ルービックが発明したパズルだというのは俺の持つ無駄知識の一つである。

 

 何やら物珍しそうな目で俺の手元を見てきたので、このパズルのルールを教えて適当にシャッフルしてから手渡した。

 森近君も「これはいい暇つぶしになりそうだ」とご満悦である。

 

 勝手なイメージだが、魔理沙ちゃんは面倒臭がって一度放り出した後、思い出して一晩かけて解きそうなイメージがあり、霊夢ちゃんは勘でちゃっちゃか解いてしまいそうなイメージがある。

 あながち間違ってもいないと思うが、どうだろうか。

 




 以上で紅魔郷編終了。
 紅魔郷編で紅魔館行かない二次小説も珍しいのでは。



 2016/4/11 ほんのちょっと修正。

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