月 日 ( )
桜が咲きまくっている休日であるが、とりあえず朝方は墓場に行ってみた。
すると木陰に様子を覗って隠れている(隠れられてはいない)紫色のお化け傘が見えたので、知らぬふりをして近付き脅かされる前に大声で脅かしてやった。全体的に水色の少女はものの見事にひっくり返って驚いていた。めちゃくちゃ面白い。だけどミニスカートで転がってじたばた慌てるのはやめてほしい。本当に。
起き上がった彼女に涙目で怒られたので慌てて謝り、次は絶対に驚くからと意味の分からぬ約束をして慰めた。次会った時どうしようか悩ましいところだけど、不運でも使えばなんとかなる気がする。
そしてまた名前を聞く前に逃げられた。
正直なところ阿求嬢にでも尋ねれば分かりはするんだろうけど、逆の立場で考えて自分の知らない男性が自分の名前を知っているというのは気持ち悪いことこの上ないので、いつか本人に聞いてやることにする。
気が付けばいつも女性と行動を共にしているが、思い上がらないようそういう点は気を付けなければならない。……と思っている。
一応ほら、言い訳させてもらうと、やっぱ外から来た人間としては妖怪なんていう面白い存在にはちょっと仲良くしてみたいじゃん?出会って瞬殺!みたいな相手じゃない限りさ。
でも幻想郷の妖怪がなんでか女性ばっかりだから結果的に俺が軟派野郎みたいになっちゃうんですよ。別に俺は女性と聞けばすぐ仲良くなりたがるとかそういうのじゃないですし。
んでまぁ、今日は朝から出鼻を挫かれたような気がしてならない休日だったけれど、以降は特に問題もなく家でぼーっとしていた。色々と用事はあるような気がするが、春の天気でそんな気分じゃなかった。
春は怠けるべきだ。
有名人になったら著書の冒頭にでもそう記しておこう。そうすれば後の時代の人は春の間怠けることになるはずだ。
月 日 ( )
昼間ぼうっと空を眺めたら遠目に誰かが空を飛んでいるのが見えた。
それとなく人里での方角を覚えているので、それが東の方向へ飛んでいるのが分かったが、確実性は無い。けどたぶん博麗神社で妖怪たちがわいわいがやがやしているのだろう。空を飛べるのは大体霊夢ちゃんの知り合いだし。
人里の桜も満開だし、きっと博麗神社の桜も満開に違いない。
去年見たときはすごかったしなぁ。立地が立地なら見に行くんだけど……ってこれ何回言ってんだろう。
起きたのが昼間だったのでひとまず腹を満たそうと思いながら人里をふらふらと歩いていたのだが、気まぐれで知らない人たちの花見に紛れ込んだ結果、タダ酒をたっぷりと飲むことに成功した。酔っ払いは大抵陽気なのであっさりと打ち解けることが可能で、かつ金のことなど気にすることなく飲ませてくれる。
これはいい。今度蛮奇さんにも教えてあげよう。
そのまま酔っ払い相手に丁半をやる羽目になって、賭け事の経験があまりないので少し肝が冷えたけれど、サイコロ相手の賭け事なら僅かな幸運でも乗り切ることができたのでちゃっかり小銭が増えた。
いくら丁か半かで偶数奇数を当てるゲームとはいえ、連勝はまずいかと思い時々負けておいたので抜かりはない。
いやはや、こういう商売もいいかもしれん。恨まれそうだけど。
そもそも運が使えても幸運は減る一方じゃあそのうち大負けするし。
夜は家にいた蛮奇さんと晩酌。
蛮奇さんも蛮奇さんで、なんだかんだ言って女性というより妖怪なので飲み方は結構豪快だ。乱暴ってわけじゃあないけど。
幻想郷ってうわばみばっかりだよね。下戸の人とかいないのかな。
月 日 ( )
今日は仕事……というか、花見だった。
二日休んだだけなのに香霖堂の裏の桜が爆発したみたいな満開っぷりを見せていて大いに驚いた。しかもやっぱり白い。桜色というよりは本当にただの白。
森近君も驚いた様子で見入っていたが、そのうち霊夢ちゃんがやってきていくらか森近君と言葉を交わしたかと思えば、珍しく今日は休業と相成って裏手で花見となった。
聞けばちょうど今日が見頃なのだそうだ。前は妖夢ちゃんとかが香霖堂に来ていたけど、昨日や一昨日も咲夜ちゃんや八雲さんが来ていて咲き具合を見に来ていたのだとか。
森近君は「昨日まではまだ咲いてなかったということか……」とぼやいていた。
自信満々に花見をやると言う割には誰も呼んでいないとのことで、それはそれで大丈夫なのかと思っていたのだが、満開の桜におびき寄せられるように見覚えのある妖怪たちがじわじわと集まってきて、気が付けば大宴会となっていた。
竹林の人たちはまだ人に慣れてないのか姿を見かけなかったが、吸血鬼達や亡霊の皆さんは平気な顔して酒を飲みに集まってきていて、八雲さん家族もみんないた。ついでに桜の樹の上に何匹か妖精がいた気がする。陽気に誘われてきたのだろうか。悪戯好きだし、つまり陽気な奴らってことでしょう妖精って。
しかし気が付いたら宴会に萃香嬢が混ざっていて気が気でなかった。
俺の微妙な視線に気が付いたのか近付いてきた魔理沙ちゃんが半笑いで言うには、萃香嬢は霧になって幻想郷中に漂っていたりして、酒の匂いを嗅ぐと何処からともなく湧いて出てきて酒を飲んでいくんだそうだ。
はた迷惑な妖怪である。
俺ちょっと萃香嬢苦手なんだよなぁ、初対面があれだったからかね。まぁ色々と怖いし。
月 日 ( )
客商売なのに客がいなかったら商売じゃないんじゃなかろうか。言ってみれば試合のないプロ野球選手みたいな。本懐を遂げることなく果てる存在。なんとも哀れだ。
宴会で盛り上がったのがつい昨日の出来事だというのに、今日は人っ子一人見当たらぬ閑散具合であった。誰か一人くらい「今日も宴会やってないかしら~」とか言ってお店を見て行って気まぐれに商品を買っていかないだろうか。というか今日だって桜は咲いてるんだぜ、ちょっとは来てくれたっていいじゃない。
そう思ってじっと扉を眺めていたが、終ぞ開くことは無かった。悔しい。
昨日の今日で誰も来ないっていうのは一体どういうことなのか。博麗神社なんか連日宴会だというのに香霖堂だとこれかよ。香霖堂には一夜限りみたいなきまりが幻想郷にはあるのか。
確かに森近君もそこまで宴会が好きじゃないし、毎日やられたらノイローゼになるだろうけど。
やっぱり幻想郷は不思議に満ちていると思う。
人里の桜も少しずつ散り始めたし、そろそろ花見の季節も終わりということもあるだろう。
もしくは、結局彼女らは博麗神社での花見の方が好みなので、香霖堂は爆発的に満開になった昨日だけで、今日は今日でまた博麗神社で花見をしているとかそういうことなのだろうか。
どこの桜も一緒……ではないか。
なんでか香霖堂の桜は白いし。
森近君もその辺なんか思ってるらしくて窓の外の桜を眺めながらぼそぼそと何かしらを考えている様子だったけど、結局語らず仕舞いだった。珍しい。
この桜の白さとかも、花妖怪たる風見さんに聞けばわかるだろうか。
そういえば風見さん、花の妖怪だとかいう割には桜の時期に見かけないけれど、やっぱり喧騒が嫌いなタイプなのだろうか。妖怪の山の桜とかをひっそりと眺めていそうな気がする。
邪魔したらきっと命は無いだろうな……。
月 日 ( )
別段気にしてなかったけど森近君の服装って独特よな。服飾はまるで分らんのでなんて言ったらいいか迷うけど、なんかこう和服を洋風にアレンジして小道具入れを腹巻にしたみたいな服装。
どことなく着るのに時間かかりそうだなっていうのをふと思った。
部屋着というか仕事着というか普段着なのにガッチガチで肩凝りそう。本人には言わないけど。
そして今日も客は来ませんでした。
仕事帰りに食材を買いあさっている妖夢ちゃんに遭遇した。両手に背中に買い物袋というか、風呂敷を掲げて随分と人里に慣れた様子で店を転々としていた。
やっぱり西行寺さんは噂に聞く通り健啖家らしい。宴会で見てて知ってたけど。
声をかけようかと思ったけれど結構切羽詰まった顔で急いで買いまわっていたので、声をかけるべきか手伝うべきか変えるべきかと己のやる気とかで悩み逡巡している間にどこかへと消えてしまっていた。
俺なんかよりずっと若そうなのに大変そうだなぁ。今日も宴会なのだろうか。
そういえば西行寺さんちってすごい桜が咲いてるんだっけ。
一度見てみたいけど場所が冥界だしなぁ。おかしくない?なんで現世と冥界がつながってるんです?幻想郷ほんと意味わからない。
おかしいと言えばまぁ冥界に行ける癖に三途の川にも行けることだよなぁ。
妖怪の山の向こう側とのことなのでまだ言ったことは無いけど、生きて三途の川に行けるってどういうことなのだろうか。渡れば死ぬって感じの即死トラップ的?怖いな。
もしかして天国とか地獄も行けるんじゃないのか幻想郷。
あ、でも地続きでそんなところ行けるんなら黄泉帰りも簡単そうだな。徒歩でできそう。
あとは死んだ人との再会も楽そう。イタコとか居たら商売あがったりだろうけど。
月 日 ( )
幻想郷が咲いた。
桜だけじゃなく椿も金木犀も朝顔もタンポポも藤も。山でも川でも里でも、とにかく幻想郷中の花という花すべてが万全の状態で満開に咲き誇り、季節感がまるでない花の祭典と相成った。あんまり詳しくないけど四季折々の花が揃って満開というのは異常だろう。
ついでに言うと、ついこの間散り始めた桜もまた咲いた。意味が分からない。
意味が分からないのは幻想郷じゃあ当たり前のことだけれども、これはたぶん久々にヤバい感じの意味の分からなさだ。霊夢ちゃんが怒りながら空を飛ぶ感じの。とは言っても、正直見てる分には何の害もないしむしろ景色が良いので判断に困るところ。
今日一日何も変化は無かったので霊夢ちゃんも家でのんびり花を見ているんじゃないだろうか。
俺も俺で今日はのんべんだらりと花を見て一日を過ごし、昼間からお酒を飲んだりしていた。
だって花だらけで気分が浮かれてたし。というか蛮奇さんが珍しくお酒を持ってきたので仕方なかったんだ。飲めるただ酒は飲むのが幻想郷を楽しく生きるコツ。
というかこれって何か原因がある現象なのだろうか。見た目綺麗だし悪影響も……まぁ自然環境的には結構大損害かも知れないけどあまりないし、幻想郷特有の自然現象とか言われてもちょっと納得できる気がする。少なくとも赤い霧が出たり四月くらいまで冬が続くよりはマシだと思う。
あ、でも野菜って花の影響受けるんかな。それはちょっとまずそう。
花と言えば風見さんだし、適当に会いに行ってみようかしらん。
案外あの人が花を見たいから咲かせてたりするかもしれないし、違うにしても餅は餅屋というか、花に関することなら花妖怪さんに聞けばなんとかなる気がする。
……俺が行く必要もなさそうなので霊夢ちゃんとかにそう言っておこう。言う機会があれば。
月 日 ( )
異変っていうんだっけ。あの霧とか春とか月とか。
今回のこれも多分その異変とやらに分類されるんだろうけど、やっぱり見た目はかなり綺麗だし気分もいいので、霊夢ちゃんとか魔理沙ちゃんも今回に限ってはのんびりしていてもいいと思う。
大体これが解決されたら咲いた花は全部枯れてしまうのではないだろうか。
なんとも悲しい。
今日は一日幻想郷中に咲いた花を眺めて回ろうと思ってふらふらと外を出歩いていた。
春にいたるところで花が満開ということで、自然に最も近い妖精とかはもう陽気も陽気で幻想郷中で妖精がわちゃこらしていた。かくいう俺も今日は四回いたずらに引っかかった。やめてほしい。
ついでにリグルとミスティアに遭遇したけど特に襲われなかった。昼だからかね。
人里はお祭り騒ぎみたいになっていて、というかあれは花見の延長だろうか。屋台なんかもいくらか見えて昼から呑気に酒を飲んでいる人も多くいた。幻想郷は閉ざされているはずなのになんでこんなにも酒があるのだろうかと思わずにはいられないが、そこらへんは八雲さんが陰でこそこそと仕入れたりしているのだろう。前に誰かがそんな噂話をしていた。
せっかくなので夜には蛮奇さんと湖の方へ行ったら、既に影狼さんと姫さんが飲み始めてた。
なんだよもーって感じで花だらけの夜宴だった。
妖怪というか幻想郷の住人なので酒に深く酔ったというわけではないだろうけど、蛮奇さんは昼間の祭りとかに対して何とも斜に構えた所感を饒舌に述べていた。多分夏場の芋洗い状態のプールをテレビで見てあざ笑うタイプの人だと思う。俺もだけど。