東方日々綴   作:春日霧

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その十八

 月 日 ( ) 雨

 

 何やら今日は物音で目が覚めたと思ったらなんとびっくり、耳元でコオロギが二三匹並んで鳴いてた。虫とかそんな詳しくないけど多分コオロギ。スズムシかコオロギかでちょっと悩んだけどおそらく秋の方がコオロギ。

 で、その鳴き声は確かに心地良いけど寝起きで間近に虫はキモいわ。足音もガサゴソしててめちゃくちゃびっくりした。

 

 虫だし多分昨日リグルと話してたのはこれなんだろう。早くリグルを見つけ出して話をつけないと毎朝虫にたかられて目が覚める羽目になる。そんなのは嫌だ。

 

 でも今日一日はリグルを見かけなかった。

 というかそれ以前の問題として人里から出なかった。だって雨降ってたし面倒だったし。そのかわり傘をさしつつ霧雨道具店にお邪魔してノートの類を探してた。

 幻想郷四冊目の日記帳。まだボールペンのインクあるから使うの墨じゃないし、できれば和紙みたいなごわごわした奴じゃないのがいいんだけど、ないもんかねぇ。

 

 まぁ無かった。

 

 ついでに言えばボールペンも欲しい所だけど、さすがにこの幻想郷で直径がミリ単位のボールなんて大量生産ができるとは夢にも思っていない。ので、避けられぬインク切れの時のために墨と筆での筆記を練習しようと思う。

 

 そう思って硯と墨、筆を購入した。結構高かった。

 買ったはいいが中学を出て以降習字道具に触れたことがなかったし墨も擦るタイプを買ってしまったので追々誰かに教えを請うことにしよう。追々ね、追々。

 

 思ったより高かったので思い切って昼飯を抜いた。

 なのでめっちゃお腹すいた状態で料理し、途中で今日も働いてるのかなと思ってた蛮奇さんが部屋から出てきたので驚きつつも蛮奇さんの分も晩飯を作った。

 昼を抜いたのでめちゃくちゃ美味しかった。空腹は最大の調味料とはよく言った物だと思う。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 今日起こしてくれたのもコオロギだった。なんか二日目だし気軽になったのか目を開いたその目の前すぐそばにスタンバってて心臓爆発するかと思った。やばい。その内ショック死する。早くリグルを見つけねばならぬ。

 あと二回目だが危うく悲鳴を上げるとこだった。

 そんなことしたら蛮奇さんの笑いの種になってしまう。

 

 リグルのことを思い出して虫にお礼を言いながら追い出し、仕方なく起きだして身支度をして朝食食べて出勤した。俺ほど香霖堂へ行ったことがある人間も珍しかろう。きっと香霖堂への道は俺が一番多く歩いた。魔理沙ちゃんや霊夢ちゃんは空飛ぶし。

 地に足をつけるって奴だね俺は。

 

 でもって、もちろん今日も客は来なかったわけだが、問題はそこじゃあない。

 そういやここなら外来のノートくらいぽんとあるんじゃないかなぁ、と家探ししてたらまぁ無かったので残念だったのだが、俺が普段は触らない本棚を漁る物だから森近君が声をかけてきた。

 事情を説明したら森近君の居住スペースへと入って行き、しばらくすると今使ってる日記帳とはメーカーが違うが列記としたノートであるものを持ってきてくれた。

 

 そこから値段交渉になった。

 それくらいは譲ってほしかった。

 

 帰ったらまたもや仕事帰りの蛮奇さんにあった。

 妖怪なのに最近は人間の俺より忙しそうだねって言ったら頬を抓られた。気にしてたみたいだ。

 怒らせてしまったので当然のように俺の部屋に入ってきた蛮奇さんにも夕飯を作り、二人で食べた。ほんと、食費以外に目立った出費がないのが救いである。そうでなければ隣人に食事を奢るなんて無理に決まってた。

 娯楽がないというのも結構救いになるものだ。

 

 たまには蛮奇さんの手料理というかぶっちゃけると女性の手料理が食べたい。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 一体リグルはどこにいるんだ。あの拷問のような起こし方を何とかしてほしい。案の定今日もコオロギのオーケストラで目覚めたではないか。

 最悪の場合冬までこの調子とかになりそうで怖い。

 次の休暇でリグルを見つけ出してやると決心した。

 

 で、むしゃむしゃと朝ごはんを食べてから香霖堂に行った。

 今日も客はいなかったけど森近君も途中からいなかった。多分拾いに行った。

 

 その間客もいないのでぼーっと窓の外の曇り空を眺めつつ、居眠りをしたり考え事をしたり売り物を眺めたりしていた。

 

 パッチワーク一号で売ったのは、結局店の外に山積みになっていたような森近君のお気に召さなかった奴なので、結構売り払った後でも店内に変わりはない。店内はお気に入りが多かったということだ。

 まぁもう長々と働いていて見慣れたものではあるが、地球儀のようなよく分からないものなんかもあって眺めているには十分面白い。なるほど、人里の人が述べる骨董屋というイメージもそう間違った物でもないだろう。うん。

 

 よく見れば店の片隅に大量のリモコンがあった。きっと飽きたのだと思う。

 そして誰も買わないであろうことも容易に想像できた。

 

 俺の思考が今夜の夕飯から資金繰りへと移った辺りで森近君が帰って来て、選別して手にとっては俺に長々と語りかけてきた。森近君は考え事を誰かに話しながら整理しているような節があるので、是非部屋にお地蔵さんやぬいぐるみを置いておくべきだと思う。

 そしてそっちに語りかけてほしい。

 

 まぁ嫌いではないんだけど時間的に帰る気満々だったし、出鼻くじかれたような感覚だったからちょっとね。

 日没寸前くらいには人里に帰れたけど。

 

 どうでもいいがここ最近出費を抑えているため外食は控えている。

 でもほら、仕事帰りの夕方さ、あんな暇な店の店番でもほんのちょっとは疲れを覚えてるわけだし、当然空腹感だってあるわけだよ。そんな時に人里の食事処が集まってる通りを歩いてごらんよ。ふらっと入っちゃうよそりゃ。

 

 何が言いたいのかというと懐が寒い。

 

 

 

 

 

 月 日 ( ) 雨

 

 コオロギ自体の数が減っているが代わりによく分からない虫が、コオロギと一緒にギイギイ鳴いている。もう嫌だ。今日は寝ないようにしよう。そして明日は一日かけてリグルを探すんだ。絶対に。絶対に。

 

 して、連勤三日目。もちろん客は来なかったし冷やかしも来なかった。

 森近君は昨日拾ってきた物品を眺めてはいじくりまわしぶつくさ言っている。

 

 窓の外っていうか扉の外は雨だし、まぁ眺める分には大差ないけどじめっとした空気が気分にも影響してくるわけだ。もうずいぶんと昔のことのようにも思えるが、高校の頃に雨の日はクラスメイトが休み時間でも静かだなとよく思った記憶がある。

 別に外に遊びに行くわけじゃないんだから晴れの日と休み時間にはしゃぐことは可能なんだろうけど、曇りや雨の日は皆元気がないものなのだ。

 

 なので俺も昨日に引き続きぼーっとだらーっとしていた。

 腐るほどあるはずの悩み事もなんとなく考える気分ではなくて、適当な想像ばかりしていた。妖怪とかそれに準ずる少女たちが空を飛ぶのだから、半妖の森近君も空を飛べるのかなとか。そういえば最近射命丸さんに会ってないなとか。(新聞はもらっている)

 なんで俺こんなところにいてこんなことしてるんだろうな、とも考えた。

 数奇な運命ってやつだろうか。

 

 秋の空気と雨の湿っぽさのせいで柄にもなくやけにダウナーな気分だっただけで、これといって特に深い意味はないのだけれど。

 

 さて。

 日記を書き終えたことだし、虫襲来に備えて蛮奇さんの部屋にお邪魔しよう。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 ククク……隣の部屋で虫が鳴いてやがるぜ。っていう台詞を言うがために鈴奈庵で珍しく揃ってる漫画を一気借りして蛮奇さんと共に徹夜したというのに、虫の野郎蛮奇さんの部屋にまでホーミングしてきやがった。虫スゲー。畜生金返せ。

 蛮奇さんにまで文句を言われる始末である。

 

 なので虫が襲来した後適当に朝食を済ませてリグル捜索の旅に出た。

 とはいっても、前回こそ偶然人里の近くで飛んでいる彼女に遭遇したけれど、探しに行くとなると霧の湖くらいしか特に思い当たる場所もなく、リグルでなくともその友達にでも会えりゃ話を聴けるだろうと霧の湖へと向かった。

 

 雨は夜中の内にあがって今日は久々の晴天であった。

 なので休日のピクニックとでも思っておけば悪くないだろうとも思っていた。

 

 案の定霧の湖にはいなかったが、代わりにチルノがいたのでまずはチルノのよく分からない道楽に付き合い、宥め賺してリグルの居場所を聞き出……したかったのだが、生憎チルノは知らなかった。残念。いやはや早速行き詰ったなぁと思って湖の水を凍らせているチルノを眺めていたら、運よく紅魔館へ行く途中の魔理沙ちゃんが通りかかった。

 話に聞く泥棒稼業の邪魔をするのは少々心が痛むが、毎朝虫に起こされるのは御免なので大声でヒッチハイクした。結果は成功。始終文句は言われたが「あー、その虫の妖怪なら知らないが、よくつるんでる鳥の妖怪ならさっき弾幕ごっこで落としてきたところだ。さすが、運がいいな日暮」と簡単な仕事ゆえに乗せてくれた。

 

 なるほど空を飛ぶのも悪くはないんだなという感想をここに述べておく。

 あと箒はちょっと頼りないという感想も。

 

 で、連れて行ってもらった先にいた――魔理沙ちゃんを見てちょっぴり涙目の――ミスティアによれば、リグルは太陽の畑にいるとの話で。

 

 あれ?そこって一年たった今でも俺が行こうとしてなかったヤバいところじゃね?と薄々……いや割とばっちり思いながらもミスティアに連れて行ってもらった。ちなみに魔理沙ちゃんは俺に「あそこはヤバいらしいから気をつけろよ」と言いつつ本業の泥棒稼業へと向かった。

 ならついてきてくれればいいのに、とかは思っても口に出さないのがモテる男の秘訣だ。もちろん嘘です。

 

 たどり着いた太陽の畑は、残念ながら秋であるために噂の向日葵は見られなかったが、それなりに花を見ることができた。そしてそれらの花を手入れしているらしい緑髪の、阿求嬢曰くめっちゃヤバい妖怪(そんな言い方はしてなかったけど)。

 

 ……でもさ、会ってからあれ?って思ったんだけど、俺ちょっと前?くらいにあの人と人里で話したことあるんだよね。

 日記を読み直すの面倒だから時期は覚えてないけど、確か夏の初めくらいに花屋で。何を話したかは忘れたけど世間話して別れた記憶はある。

 いやーびっくりした。あの人が風見幽香さんだったんだね。

 

 秋だからか以前会った時より覇気がなかったし、案の定あちらは俺を覚えてはなかったけど穏便にことは済んだ。ことってのはリグルに会ってあの不可思議な目覚ましをやめさせることで、風見さんに聞いたらリグルを呼んでくれた。

 なんでも「虫の知らせサービス」の先行体験らしい。全然嬉しくない。

 とりあえず虫が近すぎるとか怖すぎるとか色々教えてやめてくれるよう頼んだ。

 

 用が済んだあと風見さんと適当に会話したけど普通にいい人だった。

 外聞が悪いことから察するに、変な真似をしたら容赦はしないがしない限りはどうもしない、強者の余裕とかそんな感じだろう。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 リグルは虫の地位向上がどうとか言ってたけど頼んだらやめてくれるあたり妖怪らしからぬ常識がある。と僕は思う。妖怪としてはアレだろうけど人間としては歓迎すべき性格であるからぜひそのままでいてほしいところだ。

 そんなわけで久々の何もない目覚め。幸せ。

 

 今日は昨日で用事が終わらなかった際の予備日の予定だったので、それがなくなった今特に予定はなかった。なので一日中人里をぶらぶらとしていた。

 ああ、忘れないうちに返しておこうと思って鈴奈庵から借りてた漫画たちは返しておいた。

 

 その際小鈴ちゃんと少し世間話をして、ついでになんか適当なお金稼ぎは思いつかない?って聞いたら、んー……とかわいらしい思案気な表情を浮かべた後、「外の世界の話でも本にしたらどうですか?聞いてて楽しいですよ?」と言われた次第である。

 イマイチ本書くとかイメージがわかないけど知識豊富な愛書家の助言であるので、一応頭の片隅にでも入れておくことにした。

 

 鈴奈庵を出た後寄った団子屋で射命丸さんに久々に遭遇し、適当に話をした。

 何だか茶毒が流行ってるとか聞いたのは覚えてる。代わりにリグルの虫の知らせの話をしておいた。まぁ十中八九新聞のネタにでもするつもりなのだろう。職業を趣味にしている良い例だと思う。幻想郷の住人ってのはほとんど全員がそんな感じなように見受けられるが。

 そもそも人里というより幻想郷がどこか旧時代的な雰囲気を持っているので、仕事に関するしがらみが現代日本よりよっぽど少ないのだろう。はたして自分のやりたいことが自分に合ったものかどうかはさておいてだ。下手の横好きもそう駄目なものでもなかろう。

 

 で、小鈴ちゃんの話で思い出したけど、射命丸さんの新聞って小説とかないよねって話もした。外の世界だと新聞に四コマ漫画が載ってたり連載小説が載ってたりするんですよーと。

 射命丸さんはふむふむなるほどとメモを取っていた。

 外の新聞はそんなことまでできるんですねぇと言っていた。

 

 射命丸さんと別れた後、蛮奇さんのバイト先を探しつつ里を歩いたが見つけられなかった。悔しい。

 途中で定食屋に入りかけたけど懐事情を思い出して丁度良く近くで売ってた焼き鳥を食べた。安いし美味かった。熱くて涙目になったけど。あと酒が欲しい。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 そういえば射命丸さんペン使ってたな。

 万年筆とかだろうか。やっぱり高いのかな、万年筆。

 書道セットじゃなくてそっちに金貯めればよかったと思う。思い付きの買物はいけないね。

 

 というのも、今日は連勤初日であったがまあ当然すぐにやることなくなって、あーそういえば小鈴ちゃんが言ってたっけなぁと小説のことをちょっぴり考え始めたのだ。んで、確かにこういう暇な時間にもできるし悪くないよなぁとは思ったのだが、肝心の紙とペンがないので今はできない。

 さらに言えば紙は手持ちがノートしかないし、ペンもインクを考えて使い方が慎重になっているので小説なんていうインクめっちゃ消費することに使うのには気が引ける。となれば当然この間買った筆でも使うことになるだろうと、そういう話である。

 

 香霖堂にあるパソコンが使えりゃ話は別なんだけどなぁ。

 プリンターも無いから書いた後困るけど。

 

 鉛筆ぐらいはほしいところ。

 なんなら射命丸さんに交渉しようかな。酒とかあげるんで筆記具くださいって。

 無理か。

 

 帰りが早かったからだろうか。人里で咲夜ちゃんに会った。

 メイド服だったので仕事中だろう。というか滅多に休暇は無さそうだ。凄いなぁ。咲夜ちゃんといい妖夢ちゃんといい主君に仕えるっていうのがどうも理解できないからほんと凄いと思う。

 そういやなんで咲夜ちゃん吸血鬼に仕えてるんだろうか。人間だよね?







 2016/4/12 化粧をする程度の修正をしました。

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