東方日々綴   作:春日霧

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その十九

 月 日 ( )

 

 客が来ないことは百も承知だ。

 色々と悩んだこともあったが、店主が悩んでいないのでバイト店員が悩むこともないだろう。

 

 今日は以前森近君に渡したルービックキューブをガチャガチャを動かしては遊んでいた。案の定帰り際までに戻せず、森近君はよく揃えたなぁと感心しながら己の非才さを嘆いた。そもそも途中で飽きてたし気質があってないんだろう。そういうことにしておきたい。

 ジグソーパズルなんか天敵だね。やり始めて飽きて場所に困って崩しての繰り返し。

 

 パズルで思い出したけど、幻想郷に住む人間の子供は健康的で微笑ましいね。やっぱりゲームとかをやっている子供より外を走り回っている子供の方が健康に見える。目も悪くならないし、子供は風の子元気の子ってね。

 幻想郷の子供たち特有の、幻想的な遊びとかあるんだろうか。妖精釣りができるって話は以前聞いたことがあるけど、肝試し(ガチ)とか空飛ぶ天狗のスカート覗きとか。あったら俺も混ぜてほしいなぁ。駄目かな。駄目だろうな。

 

 霊夢ちゃんや魔理沙ちゃんは子供の頃からあんなんだったんだろうか。あんなんってのは、程よく無気力で自由奔放な霊夢ちゃんと、好奇心旺盛な魔理沙ちゃんという意味である。聞けば魔理沙ちゃんは元から魔法を使ってたわけではないとのことだし、やっぱり昔っからぶっ飛んでたんだろうなと思う。

 

 子供、と言えばチルノ達の集団が一番子供らしいけど、生きてきたであろう年数を考えると、どう考えても彼女等は年上なんじゃないだろうか。妖精や妖怪にとって年齢なんてあってないようなものだろうけど。しかしそう考えるとこの土地は厄介だな。

 外見で年下だと思いこんでも遙かに年上なんてことも平気でありうるわけだし。

 真っ赤な吸血鬼の館、紅魔館の主ことレミリア嬢なんて一番ひどかった。あんなロリロリしてるくせに五百近いとかやってられんわ。合法ロリかよ。

 

 でも時折、外見通りの雰囲気を出すときもあるから、幻想郷では外見年齢が一番物を言うのではないだろうか。今後は外見年齢を重視していこう。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 そう言えば秋に収穫祭だか田の神の祭りだかなんかそんなんあるじゃないですか。去年ちろっと混ざったんですが、結構夏祭りに近い雰囲気もあってですね、あの時しれっと香霖堂の屋台を出すというのはいかがでしょうか。ほら、秋の祭りってことはやっぱり豊穣とかその辺を祝うわけですし、このお店にもちょっとはご利益があるかもしれませんよ?

 というのが俺の弁だったのだが、気が付いたら案山子が神格化された末の久延毘古という神についてのご高説になっていた。学業の神とも言われたりするらしい。さすが森近君だ。よく分からないことをよく知っている。

 あれ、屋台の話どこ行った。

 

 幻想郷においてはあの姉妹神?である静葉様と穣子様が秋の神様であるし、他にも神様が多くいるため信仰はほぼ無いに等しいが、それでも田畑が存在する以上そこに案山子は存在し、久延毘古も存在するはずだと森近君は述べる。……いまいちよく分からないがたぶん述べていたはずだ。

 話が長いし時折関係なさそうなことを関係ありげに話し始めて横に横にとシフトしていくから要約しにくいんだよね毎回。よく口が回るもんだなぁと今日の感心。

 

 まあ道具屋が祭に屋台出してどうすんだって話だし、駄目で元々な話だったのだからいいのだけれど、お金は減る一方だし、なんかでかいことやるか別の職を探すかしないとヤバい気がする。

 ヤバいとは言ってもまだまだ食うには困ってないし森近君も自分があまりお金を使わないせいか、売り上げがなくても平気で給料くれるんだけど、俺としては仕事しないままお金をもらい続けるってのは我慢ならない。

 

 どうしたもんかね。

 どうしようもないものをどうにかするというのは中々難題であると言えよう。

 

 やっぱり小鈴ちゃんの話を考えてみるのが一番いいのかなぁ。

 問題は筆記具なんだけど。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 起きて食べて、適当に人里をふらつく休日。

 なんとなく上白沢さんの寺小屋に足を運び、子供たちと戯れる。

 

 まだまだ小学生くらいの子供たちにまとわりつかれ、肩車やら振り回しなどで元気のいい子供を捌き、むしろ俺の方がくたくたになった後に大人しめの子供たちに外の世界やらの話をせがまれ、適当に幻想郷には無い物の話をして、例えば携帯電話なんかの話をする。

 聞けば幻想郷に迷い込んだ、いわゆる外来人という類の人間は大抵が迷い込んできた矢先にその携帯電話を耳に当てては途方にくれるらしい。気持ちは分からないでもないが、まるで機械に頼り過ぎているとでも言わんばかりのその光景は相当滑稽だろう。

 

 日暮は携帯電話持ってないの―?なんて言われて「俺は金がなくてなーんにも持ってなかったのさ」と茶目っ気たっぷりに行った時の上白沢さんの複雑そうな視線が忘れられない。いや、そんな深刻な話じゃないですってば。

 この歳で一人暮らししてた奴なんて大体そんな感じなんだがなぁ。

 いや、流石に皆携帯は持ってたか。仕事にも必要になってきてたし。

 

 まぁそれはさておき。

 なるほど、確かに幻想郷の住人は外の世界の話にそれなりに興味を持っているようだと思った。聞いてみなくても分かっていたが、一応聞いてみればハロウィンもクリスマスもバレンタインも知らなかった。紅魔館の住人なら知ってそうだけど、彼女らだけが知っていても意味はないだろう。

 ハロウィンは収穫祭が元で、クリスマスは聖夜祭、バレンタインは聖ヴァレンティヌスがどうとかこうとか。それらを元にして、日本の商売人たちがお菓子やらチョコやらケーキやらを大量に売るに丁度いい宣伝文句だと目を付けた行事であった。なのでこの幻想郷でもそれが流行ればそういった商売人たちがもうかるに違いないのだろうが、この幻想郷にはカカオは生えていないし、ケーキ屋も全然見かけない。

 

 それでいて時たまチョコは売られているし、咲夜ちゃんが以前ケーキを作ったと聞いた。

 何度考えても不思議な土地である。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 ここ数日俺が金が無いだの内職はないかだのうだうだうるさかったせいだろうか。はたまた変に悩み混んでいるのを知られたのか。不機嫌そうな顔をした蛮奇さんが朝食を作ってくれた。不機嫌そうな顔は照れ隠しってことにしておこう。ありがたやありがたや。

 ここのところ考えすぎなんじゃないの?とありがたい言葉まで頂いた。

 

 まあ確かに。

 借金してるわけでもないし、電気ガス水道が止められてるとかいう状況でもない。そもそもそんなものはない。

 要は俺が客が来ない店でぼーっと店番をしてちゃっかり給料をもらって生きていくというのが耐えられないというだけであって、焦る必要はさらさらないわけだ。

 

 ふむ。

 じゃあもうちょっと気楽に行くか、という気分になったので蛮奇さんにはお礼に昼飯を奢った。つまりいつも通りである。いや、いつも通りが一番だろう。

 

 気楽になったついでに悩み事も気楽に解決してしまおうかと適当に幸運を使ってみたところ、丁度八つ時に団子屋で射命丸さんに出くわした。こんなに短いスパンで会うのは初めてだなあと思いつつ挨拶をしてみれば、射命丸さんは嬉々とした様子で団子をくわえたままこちらに手を振ってきた。

 はて、どう幸運に転ぶんだろうかと思いつつ相席をして団子を頼むと、お茶を一杯飲んで落ち着いた射命丸さんが机の向こう側から身を乗り出して話してくる。落ち着いてなかった。

 

 なんでもこの間言った新聞での連載小説というのを詳しく聞きたいらしかった。

 流れが見えてきたので毎回数百字程度の短い小説を連載していくだけだと言い、でも射命丸さんの新聞だと月に数回の発行だからもっと多くてもいいかもしれないし、何なら毎回完結する短編小説という形をとってもいいかもしれない、と話しながら考え付いたのでそういった例もいくつか(でっちあげて)紹介する。

 

 そして話終えると、それらをやっぱり万年筆らしき筆記具……というか万年筆で愛用のメモ帳に書き連ね、暫しの熟考の後、顔をあげて問うてきた。「その、一つ相談なんですが、日暮さん書いてみませんか?」と。

 さすが俺の幸運だ、と褒め称えたい気分である。

 溜めていた運を使ったので不幸にもなってない。最強。

 

 射命丸さんに「丁度最近収入が激減して困ってたんですよ」と答え、試しに書いてみるんで数日経ったら香霖堂か俺の家にでも来てください。と言っておく。

 安堵の表情を浮かべ「最近異変で新聞が売れ始めて、ここらが勝負時なので」とか「友人と飲んでたら日暮さんから聞いたことを思い出しまして」とか言い始めた射命丸さん。天狗の新聞大会でもあまり成績がよろしくなくてまあまあ悩んでいたらしい。よく分からないが。

 まあ折角良い話を持ってきてくれたので、聞き流さずそれなりに真摯に聞き、それなりに時間が経って解散。その場の会計は俺が奢った。我ながら珍しく格好良かったと思う。たぶん収入も持ち金も射命丸さんの方が上だろうけど。

 

 なんかすみませんと頭を下げる射命丸さんに、なんなら新聞に香霖堂の宣伝でも載せてくださいと言ってみると、なんだかいい返事が返ってきた。

 言ってみるものだ。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 森近君になんか広告載せてくれるって射命丸さんが言ってたって言ったら、彼女の事だしなにか裏がありそうだとか零していた。気持ちは分からないでもない。天狗だし。

 

 まあそれに、広告が載っても天狗の新聞だし、仮に目に入っても場所が場所ですし客も増えないだろうということも述べておき、その後は森近君のこの店の場所に関する色々な考えを聞いた。以前聞いたような気もするし、森近って名前から推測できることは前にも日記にも書いたくらいだし分かってたけども。

 

 そんな今日だったが魔理沙ちゃんと霊夢ちゃんが揃ってやってきてわいわいがやがやと駄弁って行った。ようやく秋が来たわ、なんて嬉しそうに述べる霊夢ちゃんと、茸の季節がやっと来たぜと同じく嬉しそうに述べる魔理沙ちゃん。

 

 確かに、秋分こそまだ先だが立秋はすでに過ぎたのだ。秋野菜が一挙に収穫され、秋の収穫祭が執り行われるのもそう遠くはないだろう。人里での祭りごとは大体博麗神社も関わるので酒や米が奉納されたりするのだろう。嬉しくなるのも分かる。

 魔理沙ちゃんのいう茸というのは、お得意の魔法用の茸のことだろう。その手の人間の間では茸ハンターとして名高いらしい。冗談である。

 

 人里に帰ると、焼き鳥屋台で小野塚さんが店主と話しながら舌鼓を打っていたので相席?してしばらく話をした。相変わらずのサボり癖のようで、上司の愚痴ばかり言っていた。

 ただ死神の仕事も嫌いというわけでもないというのが、彼女の面白いところである。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 昨日は霊夢ちゃんと魔理沙ちゃんが店に来ていたのでなんとなく書けなかったが、今日は誰も来る気配がなかったので射命丸さんに約束した小説というものを生まれて初めて書き始めてみた。仕方ないのでとりあえずは最後の一本であるボールペンを使用し、紙は適当に安いのを人里の道具屋から買ってきておいた。まだまだ紙は高い。

 

 しかし外の話をかくといっても、そうすらすらと書けたら今頃外で物書きの仕事についてただろうし、どう書くかってのも問題である。

 物語なんて書けるわけないし、かといってレポート形式になると今度は知識が足りないし。パソコンでもありゃ楽なんだがね。言葉調べも物調べも簡単だったし。

 

 仕方ないのでその手のプロ。小鈴ちゃんに話を聞くことにした。最初に話かけって言ったの確か小鈴ちゃんだし。正直よく覚えてないけど。

 まぁ本を読むのが好きな人が本を書けるとは限らないけど、知識くらいあるんじゃないかなっていう気持で、香霖堂帰りに鈴奈庵に寄った。そしたらなんでか知らないけど小鈴ちゃんが知りたい外のあれこれを話されて「是非書いてくださいね」って言われた。

 その書く方法のアドバイスをもらいたかったんだけどなー……。

 

 どうしたもんか。

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 朝起きてからもうーむと唸りつつ、今日は一人で朝食を食べ、自分の運勢が不運に傾いてるのを忘れたまま香霖堂へ赴いた。その結果、考え込んだまま人里を出た上に不運だったせいか、出る方向を間違えたらしく妖怪の山の近くを歩いてしまっていて、沢の方から飛び出て来た緑髪の女性とぶつかった。

 真横からぶつかられたのでそのままゴロゴロと転がって、女性に押しつぶされるようにして止まった。

 

 しかも驚いたことに、運がすっからかんどころか、なんというか感覚的な話なので言葉にしにくいがとにかく不運まっしぐらなのだ。残っていた幸運も根こそぎ消えていた。

 とにかくこの女性をなんとかせねばと、目を回した女性を揺すり起こしていると、女性が飛び出て来た沢の方から今度は青い服装の小柄な女性がキョロキョロと辺りを見回しながら出てきた。

 

 この女性と知り合いだろうかと声をかけると、「ひゅいっ」という奇妙な悲鳴をあげて姿を消した。……文字通りだ。文字通り姿を消した。なんだったんだろうか。白昼夢でも見たんだろうか。

 不思議なこともあるもんだなぁと思っていると、ようやく緑髪の女性が目を覚ました。目を覚ましてすぐに俺を見て慌てて何かを言おうとするのだが慌てて言葉になっていなかった。

 

 とりあえず深呼吸してください深呼吸。という俺の声の下女性が深呼吸をし、落ち着いてから俺に自己紹介をした。名前を鍵山ひな……ひなまつりのひなって言ってたから字は雛だろう。鍵山雛といい、なんと厄神様なんだとか。雛様らしい。

 で、雛様にぶつかったというか触れた俺は今めっちゃ厄いらしい。随分と俗っぽい言葉遣いな神様だなと思った。厄い。つまりめっちゃ不運。

 まあ不運には馴れてますし何とかなりますよとか言ってたら直後横から何かが突っ込んできた。

 

 早速発揮した不運の結果、先ほど姿を消した青い服の女性が姿を消したまま近づいてきて転んだらしい。脇腹を運悪く尖った石に強打した。思っていたよりヤバいかもしれないな、厄。

 雛様の話によれば、転んだ後姿を現した彼女は河城にとりという河童らしい。なるほど河童。有名どころなので自己紹介をした後握手をしてもらった。久々である。

 

 その後えんがちょがどうのこうの言ってくる雛様となぜか会って間もない俺を盟友と呼んでくるにとりちゃんには悪いが仕事があるので適当に話して別れた。えんがちょって何だっけ。どこかで聞いたんだけど。

 

 その後香霖堂につくまでと、香霖堂についてから、家に帰るまでとずっと不運が実力を発揮していたのだが多いので割愛する。不運なので小説どころではなかった。

 さっさと寝て運が回復することを願うとしよう。

 というか日記書いてる場合じゃないと思うんだ。




 以上永夜抄編でした。
 ……と言いたいところですが、永夜抄自体の話は挿話に続きます。予定が狂いました。



 2015/12/20 ちろっとがっつり修正しますた。
 2016/4/12  セイヨウタンポポとニホンタンポポ程度の修正をしました。

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