東方日々綴   作:春日霧

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その三

 月 日 ( ) 霧

 

 霊夢ちゃんは思っていた以上に怠惰な子であると今思い知った。

 そろそろ食料も危険域である。早く解決しちゃってくれーと神社の方へ念を送る。

 というかもう上白沢さんが解決しちゃってもいいのよ?

 

 まぁそんなことはさておき、せっかくなので今日はより蛮奇さんと仲良くなろうと一日中だべって過ごした。

 主に俺が外の世界の話をして、蛮奇さんがそれを黙って聞いている形だ。退屈ではなかろうかと聞いてみるも、十分面白いと無表情で答えられるのでどうしようもなく、俺はひたすら面白くもない話をした。

 

 せっかくなので俺が唯一話せる自慢話もした。

 それは、他人よりほんの少し運がいいという話だ。

 

 具体的に言えば、くじ引きを引けばほぼ確実に当たりが出るし、ガチャガチャを回せば確実にレアが出る。ただしこの自慢話にもオチがあって、それはその幸運の後俺はまさしく運を使い果たしたかの如く不運に見舞われるというもので、言ってみればまぁ、禍福は糾える縄の如しというわけだ。運勢の真理はこの言葉に詰まっていると思う。

 

 幻想郷っぽく言うと運を使う程度の能力と言ったところか。としたり顔で述べた蛮奇さんに俺は強く賛同した。格好良いな「運を使う程度の能力」。稗田さんに聞かれたらドヤ顔でそう言っておこう。俺も幻想郷縁起に載っちゃうぞ。

 

 その話の流れで聞いたのだが、例の赤い霧が出てきた所、霧の湖に佇む真っ赤な館「紅魔館」の主である吸血鬼は、運命を操る程度の能力を持つらしい。

 そういえば稗田さんにそんな館があるという話は聞いていたが、主はそんな格好いい奴なのか。吸血鬼ならやっぱりロマンスグレーなダンディズム溢れるお方なのだろうか。

 気になる。

 

 

 

 

 

 月 日 ( ) 霧

 

 ようやく霊夢ちゃんが動いたらしい。

 まぁ、この日記を書いている時はまだ霧に覆われているけど。

 

 何やら霧の向こうに満月が見えたが大丈夫だろうか。夏の満月の日に妖怪退治するなんてすごい度胸を持った女の子なんだな。素人でも満月はヤバいって分かるのに。

 

 ちなみに霊夢ちゃんが動いたと教えてくれたのは食材の備蓄状況を見に来てくれた上白沢さんで、何でも「スペルカードルール」という俺にはよく分らないが画期的なルールが施行されたそうで、なんかこう、殺伐としたことはなく美しくうんぬんかんぬんな感じらしい。色々語ってたけど聞き流してしまった。

 で結局何が言いたいのだろうかと思っていたら、締めに「だから心配はいらないぞ」と言われてようやく意味が分かった。地味に俺が霊夢ちゃんを心配していたのが分かったらしい。さすが教師である。

 あと魔理沙ちゃんも解決に向けて飛んでったらしい。

 

 あの子人間じゃなったっけ。え?魔法使えるから大丈夫なの?へぇ。

 

 きっと森近君も心配している事だろう。

 霧が晴れたらお酒でも持って行ってやろう。

 

 ふと昨日の日記と一昨日の日記を目にして思いついた。

 幻想郷の妖怪がかわいい子だらけならば、吸血鬼もやっぱりかわいい……かどうかはともかくとして女性なのではないだろうか。

 ……となると例の館にはダンディズムではなくエロティックな吸血鬼がいらっしゃるのでは。

 

 一介の男性としてとても気になる。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 霧が晴れ申した。

 霊夢ちゃんか魔理沙ちゃんがやってくれたようだ。ありがたやありがたや。

 

 霧が晴れたので通勤したが、ついでに昨日の宣言通り酒を手に持ってお邪魔した。

 ちなみに幻想郷で初めて買った酒だし、初めて飲んだ酒ともなった。

 

 想像通り静かに飲む森近君は飲んで少し経ってから早速、魔理沙ちゃんと霊夢ちゃんへの愚痴を吐き始めた。別に酔っているわけではないだろう。半分妖怪らしいし酒には強そうだ。酒を飲み交わして打ち解けてくれたと解釈しておく。

 魔理沙ちゃんは無鉄砲だの無遠慮だの無知だの言って、霊夢ちゃんももっとやる気を持てとか幻想郷の住人らしい自己中心的な人間に育ってしまったとかもう悪口のオンパレードだった。

 

 まぁそうは言ってもあの魔理沙ちゃんの八卦炉のお手入れや霊夢ちゃんの衣服の手入れもなんやかんやでやってたりするし、きっとこの悪口も心配の結果なのだろうとこれまた勝手に解釈した。

 あの二人はいい保護者を持ったものだ。

 

 丁度酒も飲み終えた頃、霊夢ちゃんと魔理沙ちゃんがいつも通り我が物顔でやってきて、俺と森近君の間に置いてある酒瓶を見てなにやら文句を言っていた。

 曰く努力賞は我々に与えるべきであると。

 

 話を聞く限り彼女らは未成年ながら飲酒経験があるらしく昨晩も事件解決後宴会だったらしい。あぁ、事件ではなく異変だったか。あれは紅霧異変と呼ぶらしい。変なところ拘るのね。

 だったらもう飲み飽きただろうと言ったら二人揃ってまだまだだと豪語する。

 

 とは言っても彼女らの酒なんて想定していなかったので用意しておらず、宥めすかしつつもせっかくだから紅魔館の住人について話を伺った。

 

 紅魔館の主要人物は門番と魔法使い、メイドと吸血鬼であり、そのどれもが女性だったらしい。

 うん。その辺は薄々勘付いてはいた。

 

 門番がチャイナ服を着ていただの魔法使いが喘息持ちだったのメイドが時間を止められるだの色々聞いたが、一番驚いたのは吸血鬼がアダルティックではなくロリだったという情報である。

 ロリの吸血鬼か……赤い眼と金髪のロリキャラだろうか。

 

 違った。青い髪と赤い服装のスカーレットデビルらしい。

 ことごとく俺の予想は外れた。残念だ。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 今日は昨日の今日で紅魔館のメイドとやらに出会った。

 

 時は昼過ぎ。人里でパッチワーク一号での売り出し中のことである。

 面倒なので昼飯を抜き、長屋の自室でほんの少し仮眠をとった後だったので、体力はまあまあ。気合いもまあまあ。さてもう一回りして売り尽くしちまおうとパッチワーク一号の持ち手に手をかけたとき、俺もよく利用する八百屋の前に見慣れぬが目立つ服装の女性が見え、なんの気なしに観察してみた。

 

 髪は白……か銀髪。頭の上になんかフリルのような何かをつけて、服装は青のワンピースの上に白いエプロンを着けたような物で……ってあれ?もしかしてあれがメイド服?

 そんな思考回路の後、気軽に声を掛けてみれば案の定紅魔館のメイドであった。否、メイド長であった。凄い。

 

 霊夢ちゃんから紅魔館のメイドはすっごい能力を持っている以外は比較的まともな人間であると聞いていたし、そもそも人里の八百屋の前で野菜の品定めをしている輩に話が通じないとも思えないので、比較的警戒心もなく声をかけることができた。

 

 ちなみに俺がかけた言葉は「もし、そこのお嬢さん。もしやあなたが紅魔館とやらのメイドさんですか?」というものである。向こうはもちろん俺を知らなかった。

 

 彼女は十六夜咲夜と言って、まぁ霊夢ちゃんと魔理沙ちゃんより二~三歳上かなーって位の見た目。つまりほとんど歳は変わらないとおもう。

 メイド長とだけあって物腰柔らかで姿勢も正しいいい子であった。とは言っても見た目中学三年か高校一年くらいだから咲夜ちゃんと呼ばせてもらうけど(心の中で)。

 

 霊夢ちゃんや魔理沙ちゃんから紅魔館の事を聞いたんだよとか、この人里の道具屋にも置いてないようなイロモノを探すときは是非香霖堂に来てくださいねとか、世間話とちゃっかり宣伝をしてから別れた。

 咲夜ちゃんも是非一度紅魔館へお越しくださいとか何とか言っていたがまぁリップサービスだろうと思っておく。だって吸血鬼の館って怖いし。

 

 ただし今度霧の湖とやらには行ってみたいと思う。夏場に聞くととっても涼しそうに感じる魅力的な名前をしていると思う。霧の湖。

 ついでに釣りもしたい。俺の幸運って奴を見せてやる。

 

 商品は無事全部売れた。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 数えてなかったし考えてなかったけど、次からは一日店番一日人里一日店番二日休日の五日間セットで働くらしい。俺が。んで給料もらうのは三日目の店番の終わった後。

 今日の店番の後給料をもらったので明日明後日はお休みということになるのだろう。エプロン洗っておこう。あと給料で安く食材を仕入れよう。そろそろ娯楽用品も欲しい。本とか。

 余り余裕ないけど。

 

 しかし給料の十割が人里での出張販売によるものなので、俺の頑張り次第という事だろう。

 あの店の立地的に妖怪しか呼べそうもないから人間の俺に客引きは難しい。

 ……普通の所で働いていたほうがましだっただろうか。

 

 しかしまぁ悔いても遅いし悔やむには惜しい職場だ。面白いことに事欠くことはない。

 

 隣の家の戸が開いたのでいいことを思いついた。ちょっと聞いてこよう。

 

 

 聞いてきた。

 せっかくの定休日なので明日の夜、霧の湖に行く蛮奇さんについて行くことにした。ちょっと危ないかなと思ったが霊夢ちゃんからもらった札があったのを思い出したので大丈夫だろう。蛮奇さんに見せたらちょっと後ずさってたし。

 紅魔館が見えるという霧の湖に遊びに行けるし、わかさぎちゃんとやらと影狼ちゃんとやらに会えるので一石四鳥だろう。

 楽しみだなぁ。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 これから出かけるので短めでいいだろう。

 

 休みの日と言えども腹は減るもので、しかし休みの日ってなんかこう、動きたくないから料理もしたくなくなって、折角だからと蛮奇さんの働いている所を探して歩き回ったが、そもそも料理人が店先から見えるわけもなく、面倒になって止めた。そばを食べた。

 

 昼食後、町中であった上白沢さんに、今日ちょっと夜中に妖怪と一緒にだべったり飲んだりしてくる。と告げたら呆れられたのち少々お説教されたでござる。

 この紋所が目に入らぬかーとばかりに霊夢ちゃんの札を見せたら渋々納得はしていたが、終始妖怪の恐ろしさを語り聞かされた。

 

 さてちょっと予習しておこう。

 蛮奇さんはろくろ首で、姫ちゃんは人魚。影狼ちゃんは人狼であり、俺はただの人間である。しかもその上俺だけ男。これ凄くね?何が凄いってもう全部凄いな。

 

 じゃあそろそろ時間(っぽい)ので行って来よう。

 ……時計欲しいな。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 いやー昨日の夜は凄かった。

 色々とあったし徹夜で体感で四時位まで飲んでたと思うので、ちょっとどころかかなり頭が痛かったりするが楽しかった。

 

 霧の湖と言うのは意外と広かったな。そして紅魔館も凄い目立ってた。というかあれは外の世界なら近所の住人に訴えられるレベルで視覚的に痛い赤色だ。真っ赤。真っ赤と言えば、蛮奇さんの服装も赤かった。夜用というより妖怪用の服なのだろうか。黒い服に赤い襟のマント?を羽織って赤いスカート。赤好きなのね。

 

 んで、昨晩蛮奇さんとその霧の湖に行ったわけなのだが、手始めに行ったのがなぜか釣りであり、蛮奇さんは俺に釣竿を渡しながら言ったのだ。例の運の良さを見せてみなよ。とね。

 なるほどと思いながら俺も乗り気になり、幸運を引き寄せる感覚を呼び起こしながら竿を振り、上下に震動させて、手ごたえを感じた瞬間に引き上げた。

 

 すると人魚が釣れた。噂のわかさぎ姫だった。慌ててリリースした。

 蛮奇さんが運がいいってのは嘘じゃないみたいね。と笑いながら言っていた。

 

 姫さんは確かに人魚で、服装が着物なので動きにくそうだなぁとか体のラインが出たりしそうで昼間だったら目のやりどころに困るなーとか考えたりしてた。

 

 なんてことしてくれるのよーと水面から恨めしそうに俺を睨みつける姫さんに、横から蛮奇さんが別に食べられたわけじゃないからいいじゃない。とニヤニヤと楽しそうに言った。

 そんなやり取りの後、俺と姫さんは自己紹介し合い、つい先日の赤い霧の時この辺はすごかっただの、博麗の巫女と一方的にやられてはいたがやり合っていた氷の妖精が凄いだの、姫さんの話が始まった。

 

 しかしそんな平凡な時間は、俺が後ろから転がってきた人物にぶつかって湖に転げ落ちることで終わりを告げた。俺にぶつかったのは影狼さんだった。

 

 俺が陸に上った後聞いた話によると、単純に俺の後ろで躓いて転んでしまっただけらしい。なるほど、俺の不運のなせる技だな。俺は納得した。

 蛮奇さんも納得したようで楽しそうに笑っていた。

 

 影狼さんは確かに人狼であった。ケモミミ。某狼と行商人のラノベを思い出す。残念ながら影狼さんは郭言葉では喋らなかった。惜しい。

 

 その後は俺の幸運の話をしたり三人の話を聞いたりした。例えば、三人とも幻想郷のヒエラルキーでは下の方に位置する弱小妖怪であるらしくこうして群れて身を守っているだとか。なるほど、妖怪の世も大変なのだな。

 そういった話も聞いた後、朝方まで持ち寄った酒を飲みつまみを食べたりした。ただの宴会みたいになっていた。

 

 詳しく書こうと思えばまだまだ書けるが、疲れているのでもう一眠りするとしよう。

 







 2016/4/11 少しだけ修正。

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