東方日々綴   作:春日霧

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その二十二

 月 日 ( )

 

 香霖堂で店番中、ふと先日出会った唐傘お化けちゃんのことを思い出して、何の気なしに森近君に「古道具屋って年季の入った道具ばっかりですけど、あまり化けたりしないもんなんですかね」とかよくわからん話をしたら久々に森近君の長話を食らった。タイトルをつけるとするならば、付喪神~道具から妖怪への変遷とその呼び名に関する解釈~ってな具合の話。ふわっとしか覚えてないので内容は省略。

 途中からふらりとやってきた霊夢ちゃんもお茶を片手に聞いてたけど、子守歌にしてた。

 春はやっぱり眠くなるんだなぁ。

 

 森近君の話が落ち着いたころ目覚めた霊夢ちゃんによれば、そろそろ花見の時期だから同居妖怪の萃香嬢がうるさくなる頃だそうだ。神棚のお酒に手を出さないのはいいけど、とも言っていた。

 いくら酒に目がない鬼でもそこまで罰当たりではあるまいというのが感想だが、ただちょっと萃香嬢は油断ならない気もする。

 鬼も神を敬うのだろうか。でも鬼神って名詞があるしなぁ。関係無いかな。

 

 ところで博麗神社って何祀ってるんだっけか。お参りしたことも全然ないけど、一応神社だし神棚にお酒が現れるっていうし何かを祀ってるとは思うんだけど。

 聞いたことあったっけ?たぶん無いな。

 今度思い出した時に聞いてみよう。

 

 いやそもそも秋様姉妹が実際にいたりしたんだし、祀ってる神がいたら神社を出歩いているんじゃないだろうか。だってここ幻想郷だし。月の人間がいて神様がいない道理もない気がする。

 つまり博麗神社は何も祀っていない……?それもおかしいな。

 んー、分からん。

 

 結局今日も霊夢ちゃんの寝顔(プライスレス)以外に収入はなかった。

 帰りがけに人里で、ゲームボーイをリフティングして遊んでいる集団に遭遇した。しばらく見なかったというのにあの子供たちはまたやっていた。見かけるたびに己の無力さを感じるからやめてほしい。

 どうして彼らは何度言っても蹴鞠にするのか不思議でならない。嗚呼、幻想郷に電池さえ落ちていれば彼らに正しい遊び方を伝授できるというのに。

 俺ゲームボーイはドンキーコングしかやったことないけど。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 仕事は特に何もなかった。

 来客も仕事も用事も無かったので唐突に悔しくなって帰り際に鈴奈庵の看板娘である小鈴ちゃんに会ってきた。で、檸檬の作者って誰でしたっけと聞いてみたら、驚いたことに回答が得られなかった。

 文学作品はあまり読まないのか、もしくは俺の「あのー本屋に檸檬置いて芸術が爆発する奴」っていう説明がピンとこないのか。はたまた小鈴ちゃんが度忘れしているのか。

 

 いや、もしかして幻想郷ができたのより後の時代の人なのだろうか。

 

 その話でもう一つの疑問を思い出したので稗田邸に行こうかと思ったのだけれど、おおよそ夕方とも言える時間帯になっていたので少し尻込みをして、上白沢さんの寺子屋に行った。

 子供は既に授業を終えて遊んだり帰ったりしていたが想像通り上白沢さんはいたので聞いてみた。

 どうやら幻想郷自体はかなーり昔からあるらしいけど、外と中を分つ結界ができたのは割と最近(妖怪基準)で、西暦で言うとおおよそ1887年辺りらしい。

 

 なるほど。十分明治時代くらい……なのかな。

 歴史の授業はあまり覚えていないし好きではなかったから確信が持てない。

 

 社会科は何だかんだ言って全部暗記科目だし面倒にも程がある。

 一応スリランカの首都がスリジャヤワルダナプラコッテっていうのは覚えてる。

 おそらく全国の高校生が一番覚えている首都に違いない。だって面白いし。

 

 それにしても、あーもやもやするなぁ。

 檸檬……誰が書いたんだっけか。

 最初辞書で調べた檸檬がすらすらと書けるようになってしまったじゃないか。

 

 吸血鬼の所の図書館には文学作品もあるかな。

 いやでもあそこあんまり行きたくないんだよなぁ。視覚的に真っ赤で痛いし。

 あの壁塗り替えるだけでもちょっとは印象良くなると思うんだけど、レミリア嬢は言っても聞かないだろうし。というかそこまでする意味もないんだけども。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 休日ってのは素晴らしいと思うわけよ。なんで素晴らしいのかっていうのは考えなくても感覚的にわかると思うけど、しかしあえて書くとするならばやっぱり普段の勤労との比較でより顕著になる、精神的肉体的余裕が主な理由だと思うわけよ。でもそう考えると普段の香霖堂での仕事がそれほど苦でもない俺が休日を素晴らしく思うというのはどういうことか。そうそれはつまり休日の精神的余裕が平日のそれを上回るほどのものであったということに違いはあるまい。

 しかしそういうどうでもいい話はまあどうでもよくてだな。

 今日もってかさっき、ほら先週?くらいに行った墓地に行ってきたんだけどさ、そこですげーのよ。あの、ほら、誰だっけ。プリズムリバー三姉妹のトランペットの子。桃色の。

 あの子がトランペットとかトロンボーンとかホルンとかとにかく金管楽器をぶわーっと浮かせてばーっと吹いててぐわーっと幽霊がほわーってなっててもうすごいのなんのって。でもあれはどういうことなんだろうか。清める力でもあるのかな。ただ幽霊も興奮するほどの音楽ってだけなのかな。すげーなそれは。

 元々あの傘お化けちゃんに会いに行ったから、会えなかったことを考えるとちょっと不完全燃焼気味な気分だけどこれはこれでいいものを見れたということで満足。定期的にあそこで吹いてるのかな。あんまり墓地行くのはちょっとあれだけどたまに覗きに行くのは悪くないかもしれない。

 目的は果たせなかったけど今日も今日でいい休日だった。

 さて今夜も飲むか。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 朝起きたら蛮奇さんが様子を窺いに来て、昨晩様子が気持ち悪かったけど大丈夫?とかなんとか言うもんだから、やけに乱れた室内に首を傾げながら日記を読んでみれば、なんだか昨日の俺は随分とテンションが高い。序に言うと字も汚い。

 まぁちょっとだけ薄ぼんやりと覚えてるんだけど、自分でも気持ち悪い。

 やっぱあれかなぁ。プリズムリバー三姉妹のトランぺッターだから、確かメルランさんだったかな。あの人の音楽ってちょっと危ない感じなのかな。

 気を付けないと……。

 というか人里を奇声を上げながら走ったりしてないだろうな……大丈夫かな……。

 

 怖くなって蛮奇さんに聞いてみるも、さぁてどうだったかなーとかここぞとばかりに妖怪らしい厭らしさでからかってくるので怖くてしょうがない。人里歩いて後ろ指でさされたりしたらどうするんだ。

 あんまり記憶ないけど大丈夫だと思いたい。

 

 しかしあの三姉妹の音楽にあんな効果があったとはなぁ。

 他の二人もあんなふうになるのかな。

 

 能力、そういえばあまり把握してなかった。あの化け傘ちゃんもあるのかな。雨を防ぐ程度の能力とか、いやむしろ雨を降らせる程度の能力とか。案外あり得るやもしれぬ。

 蛮奇さんの能力が首を飛ばす程度で姫さんが水中だと力を増す程度(当たり前)で影狼さんが満月の夜に狼に変身する程度なので、正直あまり期待はしてないけど。

 

 大体蛮奇さんたちのそれ能力というか特徴じゃん。

 唐笠お化けちゃんも傘をさす程度の能力とかだったりして。

 つまりみんな生きる程度の能力を持っている能力者だったんだな。

 

 妖怪の知り合いも増えたことだし、そろそろ阿求嬢に妖怪たちの話をまたしてもらいに行くべきかもしれない。下手に尻尾踏んで死にたくはないし。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 昨晩霧の湖でいつもの面子が集まって花見(よく見えないけど)をしてきた。

 満開の頃になると力の強い妖怪がうろつくので今のうちにしておくのが賢い選択なのだと、蛮奇さんは胸を張っていたが、花を見るのが花見なのにそれじゃあちょっとおかしくないかって影狼さんと話してた。妖精だって花見くらいするんだから気にしなきゃいいのに。

 そうして姫さんも交わって蛮奇さんをからかって遊んだ。

 

 人里でも桜が咲いたりしててどことなく陽気な雰囲気が漂っていたけど、香霖堂裏手の桜もそろそろ見ごろを迎えそうだ。酒に酔いに宴会な人里なんかとは違って森近君はしみじみと見入っているような風で色々と考え事をしているようだった。

 わかるわかる。桜見てるとちょっと悦に浸ってクールになることもあるよね。春の雰囲気がそもそもそんな感じだし仕方ない。……まぁ森近君は生粋の性分だろうけども。

 

 帰りがけに酒屋さんが忙しそうにしていたのでやっぱり幻想郷は今お花見ブームらしい。去年のことを考えると博麗神社が賑わっていそうだけど、あそこは歩行者にやさしくないので行くか悩む。

 そもそも幻想郷の東端って立地が既にどうなのよって話でさ。

 

 魔理沙ちゃんヒッチハイクしたいなー。

 幻想郷スカイタクシー。速さ自慢の天狗とかがやったら儲かりそうな気がする。

 

 いやでも天狗って怖いしなぁ。射命丸さんなんか例外も例外っていうし、射命丸さんでも時たま怖い時あるし。

 他の天狗にも会ってみたい気はする。個人的興味として鼻が高い天狗に会ってみたい。んで「いやいやお目が高いですね。いや、高いのは鼻ですかな?はっはっは」とか言いたい。(殺されそう)

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 昨日日記に書いたせいか、今日は仕事中に魔理沙ちゃんやってきていた。

 帽子の上に桜を積もらせて楽しげに笑いながらやってきた彼女に、にべもなく花びらを払ってこさせた森近君にはちょっと驚いてしまった。かわいそうに魔理沙ちゃん。

 いつもは風流だのなんだの言うが店内が汚れるのには抵抗があるということなのか。僕としては魔理沙ちゃんの粋な計らいの方を大事にしてほしいと思う。

 

 魔理沙ちゃんによると、やっぱり博麗神社で宴会が執り行われているようで、無謀にも森近君を誘いに来たようだった。付き合いの短い僕ですらそれは無駄だとわかる。

 そんな無駄な行為をわざわざこんな僻地にしに来たというのに、森近君がすげなく断るとちょっぴり悪態をつきつつもあっさりと香霖堂を後にした。可愛げのある子である。

 陽気で派手な宴会をする彼女らに対し、森近君は静かな花見をするらしい。魔理沙ちゃんにはお通夜みたいな花見をするんだなと言われていた。

 

 よく考えたら魔理沙ちゃんも森住まいだったか。通り道だったのかな。

 

 しかしなんか、香霖堂裏手の桜ってやけに白い品種なのね。去年見た桜や人里の桜はもうちょっと桃色で桜色なんだけど。

 品種の違いとかかな。

 

 帰り際に数日前消化してしまった分の酒を再度購入し、酒屋の店主と談笑した。年中儲かって仕方がないけど、この時期は特に儲かって左団扇だとかなんとか。言うだけのことはあるふくよかな腹であった。

 じゃあ一本負けてくれと言ったら無言のまま笑われたので仕方なく金を出した。腐っても商売人である。

 

 俺も職に困ったら果汁酒で食い扶持を稼いでいこうと思う。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 今日は珍しく妖夢ちゃんが香霖堂にやってきていた。通りがかったらしい。

 彼女もまた森近君を花見に誘いに来たようだったが……っていうかなぜ僕は誘われないんですかね。あれかな、掃除中だったから気づかれてないのかな。まあ呼ばれてもあまり行きたくないけどさ!鬼同伴の宴会なんて!

 あとで話を聞くと、森近君と妖夢ちゃんは以前、妖夢ちゃんの探し物を拾っていた森近君という結末が容易に想像できる構図での面識があったそうで。

 どうりで叱られたとかなんとか言っていたわけだ。

 案の定森近君はお断りしていた。

 

 彼女が去った後も変わらずにずーっと桜を眺めていた森近君であった。

 花より団子の逆というか、欲よりも風流というか、そんな感じだと思う。

 それが森近君には似合ってるのが凄いよなぁ。

 

 して人里の方でも桜の花びらが舞い始めたので、おそらくそろそろ賑やかになってくる頃だろう。祭りとかはあまり趣味じゃあないけど、嫌いでもないので少なからず楽しみにしておこう。

 できればお金を稼ぐ側に回りたいけど、まぁ無理よな。

 どこが取り仕切ってるのかは知らないけど、ぽっと出の素人がどうこうできるはずもないだろうし。

 

 何より、昭和だかそれくらいだと祭りの屋台は大抵暴力団が取り仕切ってたっていうのが結構怖いし。今でもそうなのかな。結構強面の屋台とかたくさんいるし。偏見なのかねぇ。

 ってかまぁあれも一応は祭りの治安を守るためだし、気にしすぎもよくないけどね。

 

 そもそもの話幻想郷に極道とかはいるのだろうか。現状見たことないし、居たらいたで妖怪相手に抗争起こしてそう。

 でもなんだっけ、警ら隊だかなにかはいたような。

 ああそうそう、自警団。


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