東方日々綴   作:春日霧

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その二十四

 月 日 ( )

 

 赤い霧の時からそうだったけど、なんだかんだで人里の皆って妖怪慣れというか異常慣れというか、妖怪や幽霊が実在するっていう常識が備わってるから肝が据わってるよね。

 仕事からの帰り際に長屋の人たちに酒盛りに誘われたから、ただ酒に釣られて少し酌をしたりされたりしてきたけれども、やっぱり今回も楽観視してたし精々どこどこの畑の誰それが困りそうだよなぁあっはっはっは……ぐらいにしか言ってなかった。

 凄いなあ幻想郷。

 

 そして森近君は今日も桜に見惚れて物思いに耽っていた。よくそんなに考えることがあるよなと思ってしまう。悟りでも開きそう。寿命長いし。……となると妖怪の方が有利だな。

 というかそもそも天狗なんかはもとは僧だっていうし。妖怪と宗教は案外密接なのかもしれぬ。吸血鬼なんかが嫌いな十字架だってキリスト教のあれこれだったような気もしなくはないし。赤十字とか十字軍とか磔刑のアレとか。んー、よく知らんなぁ。

 宗教はカルトなんかに引っかかると面倒臭いので関わらないのが一番だっていうのが持論。

 

 一応仕事中の話もすると、今日は魔理沙ちゃんが香霖堂に遊びに来ていた。買い物ではない。

 たまには何か買って行けよーと言ったら、じゃあ買ってやるからつけといてくれなどとのたまいおって、その辺の得体のしれない何かをぽいっと帽子の中に放りこんでしまった。俺はなんて無力なんだ。

 しかしあの子人里で盗みとかしてないだろうな。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 蛮奇さんってそういえば妖怪だよね、忘れがちだけど。

 夕食時に「どうせこの花も妖怪がらみなんだろうねぇ、妖怪も暇だなぁ」とぼやいたら「私も妖怪なんだけど」と苦言を呈されてああそういえばそうだったなぁと。

 正直にそう言ったら今度脅かしてやる、といった表情で薄く微笑まれた。

 

 んで蛮奇さんは格好も夜中に出かける時以外は大体和服だし、増えたり飛んだりする首も天井の隅だったり物陰に隠れたりそもそもいなかったり、まあ髪の毛の色はちょっと奇抜というか妖怪感丸出しなように思えるけど幻想郷じゃあよくあることだしそこは置いておく。

 いや、そもそも名前が名前なので思い切り妖怪だな。

 自分が蛮奇さんになじみ過ぎただけか。

 

 ちなみに今日は仕事も特になかったけどあらゆる花が咲いては風に舞ってまた咲くので、植物がうっそうと生い茂る森に近い香霖堂は地に落ちた花びらの量が並大抵ではない。ので、掃き掃除をせっせと行った。

 昔からだけど、掃除って単純に汚いものが目に見えて綺麗になるので割と好みな仕事である。そりゃあ匂いがキツイところの掃除なんかは苦手だけどやっぱり綺麗になっていくというのは見ていて気持ちがいい。

 長屋の自室も蛮奇さんがよく上がり込むので清潔感には気を使っているのだ。

 曲がりなりにも女性なわけだし。

 

 帰宅したら部屋に蛮奇さんの首が勢揃いして暗闇から睨み付けられた。

 驚いて一つ蹴り飛ばしてしまったらふぎゃっという悲鳴と共にほかの首に体当たりされて這う這うの体で謝った。突然驚かされたのに抵抗するなとは無茶をいう。

 

 というか這う這うの体ってこう書くんだ。また一つ賢くなってしまった。

 辞書ってすげー。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 奇妙な夢を見ることってたまにある、っていうか夢ってのは大概奇妙なもんだけど今朝のは飛び切り奇妙で、なんだか色々と凄かったのだけれど今となってはすごかったということしか思い出せない。寝てる間に見るものなのだから当然脳内の出来事だろうに、それが脳の記憶には残らないってのはどうも不思議な気分だ。

 

 で、今朝のその夢を思い出せなくなって色々と考えていた内に、妖怪も夢を見るのだろうかと思ったので花に浮かれてそこらへんに出てきた顔見知りの妖怪なんかに聞こうと思ったのだけれど、今日はよりにもよって例の傘妖怪に出会ってしまったのでそれどころではなかった。

 丸わかりの驚かしに驚くのは少々努力が必要だった。そういう約束だったし。

 そんでひとしきり驚いて満足させた後、傘妖怪ちゃんは陽気に去っていった。

 名前聞き損ねた。もういいかな、傘ちゃんで。

 

 まあ何はともあれ今日も仕事は掃き掃除の後とくにやることはなくだらーっとしていた。

 ただ窓の外を見て、今回の騒動は案外長引くんだなと思った。

 まあ別段悪影響はないってのは確かにそうだけども、こうも派手にわちゃわちゃしてたら霊夢ちゃんとかが東奔西走してそうな気がするんだけど一向に花は散らない。

 不思議だ。

 もしかして霊夢ちゃんものんびりとお茶しているのではあるまいか。

 

 帰り道で妖精に悪戯されてこけた。花が咲いてるんだからそりゃ妖精も元気だわな。

 さらに言えば丁度運が無かったのでパンツの膝の部分に穴が開いてしまった。悲しい。まぁ縫うけど。でもやっぱりボロボロになっちゃうのはさみしいなあ。スーツみたいな洋服って幻想郷じゃあ手に入れにくいし。

 妖怪達ってどこから洋服仕入れてんだろほんと。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 かなり長引くなと人里を眺め改めて思った。

 さすがにもう人里も落ち着きを取り戻し、仕事だのなんだのに駆られる人々の姿が見られるようになったが、道端を彩る花々は変わりなく咲き誇っているので、仕事のない人などはいまだに昼間から酒を飲んだりしている。以前ほどの賑わいではないが、やはり異様な光景ではある。

 

 そういえば竹の花をじっくりと見たことが無かったなと思い至り、竹林へと足を運んだ。かなりレアな花だと記憶しているので見ておくべきだろうと考えたのだ。

 レアな花と言えば確かあの鈴仙ちゃんの名前にもあるうどんげ(漢字忘れた)の花も数千年に一度とかなんとかいう花だった気がするので気になるところなのだが、名前に付けるぐらいだし竹林のあの御屋敷には花があるんだろうか。結局あのお屋敷まではいかなかったから知らないんだけどさ。

 

 そんなこんなで正直見飽きてきた道端の花々を眺めつつ竹林へ赴けば、茂みの近くでてゐがしゃがみこんで何かしていたので声をかけたら、なんとその足元全てが四葉のクローバーだったので驚いた。そういう品種なのだろうか。多分そうだろう。

 多すぎるとありがたみが失せるなって思った。

 その思ったことをそのまま伝えたら若いくせに分かってるねぇなんて言ってくるもんで、やっぱりてゐも結構年行ってるんだなと再認識した。幻想郷の妖怪は外見年齢が詐欺すぎる。数世紀生きてるくらいならもっとおぞましい姿をしていてほしいと時折思う。肌が爛れてるとかそういう。

 

 んでそのままてゐと四方山話してなんだかんだで意気投合した。能力的な意味で。

 そしてそのまま竹林の奥の御屋敷、永遠亭にまでてゐに招かれてしまって酒を飲み、明日辺りに適当に幸運で金稼ぎをしてやろうという話になった。酔いのせいもあったって言い訳として書いておく。

 

 ちなみにその時、噂の輝夜姫も見かけた。

 よく妹紅さんと殺し合うと噂のあの輝夜姫だ。

 怖いので声はかけてない。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 わりと自信があったのだけれどだめだった。やるなぁ霊夢ちゃん。

 

 昨日意気投合したてゐと顔を隠して怪しげな賭博で屋台を開き、それぞれの能力でがっぽがっぽ稼ごうという試みをしていたのだが、結構粘ったけれど結局霊夢ちゃんの目に留まって取り締まられてしまった。原因は賭博うんぬんというより能力うんぬん。なるべくばれないように定期的に負けたりしてたんだが。

 途中で稗田の阿求嬢ともやりあったのがダメだったかもしれぬ。記憶が凄いって話だし。

 

 なんだか上白沢さんにもお叱りを頂いてしまったので申し訳ない気分である。しょんぼり。

 晩酌に付き合ってくれた蛮奇さんがもっとうまくやりなさいよと励ます始末だし。

 蛮奇さん妖怪なんだよなぁ。なんて優しい。

 

 んで、てゐの幸運プレゼントパワーと俺の運発動パワーで合法的イカサマ賭博をして稼ぎに稼いだがやっぱり悪は滅びた。それはいいとして、二手に分かれたてゐが逃げ切っていると嬉しいのだがどうだろうか。勝ち得た金銭はてゐが竹林まで持って帰って山分けという話なんだが。

 なーんか頑張ったからって六対四とかになりそうだなぁ。

 てゐって口が上手いし。

 

 そういえば霊夢ちゃん、この花満開のあれこれをもうなんとかしたらしい。

 え、なんともなってないんですけど、というとまあその内なんとかなるわよ、と言われた。

 あと明日お酒飲みに行くからと宣言されてしまった。

 

 香霖堂の事だろうか。いつも何かしら片づけると霊夢ちゃんかもしくは魔理沙ちゃんがやってくるもんな。定番にされても困るんだけど、まあ仕方あるまい。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 いやはや何と言いますか、俺ももう年なんですかね。二十過ぎたばかりの俺なんて幻想郷じゃあ赤ん坊レベルに若いんだろうけども。

 昨日久々に全力で走ったせいで足とかむやみやたらと痛くて困っていた。

 筋肉痛なんて高校の体育の授業以来だな。

 あまりに久々なので少し筋肉痛の痛みも心地よく感じなくもないけど、やっぱりつらかった。

 

 机の下で足をマッサージしつつ店番してたら意気揚々と霊夢ちゃんが来店してきたので、一応店番として今日のおすすめ商品(得体のしれない柄の茶器)を適当に紹介し、当然のように興味なさげな霊夢ちゃんに持って来ていた一升瓶を差し出した。

 おいしそうに酒を飲む少女っていうのはアンバランスというか、でもちょっと魅力的よね。

 森近君はきつい酒の匂いに眉をひそめてたけど、まあ我慢してください店主殿。

 

 いつもの如く気になる元凶とかその辺の話を聞くと、どうやら今回は三途の川の辺りが元凶だったらしい。具体的に言うと死神と閻魔。元凶というか、魂が増えすぎてさばき(裁き)きれないうちにその辺の花に入り込んで咲かせてしまうのが、六十年周期で起こる今回の騒動だそうだ。

 霊夢ちゃんが遭遇してやりあった死神さんは案の定、例のサボり小町さんで銭を投げたりしてらしい。それも弾幕なのだろうか。んで閻魔さんはちんまい女の子のような奴で、なんだかんだで叱られたらしい。あぁ、なんか閻魔っぽいなと思った。

 そして風見さんはどうやら関係なかったらしい。悔しい。予想外れた。

 

 帰りに竹林に寄っててゐと再会したが頭にたんこぶ作ってた。昨日霊夢ちゃんは俺を叱った後追いかけて懲らしめたらしい。なんかそそのかしたとかなんとか。んー、別にそういうわけでもないんだけどな。

 で、なんと霊夢ちゃん売り上げの一部をハネて行ったらしい。

 恐ろしい娘やでぇ……。

 

 ちなみに売り上げはきっちり山分けとなった。まあ二人で頑張ったということで。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 いい加減お客来ないかな、香霖堂。

 もう集客に熱意がわくほどでもないけど、ぼーっと茶を飲みながらそんなことを思ったりはする。そろそろ久々にパッチワーク一号引っ張り出して来ようかしらん。

 とかなんとか今日も暇してたので、昨日の霊夢ちゃんの話で興味を抱いた無縁仏に、久々に赴くことにした。道中で運よく魔理沙ちゃんに遭遇したので持っていた酒をちらつかせて同行させた。運がいいなぁ。

 

 無縁仏と言えば度々森近君が訪れては何かしら拾ってくる場所。前に一度来たことがあるような気がするけど、やっぱりただの人間が行くには危ないとのことなのでそれ以降来るのを遠慮していた場所だ。

 で、なんでそんなところにわざわざ来てしまったのかというと、噂に聞く閻魔様とやらを一目見ておこうと思ったからである。だって閻魔様だよ閻魔様。舌引っこ抜くあれ。実際に舌引っこ抜くペンチを持ってはいなかったけど。

 

 昨日聞いていた通り閻魔様は(案の定)背の低い女の子のような外見で、それらしいいかつい帽子やおじゃる丸の持ってるヤツみたいなアレ……笏?を持っていなければ完全にただの少女みたいな。まあ幻想郷ではよくある話。

 魔理沙ちゃんが初っ端に喧嘩吹っかけて弾幕ばら撒いたせいで結構長引いてしまった。流れ弾が怖かったので適当に離れて様子を覗ってたが、良くアレをよけれるなぁお互い、と言った感じだった。やっぱりすごいね空間把握能力みたいなの。俺ならワンパンでアウトよ。

 でまあその後魔理沙ちゃんが満足(?)したので閻魔様といくらか話をしたのだが、霊夢ちゃんが何かと説教するヤツと言っていたのがよくわかった。なんか終始叱られた。もっと大人しくしてろとか言われた。気分屋で好奇心が過ぎるとかなんとか。

 

 閻魔様の名前は四季映姫・ヤマザナドゥだってさ。ヤマザナドゥは役職名だとかなんとかでつまり四季映姫閻魔様みたいな意味。……違うだろうか。

 まあ何はともあれ、閻魔様と握手することもできたので満足満足。




 以上花映塚編でした。花映塚の原作やってないってのもあるんですが、この異変の解決後に花がどうなったのかとか異変はどれくらい続いたのかがよく分からなかった、っていうのも更新が遅れた理由の一つ……ではありますが言い訳にもなりませんね。

 原作のあらすじとちょっと矛盾してるっぽい点がありますが、そこは目をつむっていただければ幸いです。霊夢が飛び出したかのんびりしたかってところです。

 あと頭文字です。

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